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最終更新日:2023/7/13

正しい相続手続きVOL42 相続した遺産が不動産で金銭の納税ができない場合の納税方法とは?

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

相続税は、一括現金納付が原則です。

ただ、どうしても一括現金納付ができないといった場合に備えて、法律は「延納」という制度を設けています。

この記事では、相続税の申告・納付の手続きを確認したうえで、その例外として延納が認められるための要件、その場合の注意点などについて整理したいと思います。

1.相続税の申告・納付の手続き

(1)申告・納付の期限

相続税は、相続の開始を知った日(通常は、被相続人が亡くなった日をいいます)の翌日から10ヵ月以内に、被相続人が亡くなった時に居住していた住所地を管轄する税務署に対して申告し、その期間内に相続税の全額を一括して現金で納付しなければならないとされています。

納付地を、相続人が居住している住所地を管轄する税務署と間違える人がいますが、被相続人の住所地の税務署ですので間違わないように注意が必要です。

※相続税法第62条は、相続人の住所地に申告すると定めているのですが、一方でその附則で、「当分の間は、被相続人の死亡の時における住所地をもって納税地とする」として規定を修正しており、現在はこの附則によって被相続人の住所地が納税地となっているのです。

(2)納付手続き

相続人が複数いる場合、相続税の申告・納付は、本来は各相続人がそれぞれ自己の負担する相続税について申告・納付を行うことが原則です。

ただ、申告地が被相続人の住所地とされる結果、共同相続人全員が同じ税務署に申告・納付することになるため、相続人全員が一通の申告書に署名・捺印して申告することも認められており、現実の取り扱いとしては、むしろ共同相続人全員が連名で申告するのが一般的となっているようです。

2.延納という方法

(1)延納を認める必要性

相続税は、すでに述べた通り、申告期限内に一括して現金で支払うことが原則とされています。

ただ、相続財産の大半が不動産や株式などのすぐには現金化できないものであって、現金や預貯金といった金融資産がほとんどないという場合も往々にしてあります。

そのような場合について、法律は一定の要件の下で、最長20年間にわたって相続税を分割して納付する「延納」という制度を認めています

(2)延納の要件

延納は誰にでも認められるものではありません。

次にあげる要件をすべて満たすことが条件となっています。

①相続税額が10万円を超えていること

ここにいう「相続税額」というのは、各相続人がそれぞれ最終的に遺産分割協議によって取得した相続財産に応じて負担する相続税の額を言います。

遺産全体に対してかかる相続税の総額のことではありません。

したがって、例えば、相続人が長男と次男の兄弟2人の場合において、長男が負担する相続税の額が30万円、次男が負担する相続税の額が8万円とすると、長男は相続税の延納を申請することができますが、次男は延納の申請を行うことができないということになります。

②金銭で一括納付することが困難な理由があること

相続税の納付は現金一括納付が原則で、延納はあくまでも例外的な取り扱いにすぎません。

したがって、延納が認められるためには、実際に、現金等の資産がなく、一括納付ができないという資産状態にあることが要件とされています。

例えば、相続財産は不動産などの現金化が困難な資産ばかりであっても、相続人の固有財産として現金や預金を保有していた場合には延納は認められません

また、実際には相続税を納付できるだけの金融資産があるにもかかわらず、それは別途の資産運用に回すために相続税の延納を求めるということも認められません。

実際に相続税の延納が認められるのは、納付すべき相続税額から以下の金額を控除した金額を上限とするとされています。

  • ・現預金その他の換金が容易な財産(相続財産のみならず相続人の固有財産も含みます)
  • ・3ヵ月分の生活費
  • ・事業の1ヵ月分の運転資金
  • ・納期限に金銭で納付することが可能な額

この一括納付が困難な理由については、延納申請書の中で、詳細に記載する必要があります。

③延納税額に見合う担保を提供すること

延納の適用を受けるためには、その延納する額が100万円未満で延納期間が3年以下という場合を除いて、担保を提供しなければならないとされています。

しかも、担保として認められている財産は、原則として以下のものに限定されています。

  • ・国際および地方債
  • ・社債その他の有価証券で税務署長が確実と認めるもの
  • ・土地
  • ・建物、立木、登記された船舶などで保険に附したもの
  • ・鉄道財産、工場財団など
  • ・税務署長が確実と認める保証人の保証

