どうしても納得がいかない遺言の無効を主張するためにできることはないのでしょうか。
本来遺言は、亡くなった方の意思を尊重する形で、有効な遺言であればそのとおりに遺産分割をしなければなりません。
ただし、その遺言が法的に正しい形式で作成されたものでない場合には、その効力は全く無くなります。
この記事では、遺言の無効になる具体的なケースと、無効にするための方法について、具体例を交えながら詳しく解説していきます。
目次
遺言が無効になるケースってどんなとき?
遺言書には、自筆証書遺言書、秘密証書遺言書、公正証書遺言書の3つの種類があり(特別方式の遺言を含めると4つ)、それぞれの方法に従って作成すれば遺言は有効に残すことができます。
しかし、一見有効な形であったとしても、内容的な不備や修正加筆の方法のミスで遺言が無効となってしまう場合は少なくありません。
以下、遺言が無効となってしまう代表的なケースを5つ、具体的に解説させていただきます。
加筆や修正方法の間違い
遺言の加筆や修正は法律上の要件を満たしていない場合には無効となってしまう可能性があります。
不安のある方は公正証書遺言の形で遺言を残すか、いったん作成した自筆証書遺言は破棄して新しく書き直すことをおすすめします。
また、公正証書遺言の形で残した遺言の修正や加筆をしたい場合には、原則として一から作成をやり直すことになります。
公正証書や補充証書といった形で修正加筆を行うことも考えられますが、基本的には作り直しが望ましいでしょう。
なお、作成要件を満たす有効な複数の遺言が残されている場合には、遺言の作成日付が新しいものが優先されます。
内容が不明確な遺言
遺言の内容は当事者が後からみて判断ができる必要があるだけでなく、金融機関や役所の手続きでも使用する必要があるので、内容は正確に記さなくてはなりません。
財産目録に記す銀行預金などは支店や口座種類、口座番号まで記し、不動産については登記簿謄本を参照しながら正確な情報を記載するようにしましょう。
不動産については遺産相続が行われた後、前の所有者から相続人への名義変更(相続登記)を行う必要があります。
その際、法務局で「遺言に基づく移転登記」であることを認めてもらうためには、遺言の内容が登記簿謄本の内容と一致していなくてはなりません。
利害関係者が書かせたと思われる内容
遺言は、遺言者が自分の判断のもとに自書しなくてはなりません。
利害関係のある相続人の一部などが手を添えて書かせたなどの疑いが生じた場合には、その遺言は無効となってしまう可能性があります。
このような場合、筆跡鑑定などを通して厳密に調査が行われることもありますから、トラブルとならないためにも遺言者が自分で自筆することが必要です。
もし自筆するのが難しい場合には、公正証書遺言の形式を選択するようにしましょう。
公正証書遺言では公証人があなたの遺言内容を聞き取り、文書作成については代行してくれます。
遺言能力が認められないケース
遺言は、15歳以上の人であれば単独で行うことが可能になります。
ただし、精神上の障害や認知症などによって正常な判断能力がない状態で作成された遺言と判断された場合には、その遺言は無効となってしまう可能性があります。
例えば、遺言を作成した時に認知症の症状があったかどうかが争われるケースでは医師の診断書やカルテなどをもとに裁判所が判断するといったようなことが行われます。
また、認知症などを原因に家庭裁判所の審判によって成年被後見人とされた人であっても、遺言そのものは有効に行うことが可能です。
ただし、成年被後見人が遺言をするためには、医師2名以上の立会いと事理弁識能力の保証のもと行う必要があります。
被保佐人や被補助人の審判を受けた人は、こうした制約を受けることなく遺言を残すことが可能です。
複数人が共同で遺言している場合
法律上、遺言は単独の意思表示として行わなければならないとされています。
理由としては、共同で遺言をした複数人のうち、相続の発生が前後した場合に、まだ生きている人の相続の権利がどうなるのかといった問題が生じることが挙げられます。
「両親から息子へ」といったように、複数人が共同で遺言を残してもそれは無効となってしまいますから注意が必要です。
遺言書が無効とされた実際の判例
まずは、遺言書が無効となってしまう具体的なケースについて、実際の判例をもとに見ていきましょう。
実際に多いのは形式を満たさない形の自筆証書遺言のケースですが、公正証書遺言についても遺言が無効となった判例があります。
自筆証書遺言が無効とされた判例
