最終更新日:2025/12/8
事業計画の立て方のポイントとは?策定手順や計画書の作り方を税理士が解説

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック

事業の成長を目指すうえで「事業計画」が重要だと分かってはいるものの、何から手をつければいいのか、どうすれば実用的な計画になるのか、お悩みではないでしょうか。
本記事では、事業を成功に導くための「戦略的な事業計画の立て方」について、税理士が専門家の視点から徹底解説します。
客観的な現状分析(As-Is)から具体的な目標設定(To-Be)、そして計画を実行し続けるためのPDCAサイクルの回し方まで、5つのステップに沿って具体的に解説します。
さらに、事業計画の策定でよくある失敗例やその回避法にも触れますので、事業計画の立て方についてお悩みの方はぜひ一読し、実効性の高い事業計画を立てるための参考にしてください。


目次
【要点まとめ】事業計画の立て方の全体像
事業計画は、経営者の頭の中にある漠然としたアイデアを客観的な言葉と数字に置き換え、事業の解像度を高めるため、そしてそれをすべての関係者と共有するために作成します。
そのためには、将来的な理想(To-Be)と事業の現状(As-Is)を照らし合わせ、その間にあるギャップを解決するための、具体的な戦術と測定可能な指標(KPI)を伴った戦略的ロードマップを策定します。
しかし、どれほど優れたロードマップであっても、現場の実態を無視した机上の空論であったり、市場の変化に応じて見直されないままでは、やがて価値を失います。
計画を作りっぱなしにせず、PDCAサイクルを継続的に回すしくみを組織に根付かせ、常にアップデートしていくことも、事業計画を立てるうえで忘れてはいけないポイントです。
対外提出が必要な方へ:事業計画“書”の書き方はこちら
はじめに、「事業計画」と「事業計画書」という、よく似た2つの言葉の使い分けについて説明します。
- ・事業計画: 事業の目標を達成するための「戦略」や「思考プロセス」そのもの
- ・事業計画書: 事業計画を基に、金融機関や投資家といった第三者に説明するために作成される「公式な書類」
この記事では、戦略的な事業計画の立て方について、詳しく解説していきます。
もし融資申請などで今すぐ必要となる「事業計画書の書き方(書類の作成方法)」をお探しの場合は、以下の記事でテンプレートや具体的な記入例を交えて解説しているので、ご覧ください。
事業計画を策定する3つの理由とは
事業計画の策定は、融資の申込みといった特定の目的のためだけに行うものではなく、事業の成功確率を高め、継続的な成長を促すための根幹となる活動です。
ここでは、事業計画を策定する本質的な3つの理由について解説します。
思考を整理し、アイデアを具体化する
事業のアイデアは、はじめは「地域に愛されるカフェを作りたい」といった漠然としたイメージであることが多いでしょう。
この段階では、その事業が持つ可能性や潜在的なリスクを客観的に把握することは困難です。
事業計画の策定は、この漠然とした思考を、第三者にも伝わる具体的な言葉と数字に変換していく最初のステップです。
たとえば、前述のカフェ開業のアイデアを事業計画に落とし込むプロセスを考えてみましょう。
まず「地域に愛される」とは具体的にどのような状態かを定義します。
仮に「平日のランチタイムに常に満席になる状態」としてみましょう。
店舗の座席数が15席で、ランチタイムの平均回転数が1.5回だとすれば、1日に必要なランチの顧客数は15席×1.5回転=22.5人となります。
客単価を1,200円と設定した場合、ランチタイムだけで22.5人×1,200円=2万7,000円の売上が必要である、という具体的な数値目標が設定できます。
このように思考を具体的な計画に落とし込むことで、目標達成に必要な要素が明確になります。
「22.5人のお客様に来てもらうためには、どのようなメニューや価格設定が必要か」「この売上を達成した場合の利益はいくらか、そのためには原価を何%に抑えるべきか」といった、次の具体的な問いが生まれるのです。
このプロセスを経ずに事業を開始した場合、「思ったよりお客様が来ない」「利益が残らない」といった問題に直面してから、その原因を探ることになります。
事業計画の策定とは、事業を開始する前に頭の中でシミュレーションを行い、課題を事前に洗い出すための極めて重要な作業と言えます。
関係者との「共通認識」を作る
事業は経営者一人で行うものではなく、従業員、金融機関、株主といった多くの関係者の協力があって初めて成立します。
