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最終更新日:2025/12/8

カフェ開業での事業計画書の書き方とは?日本政策金融公庫の融資に通る記入例

森 健太郎
この記事の執筆者 税理士 森健太郎

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。

PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック

カフェ開業での事業計画書の書き方とは?日本政策金融公庫の融資に通る記入例

カフェ開業という夢を現実に変える、最も重要で、そして最初の大きな一歩が事業計画書の作成です。

しかし「事業計画書に何を書けばいいのか分からない」「売上や利益の予測といった数値計画が難しい」といった不安から、多くの人が筆を止めてしまいます。

本記事では、特に日本政策金融公庫からの創業融資を目指すカフェを対象に、説得力のある事業計画書の書き方について、税理士が解説します。

この記事を最後まで読めば、カフェの開業の成功確率を高める、盤石な設計図を描くことができるはずです。

個人事業と法人の違い、会社設立の流れ、必要書類、費用など会社設立の全体像をわかりやすく解説!

目次

カフェ開業の成功は事業計画書から・テンプレートと完成見本

事業計画書作成の第一歩として、公的機関が提供しているテンプレートを確認するのが有効です。
以下で紹介する公式資料を手元に置き、この記事の解説と照らし合わせながら、自身の事業計画書を具体的かつ正確に作成していきましょう。

日本政策金融公庫準拠テンプレート

創業者にとって身近な金融機関である日本政策金融公庫は、融資申込の際に使用する事業計画書(創業計画書)のテンプレートを公開しています。
まずはこの様式をダウンロードし、どのような項目が求められるのかを把握しましょう。

また、日本政策金融公庫のウェブサイトでは、業種ごとの記入例も公開されています。
カフェに最も近い「洋風居酒屋」の記入例は、各項目で記述する内容を掴むうえで便利な参考資料となるので、あわせて確認してみましょう。

参考:創業計画書|日本政策金融公庫(PDF)
参考:創業計画書記入例【洋風居酒屋】|日本政策金融公庫(PDF)

中小機構(J-Net21)事業計画書の作成例

中小機構が運営するサイト「J-Net21」では、より詳細な事業計画書の実例が公開されています。

ただし、J-Net21の事業計画書の記載例は、創業時ではなく、ある程度事業を行ってからの作成を想定した内容になっています。
事業者ごとのケースに合わせて、テンプレートを使い分けましょう。

参考:事業計画書の作成例(カフェ事業)|独立行政法人 中小企業基盤整備機構(PDF)

すでに事業を営まれている方向け:「事業計画書」の書き方

すでに飲食店などを経営しており、新店舗の出店や事業拡大のために事業計画書を作成する場合、過去の実績数値をもとにした、より詳細な事業計画書の作成が求められます。

一般的に「事業計画書」は事業全体の広範な計画書を指す言葉です。
しかし、創業者が日本政策金融公庫から融資を受ける際に提出を求められるのは、「創業計画書」という名称の書類です 。

本記事では日本政策金融公庫のテンプレートをもとにした「創業計画書」の書き方に焦点を当てて解説を進めています。
既存事業の「事業計画書」の具体的な作成方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

なぜ事業計画書が重要なのか?カフェ開業における3つの役割

事業計画書は、単に金融機関へ提出するためだけの書類ではありません。
自身の事業構想を具体化し、カフェ開業を成功へ導くために、いくつかの重要な役割を果たします。

主な役割は、以下の3つです。

3つの役割

  1. 日本政策金融公庫など金融機関からの融資獲得のため
  2. 事業アイデアを整理し、成功への道筋を明確にするため
  3. 共同経営者や従業員とビジョンを共有するため

これらの3つの役割について詳しく解説します。

役割1:日本政策金融公庫など金融機関からの融資獲得のため

カフェ開業を志したものの、自己資金が足りないという場合に考えるべきなのが、日本政策金融公庫をはじめとする金融機関からの融資獲得です。
事業計画書(創業計画書)は、この目的を達成するために融資担当者に提出する書類です。

金融機関が事業計画書の中で重要視するポイントは「この事業が、融資した資金を確実に回収できるだけの利益を生み出せるか」という点です。

そのため、金融機関は「経営者の経歴と事業内容に一貫性があるか」「必要な資金額は妥当か」「返済計画に無理はないか」といった客観的・数値的な根拠を、事業計画書から確認します。
想いだけが先行し、数値的な裏付けに欠ける事業計画書では、担当者の信頼を得ることはできません。

役割2:事業アイデアを整理し、成功への道筋を明確にするため

カフェの事業構想は、初期段階ではさまざまなアイデアや願望が混在している状態です。
事業計画書は、こうした固まりきっていないアイデアを客観的な視点で見つめ直し、実行可能な事業戦略とする設計図の役割を果たします。

事業計画書の作成過程では、「どのような年代や属性をターゲットとするか」「競合との差別化要素は何か」といったカフェ事業の根幹を問う項目を、具体的な言葉や数値に落とし込むことが求められます。

このプロセスを経ることで、経営者自身が自身の脳内を整理し、ぼんやりとした構想を具体的な経営指標へと進化させることができます。
「想定していた客数では採算が取れない」「主力商品の原価が収益を圧迫する」といったさまざまな事業リスクを、多額の資金を投じる前に検証できる点も、事業計画書の重要な機能です。

役割3:共同経営者や従業員とビジョンを共有するため

カフェ事業は基本的に創業者一人で完結するものではなく、共同経営者や従業員といった関係者との連携も必要になります。
事業計画書は、そうした事業を共に築くメンバーに対して、カフェのコンセプトや進むべき方向性を正確に伝えるための客観的な資料となります。

もし事業のビジョンが創業者の頭の中にしか存在しない場合、口頭での伝達に頼ることになり、メンバー間でのカフェのコンセプトや将来像にズレが生じる可能性があります。

顧客へのサービス方針や業務の優先順位といった点で認識が異なれば、組織としての一貫した行動が取れず、大きな損失につながる恐れもあります。

事業計画書を作成し、その内容を関係者と共有することで、全員が同じ目標を理解できます。
また、しっかりとした計画があることを示すことで、メンバーからの信頼を高める効果も期待できるでしょう。

「物件未確定」でも事業計画書の作成は可能!説得力のある仮説の立て方

事業計画は、具体的な物件が決まっていなくとも作成できます。
むしろ、物件契約という大きな投資判断の前に、精度の高い計画を立てておくことが重要です。

客観的なデータに基づき、説得力のある事業計画の仮説を構築するためには、大きく分けて3つのステップを経る必要があります。

3つのステップ

  1. 出店したいエリアを調査する
  2. コンセプトに合う物件の坪数を仮定する
  3. 仮定した坪数から席数と目標回転数をシミュレーションする

この事前準備が、最終的な事業計画書のクオリティに大きく関与します。
具体的な内容について解説します。

Step1. 出店したいエリアを調査する(家賃・商圏人口・競合)

