この記事でわかること
- 包括遺贈とは何か、包括遺贈と特定遺贈の違いも理解できる
- 包括遺贈のメリット・デメリットがわかる
- 包括遺贈を行う手順や流れがわかる
- 包括遺贈の注意点が理解できる
自分の死後、相続に関して自分の意思を反映させる方法として、遺言によって特定の方に財産を与える遺贈という方法があります。
相続人が話し合って分け方を決める遺産分割協議とは異なり、遺言書を作成しておけば法定相続人だけでなくそれ以外の特定の方へ財産を遺すことも可能です。
ただし、遺贈にも包括遺贈と特定遺贈の2種類あり、どちらを選択するかはそれぞれの特徴などを把握した上で決めることが大切です。
包括遺贈とは「財産全体の40%を遺贈する」といった財産の割合を指定する遺贈方法です。
対して、特定遺贈とは特定の財産を遺贈する方法です。
以下では、包括遺贈とは何か、包括遺贈と特定遺贈の違い、包括遺贈のメリット・デメリットについて紹介します。
また、包括遺贈を行う手順・流れ、包括遺贈の注意点についてもあわせて詳しく紹介します。
目次
包括遺贈とは
遺贈は、生前に遺言書を作成して、自分の財産を無償または一定の義務を果たす条件を付けて譲渡する相続の方法です。
相続人が全員で話し合って遺産の分け方を決める遺産分割協議とは異なり、法定相続人ではない方にも財産を遺すことができる方法です。
法定相続人には該当しない、孫や介護をしてくれた長男の嫁、ボランティア団体、会社などに財産を与えることも可能です。
ただし、遺贈にも包括遺贈と特定遺贈の2種類あり、それぞれ権利や義務、受遺者が受け取る手続きなどが異なっています。
包括遺贈は、財産全てや半分など財産の割合を指定する遺し方で、相続人と同等の権利や義務を負うことが特徴です。
つまり、借金などマイナスの財産があれば合わせて相続し、他の相続人とともに遺産分割協議で財産の分け方を具体的に協議することになります。
一方、特定遺贈は、特定の財産を指定して与える遺し方です。
包括遺贈とは異なり、マイナスの財産があるとしてもそれを相続することにはなりません。
包括遺贈のメリット・デメリット
包括遺贈は、法定相続人には該当しない第三者にも、相続人と同等の権利や義務を与えることができる方法です。
このため、遺産を受け取る受遺者にはメリットがあるとともに、デメリットも生じることになります。
包括遺贈のメリット
包括遺贈では、与える財産を具体的に特定せず、2分の1など割合で指定することになります。
このため、どの財産を受け取るかについては、相続人とともに遺産分割協議に参加して決めることになります。
この際、受遺者に希望があれば遺産分割協議で申し出て、話し合いで認められれば希望する財産を譲り受けることが可能です。
また、遺言書を作成したときから月日が過ぎれば、財産の種類や構成にも変化が生じる可能性があります。
たとえば、年金などの支給によって現金や預貯金が増える可能性や預貯金を解約して不動産を購入する可能性もあります。
このように、遺言書を作成したときに保有していた財産に変化が生じた場合でも、受遺者には指定された割合が保証されることになります。
包括遺贈のデメリット
包括遺贈では、受遺者は法定相続人と同等の権利だけでなく義務も引き継ぐことになります。
このため、借金などマイナスの財産があれば、他の相続人とともにそれも引き継ぐことになるデメリットがあります。
このような場合は、遺贈を放棄することが可能ですが、遺贈の放棄は3か月以内に家庭裁判所に申立てを行わなければなりません。
この期間に手続きを行わなければ遺贈を受けたことになり、借金の返済義務が生じてしまいます。
また、引き継ぐ財産は遺産分割協議で決めることになるため、他の相続人と話し合いを行う必要が生じます。
場合によっては、財産争いのトラブルに巻き込まれる恐れもあるということが言えます。
特定遺贈との違い
「包括遺贈と特定遺贈はどう違うの?」と思うひとがいるかもしれません。
具体的には、下記のような違いがあります。
- ・包括遺贈:財産の割合で遺贈
- ・特定遺贈:特定の財産のみ遺贈
包括遺贈は「財産の50%を遺贈」と、全体の財産に対して割合で遺贈します。
対して、特定遺贈は「不動産のみを遺贈」と、特定の財産に絞って遺贈します。
包括遺贈なら、受遺者が希望する財産を相続できます。また全体の財産が変化した場合も、割合で遺贈金額を決めるため、変化にも柔軟に対応できます。
ただし他の相続人との話し合いが必要だったり、もし負債がある場合は、負債も引き継いだりする可能性があります。