これらの関係者がそれぞれ異なる方向を向いていては、事業を効率的に推進することはできません。
事業計画は、事業が目指すゴールとそこに至るまでの道筋を共有するための「共通言語」として機能します。
たとえば、あるIT企業が「業務効率化のための新しいソフトウェアを開発する」という目標を掲げたとします。
この目標だけでは、各担当者の認識にズレが生じる可能性があります。
| 担当者 | 事業計画がない場合の認識 | 事業計画がある場合の認識 |
|---|---|---|
| 営業 | 「とにかく多くの企業に販売することが目標だ」 | 「ターゲットは従業員数50名以下の中小企業。初年度の目標は有償契約100社の獲得だ」 |
| 開発 | 「競合製品にない多機能で完璧なシステムを作るべきだ」 | 「ターゲットから考えると、まずは勤怠管理と経費精算の機能に絞って開発し、6カ月後にβ版をリリースする」 |
| 財務 | 「開発費用はなるべく抑えるべきだ」 | 「β版リリースまでの開発予算は2,000万円。資金は自己資金と日本政策金融公庫からの借入金で賄う」 |
事業計画によって具体的なターゲット、数値目標、予算、スケジュールが明確に定義されることで、全部門が同じ目標を認識し、計画の全体像を把握できるようになります。
このような認識の統一は、無駄な工数やコミュニケーションコストの削減に直結し、事業全体の生産性を向上させるのです。
同様に金融機関や投資家からしても、事業計画はその企業の返済能力を確認する根拠や、将来のリターンを判断する基盤となります。
このように、事業計画はすべての関係者との信頼関係を構築し、事業推進に必要な協力を得るための不可欠なコミュニケーションツールなのです。
日々の「意思決定」の拠り所となる
経営者は日々、大小さまざまな意思決定を迫られます。
その際に、一貫した判断基準がなければ、その場の雰囲気や短期的な損得勘定に流されてしまい、事業の方向性がぶれてしまうリスクがあります。
事業計画は、客観的で合理的な意思決定を行うための「羅針盤」の役割を果たします。
仮に、カフェを経営している事業者を想定してみましょう。
ある日、取引業者から「最新式の高性能エスプレッソマシンを、導入費用300万円で導入しませんか」という魅力的な提案を受けたとします。
ここで事業計画がなければ、「高性能なマシンがあれば、お客様が喜んでくれるかもしれない」といった感情的な判断に傾くかもしれません。
しかし、事業計画に「運転資金として最低200万円を確保する」「主要ターゲットは高単価なコーヒー愛好家ではなく、近隣住民のランチ利用とし、客単価は1,200円前後を想定する」と明記されていればどうでしょうか。
この計画に照らし合わせれば、300万円の追加投資は当初の資金計画を大きく圧迫するリスクがあること、そもそも主要ターゲットのニーズとは必ずしも合致しない投資であることが論理的に判断できます。
結果として、「今回は見送る」という戦略的に一貫した意思決定を下すことができます。
このように、事業計画は目先の魅力的な選択肢に惑わされることなく、事業全体の目標達成という観点から、常に最適な判断を下すための拠り所となるのです。
実行可能な事業計画の戦略的な立て方
事業計画は、単に目標を掲げるだけでは意味を成しません。
その計画が「実行可能」であるためには、客観的な事実に基づき、論理的な手順に沿って策定される必要があります。
ここでは、戦略的で実効性のある事業計画を立てるための5つのステップを、仮定の製造業をモデルとして順に解説します。
ステップ1:現状を正しく知る【As-Is分析】
事業計画策定の第一歩は、自身が今どこに立っているのかを正確に把握することです。
そのためにまずは、「As-Is(アズイズ)分析」を行いましょう。
As-Isとは、現在の状態を意味します。
希望的観測や思い込みを排除し、客観的な事実に基づいて自社の立ち位置を分析しなければ、効果的な計画を立てることはできません。
この現状分析は、事業を取り巻く「外部環境」と、自社の経営資源である「内部環境」の2つの側面から行います。
外部環境の分析のやり方【As-Is分析】
まずは、自社ではコントロールできない外部の要因を分析します。
ここでは、代表的なフレームワークである3C分析を用いると、思考を整理しやすくなります。
3C分析とは、事業を取り巻く代表的な要素である市場・顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つの視点から分析を行うことです。
| 環境要素 | 分析する内容 |
|---|---|
| 市場・顧客 (Customer) |
