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最終更新日:2024/6/10

家族信託契約書は公正証書で作るべき?メリット・デメリットと公証役場での手続きや費用も解説

本間 剛 (行政書士)
この記事の執筆者 行政書士 本間剛

ベンチャーサポート行政書士法人 代表行政書士。山形県出身。

はじめて相続を経験する方にとって、相続手続きはとても難しく煩雑です。多くの書類を作成し、色々な役所や金融機関などを回らなければなりません。専門家としてご家族皆様の負担と不安をなくし、幸せで安心した相続になるお手伝いを致します。

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家族信託契約書は公正証書で作るべき?メリット・デメリットと公証役場での手続きや費用も解説

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この記事でわかること

  • 家族信託を公証役場で公正証書にしたほうがいい理由
  • 公正証書で作成するメリット・デメリット
  • 信託契約書を公正証書にしない場合のリスク
  • 公正証書を作成するためにかかる費用
財産管理に家族信託を活用するときは、委託者や受託者、信託財産などを決めて信託契約書を作成します。

自分で作成した家族信託契約書は私文書の扱いになりますが、公正証書にすると公文書になるため、契約書の信用力も高くなります。
外出が難しい方は公証人に出張してもらえるので、自宅でも公正証書化の手続きを進められるでしょう。

ただし、公正証書の作成にはメリット・デメリットがあるので、十分な比較検討が必要です。
今回は、家族信託契約書を公正証書にするメリットやデメリット、家族信託スタートまでの流れをわかりやすく解説します。

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家族信託契約書の公正証書化が必要な理由・メリット

公正証書は、公証人がその権限において作成する公文書のことです。

公正証書となった各種契約書は法的紛争解決における強力な証拠となります。公証人は、国の公務である公証事務を担います。

このような公正事務の目的は、私的な法律紛争を未然に防ぎ,私的法律関係の明確化、安定化を図ることにあります。

引用:日本公証人連合会|公証事務とは

引用:日本公証人連合会|公証人とは

家族間での紛争の防止になる

家族信託契約書を公正証書にすると、家族間の紛争を防止できます。私文書の家族信託契約書は以下のような誤解を招きやすく、訴訟に発展するリスクがあるので要注意です。

  • 受託者が利益を得ていると勘違いされる
  • 契約時に委託者の判断能力があったかどうか疑われる

公正証書にする場合は当事者の意思表示を公証人が確認しているため、訴訟になっても契約の有効性を証明できます。
公正証書化により、受益者に利益が発生していることも明確になるでしょう。

本人の意思による契約であることの証拠になる

家族信託契約書を公正証書にしておくと、契約内容が本人の意思に基づいていることの証拠になります。

私文書の家族信託契約書には第三者が関わっていないため、受託者の意思だけで強制的に作成されたのではないか?と疑われる可能性があるでしょう。

一方、家族信託契約書を公正証書にする場合、当事者の意思に基づく契約書であることを公証人が確認します。

公正証書化する際には当事者が身分証明書を提出したりして本人確認を行い、公証人が契約内容に間違いがないか確認した後に署名・押印するため、信託契約が当事者の意思に基づいて締結されたことが担保されるのです。

強制・脅迫によって作成された家族信託契約書ではないことを証明したいときは、公正証書にしておくべきでしょう。

契約書を紛失しても公証役場で再発行できる

家族信託契約書を公正証書にすると、公証役場に公文書として保管されるため、再発行が可能です。

公証役場とは、市区町村役場とは異なる機能があり、公正証書の作成や会社定款の認証などを主な業務としています。公正証書を作成した場合、当事者には正本と謄本(写し)のみ手渡されますが、紛失や盗難、火災による焼失があったとしても、公証役場に原本が残ります。

家族信託の契約者本人や代理人が公証役場で手続きすると、公正証書の正本・謄本は何度でも再発行してもらえるので、紛失などのリスクに備えられるでしょう。

また、公証役場に原本があるため、家族信託契約書の正本や謄本を改ざんされても、本来の契約内容を証明できます。

参考:公証役場一覧(全国公証人連合会)

信託口口座を開設できる

信託口口座とは、信託財産となる金銭を管理・運用する専用口座です。信託口口座の名義は「○○(委託者名)信託受託者○○(受託者名)」のようになるため、信託財産と受託者の個人財産を明確に分離できます。

また、信託口口座には倒産隔離機能があるので、受託者が強制執行されても差し押さえの対象にはなりません。受託者が委託者・受益者より先に亡くなった場合も、信託口口座は受託者の個人財産ではないため、口座凍結もなく資金をスムーズに引き出せます。

なお、信託口口座の開設時には家族信託契約書を提出しますが、ほとんどの金融機関は公正証書しか受け付けていません。信託口口座は財産管理上のメリットが大きいので、家族信託契約書は公正証書にしておくべきでしょう。

家族信託契約書を公正証書にするデメリット

家族信託契約書を公正証書にするときは、以下のデメリットも考慮してください。家族信託を早くスタートさせたい人や、導入コストを少しでも抑えたい人は、私文書の契約書も検討しておくとよいでしょう。

