記事の要約
- 「嫡出子」と「父親からの認知を受けている場合の婚外子」の間に、相続権の差は設けられていない
- 父親の相続権を婚外子が得るには、父親からの認知が必要不可欠
「婚外子である自分に相続権はあるのだろうか?」「他の兄弟と同じように財産を受け取れるのだろうか?」
相続において、このような不安や疑問を抱えている方もいるのではないでしょうか。あるいは、ご自身の死後、「婚外子に確実に財産を残したい」と考えている方もいるでしょう。
現在の法律では、父親が認知している場合の婚外子(非嫡出子)の法定相続分は、法律上の夫婦の間に生まれた子(嫡出子)と同じです。
この記事では、相続問題に詳しい専門家が、婚外子の相続に関する法律上の定義や、起こり得る相続トラブルへの対応策などを解説します。
目次
婚外子(非嫡出子)とは
婚外子(こんがいし)とは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子のことを指します。「非嫡出子(ひちゃくしゅつし)」とも呼ばれますが、意味は同じです。
一方で、法律上の婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子のことを「嫡出子(ちゃくしゅつし)」と呼びます。
婚外子と嫡出子との違いは、両親が法律上の婚姻関係にあるか否かという点だけです。「嫡出子」と「父親からの認知を受けている場合の婚外子」の間に、相続権の差は設けられていません。
ここからは、相続における婚外子の具体的な権利や法定相続分について詳しく見ていきましょう。
相続における婚外子の権利と法定相続分
父親から認知を受けている場合であれば、婚外子の法定相続分は、嫡出子と全く同じです。
かつての民法では、婚外子の相続分は嫡出子の半分(1/2)と定められていましたが、2013年9月4日に最高裁判所が違憲であるとの決定を下しました。これを受けて民法が改正され、現在では相続における両者の扱いに差はありません。
ただし、父の相続についての相続権を主張するためには、父親による「認知」が必要不可欠です。
たとえ血縁関係が明らかであっても、認知の届出によって戸籍上の親子関係が法的に証明されていなければ、父親が亡くなったときの相続で法定相続人にはなれません。
相続における婚外子の相続割合
婚外子の法定相続分は、他にどのような相続人がいるかによって変動します。ここでは、婚外子がいる場合の代表的な相続パターンを見ていきましょう。
事例
パターン1:相続人が「配偶者」と「子(嫡出子・婚外子)」の場合
法定相続分は、配偶者が1/2、子(全員)が1/2となります。子の相続分である1/2を、嫡出子・婚外子の区別なく、子の人数で均等に分け合います。
たとえば、「配偶者」「嫡出子1人」「婚外子1人」が相続人の場合 、 法定相続分は配偶者が1/2、嫡出子が1/4、婚外子が1/4となります。
事例
パターン2:相続人が「子(嫡出子・婚外子)」のみの場合
配偶者がすでに亡くなっている場合などは、遺産のすべてを子が相続します。この場合も、嫡出子・婚外子の区別なく、子の人数で均等に分け合います。
たとえば、相続人が「嫡出子1人」、「婚外子1人」の場合 、法定相続分は嫡出子が1/2、婚外子が1/2で同等となります。
事例
パターン3:亡くなった人に嫡出子はおらず、「婚外子」と「亡くなった人の親」がいる場合
子の相続順位は、親や兄弟姉妹よりも上になります。したがって、認知された婚外子が一人でもいれば、その婚外子が遺産のすべてを相続し、亡くなった人の親は相続人にはなりません。
認知の種類と方法
前述のとおり、婚外子が父についての相続権を得るためには父親による「認知」が不可欠です。
認知とは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子と、その父親との間に法律上の親子関係を成立させる手続きを指します。
法律上の婚姻関係にない男女間で生まれた子の場合、母親は出産の事実によって親子関係が明確ですが、父親の場合は「誰が父親なのか」が客観的には分かりません。
したがって、法律上の父子関係を確定させるために、父親による認知が必要となるのです。
ここでは、状況に応じて行うべき3つの認知の方法について解説します。
- 父親の意思で親子関係を認める「任意認知」
- 父親が拒否した場合の「強制認知(認知調停・認知の訴え)」
- 父親の死後3年以内に行う「死後認知」
父親の意思で親子関係を認める「任意認知」
任意認知とは、父親が自らの意思で「自分の子である」と認める方法です。父親が市区町村役場の戸籍係に「認知届」を提出し、受理された時点で効力が発生します。なお、婚外子が成人している場合は、その子の承諾が必要です。
また、遺言書の中で特定の婚外子を認知する旨を記載する、「遺言認知」という方法もあります。生前に遺言書を作成しておくことで親子関係を明確にし、将来の相続トラブルを未然に防ぐ効果が期待できます。