自身が参入している市場の規模や成長性。 その市場での顧客は誰で、どのようなニーズを持っているのかを具体的に定義する。 |
| 競合 (Competitor) |
競合他社は誰で、その強み・弱みは何か。 競合が提供する商品の価格帯、品質、販売チャネルなどを調査し、市場における自社の相対的な位置づけを明確にする。 |
| 自社 (Company) |
外部環境の変化に対し、自社がどのように対応できるか。 次の内部環境分析に繋げる。 |
3C分析では、希望的観測や主観的な意見を排除し、公的機関の調査データや信頼性の高い情報源を活用することが重要です。
内部環境の分析のやり方【As-Is分析】
外部環境を分析したあとは、自社が持つ経営資源を客観的に評価します。
具体的には、人材、設備、資金、情報、技術力、ブランド認知度といった要素を洗い出します。
内部環境の分析では、自社の強みだけでなく、弱みも正確に分析しなければいけません。
たとえば、製造業の場合は「長年の研究開発で培った独自の切削技術があり、0.01mm単位での精密加工が可能」といった他社にない技術などがあれば、強力な優位性(強み)となります。
一方で「営業担当者が5名しかおらず、アプローチできるエリアが首都圏に限られる」といった経営上の課題(弱み)も洗い出します。
こうしたAs-Is分析は、後続のステップすべての土台となります。
ここで得られた客観的な事実が、現実的で説得力のある計画の質を左右します。
ステップ2:あるべき姿(理想)を描く【To-Be設定】
As-Is分析でスタート地点を確認したら、次に目指すべきゴール、すなわち「あるべき姿」を具体的に設定します。
これを「To-Be設定」といいます。
このゴールは、企業の進むべき方向性を示す定性的な目標(ビジョン)と、その達成度を測る定量的な目標(KGI:重要目標達成指標)の両面から設定することが重要です。
定性的な目標(ビジョン)の立て方【To-Be設定】
定性的な目標とは、事業を通じて成し遂げたい、企業の理念や存在意義を示すものです。
「独自の技術を通じて、日本の製造業の国際競争力向上に貢献する」といった、組織のモチベーションを高める旗印となります。
定量的な目標(KGI:重要目標達成指標)の立て方【To-Be設定】
定量的な目標とは、定性的な目標を具体的な数値に落とし込んだものです。
目標を設定するためのフレームワークとして「SMART」が知られています。
| 要素 | 説明 | 具体例 |
|---|---|---|
| Specific | 具体的か | 「売上を伸ばす」ではなく、「主力製品Aの年間売上高」 |
| Measurable | 測定可能か | 「満足度を高める」ではなく、「顧客満足度調査で90%以上を獲得する」 |
| Achievable | 達成可能か | 現状分析に基づき、現実的な目標か |
| Relevant | 関連性があるか | 定性目標(ビジョン)と一致しているか |
| Time-bound | 期限が明確か | 「いつか」ではなく、「20◯◯年3月期までに」 |
たとえば、現状の年間売上1億円の企業が、先のAs-Is分析で「競合が手薄な関西エリアに大きな市場機会がある」と判断したとします。
その場合、「首都圏で実績のある営業ノウハウを関西エリアに展開し、3年後である2028年3月期までに、会社全体の年間売上高を1.5億円にする」といった具体的で測定可能な目標(KGI)を設定します。
この「あるべき姿」は、現状からかけ離れた単なる夢物語であってはなりません。
ステップ1の客観的な分析に裏付けられた、達成可能な「目標」でなければならないのです。
ステップ3:理想と現実のギャップ(課題)を特定する
ここまでのステップ1で「現在地(As-Is)」を、ステップ2で「目的地(To-Be)」を明確にしました。
ステップ3では、その二つの地点の間に存在するギャップを論理的に分析し、乗り越えるべき「課題」として具体的に定義します。
まずは、次の目標(To-Be)と現在の状況(As-Is)を並べ、ギャップと課題を分析します。
- ・理想(To-Be):3年後に年間5,000万円の売上を上乗せし、年間売上1億5,000万円を達成する。
- ・現実(As-Is):年間売上は1億円。営業担当5名は、既存の主要顧客への対応(ルートセールス)にリソースの大半を割いており、新規顧客開拓の体系的なしくみがない。売上の80%を特定の自動車部品メーカー3社に依存している。
この理想と現実を比較すると、以下のような具体的なギャップが浮かび上がります。