最初のステップは、出店を希望するエリアの市場環境を客観的なデータで把握することです。
この調査で得られた数値が、続くステップで設定する仮説の土台となります。

まず、事業運営で主要な固定費の1つである家賃の相場を把握します。

事業用不動産ポータルサイトで、希望エリアの店舗物件における「家賃坪単価(1坪あたりの家賃を示す指標)」を確認しましょう。
たとえば、東京都世田谷区の三軒茶屋エリアの家賃坪単価が約3万円であった場合、この数値を基準として、このあとのステップで仮定する店舗面積から月々の家賃を算出します。

月額家賃の計算式は、基本的に以下のとおりです。

月額家賃=家賃坪単価✕坪数

次に、売上予測の基礎となる商圏人口を調査します。

出店候補地の市区町村が公開する統計データや、政府の地理情報システム「jSTAT MAP」を活用し、店舗周辺の昼間・夜間人口や年齢構成を把握します。

参考:地理情報システム jSTAT MAP|総務省統計局

このデータは、カフェのターゲット層がそのエリアにどれだけ存在するかを測り、Step3で行う「目標回転数」のシミュレーションに現実味を持たせるために不可欠です。

最後に、競合環境を分析します。
Googleマップでの検索と現地調査を組み合わせ、競合店のコンセプト、価格帯、客層などをリストアップします。

競合の状況を分析することで、自身のカフェがどのようなコンセプトで差別化を図るべきかが見えてきます。
ここで固めたコンセプトが、Step2で仮定する「物件の坪数」の根拠となります。

これらの基礎調査で得た客観的なデータをもとに、次のステップでは、自身の事業コンセプトに基づいた具体的な物件規模(坪数)を仮定していきます。

Step2. コンセプトに合う物件の坪数を仮定する

Step1で分析した市場環境と自身の事業コンセプトを掛け合わせ、物件の規模となる「坪数」を仮定します。

店舗の坪数は、提供するコンセプトと密接に関連しており、必要な投資額や収容可能な客数を決定する重要な要素です。

カフェのコンセプトごとの必要坪数の目安は、以下の表のとおりです。

カフェのコンセプト 必要になる坪数 坪数の判断基準
コーヒースタンド 5~10坪 短時間の滞在が前提で、厨房設備も最小限ですむ
小規模・個人経営カフェ 10~20坪 客席と一定の厨房スペースが必要となる
食事ありのカフェレストラン 20坪以上 広い厨房設備と食材保管スペース、多くの客席が求められる

自身のカフェのコンセプトがどの業態に近いかを判断し、具体的な坪数を設定しましょう。
ここでは、個人経営のカフェを出店すると想定し、「15坪」の物件を仮定してこの先の計画を進めます。

Step3. 仮定した坪数から席数と目標回転数をシミュレーションする

Step2で仮定した15坪の物件をもとに、事業の売上を構成する重要な要素である「席数」と「回転数」を算出します。

まず席数を計算します。
15坪の物件面積のすべてが客席になるわけではなく、厨房、カウンター、トイレなどのスペースが必要となります。

一般的に、カフェのような飲食店では、総面積の約30~50%程度が厨房やバックヤードにあてられます。
仮に15坪のうち5坪を厨房区画とし、客席スペースとして10坪を確保するとします。

カフェにおける客席数の目安は「1坪あたり1.2〜1.5席」程度とされるため、ここでは余裕のある「1.2席」を採用し、10坪✕1.2席=12席と算出します。

次に、この12席が1日に何回満席になるかを示す目標回転数を設定します。

ここで、Step1で調査した競合店の混雑状況や、エリアの人口特性(昼間人口・夜間人口)が重要な参考値となります。
回転数は時間帯によって大きく変動するため、平日の一例として以下のように分解して考えます。

  • ・ランチタイム(12:00~14:00): 最も混雑する時間帯。 1.5回転を想定。
  • ・カフェタイム(14:00~17:00): 比較的滞在時間が長くなる。 0.8回転を想定。
  • ・その他の時間帯(開店~12:00/17:00~閉店): アイドルタイム。 0.5回転を想定。

これらを合計すると、1日の総回転数は2.8回転となりますが、計画に堅実性を持たせるため、ここでは平日全体の目標回転数を2.5回転と設定します。

これで、事業計画の根幹となる「15坪」「12席」「2.5回転」という、具体的な仮説の数値が出揃いました。
実際の事業計画書の作成でも、こうした数値を用いて、精緻な収支モデルを作成していきます。

POINT:「物件取得後、数値を修正する」と一言添えておこう

ここまでに構築した仮説は、あくまで計画の土台です。

この計画の信頼性を担保し、融資担当者との円滑なコミュニケーションを築く上で、最後に極めて重要なポイントがあります。

それは、この計画が現時点での「仮説」であることを示す一文を、書類と口頭の両方で明確に伝えることです。

具体的には、事業計画書の末尾や別紙に、以下のような注記を記載します。

「本計画における収支予測は、〇〇エリアの家賃相場(家賃坪単価〇円)をもとに、15坪の物件を想定した仮説です。正式な物件契約後、速やかに実績値に基づき計画を修正いたします。」

この一文は、書類に記載するだけでなく、面談の際にも自身の口から明確に伝えるべきです。

この注記と補足説明には、融資担当者に対して、創業者自身が以下の点を理解していると示す効果があります。

  • ・仮説と計画の違いを認識していること
  • ・事業リスクを客観的に捉えていること
  • ・状況に応じて計画を修正する柔軟性を持っていること

ただ夢を語るのではなく、現実的な事業運営のプロセスを理解しているという堅実な姿勢を示すことで、信頼性が高まります。

なぜ物件決定「前」に事業計画書を作成すべきなのか?

