この記事でわかること
- 生前贈与について理解できる
- 生前贈与機能付き生命保険がわかる
- 生前贈与の相続税対策がわかる
以前は、相続税は資産家だけに課せられる税金でした。
しかし、相続税の改正により、相続税は資産家だけの税金ではなくなり、一般の人でも納税しなくてはならない税金になりました。
相続税対策として、注目されたのが「生前贈与」です。
生前に贈与することで、相続財産をあらかじめ減らしておくことができるのです。
住宅資金や教育資金を生前贈与するだけでなく、近頃は生命保険も生前贈与に対応した商品も出てきました。
しかし、財産の贈与には贈与税がかかります。
相続税を減らして、贈与税を負担していては本末転倒というものです。
ここでは、生命保険を使った生前贈与について解説し、相続税対策、贈与税対策のポイントを紹介します。
目次
法改正で生前贈与を考える人が急増
税制改正で、一般の人も納税しなくはならなくなったというのは、相続税の基礎控除額が引き下げられたためです。
基礎控除が高額であれば、相続財産の多い資産家くらいしか、課税になりませんでした。
しかし、基礎控除額が下がったことで、ある程度の資産があれば、課税しなければならなくなったのです。
法改正で変わったこと
改正前は、5,000万円+1,000万円×法定相続人の数が基礎控除の額でした。
法定相続人が妻1名、子3名とすると、9,000万円が基礎控除となりますので、相続財産が、9,000万円までは税金がかかりません。
9,000万円というと、ちょっとした資産です。
しかし、改正後は、3,000万円+600万円×法定相続人の数となり、上の例で計算すると、5,400万円になります。
5,000万円が3,000万円、1,000万円が600万円ですので、4割減の計算になります。
これだと、住宅などの不動産と預貯金などの金融資産、保険を合計するとすぐに超えそうです。
改正後の平成27年には、納税者数が前年のほぼ倍近くになったことからも、身近な税となったことがわかります。
生前贈与の優遇措置も
「相続精算課税制度」という、生前贈与の優遇措置も図られました。
相続人である子や孫に贈与した場合、2,500万円まで贈与税がかからないというものです。
「暦年課税」という従来の贈与税の控除額の110万円と比較すると、大変魅力的な制度といえます。
他にも、住宅資金、教育資金、結婚・子育て資金の生前贈与などの制度があります。
ただし、これらは贈与税の優遇なので、必ずしも相続税対策になるとは限りませんが、生前贈与が注目されるようになりました。
相続税増税、贈与税緩和で注意すべきこと
相続税対策として、生前贈与すれば相続税が減るのは間違いないですが、贈与についてよく理解しておく必要があります。
贈与したつもりが、贈与にならず相続財産に加算されるケースがあります。
ただ預金口座から1,000万円を引き出し、現金として子がそのまま所有していることを贈与だと主張しても、それは認められません。
預金が現金に財産の種類が変わっただけですので、贈与にはなりません。
相続があった場合は、税務署は相続の開始からさかのぼって財産の移動について調査します。
贈与として認められなければ、相続財産として相続税になってしまいます。
反対に、贈与したつもりがないものが贈与とみなされ、贈与税が課税されることもあります。
生前贈与をするメリットとは
ここでは、生前贈与する相続税対策のメリットについて、いくつかご紹介します。
暦年課税の範囲で生前贈与するメリット
「暦年課税」とは、1年間の贈与された財産のうち、110万円を控除するもので、つまり、110万円までは贈与税はかかりません。
この控除額の範囲で贈与していれば、税務署に手続きをする必要はありません。
しかし、この方法には注意が必要です。
例えば、1,000万円を相続税対策として贈与するとしたら、単純に1年100万円を贈与すれば、10年で贈与できます。
しかし、この場合は計画的に1,000万円を贈与する暦年贈与になる恐れがあります。
そうなると、最初の年に1,000万円の贈与があったと判断され、1,000万円の贈与税の申告が必要になります。
こういうケースは申告期限後に発覚するもので、延滞税、加算税も課されることになりかねません。
相続時精算課税制度を選択するメリット
「相続時精算課税制度」は、60歳以上の父母、祖父母から、20歳以上の子、孫への贈与に対し、贈与税を猶予するものす。
相続が開始になった時点で、贈与された財産を相続財産に加算して相続税を課税します。
相続税に比較して、贈与税の税負担が大きいことから図られた措置です。
一度、相続自制課税を選択すると、もとに戻すことはできませんので、注意しなければなりません。
しかし、考えようによっては、相続税対策にも有効です。
相続時精算課税は、贈与された財産の2,500万円まで贈与税は課税されませんが、相続があったときは、相続財産として加算し、相続税の対象とするものです。
そのため、贈与された時点から財産の評価額が増えていくことが予想される場合は、その増分が節税できるというものです。
例えば、株を贈与する場合は、贈与の時点で1,000万円のものが、相続の時点で2,000万円だとしても、1,000万円を計上するだけです。
