この記事でわかること
- 死後事務委任契約の役割や業務内容
- 死後事務委任契約は相続対策になるか・死後事務委任契約のメリット・デメリットや注意点
- 死後事務委任契約を検討すべき人
- 死後事務委任契約にかかる費用
人が亡くなると、葬儀や役所への届出、遺品整理など様々な手続きが発生します。
一般的に死後手続きは同居家族などの親族が行いますが、「身寄りがいなくて死後の手続きが不安」「死後、なるべく親族の手を煩わせたくない」という方も多いのではないでしょうか。
これらの不安を解決する手段となるのが、「死後事務委任契約」です。
この記事では、死後事務委任契約について解説します。
死後事務委任契約のメリット・デメリットや委任された人の役割、相続対策として有効かどうかを詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
死後事務委任契約とは
死後事務委任契約とは、自分が亡くなった後の必要な事務手続きを第三者に委任しておく契約です。
生きている間に信頼できる人を選任し、自分の死後の事務手続きに関する代理権を付与することで契約が成立します。
死後事務委任契約を締結することで法的効力が生じるため、「約束したものの、自分が死んだ後本当に手続きを行ってもらえるのか」といった不安が解消されます。
死後事務委任契約の業務内容・役割
死後事務委任契約を締結すると、本人(委任者)から委任された人(受任者)に対して、幅広い業務を指定することができます。
代表的な受任者の役割として、以下の8つが挙げられます。
- 遺体の引き取り
- 葬儀に関する手続き
- 関係者への連絡
- 行政に関する手続き
- 家賃や介護費用、医療費などに関する手続き
- Webサービスなどの契約に関する手続き
- 部屋の清掃や遺品整理
- 残されたペットに関する手続き
ここからは、受任者の役割や業務内容をそれぞれ詳しく紹介します。
遺体の引き取り
委任者は、自分の遺体の引き取りを委任できます。
一般的に遺体を引き取るのは親族の役割です。
しかし、委任者に親族や家族がいない場合や、委任者が親族や家族と疎遠で引き取りを拒否される恐れがある場合に、受任者を遺体引き取り人として指定できます。
葬儀に関する手続き
委任者は、自分が亡くなった後の葬儀手続きを委任できます。
死後事務委任契約では葬儀に関する詳細な希望を伝え残すことができ、葬儀場の手配や日程調整、火葬許可証の取得、納骨や永代供養など、葬礼のほぼすべての手続きを受任者に任せることが可能です。
関係者への連絡
委任者は、自分が亡くなったことを関係者に連絡してほしい旨を受任者に依頼することができます。
死後事務委任契約を締結する際に、親族や職場の人、友人など連絡してほしい相手をあらかじめ指定しておくことで、万が一の時に自分の訃報を伝えることができます。
また、最近は様々なSNSを用いて、自分の訃報を告知してもらうことも可能です。
行政に関する手続き
委任者は、自分が亡くなった後に必要な行政手続きを受任者に委任することができます。
たとえば、以下の手続きが挙げられます。
- 年金の受給者死亡届の提出
- 健康保険証の返納
- 住民税や固定資産税の納付
人が亡くなった後は様々な行政上の手続きが発生しますが、死後事務委任契約の業務内容として定めておくことで、これらの行政手続きも受任者に行ってもらうことができます。
家賃や介護費用、医療費などに関する手続き
委任者は、亡くなった後の様々な支払い手続きを受任者に委任できます。
たとえば、以下のような亡くなる時点まで発生していた費用の精算・解約手続きが考えられます。
- 家賃
- 介護費用
- 医療費
- 公共料金など精算
法律上、亡くなった人の支払い義務は相続人に引き継がれるため、これらの精算や解約の手続きを怠ると、相続人である親族や家族に滞納の連絡がいくことがあります。
そうなると、相続人間で「誰が支払い義務を負担するのか」とトラブルに発展する可能性があります。
このような事態を避けるためにも、生前に諸費用の精算手続きを依頼しておくことは非常に重要です。
Webサービスなどの契約に関する手続き
委任者は、自分が利用していたWebサービスなどの解約や削除手続きを依頼できます。
たとえば、委任者が有料のサブスクやWebサービスを利用していた場合、解約を行わなければ、委任者が亡くなってからも延々と利用料を毎月請求され続けることになるでしょう。
また、委任者がSNSを利用していた場合は、アカウントの削除や追悼アカウントへの移行などの手続きも必要となります。
注意したいのが、委任者が生前ネットバンクや電子マネーを利用していた場合です。