日本政策金融公庫への融資申込は、原則として営業する物件を決定した後に行うものです。

しかし、事業の成功確率を高めるためには、物件を契約する「前」の段階で精度の高い事業計画書を準備しておくことが不可欠です。

その大きな理由としては、以下の3点があげられます。

事業計画書を準備しておく理由

  1. 事業の実現可能性を判断し、必要な資金額を把握するため
  2. 優良物件を見極める「判断基準」を持つため
  3. 優良物件が現れた際に、迅速に融資申込へ進むため

これらの戦略的な理由を、詳しく見ていきましょう。

理由1: 事業の実現可能性を判断し、必要な資金額を把握するため

事業のアイデアを具体的な数値計画に落とし込むことで、その事業が財務的に成立するのかという「実現可能性」を客観的に判断できます。
これは、多額の資金を投じる前に、計画の健全性を机上で検証する重要なプロセスです。

たとえば、前章までの仮説「12席のカフェで、目標回転数2.5回転、客単価1,200円、月25日営業」で月商を試算してみましょう。

12席✕2.5回転✕1,200円✕25日=月商90万円

この売上に対し、仮の経費を算出します。

家賃(15坪✕家賃坪単価2.5万円=37.5万円)、原材料費(売上の30%=27万円)、人件費(20万円)、その他経費(10万円)を合計すると、経費合計は94.5万円となります。

このシミュレーションにより、月商90万円に対して経費が94.5万円となり、毎月4.5万円の赤字が発生することが判明します。
この結果を受けて、「客単価をあと50円上げる工夫はできないか」「もう少し家賃の安い物件を探すべきか」といった、具体的な改善策の検討に進むことができます。

さらに、このプロセスは開業に必要な資金額を具体的に算出するためにも不可欠です。

内装工事や厨房機器にかかる設備資金に加え、開業当初の赤字や想定外の支出に耐えうる数カ月分の経費、すなわち運転資金がいくら必要かを明確に把握できます。

物件契約という後戻りのできない投資判断を行う前に、事業の財務的な健全性を検証することが、物件決定前に事業計画書を作成する第一の理由です。

理由2: 優良物件を見極めるための「判断基準」を持つため

事業計画書がないまま物件を探すと、「駅に近い」「内装がおしゃれ」といった感覚的な魅力に判断が引きずられがちです。
事業計画書は、そうした感覚的な評価に加え、事業の成功に直結する客観的な「判断基準」を明確にするためにも作成します。

前項のシミュレーションで、月商90万円に対して家賃37.5万円では赤字になる可能性が示されました。
この結果から、自身の事業モデルで利益を出すためには「家賃は30万円ほどに抑える必要がある」という明確な数値基準が生まれます。
これにより、たとえ魅力的に見える物件でも、家賃が基準を超える場合は冷静に候補から外すという、合理的な意思決定が可能になります。

同様に、計画上「12席」を確保するためには「客席スペースとして10坪」が必要であると算出しました。
この基準があれば、物件の内見時に「このレイアウトで本当に12席を確保できるか」「厨房と客席のバランスは適切か」といった、事業運営に不可欠な視点で物件を評価できます。

事業計画書は、理想の物件を探すための単なる願望リストではありません。
自身の事業を財務的に成立させるための、譲れない条件を定義した、極めて重要なチェックリストなのです。

3・優良物件が現れた際に、すばやく申込みへ進むため

カフェに適した条件の物件は競争が激しく、市場に出るとすぐに申し込みが入ります。
優良物件が見つかってから事業計画の検討や資金調達の方法を考え始めたのでは、せっかくの機会を逃す可能性が非常に高くなります。

たとえば、家賃28万円、広さ16坪という好条件の物件が突如現れたとします。

事業計画書を準備していない場合、その物件が自身の事業にとって本当に「優良」なのかを即座に判断できず、収支計算や資金計画を慌てて作成することになります。
数日を要して計画がまとまるころには、ほかの用意周到な申込者に先を越されてしまうかもしれません。

一方、事前に事業計画書の準備が整っていれば、仮定していた数値をこの物件の実績値(家賃28万円、16坪)に置き換えるだけで、瞬時に収支シミュレーションを更新できます。
その結果、利益が見込めると判断できれば、自信を持って物件の申込みを素早く行うことが可能になります。

この準備の差が、優良物件を獲得できるか否かの決定的な違いを生みます。
事前に事業計画書を作成しておくことは、千載一遇の機会を逃さないための、非常に有効な戦略となるのです。

【全体像を把握】事業計画書に盛り込むべき項目チェックリスト

事業計画書の作成に取り掛かる前に、まずはその全体像、すなわち「何を」「どのような順序で」記述する必要があるのかを把握することが重要です。

ここでは、多くの創業者が利用する日本政策金融公庫の「創業計画書」で定められている項目をもとに、盛り込むべき内容のチェックリストを示します。
これらの項目は、金融機関が融資を審査する上で、事業の全体像を多角的に評価するために構成されています。

各項目でどのような内容を記述し、融資担当者が何を評価するかを、以下の一覧で確認しましょう。

項目 概要と評価のポイント
1.創業の動機 なぜこの事業を始めるのか、その背景と目的を記述する。
事業にかける情熱に加え、事業計画の実現に向けた準備状況などが評価ポイント。
2.経営者の略歴等 これまでの職務経歴や取得資格を記述する。
開業する事業に関連する経験や知識、スキルを有しているかが、事業の実現性を測る上で重視される。
3.取扱商品・サービス カフェで提供する具体的なメニューやサービス内容、価格設定を記述する。
事業の核となる部分であり、商品力や独自性、収益性が評価ポイント。
4.従業員 従業員の雇用計画について記述する。
事業規模に適した人員計画が立てられているか、人件費が収支計画に正しく反映されているかが評価ポイント。
5.取引先・取引関係等 食材の仕入先や販促での提携先などを記述する。
安定したサプライチェーンや販売網が確保できているかが、事業の安定性を示す評価ポイント。
6.関連企業 創業者自身や配偶者が経営する、ほかの企業について記述する。
事業全体の財務状況や、事業間の相乗効果・リスクを把握・確認することが主な目的。
7.お借入の状況 経営者個人の借入状況(住宅ローン、自動車ローンなど)を記述する。
個人の財務状況の健全性や、返済に対する規律が確認される。
8.必要な資金と調達方法 開業に必要な設備資金と運転資金の総額、および自己資金や借入金といった調達の内訳を記述する。
資金計画の妥当性が厳しく評価される重要な箇所。
9.事業の見通し(月平均) 開業後の売上、経費、利益の予測を月平均で記述する。
事業が成立し、融資を返済できるだけの収益を上げられるかを示す、最重要項目。
10.自由記述欄 上記項目で伝えきれなかったアピールポイントや、事業上の悩み、希望するアドバイスなどを記述する。

以上が、創業計画書の全体像です。これらの項目をひとつひとつ、客観的なデータと具体的な計画をもって埋めていくことが求められます。

次の章からは、これらの各項目について、具体的な記入例を交えながら詳細に解説していきます。

【記入例で解説】日本政策金融公庫「創業計画書」の書き方

ここからは、前章で確認した8つの項目について、具体的な記入例を交えながら、融資担当者が評価するポイントを解説していきます。
自身の事業に置き換えながら、事業計画書作成の参考にしてください。

1.創業の動機:なぜ「この場所」で「このカフェ」なのか?