以下で紹介する事例は、高松高等裁判所の平成25年7月16日付の判例で、自筆証書遺言の有効性が問題となった裁判の判決です。
自筆証書遺言は遺言者本人が手書きする必要がありますが、遺言者が過去に脳梗塞を患っており、自筆できる状態であったかどうかが問題となりました。
事実の概要
遺言者は昭和43年に脳梗塞を発症し、17年後の昭和60年に80歳で死亡しました。
残されていた遺言の日付は昭和53年であり、遺族の証言によると遺言者は脳梗塞発症後右半身まひの状態で、文字を書くことが難しい状態であることから「自分で書いたものではないのでは」という疑問が持たれていたという事案です。
判決内容
結論的には、一審判決では遺言は有効、二審判決では遺言は無効とされ確定しています。
一審判決で遺言が有効とされた理由としては、遺言書に押印されていた印鑑が遺言者本人のものであることや、筆跡鑑定の結果、遺言書が偽造であることが明確に証明できなかったことが挙げられます。
一方、二審判決では遺言書は遺言者が自筆したものではないとして遺言書の内容を無効としています。
その理由としては、遺言書が作成された当時に遺言者本人が親族にあてて書いていた年賀状の筆跡と比較し、親族の名前をひらがなで書いていたのに遺言書では漢字で書いているなどの事実から、遺言書は遺言者の妻が書いた疑いがあるとしています。
また、遺言者本人が、右半身がまひしていることを年賀状で記載していることなどからみて、同時期に作成された遺言書の内容は遺言者本人が書いたものと認めることはできないと判断しています。
このように、遺言の無効確認は難しいものではありますが、自筆証書遺言が本人が自筆したものであるかどうかが争われる場合には、筆跡鑑定その他の方法で厳密に証拠調べが行われることになります。
公正証書遺言が無効とされた判例
公正証書遺言は、公証人という法律の専門家にアドバイスを受けながら遺言書を作成する方法ですから、遺言が無効となってしまうケースは通常考えられません。
しかし、過去の判例では公正証書の形で作成されたのにもかかわらず、遺言書の有効性が問題となった判例があります。
以下では、公正証書遺言の有効性が問題となった、東京地方裁判所の平成28年3月4日付判決を紹介します。
事実の概要
遺言者(遺言作成時94歳)は、自分の孫に会社の経営を継がせたいと考えていたことが周囲の証言から確認されていたものの、遺言書の内容では他家に嫁いだ相続人にすべての遺産を相続させるとされていました。
遺言書は公正証書遺言の形で残されていたものの、遺言者が公証人と面談した当時において、正常な判断能力を有していたかどうかが問題となりました。
判決内容
結論は、遺言者は公正証書遺言を作成した時点では正常な判断能力を有していなかったとして、遺言は無効であると判断されています。
その理由としては、遺言者自身の要望についての周囲の証言(孫に会社を継がせたいと考えていたことや、一方でそれ以外の財産については相続人全体で平等に分配したいと漏らしていたなど)と、遺言者が遺言書を作成した12日後にせん妄状態に陥っていた事実などに照らし、遺言作成時において遺言者には遺言能力はなかったことを挙げています。
公正証書遺言は公証人が遺言書式を作成するものですから、遺言の形式については不備があることは通常考えられません。
しかし、公証人と面談した当時において遺言者に遺言能力がそもそもなかったと判断された場合には、公正証書遺言でも無効となってしまう可能性があるのです。
遺言をめぐって生じる可能性があるトラブルの内容
法律上の要件を満たすように注意し、厳重に保管していた遺言であっても、遺産協議の場でトラブルの原因となるケースは少なくありません。遺言の内容や扱いをめぐって生じる可能性があるトラブルの具体的な事例についても知っておきましょう。
いざ相続が発生した後になると、遺言は強力な効力を持つため、内容に不備があった時にその解釈をめぐって争いになることも少なくありません。
どのようなトラブルが生じる可能性があるのかを知り、遺言作成時にトラブルを未然に防ぐ手立てを考慮しておくことが大切です。
遺言書を遺族が勝手に開封してしまった
自筆証書遺言の場合、相続発生後も遺言は勝手に開封してはならず、必ず家庭裁判所による検認の手続きを経て開封しなくてはなりません。
もし家庭裁判所の検認を経ずに勝手に開封した場合には、5万円以下の過料が課せられる可能性がありますので注意してください。
なお、勝手に開封してしまった遺言についても遺言の効力そのものは有効ですが、内容に手が加えられていないか?
