この記事でわかること
- 相続税の取得費加算の特例の概要
- 取得費加算の特例の適用要件
- 取得費加算の特例を用いた際の計算方法・節税効果
- 取得費加算の特例を用いた際の申告方法・必要書類
- 取得費加算の特例を使用する際の注意点
- 取得費加算の特例と併用できる特例
相続した不動産を売却する場合、相続税の支払いに加えて所得税もかかるため税負担が重くなります。
また、高額な不動産は譲渡所得税も高くなります。相続した土地・建物を売却するときは、「相続税の取得費加算の特例」を活用して少しでも納税負担を減らしましょう。
相続税の取得費加算の特例を適用して不動産売却をすると、相続税の一部を取得費に加算できるため、譲渡所得税を低く抑えられます。
この記事では、「相続税の取得費加算の特例」の適用要件や税額の計算方法、併用できる特例などをわかりやすく解説します。
目次
相続税の取得費加算の特例とは
相続税の取得費加算の特例とは、相続した不動産や株式などを相続開始から3年10カ月以内に売却する場合、相続税の一部を取得費に加算できる制度です。不動産を売却した場合、売却価格から取得費などを差し引いた残りの部分(売却益)に譲渡所得税が課税されるため、取得費が大きくなるほど税負担は軽くなります。
たとえば、取得費5,000万円の土地を相続して7,000万円で売却した場合、差額の2,000万円に譲渡所得税がかかります。このとき、たとえば相続税100万円を取得費として加算できれば、課税対象額は100万円減少するため、譲渡所得税も減ります。
なお、2014年度の税制改正で、相続税の取得費加算の特例のしくみが見直されました。詳しく解説していきます。
相続税の取得費加算の特例は2015年1月に改正あり
相続税の取得費加算の特例は、2014年度税制改正で制度の見直しがありました。2015年1月1日以降は、売却した土地にかかる相続税のみ取得費に加算することが可能です。
改正前の制度では、土地A・B・Cを相続し、土地Aの売却のみでも、土地A・B・Cすべてにかかった相続税を土地Aの取得費として加算できました。
しかし、改正後は土地Aにかかった相続税しか取得費加算の対象にならず、譲渡所得税の減額幅が実質縮小されています。
改正前の制度内容で取得費を計算すると、譲渡所得税の申告ミスに繋がるため注意しましょう。
取得費加算の特例の適用要件
不動産売却に取得費加算の特例を適用する場合、後述する適用要件をすべて満たしている必要があります。適用要件ごとに、くわしく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
相続や遺贈で取得した財産であること
相続税の取得費加算の特例については、相続または遺贈で取得した財産が対象です。
遺贈は遺言書による財産取得であるため、受遺者(遺言書で指定された人)となった法定相続人以外の人が不動産などを売却するときも、相続税の一部を取得費に加算できます。
財産の取得者が相続税を納めていること
不動産などの売却に相続税の取得費加算の特例を適用する場合、財産の取得者が相続税を納めている必要があります。
「相続税がかかる」と判明しているだけでは特例の要件を満たさないため、必ず期限内に相続税申告と納税を済ませなくてはなりません。
なお、相続税の申告期限は「相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」です。
相続開始から3年10カ月以内に売却していること
相続税の取得費加算の特例を適用する場合、対象となる財産を相続開始から3年10カ月以内に売却することが要件です。上場株式は比較的短期間で売却できますが、不動産は売買契約の成立までに3カ月~半年程度かかります。
不動産の立地条件によっては、売買契約の成立に1年以上かかる場合もあるため、売却活動は早めに始めておきましょう。
取得費加算の特例を用いた際の計算方法・節税効果
不動産売却に取得費加算の特例を適用する場合、仮に取得費6,000万円、売却価格1億円、譲渡費用350万円程度であれば、約63万円を節税できます。
