目次
昨今、一般社団法人を活用した相続税対策ということが広くいわれてきました。
そこで、本稿では、それが具体的にどのような仕組みだったのかを確認するとともに、平成30年の税制改正によってどのような変更を受けたのかを確認していきたいと思います。
相続税対策の基本
人が亡くなった場合、その亡くなった人(被相続人)が所有していた財産(相続財産)は、被相続人と一定の関係のある人に相続されます。
そして、この相続財産の評価額が基礎控除額を超える場合には、相続人には相続税が課せられることになります。
さらに、相続税の税率は、相続税評価額が高いほど税率は高くなるという超累進課税方式がとられていて、最高税率は55%と非常に高い税率となっています。
以上のような状況から、相続税対策の第一歩は、相続財産の評価額を下げるということになります。
そのための最も代表的な方法としては、被相続人の財産を相続開始前に他に移転させるなどして、被相続人の有する財産自体を減らすということになります。
法人設立という相続税対策
法人への財産移転という方法
相続財産の評価額を減らす方法として、被相続人が有している財産を生前に他に譲渡するなどして減少させる方法が効果的だとしても、それを単純に第三者に譲渡したのでは、その財産を完全に失ってしまいます。
完全に失ってもかまわない財産であればそれでもかまいませんが、例えば、不動産や株式などのように、その権利自体は自己の影響力の及ぶ範囲内に維持したいとか、最終的には相続人等に引き継ぎたいという場合には、それを第三者に譲渡してしまうという方法はとることができません。
また、相続人に生前贈与するという方法も考えられますが、この場合、財産の評価額が大きい場合には贈与税の負担が問題となります。
そこで、財産を他に法人格に移転しつつ、その財産に対する支配権を維持する方法として考えられたのが、法人を設立して、被相続人の財産を法人に移転するという方法です。
法人への財産移転のメリット
相続財産を、被相続人が生前に、法人に移転する方法のメリットとしては、以下のことがあげられます。
当該財産の価値を固定できる
相続財産の評価は、相続が開始した時点を基準になされます。
したがって、現在の価値よりも、相続開始時の価値が高くなっている可能性も否定できません。
現時点で、相続財産を法人等に譲渡するなどの方法によって移転しておけば、その相続財産については、現在の譲渡価格等で価値を固定できることになり、将来、相続開始時までにその財産の評価額が高騰するリスクを回避できることになります。
財産に対する支配・管理権を維持できる
自己が経営権等を有している法人に当該財産を移転した場合には、財産を当該法人等に移転した後でも、法人を介して、その財産に対する管理権または支配権を維持できることになります。
「相続」という形ではなく、相続人等にその財産に対する権利を引き継げる
最終的に自らが死んだ場合でも法人は存続するため、その法人の代表者等に相続人が就任することで、相続人が実質的にその財産に対する権利を承継することが可能となります。
法人の形式
会社組織とすることの問題点
「法人」として真っ先に思いつくのは株式会社などの会社だと思います。
会社を設立して、そこに財産を移転することで、財産を被相続人の相続財産から切り離すことは可能です。
また、被相続人がその代表者に就任すれば、その財産に対する権利も実質的に維持することができます。
さらに、最終的に亡くなった場合でも、相続人が代表取締役に就任することで、実質的に財産に対する権利を相続人に承継させることができます。
ただし、会社組織とした場合には問題があります。
会社においては、その出資者が株式という形で会社に対する権利を保有することになります。
そして、その株式自体が被相続人の財産となるため、その者が亡くなって相続が開始した場合には、被相続人が所有していたその会社の株式が相続財産として評価されることになります。
そして、その際の評価方法としては、同族会社などの小会社の場合には、原則として純資産価額方式といって、会社が保有する純資産を基準として1株あたりの価値を評価し、それに株式数を乗じて評価する方法がとられることになります。
そうだとすると、自分が会社に移転した財産の額も、結局、株式の評価額に反映されることとなり、結局相続財産の評価額を上げる結果になってしまいます。
一般社団法人とする方法
一般社団法人とは、
一般社団法人とは、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づき設立された法人で、会社などの営利法人とは異なり、営利を目的としない団体をいいます。
ここで「営利を目的としない」とは、事業活動で得た利益を出資者や設立者に配分しないということで、法人の事業活動自体で営利活動を行って収益を上げることは何も問題ありません。
一般社団法人を設立して財産を移転することのメリット
一般社団法人の形式を利用することのメリットとしては、以下の点が挙げられています。
設立手続きが簡易
平成20年の公益法人制度改革前は、営利法人以外は基本的に公益法人というか形しか認められておらず、その設立には主務官庁の許可や認可が必要とされるなど、設立におけるハードルが高いものでした。
