この記事でわかること
- 特別養子縁組とは何かがわかる
- 特別養子縁組で起きやすいトラブルがわかる
- 養子縁組のトラブルを避ける対処法がわかる
養子縁組という言葉は知っていても、なじみのない方がほとんどだと思います。
ただ、令和3年度戸籍統計によれば、日本では1年間に6万件を超える養子縁組が成立しており、決して限られた人のための制度というわけではありません。
養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類があります。
この2種類の養子縁組の違いを理解しておかないと、取り返しのつかないこととなってしまう可能性もあります。
また、特別養子縁組はより厳格な要件が定められていますが、トラブルになることもあります。
そこで、特別養子縁組の制度について解説していきます。
目次
養子縁組には2種類ある
養子縁組には、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類あります。
これらの違いを順番に解説していきます。
普通養子縁組
普通養子縁組は、多くの養子縁組で利用されている制度です。
普通養子縁組には以下の条件があります。
普通養子縁組の条件
- (1)養子縁組をするための届け出が提出されていること
- (2)養親が成年者であること
- (3)養子となる人が養親の嫡出子または養子ではないこと
- (4)当事者の間で養子縁組を結ぶことに異議がないこと
- (5)養子は養親よりも年長者でないこと、または直系尊属ではないこと
- (6)後見人が被後見人を養子とする場合には、家庭裁判所の許可を取得しなければいけない
- (7)もし養親が15歳未満の者を養子とする場合には、法定代理人の承諾を得なければならない(ただし、養子となる人の父母・養父母でその監護すべき人が他にいる場合、その同意を得ることが必要)
- (8)婚姻関係にある者が未成年者を養子とする場合には、配偶者の同意を得て共同で養親とならなければならない
- (9)養子となる人が未成年者の場合、家庭裁判所の許可を得ていること(ただし自己または配偶者の直系卑属を養子するならば不要)
普通養子縁組は、それまでの親子の関係はそのままで、新たに養親子の法律関係を構築するというイメージになります。
よって、養子は実父母だけでなく、養父母の相続人にもなることができます。
普通養子縁組の手続き
未成年者を養子にしたり、後見人が被後見人を養子にしたりするときは、家庭裁判所からの縁組許可を受けなければいけません。
さらに、市区町村で養子縁組した旨を届け出なければいけません。
この養子縁組届出は届出の期日がなく、手数料も不要ですが、届出時に証人として成年者2人の記載が必要です。
また、養子が15歳未満の場合、親権者である父母の他に監護者がいるならば、その監護者の同意の記載も必要です。
養子縁組届出は、市区町村の窓口(主に市民課等が担当)に提出します。
必要書類は次の通りです。
必要書類
- 養子縁組届
市区町村の窓口で取得し記載します。
前述したように証人として成年者2人の記載が必要です。 - 家庭裁判所の縁組許可の審判書謄本
①未成年者を養子とする、②後見人が被後見人を養子する場合に必要です。
ただし、自己または配偶者の直系卑属(子、孫等)を養子とするならば不要です。 - 養親・養子の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)
戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)は法務局から取得します。
届け先の市区町村に本籍がある場合は不要です。 - 届出人の本人確認書類
例えばマイナンバーカード、運転免許証、パスポート等を準備しましょう。 - 届出人の印鑑
その他のいろいろな変更手続き
養子の氏名や本籍が変更となる場合は、次の届け出も済ませる必要があります。
- 国民健康保険等、保険証の氏名変更
- 国民年金等、公的年金の氏名変更
- マイナンバーカードまたは通知カードの氏名変更
- 運転免許証やパスポートの氏名変更・登録の本籍変更
特別養子縁組
特別養子縁組には、以下の条件があります。
特別養子縁組の条件