など、遺産分割協議の場でトラブルとなる可能性がありますので絶対に遺言は勝手に開封してはいけません。
公正証書遺言や秘密証書遺言の場合には、公証役場で原本が保管されていますから、開封時に家庭裁判所の検認は必要ありません。
遺言書が後になって出てきた
意外に多いのが、遺産分割協議が終わった後になって、遺言がひょっこり出てくるケースです。
この場合の解決方法としては2種類あり、1つは遺言の内容を実現するためにいったん遺産分割協議を白紙に戻すことです。
もう1つは、遺産分割協議に参加した相続人全員が共同で、遺言の内容は無視して完了した遺産分割協議の内容を維持することを決定することです。
ただし、遺言の中で、すでに行った遺産分割協議の相続人以外の利害関係人がいることが明らかになった場合(遺言で認知がされている場合や、法定相続人以外の人が相続人に指定されているような場合)には、その人たちの申し立てがあった場合には、遺産分割協議は無効となってしまいます。
このように遺言は絶対ではなく、遺産分割協議に参加した人の他、利害関係者となる人全員に声をかけ、善後策を検討することが後のトラブル回避につながります。
隠し子の発覚
生前には秘密にしていたけれど、遺言で隠し子(非嫡出子)の存在が告白され、認知もされている…というケースは少なくありません。
残された家族としては裏切られた気持ちになることもあるかもしれませんが、認知がされている以上、その非嫡出子には法律上嫡出子とまったく同じ相続の権利が認められます。
もし非嫡出子を排除して遺産分割協議を行ってしまうと、その非嫡出子には遺留分が当然認められますから、後から遺留分侵害額請求などの形で遺産の分割をやり直すことにもなりかねません。
遺言で隠し子の存在が発覚した場合には、冷静に遺産分割協議を進めていくことが必要です。
場合によっては弁護士などの第三者の専門家に間に入ってもらうことが遺産分割協議をスムーズに進めるために役立つこともありますから、検討してみるとよいかもしれません。
遺言に記載されている財産がない
遺言には記載されているものの、実際にはその財産がないという場合も問題になりがちです。
例えば、遺言に「○銀行の定期預金については長男に全額相続させる」というような記載があったけれど、実際に相続が発生した後に調査してみたら、その口座は解約されてお金は使い込まれていた…というケースが考えられます。
重要なのは、遺言に記載されている財産を誰が使ったのか?です。
もし遺言を残した遺言者(亡くなった人)がその財産を自分で使ったのだとしたら、遺言の内容はその部分について単に無効になるだけです(その部分について取り消したとみなされます:民法1023条第2項に規定があります)。
遺言者は遺言の内容に拘束されることはありませんから、遺言を作成した時点では存在した財産を、相続発生時までに使い切ってしまったとしてもそれは仕方のないことです。
相続人の一部が遺産に手を付けていた場合
一方で、相続人の一部が勝手に相続財産に手を付けていたような場合には問題となります。
この場合、実際にお金を使い込んだ相続人に対して、それ以外の相続人が不当利得の返還請求を行ったり、不法行為に基づく損害賠償請求を行ったりすることが考えられます。
厳密には、「亡くなった人が行使できるこれらの権利を、相続人となる人が相続した」という扱いになります。) 多くは裁判で争うことになりますから、このような事例に遭遇した場合には弁護士に相談するようにしましょう。
遺言無効確認の訴えとは
遺言の有効性が問題となるケースでは、最終的には「遺言無効確認の訴え」を裁判所に提起することが必要になります。
もちろん、裁判まで進まなくとも、遺産分割協議の場で相続人同士の話し合いで遺言の内容について合意ができるのであれば問題ありません。
遺産分割協議では解決できない場合にも、訴訟の前段階として裁判所に間に入ってもらう調停を利用するという方法もあります。
しかし、これらの事前の方法でも遺言の内容について相続人の間で合意を形成できない場合には、遺言無効確認訴訟を裁判所に対して提起し、裁判官の判決という形で決着する必要があります。
ちなみに遺言無効確認訴訟の費用は、遺産総額に応じた手数料がかかります。詳しくは下記サイトをご参照ください。
