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最終更新日:2024/6/19

生計を同一とする家族とは?範囲や要件を具体例付きでわかりやすく解説

桑原 弾 (税理士・元国税調査官)
この記事の執筆者 元国税調査官・税理士 桑原弾

ベンチャーサポート相続税理士法人/社員税理士

大卒後、大阪国税局に採用。国税専門官として税務調査に従事した後、税理士としても10年を超えるキャリアを積み、現在は「相続に精通した税理士としての知識」と「元税務調査官としての経験」を両輪として活かした相続税申告を実践中。

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この記事でわかること

  • 「生計を同一とする家族」の意味
  • 「生計を同一とする家族」に該当する例としない例
  • 「生計を同一とする家族」を記載する主なケース

所得税や相続税などの控除要件や、児童手当などの子育て支援給付申請用紙、クレジットカードの申込フォームなどに「生計を同一とする家族」という言葉を見かけます。

「生計を同一とする家族」をいう言葉を目にすると、「子どもが就職して実家に住んでいる場合は?」「夫婦共働きの場合は?」などの疑問を抱く方もいるでしょう。

今回は、「生計を同一とする家族」について、該当する家族・該当しない家族それぞれの具体例や、生計を同一とする家族を記載する主なケースなどを解説します。

生計を同一とする家族とは

「生計を同一とする家族」とは、自身が生計を支える収入を得ている場合、その収入で生活費を自身と共有している家族を指します。

なお、「生計を一にする親族」「同一生計者」「生計を一にする者」などの用語は、すべて「生計を同一とする家族」と同じ意味です。

生計を同一とする家族の要件

「生計を同一にする」の意義については、所得税基本通達2-47(生計を一にするの意義)を参考にするのが一般的です。

(引用)所得税法基本通達2-47(生計を一にするの意義)
法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。
(1)勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。
イ 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
(ふだんは一緒に生活していないが、休暇期間中はだいたい一緒に生活している場合)
ロ これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合
(2)親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。

引用元:国税庁

ただし、これは所得税における考え方なので、相続税関連法令で使われている「生計を一にする」とは立法趣旨が異なります。

たとえば、小規模宅地等の特例の要件(同特例に基づき相続税の控除が受けられる要件)では「相続開始時点での被相続人との同居の実態」が求められます。

「生計を一にする」の意義が問題となった判例(東京高等裁判所2021年9月8日付判決)においても、「所得税法第56条と同様に解することは相当ではなく、あくまでも小規模宅地等の特例の趣旨にしたがって解釈すべきである」と判示しています。

生計を同一とする家族の範囲

所得税法上、扶養控除の範囲となる「親族」は、民法第725条の親族となり、以下が該当します。

  • 六親等内の血族
  • 配偶者
  • 三親等内の姻族

したがって、ある納税者Xさんからみた「生計を同一とする家族」は、Xさんの「親族」に該当する人の中で、Xさんと生活費を共有している人を意味することになります。

税制上の各種控除においては、同居要件や収入要件などが加わることもあります。

また、社会保険や労災保険上の「親族」は、民法による親族の範囲に加えて、事実婚の夫婦やその子どもなども「生計を同一とする家族」に含める場合があります。

引用元:No.1180 扶養控除 「親族」の範囲より

生計を同一とする家族に該当する家族の例

「生計を同一とする家族」に該当する家族は、所得税法通達2-47に基づいて、以下の基準で判断します。

  • 同居の有無は問題とならない
  • 同じ財布(=同一の収入源・資産)から生活費を出している
  • 別居している場合は、余暇を家族と一緒に過ごしている

具体例としては、以下が挙げられます。

同じ家で家族が一緒に生活している場合

まず、同じ財布で生活費を共にしている家族が、同じ家で暮らしているケースです。

法律婚の夫婦と子ども、両親と子ども夫婦などがこれにあたります。

また、納税者本人が独身で、独身の兄弟姉妹と同じ財布から生活費を出しているという場合も、「生計を同一とする家族」に該当します。

子どもが大学進学のために一人暮らしを始めた場合

子どもが大学進学のために一人暮らしを始めた場合、子どもの収入や親からの仕送りの状況によって「生計を一にする」状態といえるかを判断します。

仕送り額や、子どもの収入額などを証明できるよう、預金通帳などの書類を保管しておきましょう。

妻と子どもに収入がなく、家族全員分の生活費や子どもの学費などの支出がすべて夫の収入で賄われている場合には、子どもが別居していても夫婦と子どもが「生計を一にする」状態とみなされます。

また、共働きで、かつ子どもにアルバイトの収入がある場合でも、学費や子どもへの仕送りのうち夫の収入でカバーする割合が一定程度あれば、「生計を一にする」状態と認められます。