以下の項目を記載した遺言書を残すことで、父親が亡くなった時点で遺言認知の効力が発生します。
- 子を認知する旨
- 子の母の氏名や住所、生年月日
- 子の氏名や住所、生年月日
- 子の本籍および戸籍筆頭者
- 遺言執行者の選任
このとき、遺言書内で選任された遺言執行者は、その就任日から10日以内に認知届を添付書類とともに提出しなければなりません。
父親が拒否した場合の「強制認知(認知調停・認知の訴え)」
強制認知とは、父親が認知を拒否している場合、裁判所の手続きを通じて父親に対して認知を求める方法です。
父親が任意認知に応じない場合は、まず家庭裁判所に「認知調停」を申立て、調停委員を介した話し合いで合意を目指します。
もし調停が不成立に終わった場合は、「認知の訴え」という裁判(訴訟)を起こすことになります。裁判では、DNA鑑定などの客観的な証拠に基づいて、裁判所が親子関係の有無を判断します。
認知を認める判決が確定すれば、婚外子は法律上の親子関係が認められ、父親の相続人としての地位を得られます。
父親の死後3年以内に行う「死後認知」
父親が婚外子を認知しないまま亡くなってしまった場合、婚外子は「父親の死亡日から3年以内」に家庭裁判所へ死後認知の訴えを起こすことができます。
死後認知は調停を経ずに訴訟を起こすことになりますが、父親は亡くなっていることから、検察官が訴えの相手方となります。
なお、死後認知を訴える場合、「血縁による親子関係」と「父親が認知をしていないこと」の二つの要件を満たす必要があり、このうち「血縁上の親子関係」の証明には、DNA鑑定が有力とされています。
死後認知を認める判決が確定すれば、強制認知の場合と同様に、婚外子は法律上の親子関係が認められ、父親の相続人としての地位を得られます。
婚外子のいる相続で起こり得るトラブルと解決策
父親が認知している場合の婚外子の相続権は、嫡出子と法的に同等です。しかし、他の相続人の感情的な反発などから、残念ながらトラブルに発展してしまうケースも起こり得ます。
ここでは、婚外子がいる相続の場面で起こりやすい代表的な3つのトラブルと、ご自身の権利を守るための法的な解決策を解説します。
- トラブル1:他の相続人から「あなたに相続権はない」と主張される
- トラブル2:遺産分割協議で、不利な内容での合意を迫られる
- トラブル3:遺言書で相続分がゼロ、または極端に少なくされている
トラブル1:他の相続人から「あなたに相続権はない」と主張される
亡くなった方の配偶者や嫡出子が、婚外子の存在を初めて知った場合、「あなたに財産を渡すつもりはない」「相続権などないはずだ」と、感情的に権利そのものを否定するケースが考えられます。
この場合の解決策として挙げられるのは、戸籍謄本などで「認知」の事実を客観的に示すことです。
父親が既に認知しているのであれば、このような主張は法的には通用しません。
まずは冷静に、ご自身の戸籍謄本などを取り寄せましょう。そこに父親からの認知の事実が記載されていれば、それが法律上の親子関係を証明する法的な証拠となります。
トラブル2:遺産分割協議で、不利な内容での合意を迫られる
他の相続人と初めて顔を合わせる遺産分割協議の場で、法定相続分よりも少ない金額で合意するように迫られるケースがあります。
この場合の解決策として挙げられるのは、「その場で署名・捺印せず、弁護士に相談する」ことです。
どんなに不利な内容であっても、一度「遺産分割協議書」に署名・捺印(実印)してしまうと、その内容を覆すことは非常に困難です。
「一度持ち帰って検討します」と伝え、速やかに相続問題に詳しい弁護士に相談してください。弁護士が代理人として交渉することで、感情的な対立を避けながら、法律に基づいた正当な相続分の確保を後押ししてくれます。
トラブル3:遺言書で相続分がゼロ、または極端に少なくされている
父親が「全財産を妻に相続させる」といった内容の遺言書を残していることがあります。相続では、原則として遺言の内容が法定相続よりも優先されるため、遺言書通りだと婚外子は財産を受け取れないことになってしまいます。
この場合の解決策として挙げられるのは、最低限の取り分を主張できる「遺留分」を請求することです。
民法では、子や配偶者などの最低限の遺産取得を保障する「遺留分(いりゅうぶん)」という権利を、兄弟姉妹以外の相続人に対して認めています。
婚外子も、当然ながら遺留分を受け取る権利を有します。この権利は遺言の内容に左右されず、子や配偶者が相続人である場合の遺留分(総体的遺留分)は、原則として相続財産の「1/2」 と定められています。
ポイント
なお、遺留分を行使するためには、「遺留分侵害額請求」という意思表示を他の相続人に対して行わなければなりません。