この場合は、増えた分の1,000万円には相続税は課税されないことになります。
配偶者に居住用の不動産を贈与するメリット
配偶者に居住用の不動産を贈与した場合は、基礎控除額の110万円に加えて2,000万円を加算することができます。
つまり、2,110万円までの贈与が非課税となります。
ただし、以下の要件があります。
- ・戸籍上の婚姻関係が20年以上である
- ・国内にある居住用不動産、または居住用不動産を取得するための金銭の贈与である
- ・贈与した翌年の3月15日まで居住し、その後も居住を継続する見込みがある
- ・過去にこの制度の利用がない
直系卑属に住宅取得等資金を贈与するメリット
子や孫の直系卑属に、住宅の購入や増築などを目的に資金を贈与した場合、基礎控除額110万円に加えた一定金額に対して贈与税がかかりません。
控除の額は、住宅の契約締結日や省エネ住宅の可否などにより異なりますが、300万円から3,000万円までとなります。
直系卑属に結婚・子育て資金、教育資金を贈与するメリット
子や孫の直系卑属に、結婚・子育て資金、教育資金を贈与した場合、基礎控除額300万円から1,500万円まで贈与税がかかりません。
この制度を利用するには、金融機関で専用の口座を開設しなければならないなどの運用面での制約があります。
それぞれの目的が終了した際に残金があった場合は、その残金が相続税の課税となります。
また、贈与者が亡くなると、その時点の残金が相続税の対象となります。
生命保険を生前贈与に利用するという選択肢
相続税対策として、生命保険を利用するという選択肢もあります。
暦年課税を選択して生命保険を利用する場合
子を契約者として生命保険を契約します。
子には暦年課税の控除額110万円を上限に保険料として現金を贈与します。
子が契約者なので、この保険は子の財産になりますが、保険料の負担は親なので、親から子への贈与になります。
たとえ毎年100万円の贈与だとしても、10年間続ければ、1,000万円の贈与となります。
この場合は、暦年贈与と判断され、1,000万円の贈与として税金がかかる恐れがあります。
そのため、毎年、贈与契約書を作成して、100万円を贈与しなければなりません。
金銭の授受も通帳等で確認できるようする必要があります。
この場合、相続財産から1,000万円を生前贈与して、相続財産を減らすことができます。
子は親が亡くなったときに保険金を受け取りますが、契約者が子ですので、この保険金は所得税の一時所得になります。
所得税では保険金を収入として、掛け金を費用として差し引きますので、相続税と比較すると、負担する税額はとても低くすみます。
生前贈与機能付き生命保険を利用する場合
生命保険の商品のひとつに「生前贈与機能付き生命保険」というものがあります。
これは、保険料は親が負担し、生存給付金の受取人を子に設定します。
親が1,000万円の保険料を負担し、生存給付金として10年間、毎年100万円を子が受け取るとします。
また、契約期間に親が亡くなった時は、残りの保険金は相続財産として相続税の対象となります。
ここまでご説明すると、暦年課税を選択した場合と同様に、暦年贈与に該当しそうです。
しかし、生前贈与機能付き生命保険の場合は、次のような理由から暦年贈与には該当しないことを国税庁が認めています。
- ・生存給付金の受取りが確定していないこと
- ・契約者が死亡した場合、契約は消滅し死亡保険受取人に死亡保険金が支払われる
生命保険を利用した生前贈与の事例
次に、事例として、生命保険を利用した生前贈与について考えてみます。
生前贈与しなかった場合
預金1,000万円を相続し、相続税を納税することとします。
不動産、預貯金などがあったとして、相続人の子が、この1,000万円だけを相続し、他の相続人が他の財産を相続したと仮定します。
そのまま相続税を算出すると、この場合の相続税の税率は10%ですので、相続税額は100万円になります。
暦年課税を選択して生命保険を利用する場合
毎年、贈与契約書を作成し、10年間100万円の贈与を適正に行った場合、贈与税はかかりません。
相続で受け取るべき1,000万円はすでに贈与されていますので、相続財産から1,000万円を減らすことができ、相続税はかかりません。
贈与された100万円を保険料に充てていたとしても、保険の契約者は子になります。
保険の掛け金の負担と保険金の受け取りが同一人の場合は一時所得として所得税の対象です。
満期により保険金を受け取った場合は、子が契約者ですので、子の所得税の一時所得として申告納税します。
このとき、受け取った保険金を収入、支払った掛け金を費用として差し引きます。
その差額から50万円を控除し、その2分の1を所得として、他の所得に合算します。
この場合は単純に1,000万円を掛け金とすると、所得税はかかりません。
契約期間中に親が亡くなったとしても、保険金は同様に計算します。
このとき、受け取った保険金が掛け金よりも多いことが考えられますが、その差額には所得税か課税されます。
ただし、その場合は受け取るべき1,000万円よりも多いことになりますので、受け取るべき1,000万円には所得税はかからないといえます。
生前贈与機能付き生命保険を利用する場合