参考:裁判所|手数料額早見表
遺言無効確認訴訟の請求の趣旨として多いケース
「どのような内容をもとに裁判で争うか」のことを、法律上「請求の趣旨」と呼びます。
遺言の有効性が問題となる裁判における請求の趣旨として多いのは、以下のようなものです。
①遺言者の遺言能力の有無
法律上、遺言を残すためには「遺言能力」が必要です。
15歳以上の人であれば遺言は有効に残すことができますが、逆に言うと15歳未満の人の場合には遺言を残していても無効ということになります。
また、15歳以上の人が遺言を残す際には、遺言を作成した時点において正常な精神状態であったことが必要です。
病気やけがなどによって、正常な精神状態になかったことが証明された場合には、様式を備えた遺言であっても無効となる可能性があります。
この点、問題となるのは認知症などを原因として、家庭裁判所から成年被後見人の審判を受けている人の場合です。
成年被後見人も遺言を残すことが可能ですが、その際には医師の立ち合いのもとに行うことが必要とされています。
②公正証書遺言の証人の要件が満たされているか
公正証書遺言を残すためには、2人以上の証人の立ち合いが必要となります。
この証人となるためには、未成年でないことや相続人と利害関係がある人(さらにその人の親族等)ではあってはなりません。
証人の適格を欠く人が公正証書遺言作成時の証人となっている場合には、その遺言は無効とされる可能性があります。
③自筆証書遺言について、必要な様式が満たされているか
自筆証書遺言は、法律上作成のルールが厳格に定められています。
遺言者本人による手書きである必要があるほか、加筆や訂正についてもルールが決まっています。
また、遺言の日付や、財産目録に記載されている遺産の内容が正確でない場合には、遺言の一部や全部が無効となってしまう可能性があります。
④遺言の撤回
遺言者が複数の遺言を残している場合には、日付の古い遺言は撤回したものとみなされます。
複数の遺言がなくとも、いったん作成した遺言について、遺言者が撤回の意思表示をしたときには、すでに作成した遺言は無効となります。
ただし、遺言を撤回する意思表示をした後、さらにその撤回の意思表示を撤回した場合(つまり「撤回の撤回」です)には、具体的な状況に応じて裁判所の判断は分かれる可能性があります。
⑤第三者による遺言の強制の有無
遺言者に対して、遺言者以外の人により詐欺や脅迫が行われた場合には、当該遺言は無効となる可能性があります。
⑥遺言者による遺言内容の錯誤
遺言者が遺言の重要な内容について事実誤認をしていたことが明らかな場合には、この遺言は無効となる可能性があります。
⑦公序良俗に反する内容の遺言
社会通念上認められないような遺言の内容は、公序良俗に反するために無効とされる可能性があります。
問題となるケースとしては「愛人に全財産を相続させる」といった内容の遺言です。
こうした遺言内容は具体的な状況に即して無効とされる可能性があります。
調停前置主義
相続や離婚といった家族に関する問題は、本格的な裁判を行う前に、裁判所が間に入る形で当事者間の話し合いをすすめる「調停前置主義」というルールがあります。
遺言無効訴訟についてもこの調停前置主義が適用されるため、当事者間がいきなり訴訟に訴えようとしている場合には、裁判所は職権で事件を調停に回すことができます。
ただし、実際には遺言無効訴訟などの場合には調停を経ずにいきなり訴訟手続きに入るケースも少なくありません。
遺言無効確認訴訟で勝つには
遺言無効訴訟に勝つためには、自分に有利な事実を裁判所に提出する証拠として集められるかがポイントになります。
遺言無効訴訟において裁判所に提出する証拠には形式上の制限はありません。
例えば、上記の裁判例でも見たように、遺言者が遺言作成時の前後において親族に出した年賀状などが決定的な証拠になることもあります。
どのような事実や物件が証拠となるか?については法律的な実務知識が重要になりますから、遺言無効訴訟を提起することを検討している方は、相続問題にくわしい弁護士に相談するようにしましょう。
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