手続きを行わなければ、預貯金や残高などの相続財産を見逃す可能性があるでしょう。
このような事態を避けるためにも、契約に関する手続きを委任しておくことが重要です。
死後事務委任契約を締結する際に、現在利用しているWebサービスや、自身のアカウントID、パスワードなどの情報を受任者に伝えておくことで、スムーズに解約手続きを行えるでしょう。
ただし、サービスによっては規約で手続き権限を相続人のみに限っている場合がありますので、事前に死後事務委任の契約の受任者でも手続きが可能かどうか確認しておく必要があります。
なお、死後事務委任契約の受任者が、直接委任者の所有財産を処分することは認められていません。
部屋の清掃や遺品整理
委任者は、自分が住んでいた部屋の清掃や、家財処分などの遺品整理を受任者に依頼できます。
ただし注意すべきなのが、家電や家具、その他高額な物品など資産価値の高い家財は、相続の対象となることがある点です。
相続財産を勝手に処分してしまうと、相続人との間でトラブルになる可能性があります。
このようなトラブルを避けるためにも、死後事務委任契約時に、受任者がどこまでの家財を処分できるか具体的に定めておくことが重要です。
残されたペットに関する手続き
委任者は、自分が亡くなった後、残されたペットについても受任者に依頼でき、新たな飼い主を死後事務委任契約で指定することが可能です。
委任者は、あらかじめペットを引き取ってほしい人や団体の承諾を得た上で、自分の死後、指定した人に引き継いでもらうよう受任者に指定します。
【注意】死後事務委任契約では相続対策はできない
死後事務委任契約では、相続に関する手続きを委任できません。
たとえば、「●●さんにすべての遺産を相続させてほしい」「姉に3分の2、妹に3分の1の割合で財産を渡してほしい」といった相続財産の承継手続きを、受任者に依頼することはできません。
死後事務委任契約は、あくまで自分が亡くなった後の手続きを委任するものであり、財産に関する処理は相続人の役割となります。
相続人や相続割合について希望がある場合は、遺言書に書いたうえで遺言執行者を指定することで実現できるものとなるので、注意しましょう。
死後事務委任契約のメリット・デメリット
死後事務委任契約には、メリットとデメリットがあります。
ここでは、それぞれ詳しく紹介します。
死後事務委任契約のメリット
死後事務委任契約を行うことのメリットとしては、主に以下の3つが挙げられます。
- 本人の希望を実現できること
- 死後の手続き漏れを防げること
- 死後の不安を軽減できること
ここからは、それぞれのメリットを詳しく見ていきましょう。
本人の希望を実現できること
1つ目のメリットは、死後事務委任契約は、委任者が自分の死後、どのような手続きを行ってほしいかという希望を伝えられることです。
たとえば、葬儀に関する詳細な指定や、遺品に関する指定、自分が死んだことを伝えてほしい相手などを契約内容として詳細に定めておくことができます。
生前に何も指定をしないと、亡くなった後、本人の意思と違う形で葬儀が行われることや、参列してほしい人に連絡がいかないということが起こり得ます。
このような事態が起こらないよう、委任内容を詳細に指定しておくことが重要です。
死後の手続き漏れを防げること
2つ目のメリットは、亡くなった後の手続きの対応漏れを防げることです。
亡くなった人の身の回りのことを親族が把握していないケースは多く、本人しか知らないWebサービスの登録やアカウントの解約手続きを見逃してしまう可能性があります。
死後事務委任契約で、対応すべき内容を網羅的に定めておくことにより、把握漏れや対応漏れを防ぐことができるでしょう。
死後の不安を軽減できること
3つ目は、亡くなった後の不安を軽減できることです。
「身近に頼れる人がいない」「親族に迷惑をかけたくない」といった不安を抱える方は多いでしょう。
死後事務委任契約を締結しておくことで、このような不安は解消され、スムーズに手続きを進められます。
死後事務委任契約のデメリット
死後事務委任契約を行うことのデメリットとしては、以下の2つが挙げられます。
- 依頼する専門家への報酬が発生すること
- 委任者の死亡時に契約が終了する恐れがあること
ここからは、それぞれのデメリットを詳しく見ていきましょう。
依頼する専門家への報酬が発生すること
1つ目のデメリットとしては、死後事務委任契約を依頼する専門家に支払う報酬が発生することが挙げられます。
死後事務委任契約には特別の資格や条件は不要なので、委任者の親族や知人に対して委任することが可能です。
しかし、専門的な業務が多く、受任者が一般市民の場合は負担がかかるため、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に依頼することがあります。