「創業の動機」の項目では、事業への情熱だけでなく、それがビジネスとして成立する客観的な根拠を示す必要があります。
個人的な想いに加え、「なぜ自身がやるのか(経験・強み)」と「なぜこの場所なのか(市場機会)」を論理的に結びつけ、具体的な事業内容を記述します。

NG例

  • 昔からカフェ巡りが趣味で、いつか自分のお店を持つのが夢でした。お客様が安らげる空間を提供したいです。

OK例

  • バリスタ歴10年(うち店長として5年)の経験と、出店を希望する〇〇エリアの市場調査(高品質なランチセットの需要を確認)をもとに、オフィスワーカーをターゲットとしたカフェを開業します。
    自身の強みであるメニュー開発を活かし、客単価も高いランチセット(980円)を主力商品とすることで、地域のニーズに応えながら安定収益を目指します。

2.経営者の略歴等:カフェ経営に必要なスキルと経験をアピール

「経営者の略歴等」では、経営者自身が事業を成功させる能力と経験を持っていることを、具体的な経歴を通じて証明します。
職歴を単に羅列するのではなく、それぞれの経験から得たスキル、マネジメント経験や具体的な実績を数値で示すことが重要です。

NG例

  • ・平成20年4月~平成28年3月 株式会社〇〇コーヒーに勤務
  • ・平成28年4月~令和7年9月 株式会社△△ダイニングにて店長として勤務

OK例

  • ・平成20年4月~平成28年3月 株式会社〇〇コーヒーのバリスタとして、スペシャルティコーヒーの抽出技術および顧客対応の基礎を習得
  • ・平成28年4月~令和7年9月 株式会社△△ダイニングのカフェ部門の店長として、店舗運営全般(売上・仕入・在庫管理、スタッフ採用・育成)に従事

3.取扱商品・サービス:看板メニューと価格設定の根拠を示す

「取扱商品・サービス」では、カフェの収益の柱となる商品・サービスを具体的に記述します。
単にメニューを羅列するのではなく、テンプレートに記載されている「セールスポイント」「販売ターゲット」「販売戦略」といった各項目と連動させ、事業の独自性と収益性を一体的に示すことが重要です。

まず、取扱商品・サービスの内容の項目には事業の核となる主力商品を、価格と想定原価率とともに具体的に示します。

【主力商品1】地元野菜のキッシュプレート(ドリンクセット)
・価格:980円(想定原価率:35%)
【主力商品2】スペシャルティコーヒー(テイクアウト)
・価格:450円(想定原価率:20%)

次に事業の基本的な運営条件と、収益の基礎となる客単価の目標を明記します。
これらの数値は、後の「8.事業の見通し」を作成する上での重要な根拠となります。

記入例

  • ・営業時間: 平日 8:00~19:00(ターゲットとするオフィスワーカーの需要に合わせる)
  • ・定休日: 土日祝日(オフィス街のため、平日の集客に集中する)
  • ・目標客単価: ランチ客が中心となるため、主力商品のキッシュプレート(980円)とコーヒー単品客(450円)の比率を考慮し、850円に設定します。

次にセールスポイントでは、上記の商品がなぜ競合に勝てるのか、その強みを具体的に記述します。

自身の経験(略歴)や、商品の独自性を根拠としましょう。

記入例

  • バリスタの専門性:店長経験5年のバリスタが厳選したスペシャルティコーヒー豆を使用し、一杯ずつ丁寧に抽出。大手チェーン店では提供できない本格的な味で差別化します。
  • 独自性の高いフードメニュー:ランチのキッシュは、近隣の〇〇農園から直接仕入れる新鮮な旬の野菜を使用。手作りと地産地消による安心・安全と、他店にはない独自性を両立します。

販売ターゲットの欄には、誰に商品を届けたいのか、顧客像を具体的に設定します。
年齢・性別などに加え、どのようなニーズを持った人物かを明確にします。

記入例

  • メインターゲット: 店舗から半径1km圏内のオフィスに勤務する20代~40代の男女。健康志向で食に関心が高く、1,000円前後で質の良いランチを求める層
  • サブターゲット: 近隣に居住し、休日に少し贅沢なコーヒータイムを楽しみたいと考える30代以上の男女

同項目に販売戦略(集客方法)も記します。
設定したターゲットに、どうやって店の存在を知ってもらい、来店してもらうかの具体的な方法を記述しましょう。

記入例

  • 開店前: Instagramで開店準備の様子を発信(広告も月額1万円で出稿)。周辺オフィスへチラシを3,000部ポスティングします。
  • 開店後: ランチタイムの看板設置。Googleビジネスプロフィールを整備し、口コミ投稿を促進します。

最後に、競合・市場など自社を取り巻く状況を記入します。事業を取り巻く外部環境を客観的に分析し、事業の機会とリスクを把握していることを示します。

記入例

  • 競合: 大手チェーン店が多く価格競争が激しい一方、高品質なランチを提供する個人店は少ない。
  • 市場の機会: 近隣オフィスの増床に伴い、ランチ需要の増加が見込まれる。健康志向の高まりも追い風となる。
  • 課題・リスク: 個人経営のため、大手のような宣伝力や仕入れ力に劣る。原材料費高騰のリスクがある。

4.従業員:人員計画と人件費を算出する

「従業員」の項目では、カフェを運営するための人員計画を具体的に示します。
融資担当者は、事業規模に対して人員計画が現実的であるか、その計画に基づいた人件費が後の収支計画(事業の見通し)に正しく反映されているかを確認します。

まず、資料の形式に従い、常勤役員と従業員の人数を記入します。
個人事業主として開業する場合、「常勤役員の人数」は0人となります。
従業員数には、創業に際して3カ月以上継続して雇用を予定している人数を記入します。

この従業員数から、後の「8.事業の見通し」に記載する人件費が算出されます。
なお、個人事業主の場合、事業主自身の生活費は経費である人件費には含めず、事業で得られた利益から賄うことになる点に注意が必要です 。

5.取引先・取引関係等:仕入先と販売先の具体名をあげる

「取引先・取引関係等」の項目は、事業の安定性を左右する仕入、販売網、業務委託先を具体的に計画できているかを示すためのものです。
融資担当者は、事業が現実の取引関係の上に成り立つことを確認します。

創業前の段階では取引先が確定していないケースも多いですが、その場合は候補となる企業名や、業界の一般的な取引条件を記入します。
空欄にするのではなく、具体的な取引を想定していると示すことが重要です。