- (1)特別養子縁組の制度を利用するにあたり、家庭裁判所より許可を受けていること
- (2)実の父母が親権を行使することが著しく困難であること等の特別な事情が存在すること
- (3)特別養子縁組を実施するにあたり、試験養育期間を経ていること
- (4)養親となる者が婚姻関係にあること
- (5)養父母のいずれかが25歳以上、他方が20歳以上であること
- (6)養子の年齢が特別養子縁組審判を請求した時点において6歳未満であること
- (7)原則として、実の父母が特別養子縁組を結ぶことに同意していること
普通養子縁組とは異なり、特別養子縁組の場合には、無事に成立されると実父母との関係が解消されます。
そして、養子は養父母の実の子供として取り扱われることになります。
養子ではなく、子供の扱いとなりますので、そもそも養子としての制限は受けないという訳です。
特別養子縁組成立の流れ
特別養子は養父母の「実の子供」として取り扱われることになるため、その成立まで非常に厳格なプロセスが存在します。
児童相談所に里親登録した場合の流れをみてみましょう。
- 里親登録をする
- 児童相談所から養育の委託打診し、マッチング
- 里親委託を行う(試験養育期間:概ね6か月間)
- 里親が家庭裁判所へ特別養子縁組の申立てをする
- 家庭裁判所の調査(里親・実施への面談等)
- 調査後、家庭裁判所の審判確定
- 2週間の抗告期間を経て審判が確定されると、里親委託を解除
- 審判確定日から10日以内に、養親が「特別養子縁組の戸籍届」の手続きを行う
特別養子縁組の手続き
特別養子縁組の戸籍届(特別養子縁組届)は、審判確定日から10日以内に市区町村へ届出を行います。
必要書類は次の通りです。
必要書類
- 特別養子縁組届
- 家庭裁判所の審判書謄本・確定証明書(各1部)
- 戸籍全部事項証明書(戸籍謄本):養親のみ、届け先の市区町村に本籍があれば不要
- 届出人の印鑑
特別養子縁組で起きやすいトラブル・相続問題
特別養子縁組は、普通養子縁組とは様々な違いがあります。
そのため、普通養子縁組と同じように考えて利用すると、思わぬトラブルに巻き込まれてしまうことがあります。
ここでは、特別養子縁組を利用した時に起こりやすいトラブルをいくつかご紹介します。
実親から同意を得られない
特別養子縁組は、養子となる人の親権が実親から養親に移り、実親との関係は完全に消滅します。
そのため、特別養子縁組を行うには実親からの同意を得なければなりません。
しかし、実親の中には、どのような事情があっても子供との関係が完全になくなることを拒否し、特別養子縁組を行うことについて同意しないケースもあります。
実親からの同意を得られないために、特別養子縁組が成立しないことがあるので、注意が必要です。
試験養育が中止になる場合がある
特別養子縁組を行うためには、養子縁組を行う前に試験養育と呼ばれる制度があります。
これは、法律上の親子関係を生じさせる養子縁組を行う前に、6か月以上の期間にわたり、養親になろうとする人と養子になる子供が一緒に生活し、親子関係を生じさせるのに支障がないかを確認するための期間です。
ただ、試験養育を開始した後に、実親が突然同意を撤回することがあります。
試験養育ができなければ、その後の養子縁組もできないため、特別養子縁組が成立しにくい原因となっています。
相続時に他の相続人とトラブルになりやすい
養親が養子を迎え入れると、養子となった人は法律上の子供となり、実子と変わりない取扱いを受けることとなります。
養親となった人に実子がいる場合、実子は法定相続人となる人です。
この人が養子を迎えると、法律上の子供の数が増えることとなります。
親が亡くなり、子供が法定相続人になる場合、子供1人あたりの法定相続分は子供の人数で均等に分けることとなります。
そのため、養子を迎え入れると子供1人あたりの法定相続分は減少することとなります。
養子がいなければ、実子1人あたりの法定相続分はもっと大きな金額になっていたはずであり、相続が発生した時には大きなトラブルに発展する可能性があります。
特別養子縁組は相続税の節税対策につながらない
相続税対策として養子縁組を利用する方がいます。
例えば、孫を養子として法定相続人の数を増やす「孫養子」などが利用されています。