これに対して、子ども自身の収入のみで生活できる場合や、仕送り額が少額である場合などは、生計を一にするとは認められない可能性があるので注意してください。

世帯主が単身赴任で遠方に住んでいる場合

たとえば夫婦と子ども1人(学生)の家族において、夫が単身赴任により別居している場合、妻と子どもの生活費を誰が出費しているかがポイントとなります。

妻と子どもに収入がなく、家族全員分の生活費や子どもの学費をすべて夫の収入で賄っている場合は、夫婦と子どもは生計を一にしているとみなされます。

また、共働きで子どもにアルバイトの収入がある場合でも、夫婦・子どもの生活費や子どもの学費のうち夫の収入でカバーする割合が一定程度あれば、前項の場合と同様「生計を一にする」状態と認められます。

これに対して、妻の収入が多く、少なくとも子どものみにかかる費用(学費など)を除く支出はすべて妻の収入でカバーしているような場合は、夫と妻は「生計を一にする」状態と認められない可能性があります。

別居している両親の生活費を息子が仕送りしている

高齢の両親の収入が国民年金のみであるなどの理由で生活費が足りないため、別居している息子が毎月一定額を仕送りしているという場合は、別居していて住民票などの世帯が別々であっても「生計を一にする家族」にあたります。

生計を同一とする家族に該当しない家族の例

生計を同一とする家族に該当しないのは、同居しているが、「明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合」(前出の所得税基本通達2-47(2)の除外要件)です。

具体的には、以下のいずれかまたはすべてにあてはまる場合です。

  • 住民票の世帯が分かれている
  • 世帯ごとに不動産登記を共有持分で分けている
  • 収入や資産を別々に管理している
  • 食費を別々に管理している
  • 公共料金を別々に支払っている

具体例としては、以下が挙げられます。

同じ家屋の独立した区域で別々に生活している場合

たとえば、高齢の夫婦と息子夫婦が同一の家屋に住んでいるが、以下のような状況にある場合、両親と息子夫婦とは「生計を一にする」とはいえません

  • それぞれ別々の玄関から出入りして、台所・浴室・トイレも別々になっている
  • 水道光熱費のメーターも別回線で、インターネットの通信契約も別々にしている
  • 子どもの教育費などで単発的に親から援助を受けることはあるが、日常の生活費はそれぞれで支払っている
  • 住民票や社会保険制度上の世帯が分かれている

事実婚の夫婦の場合

同居していて結婚生活の実態はあるが、婚姻届を出していない事実婚カップルの場合、所得税法や相続税法との関係では「生計を一にする家族」とはいえません。

ただし、遺族年金や社会保険の埋葬料の申請要件としては、事実婚であっても生計維持をしていた家族として認められる場合があります。

生計を同一とする家族を記載する主なケース

ここでは、所得税・相続税・クレジットカード申込みなど、「生計を同一にする家族」を記載する主なケースをご紹介します。

所得控除で「生計を一にする」が判定要素となるケース

所得税では、所得控除を適用する際に「生計を一にする」が判定要素となることが多くあります。

「生計を一にする」が判定要素となっている主な所得控除は以下の通りです。

扶養控除

扶養控除(所得税法84条)とは、納税者に配偶者以外の扶養親族がいる場合に、一定金額の所得控除を受けられる制度です。

70歳以上の親族を対象とした老人扶養親族控除の場合は、同居の有無によって控除額に違いがあります。

区分 控除額
一般の控除対象扶養親族 38万円
特定扶養親族 63万円
老人扶養親族 同居老親等以外の者 48万円
同居老親等 58万円

引用元:No.1180 扶養控除(国税庁)

扶養控除の対象となる「扶養親族」とは、その年の12月31日時点での年齢が16歳以上であり、以下の要件をすべて満たした人をいいます

  • 六親等内の血族及び三親等内の姻族(都道府県知事から養育を委託された児童[里子]や市町村長から用語を委託された老人を含む)
  • 納税者と生計を一にしている
  • 年間合計所得金額が48万円以下(給与所得のみの場合は103万円以下)
  • 青色申告者の事業専従者として、その年を通じて一度も給与の支払いを受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと

配偶者控除

配偶者控除(所得税法第83条)とは、納税者に控除対象となる配偶者がいる場合、一定の所得控除を受けられる制度をいいます。

控除を受ける納税者本人の
合計所得金額
控除額
一般の控除対象配偶者 老人控除対象配偶者
900万円以下 38万円 48万円
900万円超950万円以下 26万円 32万円
950万円超1,000万円以下 13万円 16万円

引用元:
No.1191 配偶者控除(国税庁)

配偶者控除の控除対象となる配偶者は、以下の条件をすべて満たしている必要があります。

  • 納税者と法律上の婚姻関係が成立していること
  • 納税者と生計を一にしていること
  • 年間の合計所得金額が48万円以下(給与のみの所得の場合は103万円以下)
  • 青色申告者の事業専従者として、その年を通じて一度も給与の支払いを受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと

配偶者特別控除

配偶者特別控除(所得税法第83条の2)とは、配偶者に48万円(2019年分以前は38万円)を超える所得があるため配偶者控除の適用を受けられない場合でも、配偶者の所得金額に応じて、一定の所得控除を受けられる制度をいいます。

配偶者の合計所得金額が133万円を超える場合は、配偶者特別控除は適用できません。

控除を受ける納税者本人の合計所得金額
900万円以下 900万円超~
950万円以下
950万円超~
1,000万円以下
配偶者の
合計所得金額
48万円超~95万円以下 38万円 26万円 13万円
95万円超~100万円以下 36万円 24万円 12万円
100万円超~105万円以下 31万円 21万円 11万円
105万円超~110万円以下 26万円 18万円 9万円
110万円超~115万円以下 21万円 14万円 7万円
115万円超~120万円以下 16万円 11万円 6万円
120万円超~125万円以下 11万円 8万円 4万円
125万円超~130万円以下 6万円 4万円 2万円
130万円超~133万円以下 3万円 2万円 1万円

引用元:No.1195 配偶者特別控除(国税庁)

配偶者特別控除の適用を受けるためには、納税者及びその配偶者が以下の条件をすべて満たしている必要があります。

  • 納税者本人のその年における合計所得金額が1,000万円以下であること
  • 配偶者が以下の要件をすべて満たすこと
    イ 法律上の配偶者であること
    ロ 納税者本人と生計を一にすること
    ハ 青色事業専従者として、その年を通じて一度も給与の支払いを受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと
    二 配偶者控除の適用を受けないこと
    ホ 年間の合計所得金額が48万円超133万円以下であること
    へ 給与所得者の扶養控除等申告書に記載された「源泉控除対象配偶者」がある居住者として源泉徴収されていないこと
    ト 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として源泉徴収されていないこと

医療費控除

医療費控除(所得税法第73条)とは、納税者自身や納税者と生計を一にする配偶者その他の親族のために支払った医療費が年間10万円以上※である場合、所得金額から最高200万円まで控除を受けられる制度をいいます。

医療費控除の控除額:【その年に支払った医療費総額】-【保険金などで補填される金額】-10万円※
※その年の所得合計額が200万円以下の場合は所得合計金額の5%

医療費控除を適用する場合、納税者と生計を一にする配偶者や子どもなどの親族の分の医療費をまとめて確定申告します。

医療費控除の適用に「扶養の有無」は問題とされていません。

したがって、たとえば妻が夫の扶養に入っていない場合でも、妻の医療費を夫が支払った場合には夫の医療費控除の対象となります。

相続税で「生計を一にする」が判定要素となるケース

相続税で「生計を一にする」が使用されるのは、相続税の課税価格が減額される「小規模宅地等の特例」(租税特別措置法第69条の4)が適用される場合です。

小規模宅地等の特例は、土地の利用状況によって適用する制度の区分が異なります。

特定事業用宅地・特定居住用宅地・貸付事業用宅地の区分ごとに「生計を一にしている」ことが特例適用の判定に関係します。

制度の区分 「生計を一にする」が関係する部分
特定事業用宅地等 被相続人の親族が被相続人と生計を一にしていた者であり、相続開始時から相続税申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の事業用として利用していること
特定居住用宅地等 被相続人の親族が被相続人と生計を一にしていた者であって、相続開始時から相続税申告期限まで引き続き当該宅地を自己の居住用として利用していること
貸付事業用宅地等 被相続人の親族が被相続人と生計を一にしていた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業用として利用していること

一部の相続手続き

相続が発生した際に、被相続人と生計を同じくしていたことを証明する書類の提出が必要な手続きがあります。

たとえば、以下の請求手続きです。

  • 遺族年金
  • 特別遺族弔慰金
  • 社会保険から支給される葬祭費

前述のように、遺族年金や葬祭費の請求権者については、税法上の「生計を一にする親族」と考え方が異なります。

すなわち、事実婚の配偶者や(事実婚関係から生まれた)子どもも「生計を同一とする家族」として認められる場合があります。

クレジットカードの申込み

クレジットカードの新規作成の申込時に、申込フォーム(または申込用紙)に「生計を同一とする家族の人数」を記載する場合があります。

これは、クレジットカードの審査項目の一つで、申込者の世帯収入を判断するためのものです。

たとえば、夫婦と子ども1人の家族で、妻が専業主婦である場合、夫がクレジットカードの申込をする際の「生計を同一とする家族」の人数は「3人」で、世帯年収は夫の年収を記載します。

まとめ

「生計を同一とする家族」については、同じ言葉を使っていても立法趣旨によって対象範囲が異なります。

また、共働きの家族で夫が単身赴任している場合、子どもが学生で自力で生活費を払える程度のアルバイト収入がある場合などは、配偶者や子どもが「生計を同一とする家族」に含まれるかはケースバイケースなので、納税者本人では判断が難しいこともあるでしょう。

「生計を同一とする家族」の判断に迷った場合は、税理士に相談されることをおすすめします。

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