契約完成まで手間・時間がかかる

家族信託契約書を公正証書にする場合、手間と時間がデメリットになるケースがあります。契約書の原案が1回で公正証書化されるケースは少ないため、公証人と何度か打ち合わせを行うことになり、契約書作成に2週間程度はかかることが一般的です。

また、公証人が多くの案件を抱えているときは、公正証書化に1カ月以上かかる場合もあるでしょう。公証人とやりとりする手間や、公証役場に出向く時間を省きたい人は、私文書の家族信託契約書を検討してください。

作成費用がかかる

家族信託契約書の公正証書化には費用がかかるため、初期費用を抑えたい人にはデメリットといえます。

たとえば、信託財産の評価額が5,000万円程度であれば、公正証書の作成に3~5万円程度かかります。
家族信託では高額な収益物件を信託するケースが多いため、公正証書の作成費用が10万円近くになる場合もあるでしょう。少しでも出費を抑えたいときは、自分で家族信託契約書を作成した方がよいケースもあります。

家族信託の手続きの流れ

家族信託の手続きの流れ

家族信託の内容、公正証書の重要性、必要性についてご理解いただけたでしょうか。
次に、家族信託の手続きの流れを順番に説明します。

  1. 家族間での協議
  2. 信託契約書案の作成
  3. 公証役場での手続き
  4. 信託財産の手続き(不動産の信託登記・信託口口座の開設)
  5. 受託者による管理

家族間での協議

家族間での協議が必要な項目には、以下のようなものがあります。

  • 目的:なぜ財産管理を家族に任せるのか
  • 財産の内容:何を信託の対象とするのか
  • 契約の内容:どのように管理・処分、その他の行為をするのか

家族信託の特性上、長期間にわたって続く契約となるため、この時点で専門家への相談も視野に入れるとよいかもしれません。保有している資産が高額または多種である場合などは、トラブルを未然に防ぐ観点からも、専門家から適切な提案を受けましょう。

また、保有資産の評価や家族への説明などのために、時間を要する場合もあります。
家族信託は、委託者自身で契約ができる状態にあるうちでなければならないため、計画性をもって進めましょう

信託契約書案の作成

家族内での協議がまとまった、または専門家に相談後提案を受け合意となった場合、信託契約書案の作成に取りかかります。契約書として形式を整えることで、その後の公証役場での手続きがスムーズに進むでしょう

公証役場での手続き

公正証書にする信託契約書案と当事者本人の身分証明をする資料を準備し、委託者・受託者両者が公証役場に出向きます
公証役場では、本人の身分確認後、当事者本人から公正証書作成に必要な内容の聴取が行われ、公証人により公正証書が作成され、署名捺印などの手続きを行います。

信託財産の手続き

信託財産を受託者に託す手続きをします。 たとえば、

  • 不動産については、信託登記手続き
  • 預貯金については、専用の信託口座を開設し、その信託口座への入金など

という手続きです。

信託登記

土地や建物などの不動産を家族信託する場合、不動産登記の手続きが必要となります。受託者に管理権限が付与されるよう、名義を受託者のものとするためです。

そこで、既に委託者名義で登記されている不動産の名義を受託者に変更する登記を行います。
この際に注意すべきは、所有権移転の登記原因として、信託であることを明示することです。

これと合わせて、信託目録を作成し、委託者と受託者を明記します。
信託登記には、登録免許税がかかるため、固定資産税評価額の0.4%(土地は0.3%)の額の税金を納めることになります。

信託口口座開設

原則として、銀行口座は口座名義人以外は、入出金や振り込みなどの手続きを行うことはできません。
この原則は、家族信託の場合にも適用されます。 そのため、預貯金を信託財産とする場合には、受託者の肩書付きの信託口口座を開設するとよいでしょう。 信託口口座とは、信託した預貯金を管理する口座のことです。
受託者自身の預貯金とも完全に区別された、信託財産を管理するための口座となります。

しかし、信託口口座を取り扱っていない金融機関もあるため、口座開設の際には確認が必要です。
信託口口座を取り扱っていない場合は、受託者が受託者個人名義で新規口座を開設し、信託財産専用として使う方法もあります。

この場合には、信託契約書の中に口座番号を明記するなどして、信託財産管理用の口座であることを特定しておきます。

受託者による管理

家族信託用の専用口座を開設すると、受託者による信託財産の管理ができるようになります。受託者は、信託の目的に沿って、受益者のために信託財産の管理・処分をしましょう。

受託者の権限は幅広く、信託財産の現状を維持するための保管・保存行為、収益を図るための利用・運用行為など、契約内容に従って、基本的には自由に行うことができます。
管理・処分は基本的に自由にできますが、受益者のため善良・適切に信託財産を管理する義務があるため節度をもって行いましょう

公証人に出張してもらうと公証役場に本人が行かなくてすむ

上記でも述べたように、原則として委託者、受託者ともに公証役場に出向く必要があります。

ただし、公証役場は土日祝日、年末年始の業務は行っていないため、平日に時間を確保しにくい人や、病気や怪我で療養中の人は、公正証書の作成が難しいでしょう。そのような場合は、公証人に自宅、入院先、入所中の施設などに出張してもらうことができます。

