この記事でわかること
- 単純承認の概要
- 単純承認のメリット・デメリット
- 単純承認とみなされる行為とは
「単純承認とみなされる行為があるらしいけど、どういうこと?」
「単純承認って分かりやすく言うと何?」
相続に関して調べている方の中には「単純承認」という言葉に対して疑問が生じた方もいるのではないでしょうか。
相続が発生すると、相続人は「単純承認」、「限定承認」、「相続放棄」の3つの方法から選択することになります。
何も手続きをしないまま一定期間が過ぎると、自動的に「単純承認」が成立しますが、「単純承認」は、亡くなった人のプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産もすべて引き継ぐことを意味するため、注意が必要です。
この記事では、単純承認の概要や他の2つの相続方法との違いなどを中心に解説します。自動的に単純承認とみなされる「法定単純承認」も取り上げますので、是非参考にしてください。
目次
単純承認とは?
単純承認とは、被相続人(亡くなった方)が有していた権利義務のすべてを、無条件ですべて引き継ぐ相続方法です。
単純承認を選択する場合、特別な手続きを行う必要はありません。相続発生後に相続人が何もしなければ、原則として単純承認が自動的に選択されることになります。
ただし、単純承認を選択した場合、被相続人が保有する「プラスの財産(預貯金や不動産など)」だけでなく、「マイナスの財産(借金や保証債務など)」もすべて引き継ぐことになります。
仮に被相続人が保有するマイナスの財産がプラスの財産を上回っていた場合、単純承認を選択した相続人はそのすべての債務を承継し、自身の財産から返済する義務を負うことになります。
熟慮期間を過ぎると自動的に単純承認となる
相続人は「自己のために相続の開始があったことを知った日」から3カ月以内に「単純承認」「限定承認」または「相続放棄」のいずれかを選択することになります。
民法第915条
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる
引用元 民法 | e-Gov 法令検索
この3カ月の期間を「熟慮期間」といい、熟慮期間の計算時に初日は算入されないため、「自己のために相続の開始があったことを知った日」の翌日から起算がはじまります。
熟慮期間内に家庭裁判所へ限定承認や相続放棄の申述手続きをしないまま3カ月が経過してしまうと、自動的に単純承認をしたものとみなされます。
単純承認や限定承認、または相続放棄を選択するには、被相続人が持つ相続財産の調査や相続人の確定などを熟慮期間内に進める必要があります。
- 相続人の確定
- 被相続人の出生から亡くなるまでの全ての戸籍謄本等(除籍、改製原戸籍を含む)を取得し、法定相続人の調査を行います。特に限定承認を選択する場合は、相続人全員の同意が必要なため、漏れなく行わなければなりません。
- 相続財産の調査
- 熟慮期間内に被相続人が保有するプラスの財産とマイナスの財産を調査します。
- 他の相続人への説明と同意を取る(限定承認を選択する場合)
- 限定承認を選択する場合は、法定相続人の調査が終わった後に他の相続人全員(相続放棄をした人を除く)に連絡を取る必要があります。制度内容を説明したうえで同意と協力を取り付けます。
- 家庭裁判所への申述手続き(限定承認・相続放棄を選択する場合)
- 限定承認・相続放棄を選択する場合は、熟慮期間内に被相続人が亡くなった時点の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述手続きを行う必要があります。
なお、「期間内に相続財産の調査が間に合わない」、「複数の相続人の所在が不明」であるなど、やむを得ない事情がある場合には、家庭裁判所に申し立てることで熟慮期間の延長が認められる可能性があります。
単純承認をしたとみなされるケース「法定単純承認」
相続人が「単純承認を選択する」という意思表示をしていなくとも、民法第921条に定められた特定の行為を行った場合、自動的に単純承認をしたものとみなされます。これを「法定単純承認」といいます。
民法第921条
(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
引用元 民法 | e-Gov 法令検索
一度「法定単純承認」が成立してしまうと、原則として限定承認や相続放棄を行うことはできなくなるため、後から被相続人が保有する債務等が発覚した場合にも、相続人がそれを引き継がなければなりません。
そのため、相続財産の状況が不明なまま不用意な行動を取ることは、リスクを伴う可能性があります。
単純承認・限定承認・相続放棄の違い
相続が発生した場合、相続人は「単純承認」「限定承認」「相続放棄」という3つの相続方法から選択することになります。
「単純承認」は被相続人のすべての権利や義務を相続人が無制限・無条件に引き継ぐ方法である一方、「相続放棄」は、被相続人の権利や義務を相続人が一切引き継がない方法です。