相続税の節税対策として利用される養子縁組は、いずれも普通養子縁組です。
相続税の節税対策を行うために、特別養子縁組を行うことは、現実的な方法ではありません。
相続税対策で養子縁組を行う場合、普通養子縁組が良い方法です。
以下の記事も参考にしてください。
養子縁組と相続制度の関係について
養子縁組をすると相続にどのような影響を与えるのか、確認してみましょう。
基礎控除及び保険金の非課税枠
相続税の基礎控除は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」と定められています。
よって、養子縁組をむすぶことによって、法定相続人の数が増えるわけですから、基礎控除額が大きくなるということを意味します。
また、同様に、保険金の非課税枠についても「法定相続人の数」の非課税枠が問題になります。
よって、保険金の受け取りにおいても、非課税枠の範囲が大きくなるということが分かります。
相続税の計算方法
相続税の計算方法について整理しておきましょう。
相続税は以下のように算出することができます。
計算式
相続税課税金額=(プラスの相続財産-マイナスの相続財産)-基礎控除金額
<法定相続人及び相続割合>
第一順位 | 第二順位 | 第三順位 |
---|---|---|
配偶者・子 | 配偶者・直系血族 | 配偶者・兄弟姉妹 |
1/2:1/2 | 2/3:1/3 | 3/4:1/4 |
養子縁組の相続トラブルを避けるための対処法
養子縁組を行うと、どうしても実子と養子の間でトラブルになりやすいものです。
そこで、養子縁組を行う際には、トラブルを避けるための対処法を実行するのがおすすめです。
実際にどのような対処法があるのか、ご紹介しましょう。
遺言書を残しておく
遺言書を作成しておくと、法定相続分とは関係なく、また遺産分割協議を行うことなく、遺産を誰が引き継ぐか決めておくことができます。
そこで、どのような形で遺産を分けるのか、遺言書を作成しておきましょう。
遺言書があると、相続人全員で遺産分割協議を行う必要はありません。
遺産分割協議を行わないことで、相続人同士のトラブルが発生する可能性を抑えることができます。
ただ、実子と養子のいずれか一方だけを考えた内容にならないよう、双方に配慮する必要があります。
養子縁組を決める前に親族の同意を得る
養子を迎え入れることは、単に親子関係が発生するだけでなく、親族にもその影響は少なからず及ぶものといえます。
養子縁組を行った後、いきなり親族にそのことを伝えても、抵抗や反発を受けることが考えられます。
そこで、養子縁組を行う場合は、前もって親族などにその考えを伝えておくようにしましょう。
親族の同意がなければ養子縁組できないわけではありませんが、このような対処を行うことによって、親族からの理解を得られるようになります。
実子と養子の間で、トラブルが発生するのを防ぐこともできます。
まとめ
養子縁組を考えている人は、まず普通養子縁組と特別養子縁組の違いを理解しておかなければなりません。
そして、自身がどのような目的をもって養子縁組を行いたいのか、よく考えてみましょう。
特別養子縁組を行おうと考えている方は、そのリスクについても慎重に考えておく必要があります。
また、相続税の節税対策として養子縁組を考えている場合は、特別養子縁組ではなく普通養子縁組を行う必要がありますし、他にできる相続対策もあります。
相続対策を考えている方は、自身にどのような方法があっているのか、専門家に相談するのもおすすめです。
相続専門税理士の無料相談をご利用ください
ご家族の相続は突然起こり、何から手をつけていいか分からない方がほとんどです。相続税についてはとくに複雑で、どう進めればいいのか? 税務署に目をつけられてしまうのか? 疑問や不安が山ほど出てくると思います。
我々ベンチャーサポート相続税理士法人は、相続人の皆さまのお悩みについて平日夜21時まで、土日祝も休まず無料相談を受け付けております。
具体的なご相談は無料面談にて対応します。弊社にてお手伝いできることがある場合は、その場でお見積り書をお渡ししますので、持ち帰ってじっくりとご検討ください。
対応エリアは全国で、オフィスは東京、埼玉、千葉、横浜、名古屋、大阪、神戸の主要駅前に構えております。ぜひお気軽にお問い合わせください。