取引区分 取引先名(所在地) 取引先のシェア 掛取引の割合 うち手形割合
手形のサイト
回収・支払の条件
販売先 一般個人顧客 100% 0% 0% 即日(現金・キャッシュレス)
仕入先 ㈱〇〇コーヒー (東京都渋谷区) 40% 100% 0% 月末締め翌月末払い(30日)
外注先 税理士法人△△(東京都中央区) 100% 0% 月末締め翌月末払い(30日)

「手形」は企業間の決済で用いられますが、新規開業の小規模なカフェが手形取引を行うことはまずありません。そのため、通常「うち手形割合」は0%となります。

BtoC(個人向け)のビジネスであるカフェの場合、「販売先」は一般の顧客となり、その場で決済が完了します。
そのため、後払いである「掛取引」と「手形取引」の割合はいずれも0%となります。

「仕入先」にはコーヒー豆や食材など、カフェ運営に不可欠な主要な仕入先との具体的な取引条件を記述します。
企業間取引の場合、請求書による後払い(掛取引)が一般的です。「支払の条件」には、「月末締め翌月末払い」のように具体的な条件を記述しましょう。

「外注先」は税務顧問を依頼する税理士や、Webサイトの制作を依頼する業者など、商品の仕入以外の業務委託先を指します。

取引シェアは継続的な顧問契約などの場合、算定が難しいため、空欄で問題ありません。

6.関連企業:該当する場合のみ正確に記入

創業者自身、または配偶者がほかに事業を経営している場合に記入する項目です。
初めての独立開業で、ほかに該当する事業がない場合は「該当なし」と記載します。

この項目は、融資担当者が創業者を取り巻く事業全体の財務状況や、事業間の相乗効果・リスクを把握するために設けられています。
もし該当する企業がある場合は、企業名、代表者名、所在地、事業内容を正確に記述してください。

7.お借入の状況:個人の借入れ状況を正直に申告する

「お借入の状況」では、創業者個人の借入れ状況について記述します。

融資担当者は、事業計画そのものだけでなく、創業者個人の財務規律や信用情報も重要な審査項目として確認します。
ここに記載された内容は、信用情報機関への照会によって必ず確認されるため、いかなる借入れも隠さず、正確に申告することが極めて重要です。

仮に、意図的に借入れを少なく申告したり、記載しなかったりしたことが発覚した場合、その時点で創業者としての信頼性を失い、融資審査の通過は絶望的となります。
たとえ残高が少なくても、消費者金融からの借入れや、クレジットカードのリボ払い・分割払いなども含め、すべての借入れを正直に記載してください。

また、ここでの「年間返済額」の合計は、事業から得られる利益で賄うべき、個人の支出の一部と見なされます。
このあとの「8.事業の見通し」で作成する収支計画では、事業の経費と個人返済額を合わせたうえで、さらに自身の生活費を確保できるだけの利益を生み出す計画を示す必要があります 。

8.必要な資金と調達方法:初期投資と運転資金を洗い出す

「必要な資金と調達方法」の項目は、事業計画書における財務計画の根幹をなす重要部分です。
事業を開始し、軌道に乗せるまでに「何に」「いくら」必要なのかを正確に算出し、その資金を「どのように」調達するのかを具体的に示します。

左側の「必要な資金」と右側の「調達の方法」の合計金額は、必ず一致させる必要があります。
融資担当者は、この資金計画に無理がなく、現実的であるかを厳しく評価します。

必要な資金は、大きく「設備資金」と「運転資金」の2つに分けられます。
カフェ開業においては、必要な資金のなかでも、特に以下の項目を具体的に見積もることが重要です。

  • 物件取得費:保証金や礼金など。家賃の6~10カ月分が目安。
  • 内外装工事費:コンセプトを実現するための工事費用。
  • 厨房設備費:業務用エスプレッソマシンやコーヒーグラインダーなど。店の品質を左右し、高額になりがちな項目。
  • 運転資金:開業当初の経営を支える資金。商品仕入、人件費、家賃など、月々の経費の3カ月分、できれば半年分を準備する。
必要な資金 金額
物件取得費 90万円
内外装工事費 450万円
厨房設備費 150万円
運転資金
商品仕入
人件費・家賃など
予備費
 
60万円
114万円
16万円
合計 880万円

調達の方法は、「自己資金」と「借入」の2つに分けられます。

  • 自己資金: 創業のために自身で準備した資金。事業への覚悟を示す指標として重視される。一般的に創業資金総額の10~30%程度が目安。
  • 借入: 日本政策金融公庫やその他の金融機関からの借入れを記載する。
調達の方法 金額
自己資金 350万円
日本政策金融公庫からの借入 530万円
合計 880万円

上記の金額はあくまで一例です。内外装工事費や厨房設備費は、必ず複数の業者から見積もりを取得し、その正確な金額をもとに計画書を作成してください。

9.事業の見通し(月平均):創業当初と軌道に乗ったあとの2段階で示す

「事業の見通し(月平均)」は、事業計画全体の集大成です。
これまでの計画を具体的な数値に落とし込み、事業の収益性と返済能力を証明します。
融資担当者は、この数値が希望的観測ではなく、これまでの項目で記述した内容に基づいた、現実的な計画であるかを厳しく審査します。

計画は、資料の形式に沿って「創業当初」と「軌道に乗ったあと」の2段階で示します。
これにより、事業が徐々に成長していくという現実的な見通しを持っていることを示すことができます。

創業当初 (月平均) 1年後または軌道に乗ったあと(月平均)
売上高 45万円 145万円
売上原価(仕入高) 14万円 41万円
経費
人件費 15万円 35万円
家賃 15万円 15万円
支払利息 1万円 1万円
その他 6万円 15万円
経費合計 37万円 66万円
利益 -6万円 38万円

さらに右の欄に、計算の根拠を記入します。

売上高、売上原価(仕入高)、経費を計算した根拠
創業当初の売上高:45万円

・算出根拠: 席数12席×回転率1.5回転×客単価1,000円×営業日数25日(平日のみ営業)
開業当初は、まず平日のオペレーションを安定させることに集中するため、保守的な売上計画とします。

軌道に乗ったあとの売上高:145万円

・算出根拠:
店内飲食売上(平日21日):83万円
席数12席×回転率3回転×客単価1,100円×営業日数21日

店内飲食売上(土日8日):42万円
席数12席×回転率4回転×客単価900円×営業日数8日

店外売上(テイクアウト・物販):20万円

・売上原価(軌道に乗ったあと):41万円
売上は3倍以上に増加するが、仕入先の見直しやメニュー構成の最適化により、原価率を30%から28%に改善。

・人件費(軌道に乗ったあと):35万円
週末営業と売上増に対応するため、パート従業員を増員。

この計画では、創業当初は-6万円の赤字ですが、これは確保した運転資金で十分にカバーできる範囲です。

そして、軌道に乗ったあとの利益は38万円を確保しています。
この水準であれば、事業主自身の生活費、個人の借入返済、税金などを支払った上で、事業への再投資や将来のための貯蓄も可能となり、持続可能な事業運営が実現できると判断されます。