「限定承認」は、前述した二つの手段の中間的な性質を持つ相続方法で、それぞれ以下のような違いや注意点があります。
単純承認 | 限定承認 | 相続放棄 | |
---|---|---|---|
概要 | 被相続人のすべての財産(プラスの財産もマイナスの財産も)を無制限・無条件に引き継ぐ相続方法 | 相続財産のうち、プラス財産の範囲でマイナス財産を弁済し、残ったプラスの分だけ引き継ぐ相続方法。 | 相続財産のうち、プラスもマイナスも含めて、全ての財産を引き継がない相続方法。 |
手続き期間 | 相続の開始を知ったときから3カ月を過ぎると、自動的に単純承認したとみなされる | 自己のために相続の開始があったことを知った日から3カ月以内。 | 自己のために相続の開始があったことを知った日から3カ月以内。 |
手続き方法 | 特別な手続きは不要 | 家庭裁判所に対して、相続人に該当する全員が共同で申述を行う。 | 家庭裁判所に対して、相続人それぞれが単独で申述を行う。 |
注意点 | 単純承認は手続きが簡単である反面、被相続人の借金などの債務も無制限に引き継ぐリスクがある。 | 相続財産のうちプラス分で引き継いだ財産のうち譲渡所得の起因となる財産は、時価で譲渡されたとみなされ、課税の対象となる。 | 不要なものだけ放棄はできず、必要である財産も含めてすべての財産の相続権を放棄しなければならない。 |
適用されるケース | ・相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内に限定承認や相続放棄の手続きを取らなかった場合 | ・相続財産の内容が不明である場合 ・代々の不動産や家宝など、引き継ぎたい大切な財産がある |
・被相続人が明らかな債務超過である場合 |
ここからは、単純承認を選択した場合のメリットとデメリットを、深堀りして解説します。
限定承認のメリット
単純承認を選択する場合、以下のメリットがあります。
- 特別な手続きが不要
- 限定承認や相続放棄とは異なり、家庭裁判所への申述(申立て)などの手続きを行う必要はありません。また、限定承認のように相続人全員の同意が必要なわけでもないため、各相続人自身の判断で単純承認を選択することができます。
- 相続財産をすべて包括的に承継できる
- 単純承認を選択した場合、被相続人が保有するすべての権利や義務をそのまま引き継ぐことができます。たとえば、被相続人のプラスの財産がマイナスの財産を大幅に上回っていることが明確な場合、単純承認を選択すると即座に遺産分割へと移れます。
単純承認のデメリット
単純承認のデメリットは、被相続人に多額の負債があった場合に、その負債も無制限に引き継ぐ義務が生じる点にあります。
たとえば、被相続人のプラスの財産が1,000万円でマイナスの財産が2,000万円という債務超過の状態であれば、差額である1,000万円の負債だけでなく、2,000万円の負債全額を相続人が引き継ぐことになります。
この場合、相続人は相続した1,000万円のプラスの財産を返済に充てた上で、なお不足する1,000万円を自身の財産からも弁済する責任を負うことになってしまいます。
一度、単純承認を選択(または法定単純承認が成立)後、被相続人に多額の負債があることが発覚した場合でも、原則として相続放棄や限定承認に切り替えることはできません。
法定単純承認とみなされる具体的な行為とは
相続発生後、何も手続きを取らずに3か月が経過すると、相続人が意図せず単純承認が成立してしまうため、相続放棄や限定承認を考えている場合には、特に注意が必要です。
ここからは、法定単純承認とみなされる具体的な行為について、解説します。
- 法定単純承認とみなされる行為
- 熟慮期間内の手続き不履行
- 相続財産の「処分」
- 相続財産の隠匿や消費などの「背信的行為」
熟慮期間内の手続き不履行
相続人が「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3カ月の熟慮期間内に、限定承認または相続放棄のいずれの手続きも行わなかった場合、単純承認をしたものとみなされます。
仮に相続放棄や限定承認の選択を検討していたとしても、熟慮期間内に家庭裁判所への申述手続きを行わなければ、自動的に単純承認が成立してしまいます。
相続人が財産状況の調査を怠るなどして判断を先延ばしにした結果、自動的に単純承認が成立してしまうケースもあるため、注意が必要です。
相続財産の処分
相続人が被相続人の相続財産の全部または一部を「処分」した場合、法定単純承認に該当する行為となります。
ただし、何が処分行為に該当するか否かは、相続人が行為を行った目的や行為の内容などの要素で判断されます。
処分行為に該当するかどうかの判断には専門知識が必要なため、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