- 営業スタイルのギャップ:既存顧客の維持を中心とする現在の営業活動では、新たな5,000万円の売上創出は困難。
- 市場のギャップ:特定業界への高い売上依存度は、その業界の景気変動が自社の経営に直接的な打撃を与えるリスクを抱えている。
- 新規顧客獲得のギャップ:問い合わせ対応や紹介といった受動的な方法に頼っており、安定的に見込み顧客を獲得するしくみがない。
これらのギャップを、解決すべき「課題」として再定義します。
ステップ4:課題解決のための戦略・戦術を立てる
課題を特定したら、次はその課題を解決するための具体的な方法、すなわち「戦略」と「戦術」を策定します。
そして、その実行度合いを測るためのKPI(重要業績評価指標)を設定します。
課題1:営業体制の変革(営業スタイルのギャップの解決)
- 戦略
既存顧客担当と新規開拓担当の役割を明確化し、CRM(顧客関係管理)システムを導入して営業活動を効率化する。- 戦術
・営業5名のうち2名を新規開拓の専門チームとして指名する。
・6カ月以内にCRMを導入し、全営業担当者への研修を実施。顧客情報、商談履歴、進捗状況を一元管理する。- KPI
・新規開拓チームの月間新規商談件数:10件
・全営業担当者のCRM入力率:95%
課題2:医療機器分野への新規参入(市場のギャップの解決)
- 戦略
医療機器業界での法規制(QMS省令)に適合した品質マネジメントシステムを構築して参入障壁をクリアし、専門家との連携を通じて初期の顧客基盤を築く。- 戦術
・1年半以内に、QMS省令に適合した品質マネジメントシステムを構築し、体制を整備する。
並行して、国際的な信頼性の担保と将来の海外展開も見据え、国際規格である「ISO13485」の認証取得も目指す。
・医療機器分野に詳しい外部コンサルタントと契約し、ターゲット企業リストの作成と初期アポイントの獲得支援を依頼する。コンサルティング費用として500万円を予算計上する。- KPI
・QMS省令適合の体制構築完了(1年半以内の達成を目標)
・医療機器メーカーとの新規契約獲得数:3年間で5社
課題3:リード獲得のしくみ構築(新規顧客獲得のギャップの解決)
- 戦略
自社の高い技術力をコンテンツ化し、Webサイトを通じて発信することで、購買意欲の高い見込み顧客からの問い合わせ(インバウンドリード)を獲得する。- 戦術
・1年以内に自社Webサイトを全面リニューアルし、技術的な優位性を示す導入事例や技術資料(ホワイトペーパー)を掲載する。
・技術部門の協力を得て、毎月2本の技術解説ブログをWebサイトに掲載する。- KPI
・Webサイト経由での月間問い合わせ件数:20件
・技術資料の月間ダウンロード数:50件
このように、概要と最終目的だけではなく具体的な数字も含めた計画を立てることで、事業計画は「目標」から「実行可能なプラン」へと進化します。
ステップ5:計画を実行し、改善し続ける(PDCAサイクル)
ここまでのステップで、客観的な分析に基づいた戦略的な事業計画が策定されました。
しかし、どれほど優れた計画も、実行されなければ意味がありません。
この最終ステップでは、計画を具体的な行動に移し、その結果を検証して継続的に改善していくための経営管理のしくみである「PDCAサイクル」を導入します。
PDCAサイクルとは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)という4つのプロセスを繰り返すことで、業務の品質と効率を高めていくためのフレームワークです。
| プロセス | 活動内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| Plan(計画) | ステップ1~4で策定した事業計画そのもの。 戦略、戦術、KPIを具体的に定義する。 |
売上1.5億円を達成するための戦略と、月間20件のWeb問い合わせ獲得といったKPIを設定。 |
| Do(実行) | 計画(Plan)で定められた具体的な行動計画を、担当者が実行に移す。 | Webサイトのリニューアルプロジェクトを開始。新規開拓チームが医療機器メーカーへのアプローチを開始。 |
| Check(評価) | 実行(Do)の結果が、計画(Plan)で設定したKPIを達成しているかを客観的なデータで測定・評価する。 | 月次経営会議にて進捗を確認。 結果、Webからの問い合わせは目標20件に対し8件に留まった。 一方、新規商談化件数は目標10件に対し12件と上回った。 |
| Act(改善) | 評価(Check)で見つかった計画と実績のギャップを分析し、改善策を考える。 この改善策が次の計画(Plan)となる。 |