なお、これらの担保は、相続人が所有する財産には限らず、他の共同相続人や、第三者がいわゆる物上保証するという形でも構いません。

④相続税の納付期限までに、延納申請書を提出すること

延納をするためには、相続税の納付期限である相続開始の翌日から10ヵ月以内に、延納申請書に担保提供関係書類を添付して、納税地(被相続人の住所地)の税務署長あてに延納申請を行う必要があります

ただし、この期限までに担保提供関係書類を提出できない場合には、担保提供関係書類提出期限延長届を提出することにより、1回につき3ヵ月を限度として、最長6ヵ月まで担保提供関係書類の提出期限の延長を求めることが認められています

ただし、延納申請書はあくまでも納付期限までに提出されていることが必要であり、この期間内に提出されない場合には延納の申請は無効とされます。

延納申請がなされると、それについて審査がなされ、原則として3ヵ月以内(ただし、最大6ヵ月まで延長されることがあります)に許可・却下の決定がなされます。

許可決定された場合には、「相続税延納許可通知書」が送付されてきます。

3.延納をする場合の注意点

(1)延納する期間の制限および利子税

延納できる期間はその財産の状況および延納される相続税の種別によって決まります。

また、延納する場合には、その期間について利子税という税金が加算されることになります。

これは、いわゆるローン等における利息に相当するもので、毎回の延納納税額に対して加算されることになります。

区分 延納期間
(最高)
延納利子
税割合
(年割合)
特例割合
不動産等の割合が75%以上の場合 ①動産等に係る延納相続税額 10年 0.054 0.011
②不動産等に係る延納相続税額
(③を除く)
20年 0.036 0.007
③森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額 20年 0.012 0.002
不動産等の割合が50%以上75%未満の場合 ④動産等に係る延納相続税額 10年 0.054 0.011
⑤不動産等に係る延納相続税額
(⑥を除く)
15年 0.036 0.007
⑥森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額 20年 0.012 0.002
不動産等の割合が50%未満の場合 ⑦一般の延納相続税額
(⑧⑨⑩を除く)
5年 0.06 0.013
⑧立木の割合が30%を超える場合の立木に係る延納相続税額
(⑩を除く)
5年 0.048 0.01
⑨特別緑地保全地区等内の土地に係る延納相続税額 5年 0.042 0.009
⑩森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額 5年 0.012 0.002

なお、現在の超低金利に対応して設けられている特例で、国内銀行の貸出約定平均金利に1%を加算した割合が7.3%に満たない場合には、特例として、一番右側に記載されている特例割合が適用されることになります。

(2)連帯納付義務との関係

本来、相続税について、複数の相続人がいる場合には、各相続人は互いに連帯して相続税を納付する義務を負担しています。

ただ、一部の相続人が延納の申請を行い、これが認められた場合については、他の相続人はその相続人が延納を認められた額については、連帯納付義務の対象から除外されることになります。

(3)延納の取り消し

延納が許可された場合であっても、以下の事由が生じた場合には延納が取り消され、一括納付を求められることになりますので、注意する必要があります。

  • ・滞納その他の延納の条件に違反した場合
  • ・担保についての変更命令に応じなかった場合
  • ・担保について強制換価手続きが開始されたとき
  • ・延納の許可を受けた者が死亡し、その相続人が限定承認をしたとき

まとめ

以上、相続税の延納の制度について概要を解説しました。

通常、相続税対策というと、相続税の軽減という観点から、被相続人の所有不動産などの評価額軽減という側面が強調され、現金を不動産に変えておくなどといった対策がもてはやされる傾向にありますが、その結果として現金資産が足りなくなってしまい、相続税を納めることができないという事例も現実に発生しています。

今後は、相続税対策として、相続税を納めるために必要な金融資産の維持という側面も、視野に入れておく必要があると思われます。

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