この記事でわかること
- 相続した農地の売却でかかる税金がわかる
- 相続した農地を売却するときの譲渡所得税計算方法がわかる
- 農地と住宅地の売却で異なる点がわかる
親の死亡によって農地を相続したものの、「農業をするつもりがない」、または「農地が遠いため農業は無理」というケースは少なくありません。
しかし耕作放棄すると近隣農家の迷惑になり、「せめて草刈りだけでも」と思っても管理の継続は現実的にはかなり難しいでしょう。
そこで考えられるのが農地売却ですが、不動産を売却して利益が出ると、その利益に対して譲渡所得税がかかります。
原則として一括納付なので、農地を売却するときは、譲渡所得税の税額も把握しておくことをおすすめします。
今回は農地の売却にかかる税金をわかりやすく解説します。
農地を相続した方や、今後農地を相続する予定の方はぜひ参考にしてください。
目次
相続した農地の売却でかかる税金
相続した農地を売却したときにかかる税金は、譲渡所得税・登録免許税・印紙税の3つです。
登録免許税と印紙税は必ず発生します。
しかし、譲渡所得税は譲渡益(農地を売った儲け)に対して課税されるため、譲渡益があったかどうかの判定が重要となります。
次に各税金について詳しく解説していきます。
譲渡所得税は高額になるケースもあるので、相続した農地を売却する方は計算方法を理解しておきましょう。
譲渡所得税
譲渡所得税とは、所得税・住民税・復興特別所得税の総称です。
土地や建物の売却で発生した譲渡益(利益)にかかる税金であり、農地の所有期間が5年以内か、5年以上かによって、税率は2倍近く変わります。
税率や計算方法は後述しますが、まず所有期間の考え方を理解しておいてください。
譲渡所得税を計算するときの所有期間は、取得日から売却した年の1月1日までをカウントします。
つまり、2015年4月に取得した農地を2020年5月に売却した場合、所有期間は4年9ヶ月というカウントになります。
5年1ヶ月とカウントしないように注意してください。
登録免許税
登録免許税は所有権が移転するときにかかる税金のことです。
相続した時点でも発生しますが、売却によって所有者が変わるときにも課税されます。
農地売買の登録免許税は「固定資産税評価額×税率」で計算し、税率は1,000分の20(2021年4月1日以降)を適用します。
したがって、固定資産税評価額1,000万円の農地であれば、登録免許税は以下のようになります。
なお、売主と買主には連帯納付義務がありますが、買主が登録免許税を負担することが一般的です
印紙税
印紙税は「課税文書」と呼ばれる文書類にかかる税金です。
農地売却では売買契約書などに課税されますが、契約金額1万円未満~50億円超まで段階的に税率が設定されており、5,000万円以下までは以下のようになっています。
1万円未満 | 非課税 |
---|---|
10万円以下 | 200円 |
10万円超~50万円以下 | 400円 |
50万円超~100万円以下 | 1,000円 |
100万円超~500万円以下 | 2,000円 |
500万円超~1,000万円以下 | 1万円 |
1,000万円超~5,000万円以下 | 2万円 |
課税文書の種類と印紙税額は国税庁ホームページに掲載されているので、以下のリンク先も参考にしてください。
相続した農地を売却するときの譲渡所得税計算方法
農地の譲渡所得税は、以下の計算式と税率を使って求めます。
- 譲渡所得税の計算式:{譲渡価格-(取得費+譲渡費用)}×税率
- 所有期間5年以内の税率:39.63%(所得税30%、住民税9%、復興特別所得税0.63%)
- 所有期間5年超の税率:20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)
取得費とは購入代金のことであり、譲渡費用には仲介手数料や測量費などが含まれます。
では次に、わかりやすい例を使いながら譲渡所得税を計算してみます。
譲渡所得税の計算例
譲渡所得税の税額には農地の所有期間が影響するので、以下の条件をもとに、所有期間5年以内と5年超の税額を計算して比較してみます。
条件
- 譲渡価格:2,000万円
- 取得費:500万円
- 譲渡費用:100万円
計算例
- 所有期間5年超の譲渡所得税
{2,000万円-(500万円+100万円)}×20.315%=約284万円 - 所有期間5年以内の譲渡所得税
{2,000万円-(500万円+100万円)}×39.63%=約555万円
両者の差額は約271万円(284万-555万円)なので、5年以上所有して売却する方が、5年以内に比べて税金は低くなります。
なお、所有期間は先代(親や祖父母)の取得時期からカウントが始まるので、農地売却の多くは税率20.315%が適用されるでしょう。