- 被相続人の債務を相続財産から弁済する
- 被相続人の相続財産から債務を弁済した場合、相続財産を減少させる処分行為と判断される可能性があります。
- 被相続人が借りていた賃貸物件の解約
- 被相続人の資産価値の高い持ち物を売却する
- 被相続人名義の持ち家や車、家具、家電など資産価値のあるものを売却した場合、処分行為に該当する可能性が高いです。
- 資産的な価値があるものを「形見分け」する
- 貴金属、宝飾品、高価な時計や絵画など、資産的な価値があるものを形見分けとして分配した場合、処分行為と見なされる可能性があります。なお、被相続人の身の回り品(衣類や日用品など)の形見分けに関しては、資産的な価値がなければ基本的には問題ありません。
- 被相続人自身が受取人の解約返戻金を受け取る
- 被相続人が保険料負担者・受取人であった保険契約の「解約返戻金」を受け取る権利は、被相続人の財産としてみなされます。そのため、相続人がその保険契約を中途解約して解約返戻金を受け取った場合、相続財産を処分したと判断される可能性があります。
被相続人の賃借権(賃借権契約を結ぶ権利)は相続財産の一部とみなされるため、被相続人が借りていた賃貸物件を相続人が解約した場合、賃借権という財産を消滅させる処分行為に該当すると判断される可能性があります。
相続財産の隠匿や消費などの「背信的行為」
相続放棄または限定承認後に「背信的行為」を行った場合、その相続人は単純承認をしたものとみなされ、それまでに行った相続放棄や限定承認が無効となる可能性があります。
- 相続財産の隠匿(いんとく)
- 限定承認または相続放棄後に、相続財産の全部または一部の存在を、他の相続人や債権者などから意図的に隠す行為。
- 相続財産を私に消費(ひそかにしょうひ)する行為
- 限定承認または相続放棄後に、相続財産を自分勝手に処分したり売却したりして、その財産の原形や価値を失わせる行為。
- 相続財産を悪意で財産目録に記載しない(限定承認を選択した場合)
- 限定承認を選択した場合、財産目録を家庭裁判所に提出する必要があります。このとき、財産目録へ悪意を持って財産の一部(マイナスの財産を含むプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含む)を記載しなかった場合、背信的行為とされる可能性があります。
相続財産の処分にならない行為もある
相続人が相続財産に対して行った行為が「保存行為」に該当する場合、相続財産の処分とはみなされません。
「保存行為」とは、相続財産の価値を維持するために必要な行為を指し、「壊れかけている家屋を修繕する」「腐敗しやすい生鮮食料品などを処分する」などの行動が挙げられます。
また、相続財産から葬儀費用を支払った場合、その費用が社会通念上、不相当に高額でない限り、財産処分には該当しないと判断されるのが一般的です。
なお、被相続人の債務の弁済を相続人自身の財産から行った場合は、相続財産を処分したことにはならないため、財産処分には該当しません。
参考参考相続人固有の財産として扱われるケース
被相続人が保険料負担者・被保険者であった生命保険の受取人が相続人である場合、受け取った死亡保険金は受取人である相続人固有の財産として扱われます。
したがって、このケースで相続人が死亡保険金を受け取っても、相続財産の処分行為には該当しません。
また、被相続人の未支給年金を相続人が受け取った場合、その権利は相続人が「相続とは別の立場」で固有に有する権利として扱われるため、同じく相続財産の処分行為には該当しません。
単純承認のデメリットを被らないためのポイント
相続放棄や限定承認を検討している場合、熟慮期間内は不用意に相続財産に手をつけるのは避けましょう。特に遺品整理として被相続人の資産価値のある家具や家電などを処分してしまうと、処分行為に該当する可能性が高いです。
また、相続人が意図せず単純承認をした場合、後から被相続人の債務が発覚するとトラブルに繋がるかもしれません。
そのため、被相続人の生前から保有する財産状況を、相続人となる予定の方と共有しておくのが大切です。プラスの財産(預貯金や不動産など)だけでなく、マイナスの財産(債務など)についても洗い出して一覧形式でまとめておくと良いでしょう。
単純承認に関する疑問が生じたら専門家に相談しよう
単純承認は手続きを行う必要がない等のメリットがある反面、被相続人のマイナスの財産も引き継ぐことになる等のデメリットもあります。
また、相続放棄や限定承認の選択肢を検討している場合、「法定単純承認」に該当する行為を行うと、自動的に単純承認が成立してしまうため、注意が必要です。
どのような行為が法定単純承認に該当するかは専門家でないと判断できないケースもあるため、単純承認に関する疑問が生じた場合は弁護士や司法書士などの専門家への相談がおすすめです。
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