なお、個人事業主の場合、事業主自身の給与(生活費)は人件費には含めません。
算出された「利益」の中から、事業主の報酬を得ることになります。

10.自由記述欄:最後のアピールポイント

「自由記述欄」は、単なる補足欄ではありません。
これまでの項目で伝えきれなかった自身の強みや事業への熱意をアピールして、計画全体の説得力を一段階高めるためのスペースです。

ここでは「創業の動機」や「事業の見通し」などで書ききれなかった内容を、より詳しく記述しましょう。

【計画の精度を上げる】事業計画書に使う重要数値の算出方法・出し方について

説得力のある事業計画書は、根拠となる数値の客観性によって完成します。
ここでは、計画の精度を飛躍的に高める「内装工事費」「原価率」「回転率」という3つの重要指標について、その相場とデータの算出方法を解説します。

1.内装工事費の相場と算出方法(内装坪単価・スケルトン・居抜き)

内装工事費は、開業資金の中でも特に大きな割合を占める「設備資金」の主要項目です。
この費用を正確に見積もるためには、「内装坪単価」「スケルトン」「居抜き」という3つのキーワードを理解する必要があります。

物件には、大きく分けて「スケルトン物件」と「居抜き物件」の2種類があります。
どちらを選択するかで内装坪単価が変化し、その坪数によっては、初期投資額が数百万円単位で変動します。

スケルトン物件 居抜き物件
概要 床・壁・天井などが何もない、コンクリート打ちっぱなしの状態の物件 前のテナント(飲食店など)の厨房設備や内装が残された状態の物件
内装坪単価の目安 約40万~70万円 約20万~50万円
メリット ゼロから自由にデザイン・設計できる 初期費用を大幅に抑えられ、開業までの期間も短い
デメリット 工事費用が高額になり、工期も長くなる デザインの自由度が低く、設備の老朽化による修理・交換リスクがある

内装工事費の計算式は、以下のとおりです。
内装工事費=店舗の面積(坪数)×坪単価(1坪あたりの工事費用)

ただし、上記の内装坪単価はあくまで目安です。正確な費用を算出するためには、必ず複数の内装工事業者から相見積もりを取得してください。

2.コーヒー・軽食の平均的な原価率(FLコストの考え方)

事業計画における「事業の見通し」を算出する上で、原価率の適切な設定は不可欠です。
原価率とは、販売価格に対して、その商品の原材料費が占める割合のことを指します。

原価率の計算式は、以下のとおりです。
原価率 (%)=材料費÷販売価格×100

カフェの場合、一般的にドリンクとフードで原価率が大きく異なります。
ドリンク類は原価率が10~25%ほどで、付加価値もつけやすいので利益率が高くなります。
フード類は原価率が30~40%ほどで、ドリンクよりも利益を上げにくいとされます。

さらに飲食店の経営においては、FLコストという指標で収益性を管理するのが一般的です。

FLコストとは、F=Food(材料費=原価)とL=Labor(人件費)を合計した費用のことです。
これらは経営者がコントロールしやすい二大経費であり、その売上に対する比率であるFL比率を健全な水準に保つことが、安定した利益確保の鍵となります。

FLコストの計算式は、以下のとおりです。
FL比率 (%)=(材料費+人件費)÷売上高×100

一般的に、FL比率は60%以内に収めるのが繁盛店の目安とされています。
月商100万円のカフェであれば、材料費と人件費の合計を60万円以内に抑えるのが目標となります。

事業計画書を作成する際は、自身の計画のFL比率がこの水準をクリアしているか、必ず確認してください。

3.客の回転率の推察方法(立地・現地調査・コンセプト)

回転率とは、1日にお店の客席が何回満席になったかを示す指標で、売上予測の根幹をなす最重要の変数です。

回転率の計算式は、以下のとおりです。
1日の売上=席数×回転率×客単価

希望的観測ではなく、客観的な根拠に基づいて回転率を推察するためには、さまざまな要素を考慮しなければいけません。

最も信頼性の高い推察方法は、出店を希望するエリアの競合店に足を運び、自身の目で確認することです。
平日のランチタイムや休日の午後など、時間帯を変えて複数回訪問し、「何時ごろに、どのくらいの客数で、顧客は平均で何分くらい滞在しているか」を観察します。

また、カフェは一般的に、店舗の立地によって回転率が大きく異なります。
オフィス街はランチタイム、商業施設や観光地では週末や休日にかけて、高い回転率が期待できます。
こうした平日と休日の回転率の違いも、計算に入れる必要があります。

さらに店のコンセプトが、Wi-Fiや電源を備えた滞在型カフェか、あるいは座席が少なくテイクアウト中心のコーヒースタンド型カフェかによっても、回転率は異なります。

これらの要素を総合的に分析し、具体的な根拠と共に事業計画書に落とし込みましょう。

融資担当者が最重視する「収支モデル」の作り方

ここからは、事業計画書の中でも融資担当者が特に重視する、事業の収益性を証明するための「収支モデル」の具体的な作成手順を解説します。
このモデルの精度と説得力が、融資審査の結果を大きく左右します。

Step1:売上計画の立て方

売上計画は、希望的観測ではなく、具体的な数値の積み上げによって算出します。

カフェなどのビジネスモデルでは、基本的に以下の計算式に則って売上を想定します。
売上=席数×回転数×客単価×営業日数

事業計画書の「売上の見通し」には、この計算式をそのまま当てはめた売上予想を記入しましょう。

Step2:経費計画の立て方(変動費・固定費)

経費計画は、売上計画と連動させて作成します。
経費は大きく「変動費」と「固定費」の2種類に分けられます。

変動費とは、売上の増減に比例して変動する費用です。
カフェにおける主要な変動費は、食材やコーヒー豆の原材料費(売上原価)です。

売上原価の計算式は以下のとおりです。
売上原価=売上高×想定原価率

固定費は、売上の増減に関わらず、毎月一定額発生する費用です。
カフェにおける主要な固定費は、人件費と家賃です。

Step3:損益分岐点の計算方法・赤字にならない最低売上高を知る

損益分岐点とは、売上と経費がちょうど等しくなり、利益が0円になる売上高のことです。つまり、事業を維持するために最低限必要となる売上高(赤字にならないライン)を示します。
融資担当者は、この数値から事業の安全性やリスク耐性を評価します。

