この記事でわかること
- 遺族年金を受給しても確定申告が必要ない理由
- 遺族年金受給者の節税方法
- 遺族年金の手続き方法
「夫が亡くなったので遺族年金を受給することになったのですが、老齢厚生年金と同じように確定申告が必要でしょうか?」
「遺族年金をもらっていても子どもの扶養に入れば子どもが節税できると聞いたのですが、扶養に入れる受給額の上限などはありますか?」
このように、配偶者が亡くなって遺族年金を受給することになった方は、税金の問題について色々知りたいことがあるのではないでしょうか。
今回は、遺族年金受給者について、確定申告が必要ない理由や、遺族年金を受給しながら節税・節約する方法、遺族年金の受給申請手続きなどを解説します。
目次
遺族年金を受給しても確定申告は必要ない
老齢厚生年金など、老齢年金はその受給額に応じて課税されます。
しかし、遺族年金については遺族厚生年金、遺族基礎年金などの種類を問わず、課税対象とされていません。
つまり、所得税、住民税、相続税など、課されうるすべての税金がかからないことになります。
非課税のため、遺族年金については受給額の多い少ないにかかわらず、確定申告も必要ありません。
ここではまず、なぜ遺族年金が非課税になるのかを説明します。
年金などの給付金は原則として非課税
遺族年金が非課税になる理由は、法律により「国から支給される年金や手当などの給付金は原則非課税とする」と決まっているためです。
ただし、老齢年金については、例外的に課税されることになっています。
たとえば、厚生年金保険法第41条は、「租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金銭を標準として、課すことができない。ただし、老齢厚生年金については、この限りではない」としています。
この条文からも、老齢厚生年金は例外的に課税対象となっていますが、年金給付が原則として非課税であることがわかります。
他に収入がなければ確定申告は不要
収入が遺族年金だけの場合は、受給額にかかわらず非課税となるので、確定申告は必要ありません。
しかし、他に収入がある場合、確定申告が必要になるケースがあります。
遺族年金受給者で確定申告が必要なケースとしては、以下が挙げられます。
被相続人の未支給年金がある場合
未支給年金とは、本来支給される年金のうち、被相続人が死亡した時点でまだ受け取っていなかった部分のことをいいます。
国民年金や厚生年金などの公的年金は、受給者が死亡した月の分までもらうことができます。
ただし、死亡した月の分(場合により、死亡当月プラス前月の分)の支給は死亡当月の翌月以降になります。
そのため、受給者が亡くなった時点では必ず未支給年金が発生します。
このほか、企業年金や個人年金保険などの私的年金でも、未支給年金が発生する場合があります。
さらに、私的年金に一定の保証期間がある場合、期間内に受給者が亡くなった場合には、残りの期間の年金が未支給年金となります。
この未支給年金については、相続税の課税対象になります。
しかし、遺族の一時所得として所得税・住民税の課税対象となります。
一時所得の金額は、以下の式で計算してください。
一時所得の金額:総収入-経費-特別控除額(50万円)
未支給年金が一時所得となる場合は、経費は考慮しなくてよいので、総収入から特別控除額を差し引いて計算します。
したがって、50万円を超える未支給年金を受け取った場合は、50万円を超える部分の額に2分の1を掛けた額を、他の所得と合算して税額を計算します。
たとえば、公的年金・私的年金の未支給年金の合計が70万円あった場合、以下の額を他の所得と合算して税額を計算して申告を行ってください。
(70万円-50万円)×1/2=10万円
給与以外の所得が年間20万円以上あった場合
給与以外の所得が年間20万円以上発生した場合は、所得金額について確定申告を行い、算定された所得税を納税しなければなりません。
給与以外の所得としては、以下のようなものがあります。
- 自分で事業を行って発生した事業所得
- 家賃収入などの不動産所得
- 被相続人が亡くなったときに未支給だった年金を受け取った場合の受領額
- 保険金を受け取った場合の一時所得
- 保険会社の年金を受け取った場合の雑所得
遺族年金を受け取るようになった最初の年は、相続によってそれまでになかった所得が発生する場合があります。
たとえば、未支給年金(50万円を超える場合の超過分)や、生命保険などの所得についても一緒に確定申告する必要があるので注意が必要です。
給与所得があり、年末調整を受けなかった場合
通常、会社の正社員やパート、アルバイトとして給料の支払いを受ける人は、勤務先で年末調整を受けるため、確定申告を行う必要はありません。
しかし、給与所得者でも、就労の状況によっては確定申告が必要になる場合もあります。
たとえば、その年の途中で会社を退職して年末まで再就職しなかった場合、年末調整を受けていないことになります。
このような場合は、当年分の税額について最終的な計算を行っていない状態なので、確定申告が必要です。
また、2カ所以上の勤務先から同時に給料の支払いを受けていた場合も、1年分のトータルの税額の計算を行っていないので確定申告しなければなりません。
遺族年金受給者が節税・節約する方法
遺族年金は非課税なので、それ自体は「節税」することはできません。
しかし、仮に遺族年金受給者本人が節税できないとしても、家族も含めるとその家族の税金関係で節約できる場合があります。
ここでは、遺族年金受給者が節税・節約する方法をみていきましょう。
遺族年金の受給者が家族の扶養に入る
まず、遺族年金の受給者が家族の扶養に入るという方法があります。
課税所得がゼロなので受給額に関係なく扶養家族になれる
遺族年金受給者の中には、年金収入が会社の正社員と同等の額になっている方もいます。
受給額だけをみると、家族の扶養に入ることはできないとも思えるかもしれません。
家族の扶養に入って扶養控除の適用を受けるための要件は、年間の「所得」が48万円以下とされています。
ただ、遺族年金は非課税なので、受給額がどれほど多くても「所得」はゼロということになります。