「なるべく受遺者の希望通りに遺贈してあげたい」
「負債もなく、相続人との話し合いも問題ない」
という場合は、包括遺贈がおすすめです。
特定遺贈は、遺贈する財産を事前に指定しているので、受遺者がトラブルに巻き込まれません。
もし負債があったとしても関係なく、特定の財産のみ相続して終わりです。
「受遺者を相続トラブルに巻き込みたくない」
「遺贈したい財産が決まっている」
という場合は、特定遺贈がおすすめです。
包括遺贈を行う手順・流れ
包括遺贈を行うために必要な手続きの他、遺贈した方が亡くなった後に受遺者が手続きなどで困らないようにどうすべきかを確認しておきましょう。
必要な手続きの手順・流れ
遺贈を行うためには、遺言書を作成することが必要です。
財産を引き継がせたい受遺者を決め、遺言書において「すべての財産を遺贈する」「遺産の2分の1を遺贈する」などと指定すれば遺贈できます。
遺贈は、遺言者の死後に有効になります。
では、遺贈を決めるために必要な手順を具体的に確認しておきましょう。
受遺者を決める
受遺者は、法定相続人でもそれ以外の第三者でも良く、生前贈与や死因贈与などのような契約ではないため、与える相手の承諾は必要ありません。
与える財産を決める
財産については割合だけを指定することになり、マイナスの財産も含めて受遺者へ遺贈されます。
なお、法定相続人それぞれに与えられる遺留分を侵害しないよう注意する必要があります。
遺留分は、兄弟姉妹以外の配偶者や子、親などの法定相続人に認められている遺産の最低限の取得割合です。
遺留分を侵害してしまうと、受遺者が侵害された相続人から遺留分を請求されるなどのトラブルに発展する恐れがあります。
遺言執行者決める
遺言の執行者を決めておくと、相続時のトラブルを防ぐことができます。
遺言執行者は、相続財産目録の作成や金融機関での預金解約手続き、不動産の名義変更手続きなど遺言の内容を実現するために必要な行為を行う権限を持ちます。
執行者がいれば、受遺者が法定相続人の協力を得られない場合でも、不動産の相続手続きなどを支障なく執り行うことができます。
死後に遺言執行者を決める場合は、家庭裁判所への申立て手続きが必要になってしまいます。
手続きなどで困らないためにどうすべきか
包括遺贈を受けた方は、遺言の中では割合が指定されるだけで、具体的な財産が決まってはいません。
このため、遺産分割協議に参加し、指定された割合に相当する具体的な財産を決めなければなりません。
不動産の遺贈を受けた場合、法務局での名義変更登記の申請手続きを単独で行うことができず、法定相続人全員の協力が必要になります。
万が一、他の相続人の協力が得られない場合は、家庭裁判所への遺言執行者の選任申立ての手続きが必要になることを覚えておきましょう。
包括遺贈の注意点
ここまで述べてきたように、包括遺贈は遺す側も受ける側も注意しなければならない点があります。
ここまでに触れてきたものも含め、主な注意点を整理しておきましょう。
負債も引き継ぐ
遺す方に負債がある場合は、プラスの財産とともに負債も引き継がれます。
たとえば3分の1の割合で財産を包括遺贈されれば、負債の3分の1についても引き継ぐことになります。
負債を引き継げば、債権者からは支払いを請求される可能性があります。
放棄もできる
包括遺贈は契約ではないため、遺言者の一方的な意志だけで遺贈を決めることができますが、これを放棄することも可能です。
原則として遺贈があったことを知ったときから3か月を期限に、家庭裁判所に放棄の申立てを行う必要があります。
ただし、この場合はマイナスの財産だけなど一部を放棄することはできず、遺贈の対象となる財産全てを放棄することになります。
先に受遺者が死亡した場合は無効
包括遺贈を行うために遺言書を作成しても、遺言者より先に受け取るべき受遺者が死亡した場合は遺贈は無効です。
相続での代襲相続のように、相続人が亡くなった場合に代わりに誰かが遺贈を受けることはありません。
遺言執行者の指定
遺贈に不動産が含まれている場合、名義変更登記の際に受遺者が単独で登記の申請を行うことができません。
遺言執行者が指定されていれば手続きを行うことができるものの、指定されていない場合は法定相続人全員の協力が必要になります。
しかし、相続人以外の見知らぬ第三者が受遺者の場合、遺産を失う法定相続人から積極的な協力が得られるとは考えにくいものです。
このため、遺贈を確実に実行するためには、遺言書で遺言執行者を指定しておくことが望ましいでしょう。