損益分岐点売上高は、以下の計算式で算出します。
損益分岐点売上高=固定費÷(1-変動費率)

【応用】事業の安定性を測る「感度分析」とは

感度分析(センシティビティ分析)とは、「もし〇〇が変動したら、利益はどうなるか?」というシミュレーションです。
事業計画で、売上などの重要な変数が上下した場合の利益への影響を分析することで、事業の安定性(リスク耐性)をより具体的に示すことができます。

カフェ事業における感度分析は、売上や回転率など、変動させる重要項目を決めたあと、それぞれが上振れたパターン(楽観シナリオ)と下振れたパターン(悲観シナリオ)を想定します。
そしてそれぞれのパターンごとに事業の見通しを作成し、最終的な利益を算出します。

事業計画書にこのような感度分析を加えることは必須ではありません。
しかし、不測の事態を想定し、それでも事業が継続可能であることを客観的な数値で示すことができれば、「リスク管理能力の高い、信頼できる経営者である」という極めて高い評価に繋がります。

【収益を最大化する】カフェのビジネスモデル多様化と収支計画への組み込み方

カフェの収益性を高め、経営を安定させるためには、店内での飲食提供以外のビジネスモデルを構築することも検討してみましょう。

カフェ事業のビジネスモデルの代表例としては、以下の3つが想定できます。

ビジネスモデルの代表例

  1. 物販
  2. 空間活用
  3. サブスクリプション

ここでは、カフェ経営の代表的な3つのモデルの詳しい説明と、これらのモデルで得た利益を事業計画の収支計画に反映させる具体的な計算方法を解説します。

モデル1:物販(グッズ・コーヒー豆・菓子)

店内飲食の売上は、席数と回転率に上限がありますが、物販はこれらの制約を受けずに客単価を引き上げる強力な手段です。
カフェ事業の場合、自家焙煎のコーヒー豆や、店のロゴが入ったマグカップ、テイクアウト用の焼き菓子などの販売が物販モデルにあたります。

物販の売上は、「客数×購入率×平均購入単価」で予測します。

たとえば、1日の来店客数が50人、そのうち5%(約3人)が物販商品を購入し、その平均購入単価がコーヒー豆1袋1,000円だったとします。

この場合、50×5%×1,000=2,500円が、1日の推定物販売上になります。
これに一月の営業日数を掛けた、2,500×25=6万2,500円が「事業の見通し」の売上高に加算されます。

ただし、その商品の仕入原価や製造原価を計算し、「売上原価」に反映させることを忘れないでください。

モデル2:空間活用(セミナー・ギャラリー・間貸し)

空間活用とは、店舗という「空間」そのものを収益源と捉えるモデルです。
客が少ないアイドルタイムや定休日に、店舗スペースを活用して追加の収益を生み出します。

カフェの場合は、一般の客向けに「コーヒーの淹れ方セミナー」を開催したり、地域のアーティストに壁面を貸して作品を展示・販売するギャラリースペースとして提供したりする方法が考えられます。

空間活用の売上は「開催単価×開催回数」で予測します。

ただし利用者がいないと利益が出ないため、どれほどの人数を継続的に呼び込めるかについては十分検討してください。

モデル3:サブスクリプション(定額制サービス)

毎月定額の料金を客から受け取ることで、安定的・継続的な収益(ストック収入)を確保するモデルです。
天候や曜日に左右されにくい安定した収益は、融資担当者からも高く評価されます。

代表的な例として、コーヒー豆の定期便サービスや、「月額5,000円で1日1杯コーヒー無料」といったドリンクパスがあげられます。

サブスクリプションの売上は、「会員数×月額料金」で予測します。

ただし実際のサブスクリプションの利用率によっては、経営を圧迫する原因となることもあります。
導入前に、損益分岐点となる利用回数をシミュレーションし、赤字にならない価格設定とサービス内容を設計しましょう。

【開業準備】カフェ開業に必要な資格と許認可|保健所への申請手続き

事業計画が固まり、カフェ開業の意思が明確になったら、資格の取得や許認可申請など法的な手続きの準備を進める必要があります。

飲食店であるカフェの開業には、法律で定められた資格の取得と許認可の申請が不可欠です。
ここでは、最低限必要となる2つの項目と、事業モデルによって追加で必要となる許認可について解説します。

必須の資格:「食品衛生責任者」の選任

食品衛生法に基づき、すべての飲食店は、施設ごとに1名以上の「食品衛生責任者」を置くことが義務付けられています。
事業主自身または従業員のうち、誰がこの資格者になるかを決め、選任する必要があります。

調理師や栄養士などの特定の国家資格を保有していない場合は、各都道府県の食品衛生協会が実施する養成講習会を受講することで資格を取得できます。
講習は通常1日で完了しますが、定員が設けられているため、開業を決意した段階で早めにスケジュールを確認し、予約することをおすすめします。

参考:食品衛生責任者養成講習会|一般社団法人東京都食品衛生協会

最重要の許認可:「飲食店営業許可」の申請プロセス

カフェを開業・営業するために、絶対に必要となるのが「飲食店営業許可」です。

飲食店営業許可を得るためには、店舗の所在地を管轄する保健所に申請し、許可を得る必要があります。
この許可なくカフェなどを営業した場合、重い罰則が科せられます。

申請プロセスは、一般的に以下の流れで進みます。

申請プロセス

  1. 保健所での事前相談
  2. 申請書類の提出
  3. 施設検査
  4. 許可証の交付

店舗のレイアウトを決めたら、その図面を持って、内装工事を始める前に保健所へ事前相談に行きます。
手洗い用と食器洗浄用シンクの分離や、厨房と客席の区画など、法律で定められた施設基準を満たしているかを専門家である担当者に確認してもらいます。

このステップを怠ると、工事完了後に基準を満たしていないことが発覚し、多額の追加工事費用が発生するリスクがあります。
また、この段階で前述の「食品衛生責任者」の選任も行っておく必要があります。

相談後、工事完了予定日の10日~2週間前を目安に、必要書類を保健所に提出します。
工事が完了すると、保健所の担当者が実際に店舗を訪れ、図面通りに施工されているか、施設基準をすべて満たしているかを検査します。

施設検査に合格後、数日から1週間程度で許可証が交付されます。この許可証を受け取って初めて、正式にカフェの営業を開始できます。

消防署への届出・手続きも必要

カフェなどの飲食店を開く際には、飲食店営業許可とは別に、管轄の消防署への届出も法律で義務付けられています。

「防火対象物使用開始届出書」を、店の営業が開始する7日前までに、消防署へ提出しましょう。

参考:防火対象物使用開始届出書 | 東京消防庁

この際に、店舗の収容人員(従業員と客席数の合計)が30人以上の場合、「防火管理者」を選任し、消防署に届け出る義務があります。
小規模なカフェでは該当しない場合もありますが、計画段階で想定収容人数を必ず確認してください。