つまり、遺族年金を受給していることは、扶養控除の適用を受ける際の判定には影響しません。
これにより、仮に多額の遺族厚生年金を受給していたとしても、家族の扶養家族になることは可能になります。
扶養控除の額と家族の税額への影響
遺族年金受給者が家族の扶養に入った場合、その家族は所得税・住民税の控除を受けられます。
控除額は、遺族年金受給者の年齢(70歳未満・70歳以上の別)とその家族との同居・別居によって以下の表の通りとなります。
遺族年金受給者の 年齢・対象家族との 同居の有無 |
所得税控除額 | 住民税控除額 |
---|---|---|
70歳未満 | 38万円 | 33万円 |
70歳以上・別居 | 48万円 | 38万円 |
70歳以上・同居 | 58万円 | 45万円 |
(参照元:国税庁https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm )
たとえば、年間の所得が500万円の人が、遺族年金受給者を扶養家族にした場合、所得税・住民税を節税できる額はそれぞれ以下の表の通りとなります。
遺族年金受給者の 年齢・対象家族との 同居の有無 |
所得500万円の人の所得税節税額 |
所得500万円の人 の住民税節税額 |
---|---|---|
70歳未満 | 約77,600円 | 33,000円 |
70歳以上・別居 | 約98,000円 | 38,000円 |
70歳以上・同居 | 約118,400円 | 45,000円 |
(参照元:国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm)
扶養に入ることで社会保険料も節約できる
また、遺族年金の受給者が家族の社会保険上の扶養に入ることで、自身が国民健康保険料を納付する必要がなくなります。
社会保険上の扶養に入ることができる要件は、年齢区分や同居・別居の別によって以下の表の通りとなります。
なお、表では便宜上「遺族年金受給者」の年齢や年収を問題にしていますが、この年収その他の要件は、遺族年金を受給しているか否かによって違いはありません。
遺族年金受給者の 年齢・対象家族との 同居の有無 |
社会保険上の扶養に入ることが可能な遺族年金 受給者の年収等 |
---|---|
60歳未満・同居 | 遺族年金受給者の年収130万円 |
60歳~75歳・別居 | 遺族年金受給者の年収180万円以下+ 被保険者からの仕送り額より年収が少ない |
60歳~75歳・同居 |
遺族年金受給者の年収180万円以下+ 同居する被保険者本人の年収の2分の1未満 |
遺族年金の手続き方法・必要書類
遺族年金には、遺族厚生年金と遺族基礎年金の2種類があります。
遺族基礎年金は、国民年金加入中の方が被相続人である場合の18歳以下の子どものいる配偶者または、被相続人に扶養されていた子どもが受給できます。
ここでは、遺族厚生年金の手続き方法及び必要書類をご説明します。
遺族年金の手続き方法
遺族年金の手続き方法は、以下の流れで行います。
- 年金請求書を取得して記入する
- 年金請求書に添付する書類を用意する
- 書類を提出する
年金請求書は、年金事務所や年金相談センターの窓口に備え付けてあるほか、日本年金機構のホームページからダウンロードできます。
必要書類については次項を参照ください。
年金請求書及び添付書類は、最寄りの年金事務所または年金相談センターに提出します。
書類提出後2カ月以内に「年金証書」などの書類が自宅宛てに届きます。
その1~2カ月後の偶数月から、指定口座に2カ月分の年金が振り込まれます。
遺族年金の請求に必要な書類
遺族年金を請求する際、年金請求書とともに、受給資格を満たしていることを証明できる書類を提出します。
必ず提出する書類
前述したように、様々な提出書類が必要になりますが、そのうち必ず提出を求められるのは、以下の表のものです。
書類 | 備考 |
---|---|
年金手帳 | |
戸籍謄本 | 受給権発生日(年金加入者が死亡した日)以降で提出日から6カ月以内に交付されたもの) |
世帯全員の住民票の写し | |
死亡者の住民票の除票 | 世帯全員の住民票の写しに含まれている場合は不要 |
請求者の収入が確認できる書類 | 所得証明書、課税証明書または非課税証明書、源泉徴収票など |
子どもの収入が確認できる書類 |
中学生以下は不要 高校以上の学校に在学中の場合は在学証明書または学生証 |
死亡診断書のコピーまたは死亡届の記載事項証明書 | |
請求者(遺族)名義の受取先金融機関の通帳など | |
請求者の印鑑 |
死亡原因が第三者の行為による場合に必要な追加書類
事故など、第三者の行為が原因で亡くなった場合は、さらに以下の書類の提出が必要となります。
書類 | 備考 |
---|---|
第三者行為事故状況届 | |
交通事故証明または事故の状況が確認できる書類 | 事故の内容・状況がわかる新聞の写しなど |
確認書 | |
(被害者に被扶養者がいる場合) 扶養していたことがわかる書類 |
源泉徴収票、健康保険証の写し、学生証の写しなど |
損害賠償金の算定書 | すでに損害賠償金が決定済みの場合 |
その他、他の年金を受給している場合の当該年金証書など、個別に提出が必要な書類もあります。
遺族年金受給者は医療費控除を受けられない
遺族年金受給者は、他に課税対象となる収入がない限り、医療費控除を受けることはできません。
医療費控除は課税所得に対する控除であるため、課税所得ではない遺族年金から控除することができないためです。
まとめ
遺族厚生年金を受給している方は、他に収入がなければ年金の受給額にかかわらず非課税となるため、確定申告は必要ありません。
また、他の家族の扶養に入ることで、家族の負担する税金を節税することもできます。
一方、遺族年金以外に収入がある場合には、一定額を超えると確定申告が必要になります。
確定申告が必要かどうかなど、税金のことで気になることがありましたら、お気軽に税理士にご相談ください。
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