この請求は、「相続の開始と遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内(又は相続開始から10年以内)」に行う必要があるため、早急な対応が求められます。
【父親向け】婚外子のため生前にできる相続トラブル回避策
婚外子がいる場合は、ご自身の相続発生時に他の家族との間で感情的な対立が生まれるかもしれません。
生前にしっかりと対策を講じておくことが、将来のトラブル回避につながります。
ここでは、相続トラブルを未然に防ぐために有効な3つの対策をご紹介します。
- 対策1:「遺言書」を作成する
- 対策2:手続きを円滑に進める「遺言執行者」を指定しておく
- 対策3:子どもの生活を支える手段として「生命保険」を活用する
対策1:「遺言書」を作成する
「誰に、どの財産を、どれだけ相続させるか」というご自身の意思を法的に実現させるための確実な方法が、遺言書の作成です。
口約束だけでは法的な効力はなく、相続が始まった後では「言った、言わない」の水掛け論になりかねません。
たとえば、相続人が子2人のみの場合、遺言書で「長男〇〇と、子△△(婚外子)に、それぞれ「1/2」ずつ相続させる」といった形で明確に意思表示をしておくと良いでしょう。
婚外子の存在を知らなかった他の相続人に対しても、故人の確定した意思として示すことができます。
なお、作成する際は、方式の不備によって無効になるのを避けるためにも、公証人が作成に関与する「公正証書遺言」の形式で残すことをおすすめします。
対策2:手続きを円滑に進める「遺言執行者」を指定しておく
遺言書を作成する際に、ぜひセットで検討していただきたいのが遺言執行者の指定です。
遺言執行者とは、その名の通り、遺言の内容を実現するために必要な手続き(預貯金の解約や不動産の名義変更など)を行う権限を持つ人のことです。
相続手続きには、他の相続人全員の署名や実印が必要となる場面が多くあります。もし他の相続人が協力的でない場合、婚外子が一人で大変な労力を強いられるかもしれません。
弁護士や司法書士などの専門家を遺言執行者に指定しておけば、その執行者が法律に基づいて単独で手続きを行うことができるため、ご自身が生前に希望していた内容でスムーズに相続手続きを進めやすくなります。
対策3:子どもの生活を支える手段として「生命保険」を活用する
遺産分割には時間がかかる場合もあることから、子の当面の生活を支えるために、遺産とは別の形で財産を残す方法も有効です。
たとえば、婚外子を「自身が被保険者かつ保険料を負担している生命保険」の受取人に指定しておく手段があります。
このケースに該当する死亡保険金を相続人が受け取った場合、原則として受取人固有の財産とみなされ、遺産分割の対象外となります。
これにより、他の相続人との協議が終わるのを待たずに、子へ直にまとまった資金を渡すことができます。
ただし、死亡保険金の額が他の相続人の遺留分を侵害するほどの高額である場合など、相続トラブルの原因となるケースもあるため、注意が必要です。
婚外子の相続に関する、よくある質問
最後に、婚外子の相続に関してよくいただくご質問とその回答をまとめました。
認知されていれば、父親の戸籍に入らなくても相続できますか?
はい、相続できます。
相続権の有無は、父親の戸籍に入っているかどうかではなく、父親に認知され、法律上の親子関係が成立しているかによって決まります。認知されていれば、ご自身(通常は母親)の戸籍にその事実が記載され、それをもって相続権を証明できます。
婚外子と養子縁組はできますか?
はい、できます。ただし、相続が目的であれば必須ではありません。
父親が自身の婚外子と養子縁組をすることは可能です。養子縁組をすると、その婚外子は法律上「嫡出子」としての身分を取得します。
ただし、相続権に関して言えば、父親が認知していれば嫡出子と全く同じ法定相続分が認められます。そのため、相続のみを目的とするのであれば、養子縁組の手続きは必須ではありません。
認知されたら父親の姓を名乗れるってほんとですか?
認知されただけでは、自動的に父親の姓(氏)に変わることはありません。
父親の姓に変更したい場合は、別途、家庭裁判所に「子の氏の変更許可」の申立てを行い、許可を得る必要があります。
婚外子の相続に関する悩みは相続の専門家にご相談ください
この記事では、婚外子の相続について、その法定相続人が嫡出子と同等であること、権利を確保するための「認知」の重要性、そして具体的な相続トラブルの解決策までを網羅的に解説しました。
法律で権利が保障されているとはいえ、婚外子の相続は、他の相続人との感情的な対立も絡む、非常にデリケートで複雑な問題です。
もしあなたが少しでも不安を感じていたり、他の相続人との間でトラブルの兆候が見られたりした場合は、相続専門の弁護士などへのご相談がおすすめです。
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