上記の例は、相続した財産が長期所有の不動産のみで、相続人は1人と仮定しています。取得費加算の特例がなければ譲渡所得税・住民税の合計は約741万円、特例ありでは約678万円です。
では、具体的な計算方法をみていきましょう。
譲渡所得の計算
相続税の取得費加算の特例を使い、実際に譲渡所得税を計算してみます。なお、今回は以下の状況で相続が発生しているものと仮定します。
- 相続財産:不動産のみ(相続税評価額 6,000万円)
- 不動産の取得費:6,000万円
- 不動産の売却価格:1億円
- 不動産の所有期間:10年
- 相続人:1人
- 譲渡費用:350万円(仲介手数料など)
- 納付済みの相続税:310万円
まずは、取得費加算の特例を適用しない場合の譲渡所得の計算式を解説します。
譲渡所得(取得費加算の特例を使わない場合)
売却価格1億円-(取得費6,000万円+譲渡費用350万円)=3,650万円
取得費加算の特例を使わずに計算すると、3,650万円が譲渡所得税の課税対象になります。次に、取得費に加算できる相続税を計算について解説します。
取得費に加算する相続税の計算
取得費に相続税を加算する場合、計算式は以下のようになります。
取得費加算する相続税の計算式
相続税×不動産の課税価格÷(相続財産全体の課税価格+債務控除)
今回の計算例では相続税が310万円、不動産の課税価格(相続時の評価額)は6,000万円です。相続財産が不動産しかないため、相続財産全体の課税価格も6,000万円です。このとき、取得費加算できる相続税は以下の金額になります。
取得費加算できる相続税の額
310万円×6,000万円÷(6,000万円+0円)=310万円
次に、相続税の取得費加算の特例を適用して譲渡所得税を計算してみましょう。
取得費加算の特例を使ったときの譲渡所得税と住民税
相続した不動産売却額に取得費加算の特例を適用すると、譲渡所得は以下の金額になります。
譲渡所得
1億円-(6,000万円+310万円+350万円)=3,340万円
次に、前述の譲渡所得額へ税率を乗じて、譲渡所得税と住民税を計算しましょう。不動産の所有期間により税率は以下の2種類に分かれています。
- 短期譲渡所得の税率:39.63%(売却年の1月1日時点で所有期間が5年以下)
- 長期譲渡所得の税率:20.315%(売却年の1月1日時点で所有期間が5年超)
今回の事例では、相続した不動産の所有期間を10年と仮定しているため、税率20.315%を適用すると譲渡所得税と住民税は以下のようになります。
譲渡所得税
3,340万円×20.315%=678万5,000円(百円未満切り捨て)
なお、所有期間は被相続人(亡くなった人)や贈与者が該当する不動産を所有していた期間も含めます。
次に、取得費加算の特例を使わずに計算した譲渡所得税の金額と比較し、節税効果を確認してみましょう。
取得費加算の特例を使わないときの譲渡所得税と住民税
取得費加算の特例を使わずに不動産を売却した場合、譲渡所得や譲渡所得税と住民税は以下のようになります。
- 譲渡所得:売却価格1億円-(取得費6,000万円+譲渡費用350万円)=3,650万円
- 譲渡所得税と住民税:3,650万円×税率20.315%=741万4,975円
-
特例適用時の節税効果:741万4,975円-678万5,210円=62万9,000円
(百円未満切り捨て)
事例のケースで取得費加算の特例を適用した場合、約63万円の譲渡所得税を節税できるのが見て取れます。
取得費加算の特例を用いた際の申告方法・必要書類
不動産売却などに取得費加算の特例を適用する場合、税務署への申告方法や必要書類は後述の内容となります。
確定申告の手続き不備や書類の提出漏れがあり得るため、確定申告に不慣れな場合は、税理士に申告書作成を依頼するとよいでしょう。
相続財産を売却した翌年に確定申告する
相続税の取得費加算の特例を適用する場合、相続財産を売却した年の翌年2月16日~3月15日の間に税務署へ確定申告します。
たとえ、取得費加算の特例の適用によって譲渡所得税がかからなくても、申告は必要となるため注意しましょう。