詳しくは後述しますが、専門家に依頼すると報酬などの費用が発生し、依頼する業務範囲などによっては高額となる可能性もあります。
委任者の死亡時に契約が終了する恐れがあること
法律上、委任契約は委任者が死亡したときに終了するのが原則です。
契約の定め方によっては、委任者が亡くなったときに契約が終了したと判断される可能性は否定できません。
そのため、契約書には「委任者が死亡した場合であっても本契約は終了しない」と定めておくことが重要です。
また、死後事務委任契約は公正証書化しておくことで、内容をより確実なものとできるため、安心して死後の手続きを任せられるでしょう。
死後事務委任契約を結ぶのがおすすめな人
以下の6つのいずれかに当てはまる人は、死後事務委任契約を積極的に検討することをおすすめします。
- 死後のことについて希望がある人
- おひとりさまで頼る人がいない人
- 親族などに負担をかけたくない人
- 親族が高齢である人
- 親族と疎遠、絶縁状態にある人
- 内縁関係や事実婚の関係にある人
死後のことについて希望がある人
自分が亡くなった後の、葬儀場所や内容、納骨先などに希望がある人には死後事務委任契約がおすすめです。
契約する際に、希望する内容を詳細に定めておくことで実現が可能となるためです。
また、「自分には強い希望があるけれど、家族が受け入れてくれない」「遺言書に記載しても履行してもらえないかもしれない」という不安が強い場合も、死後事務委任契約が有効です。
ただし、親族や家族に相談せずに内容を決めてしまうと、後にトラブルとなる可能性があるため、事前に相談して理解を得ておくことが重要です。
おひとりさまで頼る人がいない人
おひとりさまで、周りに亡くなった後のことを頼める人や親族がいない人は死後事務委任契約がおすすめです。
たとえば、入院施設や介護施設で亡くなった場合、親族や家族などの連絡先が不明だと、施設スタッフが誰に連絡すればよいのか分からず、その後の対応について施設スタッフに負担をかけてしまう可能性があります。
死後事務委任契約を締結し、代理人を確保して葬儀や遺品整理などについて詳しく定めておくことで、周りに負担をかけずに済むでしょう。
親族などに負担をかけたくない人
自分が亡くなった後、親族や家族に負担をかけたくない場合も、死後事務委任契約がおすすめです。
死後の事務手続きは対応すべきことが多く、手間や時間がかかります。
周りに家族や親族がいる場合でも、死後事務委任契約を締結することで、複雑な手続きなどをすべて受任者に任せられるので、親族や家族に迷惑をかけずに済みます。
親族が高齢である人
先述したとおり、葬儀の手続きや遺品整理などは手間や時間がかかります。
また、行政や各種サービスなどの手続きも複雑であることが多いため、親族や家族全員が高齢である場合は、不安に感じる人もいるでしょう。
自分が亡くなった後の手続きにこうした不安がある場合も、死後事務委任契約で事務手続きを委任しておくことをおすすめします。
親族と疎遠、絶縁状態にある人
親族や家族と疎遠または絶縁状態で、自分の死後手続きを頼める状況にないという方もいるでしょう。
このようなケースでも、死後事務委任契約で事務手続きを委任しておくことをおすすめします。
内縁関係や事実婚の関係にある人
死後事務委任契約は、内縁関係や事実婚の人にもおすすめです。
何故なら、仮にパートナーが亡くなって死後手続きを行いたい場合であっても、内縁関係や事実婚の人は法律上の配偶者ではありません。
法的な繋がりがない人では、手続きを行うことが認められない場合があるためです。
こうした不安がある場合には、事前にパートナーと死後事務委任契約を交わして代理人なってもらうか、第三者に頼んで死後事務手続きを委任しておく必要があります。
死後事務委任契約にかかる費用相場
死後事務委任契約を交わす際にかかる費用として、以下の3つが挙げられます。
- 専門家に委任した場合にかかる費用
- 公正証書作成にかかる手数料
- 死後の手続きにかかる預託金
ここからは、それぞれの費用について詳しく見ていきましょう。
専門家に委任した場合にかかる費用
弁護士や司法書士や行政書士などの専門家に死後事務委任契約を依頼すると、報酬や契約書の作成料などの費用が発生します。
報酬は、依頼する事務所や、委任する業務内容の範囲によって、数万円~数十万円と幅があります。
行政手続き1件あたり1万円~数万円、葬儀手続き10万円~数十万円と、手続きごとに費用が決まっており、委任する内容によって報酬金額が決定する場合もあれば、事務手続きを一括してパック料金を設定している場合もあります。