親が1,000万円の保険料を負担し、生存給付金として10年間、毎年100万円を子が受け取るとします。
暦年課税を選択して生命保険を利用する場合と同様で、相続税もかかりません。
しかし、暦年課税を選択して生命保険を利用する場合と異なり、掛け金の負担と保険金の受け取りが別になります。
よって、この場合は所得税ではなく、贈与税の対象となりますが、毎年受け取る生存給付金が110万円以下ですので、贈与税はかからないことになります。
ただし、契約期間中に親が亡くなったときは、残りの保険金を相続財産としなければなりません。
そうなると相続税を負担することになりますが、生存給付金の分は相続税を抑えることができます。
仮に契約期間が5年残っていて、500万円を受け取った場合、500万円×10%で、50万円の相続税となります。
ただし、生命保険金には500万円×相続人の控除がありますので、必ずしもこの保険に相続税がかかるわけではありません。
それぞれの場合の税金のまとめ
それぞれの税について、ケース別に以下の表にまとめましたので、ご参考にしてください。
相続税 | 贈与税 | 所得税 | |
---|---|---|---|
生前贈与しなかった場合 | 100万円 | 0円 | 0円 |
暦年課税を選択して生命保険を利用する場合 | 0円 | 0円 | 0円※ |
生前贈与機能付き生命保険を利用する場合 | 0円※ | 0円 | 0円 |
※契約期間中に親が亡くなった場合、課税になることもあります。
生前贈与を行う際の注意点
相続税対策として有効な生前贈与ですが、場合によっては注意が必要です。
暦年課税を選択して生命保険を利用する場合
暦年課税を選択する場合は、暦年贈与にならないように、以下の対策をし、注意しなければなりません。
- ・贈与契約書を作成する
- ・振り込みなどで贈与の証拠を残す
- ・預金通帳・印鑑は、子が管理する
毎年、贈与契約書を作成し、都度の贈与であると証明を残しておきます。
金銭の授受も、毎年の贈与契約書にもとづいて、出入金を行う必要があります。
口座への振り込みにして、贈与の証拠を残すようにします。
預金通帳、印鑑は必ず贈与を受ける子が管理します。
これらが適正になされていないと、税務署から暦年贈与と判断されてしまいます。
暦年贈与と判断されてしまうと、贈与税の税負担は相続税よりも重いため、せっかくの相続税対策は台無しです。
行政書士などに依頼すると安心ですが、その分費用も発生します。
生命保険の契約者は子になるので、所得税の生命保険料控除は、子の所得税申告でのみ適用されます。
親が実質の保険料の負担者になるため、自分の生命保険料控除として申告したくなりますが、適用になりません。
生前贈与機能付き生命保険を利用する場合
それに比べると生前贈与機能付き生命保険を利用する場合は、保険会社に一任できる手軽さがあります。
生存給付金は、保険会社から毎年振り込まれますので、金銭のやり取りの煩わしさはありません。
毎年、支払い通知書が送られてきますので、贈与の証明になるので、贈与契約書を作成する必要はありません。
なによりも、暦年贈与の心配もありません。
しかし、この保険はリスクが高いことが多いので注意が必要です。
生前贈与機能付き生命保険は、比較的新しい保険商品になりますので、保険の契約の際には、元本割れなどのリスクをよく理解しなければなりません。
終身保険や年金保険は生前贈与に使える?
相続税対策として、生前贈与が有効であることがおわかりいただけたと思います。
贈与税が緩和されたといっても、それ相応の要件や縛りもあります。
住宅資金、教育資金、結婚・子育て資金は、控除の額も大きいですが、運用が厳しく、要件も複雑です。
その点、終身保険や年金保険は、生前贈与では、金額に制限はあるものの、自由に使えることは確かです。
しかし、前述した注意点についてはこの2つの保険にも当てはまることですので、しっかりおさえておきましょう。
まとめ
生前贈与が相続税対策として有効なのは間違いありません。
ただし、贈与税についてのポイントを抑える必要があります。
相続税の改正で相続税の負担が増えたとしても、相続税と比較すると、贈与税の税負担は大きいものです。
生命保険も活用できますが、これもリスクがありますので、万能とはいえません。
それぞれの制度の特徴をよく理解して、自分の財産にあった相続税対策を練る必要があるでしょう。
相続税対策を検討している方は、【厳選!相続税対策】22個の節税手法で相続税ゼロを目指す!の記事もあわせてご参考ください。
相続専門税理士の無料相談をご利用ください
ご家族の相続は突然起こり、何から手をつけていいか分からない方がほとんどです。相続税についてはとくに複雑で、どう進めればいいのか? 税務署に目をつけられてしまうのか? 疑問や不安が山ほど出てくると思います。
我々ベンチャーサポート相続税理士法人は、相続人の皆さまのお悩みについて平日夜21時まで、土日祝も休まず無料相談を受け付けております。
具体的なご相談は無料面談にて対応します。弊社にてお手伝いできることがある場合は、その場でお見積り書をお渡ししますので、持ち帰ってじっくりとご検討ください。
対応エリアは全国で、オフィスは東京、埼玉、千葉、横浜、名古屋、大阪、神戸の主要駅前に構えております。ぜひお気軽にお問い合わせください。