公証人に出張してもらう時の注意点

公証役場に出向けない場合に、公証人に出張してもらうことができるのは、大変便利な制度です。

しかし、下記のように公証人に出張してもらう際に気をつけておきたいことがいくつかあります。

  • 事前に相談内容や書類を整理しておく
  • 管轄の公証役場の公証人に限られる
  • 出張費用がかかる

1つずつみていきましょう。

事前に相談内容や書類を整理しておく

公証役場への事前相談の前に、公正証書にする内容をしっかり当事者同士で協議をすることが大切です。
契約書の形にしたり、必要書類を準備するなど、事前に相談の内容を整理をしておきましょう。 この事前準備の際には、信託財産となる目的価額も把握しておくべきです。そうでなければ、公正証書作成、出張にかかる費用の算出ができません。

このような事前準備をしっかりしておけば、その後、公証人に出張してもらう際の手続きが円滑に進みます。

管轄の公証役場の公証人に限られる

公証人は、どこからでも自由に出張してもらえるわけではなく、出張可能な範囲が決められています。
公証人には業務管轄が決められており、その管轄内の公証役場の公証人に依頼をする必要があるからです。 たとえば、東京都の場合は、出張可能範囲が東京都内に限られています。

費用がかかる

出張費として、通常の公証人手数料が割り増しとなります。それに加えて、交通費も実費で加算されます。

なるべく費用を抑えるために、管轄内のなるべく距離の近い公証役場に依頼をした方がよいでしょう。 たとえば、お住まいの住所と同じ区内の公証役場に依頼をするなどです。

上記のような点に注意を払えば、健康上の理由で移動が難しい人にとっても活用しやすい便利な制度です。

家族信託契約書を公正証書で作成する費用

公正証書を作成するためには、下記のような費用がかかります。

  • 公証役場での公正証書の作成費用
  • 専門家に手続きを依頼するときの代行費用
  • 公証人に出張してもらうときにかかる費用

自分で公証役場に出向いて手続きをする場合に発生するのは、公正証書の作成費用のみです。

公証役場での公正証書の作成費用

公正証書を作成する場合の手数料は、政令(公証人手数料令)で定められ、原則として、目的の価額により作成手数料が決められています(公証人手数料令第9条別表)。

なお、公証人に出張してもらう場合は、以下の表の手数料のおよそ1.5倍の金額が必要です。

法律行為に係る証書作成の手数料

目的の価額 手数料
100万円以下 5,000円
100万円超え200万円以下 7,000円
200万円超え500万円以下 11,000円
500万円超え1,000万円以下 17,000円
1,000万円超え3,000万円以下 23,000円
3,000万円超え5,000万円以下 29,000円
5,000万円超え1億円以下 43,000円
1億円超え3億円以下 43,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を追加した額
3億円超え10億円以下 95,000円に超過額5,000万円までごとに11,000円を追加した額
10億円超える場合 249,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を追加した額

専門家に手続きを依頼するときの代行費用

専門家に家族信託の導入手続きを依頼すると、一般的には50万~100万円程度の代行費用がかかります。

賃貸アパートなどの収益物件を信託する場合、公正証書の作成費用も含めると、以下のような内訳になるでしょう。

  • 相談料やコンサルティング費用:30万~80万円程度
  • 公正証書の作成費用:10万~15万円程度
  • 公証人の手数料:3万~10万円程度
  • 不動産の登録免許税:固定資産税評価額の0.3%または0.4%

不動産を信託すると登録免許税がかかるため、土地の場合は固定資産税評価額の0.3%、建物は固定資産税評価額の0.4%が課税されます。

信託登記も専門家に依頼すると、別途10万~15万円程度の費用がかかるでしょう

公証人に出張してもらうときにかかる費用

公証人に出張してもらう場合、公正証書の作成に10万~15万円程度かかります。
あくまでも一般的な相場ですが、費用の内訳は以下のようになるでしょう。

  • 交通費:実費
  • 公証人の日当:2万円程度
  • 公正証書の作成手数料:7万5,000~15万円程度

出張の場合は公証人の日当が発生するため、4時間以内であれば1万円、4時間を超えると2万円程度の費用がかかります。信託財産が5,000万~1億円程度であれば、公正証書の作成手数料は最大10万円程度になります。

信託プランの設計や家族信託契約書作成に困ったら専門家に相談しよう

家族信託契約書を公正証書にすると、当事者の意思であることが明確になり、法的紛争解決における強力な証拠となります。

公正証書化によって当事者の立場が明確になれば、「受託者が財産を独り占めしている」などと誤解される恐れもないため、家族間の紛争も防止できるでしょう。公証人は出張対応もしてくれるため、外出が難しい人でも公正証書を作成できます。

ただし、家族信託契約書の原案はあくまでも自分で作成しなければなりません。公証人の役割は原案の公正証書化になり、「誰を受託者にしたらよいか」などの相談はできないので注意しましょう。

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