Web問い合わせが少ない原因を「技術ブログの内容が専門的すぎる」と分析。 改善策として次月は導入事例形式の分かりやすい記事を公開し、広告の訴求も変更する。 |
| Time-bound | 期限が明確か | 「いつか」ではなく、「20◯◯年3月期までに」 |
PDCAサイクルを回すうえで最も重要なのが、「Check(評価)」のプロセスを定期的に行うことです。
計画を実行しただけで満足してしまい、その計画の結果を評価せずにいると、そもそもの計画がうまくいったのか、または新たな問題点が浮上していないかを確認できず、迅速な改善活動(Act)に繋げられません。
事業計画は、一度策定して終わりではありません。市場環境や競合の動向は常に変化します。
PDCAサイクルを通じて、計画自体を継続的に見直し、現実の変化に適応させていくことこそが、事業を成功に導くうえで非常に重要なプロセスとなります。
事業計画が「形骸化」する3つの落とし穴と回避策
せっかく策定した事業計画を実行したものの、いつの間にか当初の計画から大きく離れてしまい、意味のないものとなってしまう「形骸化」は、多くの企業が直面する課題です。
よくある形骸化のパターンとしては、以下の3つがあげられます。
- 現場の意見を無視した「机上の空論」になっている
- 一度立てたら「作りっぱなし」になっている
- KPIが多すぎて管理しきれていない
ここでは、計画が機能しなくなる典型的な3つの落とし穴と、それを未然に防ぐための具体的な回避策を解説します。
その1:現場の意見を無視した「机上の空論」になっている
事業計画が形骸化する最大の原因の1つが、経営陣や管理職だけで作られた、現場の実態から大きく離れた計画になっているケースです。
たとえば、業務改善のために新たなシステムの導入や、オンライン化を進めたとします。
これらは計画としては合理的です。
しかし実際には、現場の作業員がシステムを使いこなせなかったり、従来からの対面でのやり取りを重視する取引先がオンライン化への一方的な移行に難色を示すといった、現場ならではの現実があります。
このような計画は、現場の担当者から「現実が見えていない」と判断され、実行段階で無視されたり、形だけ取り繕うような動きになったりする可能性があります。
この落とし穴を回避する有効な方法は、事業計画の策定プロセスそのものに、現場のキーパーソンを巻き込むことです。
ステップ4の「戦略・戦術の策定」を行う際に、営業部門のマネージャーと現場の責任者などを交えた会議を開き、双方の意見を反映させることで、より現実的で実効性の高い計画を立てることができます。
さらに現場が計画の策定プロセスに関与することで、「これは自分たちが作った計画だ」という当事者意識が芽生えることも期待できます。
トップダウンで与えられた「ノルマ」ではなく、自らが策定に関わった「目標」となることで、現場での計画達成への意欲向上も見込めるでしょう。
その2:一度立てたら「作りっぱなし」になっている
事業計画を取り巻く環境は、常に変化しています。
競合が画期的な新製品を発売したり、主要な取引先が方針転換したりと、計画の策定時には予測できなかった事態は必ず発生します。
こうした現状を把握しない、あるいは知りながら「計画は計画だから」と従来通りの行動しか起こさないままだと、最終的な目標を達成することはできません。
この落とし穴を回避するためには、ステップ5で解説した「PDCAサイクル」を回すしくみを、企業の公式なプロセスとして制度化することが効果的です。
具体的には、経営会議や営業会議で「事業計画の進捗確認(PDCAサイクルでいうC・チェック)」を行い、それぞれのKPIの責任者から、計画と実績の差異とその原因、今後の改善策の報告などを集めます。
このように、計画を定期的に見直す場を設けることで、計画は常に現状に合わせてアップデートされ、環境変化に対応できる「生きた計画」であり続けることができます。
その3:KPIが多すぎて管理しきれていない
事業の成功を願うあまり、あらゆる指標を管理しようとして、KPIを設定しすぎてしまうケースがあります。
しかし、管理する指標が多すぎると、現場の担当者はどの数字を追いかければいいのか分からなくなり、結果としてすべての指標が中途半端になるという事態に陥ります。
こうした事態を回避するためにも、KPIは3~5個ほどに厳選しましょう。
「この指標さえ達成すれば、最終的なゴール(KGI)の達成に大きく近づく」という本質的な指標を見極めることが重要です。
さきほどの製造業の例で言えば、数ある指標の中から、売上に最も直結するであろう「月間新規商談化件数」と「受注率」を最重要KPIとして設定します。