また、契約書作成料も依頼する事務所によって異なりますが、数万円~30万円ほどが相場です。
法律上は、書面を交わさず口約束でも契約は有効に成立します。
しかし、約束したことを履行してもらえない、あるいは委任した業務内容の範囲が不明確になるリスクがあるため、契約書を作成しておくことはとても重要です。
費用はかかりますが、専門家に作成を依頼することで漏れのない内容に仕上がるため、委任者にとっても安心と言えるでしょう。
公正証書作成にかかる手数料
基本的に専門家に依頼した場合、死後事務委任契約は公正証書で締結されます。
公正証書とは、法務局に所属する公証人が公証役場において作成するもので、証拠力が強く安全性や信頼性に優れた文書を指します。
公正証書を作成する際は、公証役場へ支払う手数料として1万1,000円を支払う必要があります。
死後の手続きにかかる預託金
死後事務手続きを依頼する際は、葬儀などの手続きにかかる実費を受任者に預託しておくのが一般的です。
委任者が亡くなった場合、葬儀などの手続きは早急にとりかかる必要があり、受任者が費用を立て替えなくて済むよう、あらかじめかかる費用を預託しておく必要があります。
預託する金額も葬儀の規模や委任する業務の範囲によって異なりますが、大体数十万円~数百万円程度です。
預託した金額が多く、死後手続き後に残金があった場合は、相続人に返還されます。
死後事務委任契約を結ぶときの注意点
死後事務委任契約には様々なメリットがありますが、依頼する際は以下の3つに注意しなければなりません。
- 意思能力がないと契約できないこと
- 委任できない業務があること
- 相続人とトラブルになる可能性があること
これらの注意点を理解しないまま契約手続きを進めると、委任者が不利益を被る可能性があります。
ここからは、それぞれの注意点を詳しく説明します。
意思能力がないと契約できないこと
1つ目は、委任者に意思能力がないと判断された場合、死後事務委任契約が無効になる可能性があることです。
意思能力とは、「契約を締結することでどのような権利・義務が発生するのかをきちんと理解できる」能力であり、法律上、意思能力がない人が行った契約は無効と扱われます。
そのため、委任者が認知症などを患った状態で死後事務委任契約を締結しても、契約が有効に成立しない可能性があります。
委任者の判断能力や意思能力が衰える前に、死後事務委任契約に着手することが重要です。
委任できない業務があること
2つ目は、死後事務委任契約を締結していても、受任者が履行できない業務が存在することです。
たとえば、委任者の銀行口座の解約や所有不動産を売却するなどの財産に関係する行為は、たとえ委任業務に定められていたとしても認められません。
財産に関する行為を受任者に依頼したい場合は、遺言書で受任者を遺言執行者に指定する必要があります。
遺言執行者とは、遺言内容を実現するために相続財産の管理などの一切の権限を有する人のことを言います。
委任者は遺言書を作成する際に、受任者を遺言執行者に指定する旨の内容を記載しておくことで、受任者が委任者の財産を扱うことができるようになります。
先述したとおり、基本的に財産に関する権限は相続人にあるため、死後事務委任契約だけで受任者が財産を扱うことはできないので注意しましょう。
相続人とトラブルになる可能性があること
3つ目は、委任者が亡くなって受任者が手続きを履行する際に、相続人とトラブルになる可能性があることです。
たとえば、受任者が遺品整理をした中に高価な資産が含まれていた場合や、委任者から依頼された葬儀の内容や規模が相続人の希望と異なった場合などは、相続人から文句を言われる可能性があるでしょう。
また、受任者と相続人との間でトラブルに発展した場合は、受任者に要らぬ負担をかけてしまうことになります。
このような事態を防ぐためにも、死後事務委任契約を交わす前に、委任する手続き内容や範囲を相続人によく説明しておくことが重要です。
相続人の理解を得ておくことで、将来的なトラブルを回避できる可能性があります。
まとめ
自分が亡くなった後の希望を実現したい、または身近に頼れる人がいないという人には、死後事務委任契約がおすすめです。
ただし、死後事務委任契約を交わしていても、財産処分などの行為は認められず、相続に関する手続きも受任者に依頼したい場合は、別途遺言書で受任者を遺言執行者に指定しておく必要があります。
「自分の死後の手続きについて、何から着手すればよいのかわからない」「手続きに不安がある」という場合は、詳しい専門家に相談することをおすすめします。
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