農地の取得費がわからないときの計算例
国税庁のタックスアンサーでは、「取得費がわからないときは譲渡価格の5%を取得費とする」と解説されています。
ただし、取得費がわかっているケースよりも、譲渡所得税が高くなる可能性があります。
条件
- 譲渡価格:2,000万円
- 取得費:2,000万円×5%=100万円
- 譲渡費用:100万円
計算例
- 取得費が不明なときの譲渡所得税
{2,000万円-(100万円+100万円)}×20.315%=約365万円
もし親や祖父母が500万円で購入した農地だとしたら、譲渡所得税は以下のようになります。
計算例
- 500万円で購入した農地の譲渡所得税
{2,000万円-(500万円+100万円)}×20.315%=約284万円
取得費がわからなければ「譲渡価格の5%」で計算するしかありません。
しかし、本来納めるべき税額以上になるかもしれません。
農地と住宅地の土地の売却で異なる点
農地は「農地法」の制限を受けるため、一般的な宅地とはかなり性質が異なります。
売却したときには農地だけに使える特別控除があります。
相続税評価額の算定にも独自の計算方法があるので、宅地との違いを理解しておきましょう。
農地を売るときは農業委員会の許可が必要
農地は国策として保護されているため、農業委員会の許可がなければ売却できません。
農地のままであっても、宅地へ転用する場合でも、いずれにしても売却するときも農業委員会の許可が必要です。
無許可で売却した場合は、売却そのものが無効になる可能性が高いので注意してください。
農地用の相続税評価方法がある
農地も預貯金や現金と同じく相続財産になりますが、市街地と市街地以外にある農地では相続税計算の評価方法が変わります。
市街地の農地 | 宅地比準方式 |
---|---|
準農地や中間農地 | 倍率方式 |
市街地周辺農地 | 宅地比準方式または倍率方式 |
倍率方式は宅地の評価にも使われますが、宅地比準方式は農地専用の相続税評価方法です。
では、それぞれの考え方や計算方法をみていきましょう。
宅地比準方式
宅地比準方式は農地を宅地とみなした評価額から、宅地へ転用するときの造成費などを差し引いて相続税評価額を計算する方式のことです。
宅地比準方式の相続税評価額
(宅地とみなした1㎡あたりの評価額-1㎡あたりの造成費等)×面積㎡
宅地とみなしたときの評価額は、路線価地域であれば路線価、倍率地域であれば倍率表を使いますが、どちらも国税庁のホームページに掲載されています。
1㎡あたりの造成費等も国税庁のホームページからわかるので、以下のリンクを参照してください。
都道府県名をクリックすると、路線価図・評価倍率表・その他土地関係(宅地造成費の金額表)の項目が表示されます。
倍率方式
倍率方式は、農地の固定資産税評価額をもとに相続税評価額を計算する方法です。
国税庁ホームページの評価倍率表を参照し、固定資産税評価額に倍率を乗じる方式ですが、計算方法は以下のようになります。
倍率方式の相続税評価額
農地の固定資産税評価額×倍率
なお、倍率表に「路線」や「市比準」などの表示があれば、宅地比準方式で相続税評価額を計算することになります。
農地売却に使える特別控除がある
農地売却したときの譲渡所得には以下の特別控除もあります。
800万円の特別控除 | 農地保有合理化などのために譲渡した場合 |
---|---|
1,500万円の特別控除 | 買入協議により農地中間管理機構に譲渡した場合 |
2,000万円の特別控除 | 農業経営基盤強化促進法の農用地利用規程に基づき農地中間管理機構に譲渡した場合 |
いずれも細かな適用要件があり、控除を受けるための必要書類も多いため、農業委員会に詳細を問い合わせてみるとよいでしょう。
また、土地収用法に基づく農地の買取り(公共事業を目的とした買取り)であれば、5,000万円の特別控除を受けることもできます。
ただし、農地売却した年の翌年2月16日~3月15日の間に必ず確定申告を済ませてください。
まとめ
相続した農地を売却するときは、買い手探しと農業委員会の許可がハードルになります。
しかし、耕作放棄しても維持管理費や固定資産税はかかるので、時間をかけてでも買い手を探した方がよいでしょう。
また、農業委員会の立場としても耕作放棄地の拡大は防ぎたいため、相談すれば買い手を見つけてくれるケースもあります。
ただし、譲渡所得税が発生すると確定申告が必要になりますし、特別控除によって非課税になったときも申告しなければなりません。
申告書の作成や必要書類の準備には手間と時間がかかるので、忙しい方や作成に自信のない方は、税理士に相談してみるとよいでしょう。
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