また、申告期限を過ぎると追徴課税のペナルティがあります。申告書の作成に対応できないときは、早めに税理士へ相談しましょう。
確定申告の必要書類
取得費加算の特例を適用する場合は、確定申告時に以下の書類を提出します。
必要な書類
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書【土地・建物用】)
確定申告書の様式は税務署の窓口でもらえるほか、国税庁のホームページにも掲載されています。必要に応じて、最新の様式をダウンロードしてください。
なお、以前は相続税申告書の添付も必要でしたが、2018年度以降は不要となっています。
取得費加算の特例を使用する際の注意点
不動産売却時に取得費加算の特例を適用する場合、後述する注意点をよく理解しておく必要があります。複数の不動産を相続したときや、代償分割するときは特例による節税効果に影響が出ます。特に注意しておきましょう。
複数の不動産があるときは節税効果を比較検討する
相続した不動産が複数ある場合、売却する不動産ごとの売却益と取得費加算額の関係に応じて、取得費加算の特例の節税効果が変わります。以下の優先順位を参考にしてください。
- (1)売却益≧取得費加算額の場合:取得費加算の節税効果がもっとも高い
- (2)売却益<取得費加算額の場合:取得費加算の節税効果が低い
- (3)売却損が発生する場合:取得費加算の節税効果なし
売却損が発生すると譲渡所得税がかからないため、取得費加算の節税効果はありません。
とくに複数の不動産がある場合は、どの不動産を売却するか十分な検討が必要です。
遺産分割協議を3年10カ月以内にまとめる
相続では、相続開始日から相続税の申告期限までに不動産の相続人を決定し、相続税申告と納税を済ませておかなければなりません。
もし、相続税の申告期限までに遺産分割協議が成立しなかった場合、法定相続分どおりに遺産分割したとみなして税額の計算を行います。その上で未分割のまま申告と納税をします。
未分割状態で相続税申告と納税をしたら、3年以内に遺産分割協議を成立させる必要があります。申告済みの税額と遺産分割協議に基づいて計算した税額が異なる場合は、修正申告をするか更正の請求を行います。
更正の請求は、遺産を分割した事実を知った日の翌日から4カ月以内と期限が定められているため、注意が必要です。つまり、相続税の取得費加算の特例を適用する場合、遺産分割協議を3年10カ月以内にまとめる必要があります。
ただし、遺産分割協議が長期化すると3年10カ月を超え、取得費加算の特例を適用できなくなるかもしれません。遺産分割協議がまとまっても、特例の期限が迫っている状況では「売り急ぎ」になり、不動産の売却価格が低くなる可能性もあります。
代償分割したときは節税効果が低くなる
代償分割とは、不動産など分けにくい財産を分割するときに用いられる遺産分割方法の一つです。相続人のうちの1人または数人が不動産を相続して、他の相続人に代償金を支払い、相続の公平さを保ちます。
たとえば、仮に長男が1億円の不動産を相続し、次男が預金2,000万円を相続したとします。長男が次男へ代償金4,000万円を支払うと、両者の相続分は公平になります。
ただし、代償金を支払って相続した不動産を売却すると、取得費に加算できる相続税が少なくなって節税効果が低くなるでしょう。
不動産の取得費がわからないときは5%ルールが適用される
不動産売却時に取得費がわからないときは、売却価格の5%を取得費とみなすルールがあります。
仮に、1,000万円で購入した不動産を相続し、5,000万円で売却したとします。このとき、譲渡費用が200万円であれば、譲渡所得は以下のようになります。
- 取得費がわかっているときの譲渡所得:5,000万円-(1,000万円+200万円)=3,800万円
- 取得費がわからないときの譲渡所得:5,000万円-(5,000万円×5%+200万円)=4,550万円
不動産の取得費がわからない場合は、「5,000万円×5%=250万円」が取得費とみなされて譲渡所得が高くなってしまいます。
