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最終更新日:2023/7/13

正しい相続手続きVOL6  相続法改正が預貯金の取扱いに与える影響と遺産分割の仕組み

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

改正された相続法制度によって私たちの相続手続きにはさまざまな影響が生じることになります。

今回は、その中でも預貯金の仕組みに関する改正について皆様にお伝えできればと思います。

相続財産の中でも預貯金は誰しもに関係の深い財産といえるでしょう。

本記事を最後までご覧いただき、ぜひ理解を深めていただければと幸いです。

相続法改正により、私たちの預貯金の相続手続きはこのように変化する

本相続法制度改正に伴い、預貯金の引き出しに関するもの、及び仮払い制度に関して変更点がみられます

ここでは、改正前の内容も含めて解説します。

相続法制度改正前の取り扱いはどのようであったか

まずは、相続法改正がなされる前の預貯金の相続の態様について、少し押さえておきたいと思います。

預貯金等は特別に遺産分割協議をするまでもなく、当然に相続人に相続割合に応じて分配されるという判例の考えを踏襲する取扱いになっていました。

このため、遺産分割をめぐる裁判上の対応としては、判例の考えに基づき処理されるということがこれまで行われてきました。

しかしながら、実務上の考えとしてはこのような方法は現実的ではなく、また極めて煩雑な結果を生じかねないということで、実際には、すべての相続人が同意することにより、預貯金も遺産分割をしていました。

この慣例が相続法改正度により変更され、法文上も預貯金を遺産分割の対象とすることができるようになりました

よって、今後は裁判上も預貯金を遺産分割することができることを前提として裁判が行われることになります。

相続法改正によってデメリットもあります

上記で説明した預貯金の相続における取り扱いは、被相続人の預貯金は当然に相続人に相続されるという考えに基づくものでした。

しかしながら、これが相続法改正により、預貯金は遺産分割によってはじめて相続人に承継されるものとなるという考えに変更されたことによってデメリットもあります。

すなわち、相続が完全に分割されるまで被相続人の預貯金を自由に引き出すことができなくなったということです。

相続法改正によるデメリットを解消するために

預貯金を遺産分割の対象とすることはメリットとはなりましたが、その一方で相続手続きが完了するまでは一切の預貯金を引き出すことができないとなると、場合によってはデメリットとなりえます。

そこで、このデメリットの状態を解消するために、預貯金の「仮払い制度」が設けられることになりました。

この仮払い制度により、「(1)家庭裁判所の判断を経ずに払戻しが受けられる制度の創設」及び「(2)保全処分の要件緩和」がなされました。

これによって、少しばかりの金額の引き出しを行うことが可能とはなりましたが、それほど大きな金額とすることもできませんので、期待しすぎてはいけません

あくまで最低限の金額を引き出すことができるということです。

よって、相続手続き処理費用が多くかかることが予想される場合には、やはり事前に遺言書を作成しておくことが残される相続人にとって有益となることになります。

引用元:法務省パンフレット「相続に関するルールが大きく変わります」

主に行われる相続による財産分配の方法について

被相続人が相続財産を分配するときには、主に「遺産分割協議」及び「遺言書」の2つの手法が存在します

相続を分配するときに使用される法定相続分によるルールは、民法にも規定されて実務上は参考にされるものの、そのままで使われることはほとんどありません。

そこで、ここでは遺産分割協議」を中心にお伝えしていきます。

遺産分割協議による相続手続きについて

まずは、遺産分割による相続手続きより見ていきたいと思います。

こちらは、被相続人が遺言書を作成していなかった場合に、主に利用されます。

被相続人の相続手続きがあったことにより、すべての相続人を特定し、相続人全員で被相続人の財産をどのように分配するのかを話し合うことになります。

これにより、そのままスムーズにまとまれば遺産分割協議書を作成して終了となりますが、場合によってはそれほど円満にまとまらないという場合も少なくありません。

この場合には、家庭裁判所に遺産分割のための調停手続きの申立てをしなければいけません。

話し合いがまとまりそうにない場合には、家庭裁判所に遺産分割のための審判の申立てをすることもできます。

最悪の場合、裁判までもつれ込んでしまう場合もありますので、なるべく早期の段階で円満に解決することができる道を模索するほうが賢明であると考えられます。

遺産分割協議が無事に成立すると、成立時点で相続することが決まった相続人のものになる訳ではなく、相続の効果として、相続が開始した時点から最初からその相続人のものであるという考え方をします。

これは、法律観念的で少々複雑ですが、相続が生じたことにより期間の間隔が空いてしまうことにより法律関係を複雑にしない等の効果があると考えられます。

遺産分割協議による分割の特徴としては、相続人間で自由な分配をすることができるという点があります。

つまり、5人の相続人の中にすべて均等に分けるという方法もできますし、ある人だけが単独で相続するということも可能です。

これに対して、遺産分割協議が不調に終わり、遺産分割調停ないしは遺産分割審判にまで行くとどうでしょうか。

この場合には、残念ながら民法の原則である法定相続分の考えに準拠した分配をするように判断が下されます。

通常の遺産分割協議の場合には、さまざまな事情を考慮することができます。

例えば、相続において多くの人が最も憂慮するのは相続税です。

したがって、遺産分割協議においては少しでも相続税が少なくなるように相続分配をするのが通常です。

しかしながら、遺産分割調停又は遺産分割審判の場合にはこれができないという訳です。

場合によっては、多額の税金を納めなければいけないケースもありますので、リスクを十分に考慮したうえで慎重な判断が必要となります。

遺言書による相続手続きについて

遺産分割協議と並んで遺言書による相続手続きもよく利用されます。

遺言書は生前の相続対策として利用することができ、これを作成しておくことで、死後に別途遺産分割のための話し合いを行う必要がなくなります。

遺言書を作成する際には、遺言者は自己の有するすべての財産を過不足なく調査をし、財産目録に記載をする必要があります

万が一、これが漏れてしまうと、その分だけ別途遺産分割協議を行わなければいけません。

遺言書を作成するには、多くの相続人の事情を考慮しなければいけません。

例えば、遺留分、相続税、各相続人のニーズなど個別具体的にどのような内容にすべきか検討をすることが円滑な相続手続きのコツといえるでしょう。

まとめ

今回は、相続法制度改正に伴う預貯金の相続の変更点、並びに相続手続きにおいて主に利用される相続財産分配方法としての遺産分割協議及び遺言書についてお伝えさせていただきました。

預貯金の引出しに関する情報はこれまでの方法とは別のものです。

これまで知り合いの相続で経験されていた人、または相続について勉強をされてきた方もこの機会に改めて学びなおしをする必要がありますので、ぜひ本記事を参考に情報の整理をしていただければ幸いです。

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