そのほかの指標は、あくまでこれら2つのKPIを達成するための補助的な管理項目として位置づけます。
これにより、現場の担当者は「今月は、まず質の高い商談を10件設定し、そのうち2件を受注に繋げることに全力を尽くそう」というように、日々の行動の優先順位が明確になります。
経営陣も、この2つのKPIの進捗さえ見ていれば、事業が順調に進んでいるかを的確に把握できます。
KPIは、設定することや管理することが目的ではありません。
組織全体のエネルギーを、最も重要な一点に集中させるためのツールである、という認識を持つことが不可欠です。
事業計画について悩んだら税理士に相談しよう
ここまで事業計画の重要性や具体的な立て方について解説してきました。
しかし、いざ自身で客観的な根拠に基づいた数値計画まで落とし込むとなると、不安を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「この売上目標は、本当に達成可能と言えるだろうか?」
「金融機関を納得させられるだけの、説得力のある資金繰り計画を作れるだろうか?」
「そもそも、自身の事業アイデアがビジネスとして成立するのか、専門家の客観的な意見が聞きたい」
このような悩みや課題に直面したとき、税理士は事業経営者の強力なパートナーとなります。
大きなメリットとしては、以下の3つがあげられます。
- 客観的で精度の高い「数値計画」の策定支援
- 資金調達を成功に導くための計画書作成
- PDCAサイクルを回すための継続的な経営サポート
事業計画の策定において、税理士が具体的にどのようなサポートを提供できるのかを解説します。
税理士のメリットその1:客観的で精度の高い「数値計画」の策定支援
事業の現状分析を行う際に、税理士は過去数期分の決算書をもとにプロの財務分析を行うことができます。
売上高総利益率からは事業の基本的な収益性を、自己資本比率からは経営の安定性を、そして損益分岐点売上高からは赤字に陥らないための最低ラインを、具体的な数値で明確にします。
これにより、経営者が肌で感じている「自社の強み・弱み」に、客観的な数字の裏付けを与えることができます。
税理士のメリットその2:資金調達を成功に導くための計画書作成
事業計画をもとにした事業計画書は、金融機関からの融資を申し込む際の最重要書類です。
税理士は、日本政策金融公庫や信用保証協会といった金融機関が、どのような視点で事業計画を評価するかを熟知しています。
融資担当者が特に重視する「返済能力」が明確に伝わるよう、設備投資の妥当性、借入金の返済計画、そして将来の収益見通しを、専門家の視点から論理的に構成できるのが税理士の強みです。
これにより、融資審査の通過率を高めることに貢献します。
事業計画書の作成を税理士にサポートしてもらうことのメリットなどについては、以下の記事でより詳しく解説しています。
税理士のメリットその3:PDCAサイクルを回すための継続的な経営サポート
事業計画は策定して終わりではありません。計画通りに事業が進んでいるかを確認し、改善を続けていくことが不可欠です。
税理士と顧問契約を結ぶことで、月次決算を通じて毎月の業績をタイムリーに把握し、事業計画のKPIと比較・分析することができます。
計画と実績に大きなずれが生じた場合には、その原因を共に分析して財務的な視点から改善策を提案するなど、税理士は計画実行のフェーズにおいても継続的な「伴走者」としての役割を担います。
事業計画を作成するときはベンチャーサポート税理士法人の無料相談まで
事業計画の策定は、事業の未来を左右する重要なプロセスです。
一人で抱え込まず、ぜひ一度、数字と経営の専門家である税理士にご相談ください。
ベンチャーサポート税理士法人では、事業計画書の作成も含めたさまざまな融資のサポートを行なっています。
融資制度の一般的な説明から、必要書類や事業計画書の作り方まで、はじめて融資の活用をお考えの方が、迷わず融資を獲得できるようお手伝いします。
ベンチャーサポート税理士法人は、これまでに累積3万7,000社以上の会社設立と経営サポートに携わり、現在1万4,000社以上と顧問契約を結んでいます。
その中で、多くの企業の事業計画策定と資金調達を成功に導いてまいりました。
銀行での勤務経験を持つスタッフも多数在籍しているので、融資審査を行う側からの視点と、事業を軌道に乗せるための税理士としての視点の両方から、経営者にとって最適な事業計画の策定サポートを行います。
まずはお気軽に、ベンチャーサポート税理士法人の無料相談までお電話ください。
夜間・土日祝でも対応しております。