不動産の所有期間のカウント方法
譲渡所得税を計算するときは、不動産の所有期間のカウント方法に注意してください。不動産を売却する年の1月1日時点で所有期間が5年以下の場合、適用税率は39.63%です。
一方、5年を超えると税率20.315%に下がります。不動産の所有期間は、売却した年の1月1日における所有期間で判断します。
つまり、売却までにお正月を6回迎えているかどうかで税率が変わります。
たとえば、2020年4月1日が購入日の場合、2025年4月1日で5年超になるのではありません。お正月を6回迎えた2026年1月1日以降が5年超となります。不動産の所有期間が5年以下と5年超では、税率が約2倍違うため注意しておきましょう。
取得費加算の特例と併用できる特例
相続税の取得費加算の特例には、併用できる特例がいくつかあるため、より節税効果が高くなります。 ただし、併用不可の特例もあるため、後述する内容をぜひ参考にしてください。
併用可能:小規模宅地等の特例
被相続人から自宅などの特定居住用宅地等を相続した場合、小規模宅地等の特例の要件に該当すると敷地の評価額を最大80%減額できます。
特定居住用宅地等の場合、適用面積330㎡までとなっており、1億円の敷地であれば2,000万円まで減額できます。取得費加算の特例と併用すると、節税効果はかなり大きくなるでしょう。
ただし、同居親族や一定要件を満たした別居親族が自宅を相続すると、相続開始から10カ月間は所有して住み続けなければなりません。10カ月以内に売却すると、取得費加算の特例しか適用できないため注意しましょう。
併用可能:居住用財産の買換え特例
居住用財産の買換え特例は、相続した被相続人の自宅を売却し、新居に買い換えた場合に活用を検討できる制度です。
この制度では、被相続人が所有していた自宅の売却益にかかる譲渡所得税を、相続人の新居の売却時まで繰り延べられます。居住用財産の買換え特例は、もともと2023年12月31日までの期間限定措置でした。
しかしながら、2024年度税制改正大綱により、2025年12月31日まで2年間の延長となりました。適用要件には売却価格の上限、新居の延床面積や土地面積の下限など、様々な要件が指定されています。
すべての要件を把握するのは大変なため、税理士に確認するとよいでしょう。
併用可能:居住用財産を売却したときの3,000万円特別控除
居住用財産を売却した場合、一定要件を満たせば譲渡所得から3,000万円を控除できます。主な要件は以下のようになっており、相続税の取得費加算の特例と併用できます。
- 売却時に住んでいる自宅の売却である
- 親子間や夫婦間の売買ではない
- 災害の影響で売却する場合は、空き家となった日から3年後の年の12月31日までに売却する
他にも細かな要件が定められているため、相続した土地や家屋を売却するときは税理士に相談するとよいでしょう。
併用不可:相続空き家を売却したときの3,000万円特別控除
相続した空き家を売却するときも、一定要件を満たせば譲渡所得から3,000万円を控除できます。しかしながら、取得費加算の特例と併用できません。
「1981年5月31日以前に建築された建物」や「相続開始から3年を経過した年の12月31日までに売却」など、適用要件がかなり細かく設定されているのが特徴です。
相続税の取得費加算の特例を節税対策に活かそう
被相続人の自宅などの不動産を相続した場合、どうしても固定資産税などの維持コストがかかります。将来的に住む予定がない場合は、売却も選択肢の1つになるでしょう。
相続税を納めて取得した不動産であれば、取得費加算の特例を使えるため、売却時の譲渡所得税を軽減できます。
ただし、取得費加算の特例は、相続開始から3年10カ月以内の売却などの要件を満たした上で、確定申告の手続きをしなければなりません。遺産分割や不動産売却をスムーズに進めたい方や、確定申告に自信がない方は、ぜひベンチャーサポート相続税理士法人の無料相談を活用してください。
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