追加で必要となりうる許認可(菓子製造業・深夜酒類提供など)

店のコンセプトによっては、飲食店営業許可に加えて、そのほかの許認可が必要となる場合もあります。

店内で作ったケーキやパン、焼き菓子などをテイクアウト用として包装して販売する場合には、「菓子製造業許可」が必要になります。
店内での提供のみであれば不要ですが、物販を考えている場合は必須の許認可となります。

飲食店営業許可と同様、保健所への申請が必要で、厨房内に専用の区画を設けるなどの追加の施設基準が求められます。
製造施設、設備などの詳細な基準は自治体によって異なるため、開業する場所の保健所へ確認が必要です。

深夜0時以降も、主食以外のメニュー(おつまみなど)と共にお酒を提供する場合には、「深夜酒類提供飲食店営業開業届」が必要になります。

これは保健所ではなく、管轄の警察署へ届け出ます。

参考:深夜における酒類提供飲食店営業(様式一覧)|警視庁

これらの許認可は、店舗の所在地を管轄する自治体の条例によって、細かな要件が異なる場合があります。
自身の事業計画にどの許認可が必要か、正確な判断に迷う場合は、開業手続きに詳しい行政書士などの専門家に事前に相談すると、より安全に手続きを進めることができます。

融資面談で想定される質問と回答のポイント

日本政策金融公庫からの融資を受けるために事業計画書を提出したあとは、担当者との面談が行われます。
面談は、計画書の内容をもとに、創業者自身の口から事業への理解度や熱意を伝え、担当者が事業の解像度を確認するための場です。

実際にどのような質問が行われるのか、さらにそれに対する回答のポイントを詳しく解説します。

ここで紹介する質問は、すべて事業計画書に記載した内容の深掘りです。回答に詰まることがないよう、自身の計画書を完璧に理解し、要点をまとめておくことが重要です。

Q1.なぜこのコンセプトなのですか?

この質問で担当者が確認したいのは、カフェ事業が単なる思いつきではなく、自身の強みと市場機会を客観的に分析した上で、勝算のあるコンセプトを構築できているかという点です。
事業計画書の「1.創業の動機」や「3.取扱商品・サービス(セールスポイント)」に記載した内容が問われています。

自身の経験・強みや市場の状況、具体的な解決策の3点を簡潔に結びつけて説明しましょう。

Q2.ターゲット顧客は誰で、どうやって集客しますか?

この質問は、売上計画の根拠となる「顧客」を具体的にイメージできているか、そして、その顧客にアプローチするための現実的な「手段」を持っているかを確認するためのものです。
「3.取扱商品・サービス」の「販売ターゲット」と「販売戦略」に記載した内容の具体性が問われます。

誰に(ターゲット)、何を(セールスポイント)、どのように届けるか(販売戦略)を、具体的な計画として説明しましょう。

Q3.売上が計画通りいかなかった場合の対策は?

この質問は、事業が順風満帆でない場合の「プランB」を持っているか、経営者としてのリスク管理能力と対応力を試すためのものです。
「頑張ります」といった精神論ではなく、具体的なアクションプランを求めています。

売上が足りない理由として考えられる「客数」と「客単価」それぞれの改善方法を、あらかじめ考えておきましょう。
感度分析を行っている場合は、その内容を提示することで、改善案の説得力を強めることができます。

Q4.原材料費や人件費が高騰した場合、どう対応しますか?

インフレなど、外部環境の変化によってコスト構造が悪化した場合に、利益を確保するための具体的な対応策を持っているかを確認する質問です。
ここでは経営者としてのコスト管理能力が問われます。

「原材料費」と「人件費」それぞれの改善策をあらかじめ考えておきましょう。

原材料費はメニュー構成の見直しや、利益率の高い商品の販売促進などで改善できます。
人件費はスタッフのスキル向上による生産性向上や、予約システムの導入によるアイドルタイムの削減などで、オペレーションの効率化を図るといいでしょう。

Q5.開業後のご自身の生活費はどうしますか?

事業資金と個人資金が明確に分離されているか、そして事業が軌道に乗るまでのあいだに、経営者自身が生活できるだけの資金を別に確保しているかを確認する質問です。
この質問をする時、融資担当者は事業の運転資金が個人の生活費に充当されるのではと考えています。

ここでは「創業当初」と「軌道に乗ったあと」の2段階で、生活費の源泉を明確に分けて回答します。
具体的な期間や金額を示すことで、計画の信頼性が増します。

税理士などの専門家から事業計画書の作成サポートを受けられる

ここまでの内容から、カフェの事業計画書作成が、非常に多くの専門的な知識と緻密な計算を要する、難易度の高い作業であることを理解できたかと思います。

もし、「自身の作成した数値計画が本当に現実的なのか不安だ」「専門家の視点から、計画の妥当性をチェックしてほしい」と感じたなら、税理士などの専門家から作成サポートを受けるという選択肢もご検討ください。

税理士は、単に税務の専門家であるだけでなく、企業の財務を深く理解する専門家です。融資担当者がどのような点を評価するかを熟知しており、客観的なデータに基づいた、説得力のある事業計画書の作成を強力にサポートします。

事業計画書の作成を専門家などに依頼することのメリットや費用相場については、以下の記事で詳しく解説しています。

ベンチャーサポート税理士法人を含む多くの税理士事務所では、契約前に無料相談の機会を設けています。

無料相談は、単にサービス内容や料金を確認するだけの場ではありません。
その税理士が、自社の事業を成功に導くための信頼できるパートナーとなり得るかを見極めるための、重要な機会にもなります。

ベンチャーサポート税理士法人では、事業計画書の作成も含めた創業融資などのサポートを行なっています。
これまでに創業融資をサポートした件数は1万件を超え、あらゆる形態の企業に合わせて事業計画書の作成が可能です。

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カフェの事業計画書について税理士に相談できることリスト

カフェの事業計画書について、税理士には主に以下のようなことを相談できます。

  • 事業計画書や創業計画書の書き方
  • 収支モデルの客観的な検証
  • 適切な借入額と資金調達計画の策定
  • 専門的な財務指標を用いたリスク分析
  • 融資担当者の視点を踏まえた書類の最終レビューと面接対策

上記のリストはあくまで一例です。実際には、カフェ創業者や経営者が抱える財務や税務に関するあらゆる不安や疑問が、相談の対象となります。

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