遺留分を侵害しない
遺贈する財産について、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる遺留分を侵害しないように注意しなければなりません。
遺留分は、配偶者や子、父母・祖父母などの直系尊属に認められているもので、兄弟姉妹にはありません。
この遺留分は、相続財産に対する割合として決まりますが、誰が相続人になるかによって異なります。
たとえば、法定相続人が配偶者だけ、または子だけなら2分の1、直系尊属だけなら3分の1がそれぞれの遺留分です。
また、相続人が配偶者と子の場合の遺留分はそれぞれ4分の1、配偶者と父母の場合は配偶者3分の1、父母6分の1のようになります。
遺留分のある相続人から請求された場合、受遺者は遺留分相当額を支払わなければなりません。
遺産分割協議が円滑に進まないこともある
財産の全てを遺贈したい場合でも、通常は遺留分を除いた財産の割合を遺言書で受遺者に指定することになります。
遺贈を財産に対する割合で指定された受遺者は、具体的な遺産を決めるために他の法定相続人とともに遺産分割協議に参加する必要があります。
しかしこの際、他の法定相続人には引き継ぐ財産についての不公平感が生じやすいもので、遺産分割協議が円滑に進まないことやトラブルに発展する恐れもあります。
特に、特定の法定相続人に手厚く遺すケースや、法定相続人以外の見知らぬ第三者に包括遺贈するケースではこのような事態が発生しやすくなります。
単独で決めることができる遺贈とはいえ、慎重に検討し、あらかじめ親族間で合意を得ておくなどの対策が望ましいといえます。
遺贈にも相続税がかかる
遺贈も相続税の対象です。
つまり、基礎控除を超える遺贈では受遺者に相続税が課されることになります。
基礎控除は通常の場合3000万円+(法定相続人の人数×600万円)で求められますが、受遺者が法定相続人以外の場合基礎控除額は3000万円のみとなります。
また、受遺者が亡くなった方の配偶者や父母・子以外の場合は、相続税が20%加算されることにも注意が必要です。
遺贈について悩んだら専門家に依頼しよう
遺贈について悩んでいるなら、専門家への相談がおすすめです。
ここからは、専門家に相談するメリットを紹介します。
相続税の対策ができる
遺贈や相続では、税金がかかるケースがあります。
基礎控除と呼ばれる非課税枠を超えた遺贈・相続が、課税の対象です。
例えば財産が4,000万円以上があり、基礎控除が3,000万円であれば、残りの1,000万円が課税対象です。
相続税は他の税金に比べて、税率が高く設定されています。
そのため相続税対策をしておかなければ、高い税金を払うことになります。
相続税を抑えるには、非課税枠を増やす「特例」という仕組みを活用しなければいけません。
特例とは条件を満たせば利用できるもので、中には不動産の評価額を80%も減額できるものもあります。
相続に慣れた税理士に相談することで、相続の状況を見ながら、一番節税できる方法を教えてくれます。
「相続税で損をしたくない」という人は、まず税理士への相談がおすすめです。
有効な遺言書を作成できる
遺贈・相続は、遺言書を作成して相続内容を指定します。
遺言書は正しく作成すれば、法的な効力を持つ有効な手段です。
しかし遺言書の作成にミスがあると、法的な効力を発揮できません。
遺言書は自作も可能ですが、ミスの可能性が高くなるため、できれば専門家に依頼した方がいいでしょう。
まとめ
遺言書を作成しておくことによって、死後に財産を誰にどのように遺すかを予め指定しておくことができます。
しかし、包括遺贈と特定遺贈では相続の手続きを進める上で違いが生じます。
指定した受遺者や遺贈の内容によっては、遺産分割協議や不動産の相続登記などにおいて他の相続人とのトラブルが生じる恐れもあるのです。
いわゆる争続と呼ばれるような財産争いになってしまえば、遺贈の意味が失われてしまうかもしれません。
このため、遺言書の作成に際しては、それぞれの特徴と違いを理解した上で最善の分け方を考えておかなければなりません。
また、遺贈された方にとっても、他の相続人とのトラブルに巻き込まれないためには、両者の手続きの違いを理解しておくことが重要と言えます。
遺贈を検討している方も遺贈された方も、遺言書の書き方や取り扱い方法について不安がある場合は、早めに相続に詳しい専門家に相談することがおすすめです。
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