しかし、平成20年の改革によって、公益を目的としなくても営利を目的としなければ一般社団法人を設立することが可能となり、しかも、その設立も、定款を定めて(公証人の認証は必要です)、登記を行うだけという、非常に簡易な方法で行うことが可能となりました。
贈与税が課されない
一般社団法人は非営利法人とされているため、寄付等を受けた場合でも、それが「贈与者の相続税や贈与税を不当に減少する場合」でなければ贈与税の課税対象とならないとされていました。
持分がない
会社の場合には、出資者が株式や出資口数として、会社の資産に対する持分を有しています。
その結果、その出資者等が亡くなったときには、その株式や出資口数が相続財産として評価され、結局、相続財産の評価額を上げることになってしまいました。
しかし、一般社団法人の場合には、法人が上げた利益を設立者や出資者に配当するということが予定されていません(配当することになると、これは「営利目的」となってしまうため、一般社団法人とはなれないことになってしまいます)。
したがって、その配当の基準となる「持分」という概念もないわけです。
その結果、出資者、設立者といえども、一般社団法人の財産に対する持分というものはなく、それに対する財産的な評価もされないため、被相続人の相続財産の評価額が上がるというリスクもありません。
一般社団法人を利用した節税対策
このような一般社団法人を利用するメリットを活用して、一部の方は、財産を一般社団法人に移転することによって、相続税を回避していました。
例えば、膨大な財産を一般社団法人に出資や譲渡の方法で移転しておくと、それらの財産はもはや出資者・譲渡人の財産とは別の一般社団法人の財産となるため、将来、その出資者・譲渡人が亡くなっても、それらの財産はもはや出資者・譲渡人の相続財産ではないため、相続税の対象とはなりません。
また、その法人に対する持分もないため、一般社団法人に対する権利も一切相続財産として評価されることはありませんでした。
単に、当該一般社団法人の代表者等を相続人に変更するだけで、実質的に相続人がその財産を利用すること可能となったわけです。
また、さらに、その相続人が亡くなった場合でも、その一般社団法人の代表者を、相続人の相続人に変更するだけで足りることとなり、永久に相続税を負担する必要がないということが可能となっていました。
平成30年の税制改正
一般社団法人を利用した相続税の回避という手段が不当に利用されることに伴い、平成30年の税制改正に際して、相続税・贈与税の改正が行われました。
主な改正内容は、次の二つです。
一般社団法人への寄付に対する贈与税の課税
従来においても、一般社団法人に贈与をすることで贈与者の相続税や贈与税が不当に減少することとなる場合には、贈与を受けた一般社団法人を個人と見なして贈与税や相続税を課税されるとされていました。
しかし、具体的にどのような場合に贈与税や相続税が課されるかの基準・要件が明確ではありませんでした。
今回の平成30年の税制改正によって、「相続税や贈与税が不当に減少する」場合であるか否かの判断基準として、以下の要件の全てを満たしているかどうかで行うこととされました。
- ①法人の運営組織が適正であり、定款等に理事等に占める親族関係者の割合が3分の1以下とする定めがある。
- ②贈与者、法人の役員や社員、これらの者の親族等に特別の利益を与えていない。
- ③定款等に法人解散の場合に残余財産が国や地方公共団体等に帰属する定めがある
- ④法令に違反する事実等がない。
つまり、これらの4要件のいずれか一つでも満たしていない場合には、その贈与は個人に対する贈与と同様に、贈与税が課税されることが明確化されました。
相続があった場合の課税
従来は、一般社団法人の役員が亡くなった場合でも、一般社団法人の財産は役員の相続財産とは別であること、および、一般社団法人には持分という概念がないためその持分についての評価もなされませんでした。
しかし、これによる相続税逃れを回避するため、平成30年の税制改正において、一定の条件を満たした一般社団法人については、「特定一般社団法人」とし、その役員が亡くなった場合には、その特定一般社団法人はその理事から遺贈を受けたものとして相続税を課せられることとしました。
そして、特定一般社団法人の要件は、次のいずれかに該当することとされています。
- ①相続開始直前において、当該一般社団法人の総役員数に対する、当該亡くなった役員の同族役員数の割合が2分の1を超えていること
- ②相続開始前5年以内において、当該一般社団法人の総役員数に対する当該の亡くなった役員の同族役員数の割合が2分の1を超えていた期間が3年以上ある場合
ここでいう「同族役員」とは、亡くなった役員の配偶者および3親等以内の親族をいいます。
このいずれかの要件に該当する特定一般社団法人にあっては、平成30年4月1日以降に発生した特定一般社団法人の役員に関する相続に際して、一般社団法人純資産を同族役員数で割った金額が、当該被相続人から特定一般社団法人に遺贈されたものとし、当該特定一般社団法人は相続税を納めなければならないこととなりました。
まとめ
これまで、一般社団法人を利用した節税対策ということが広くいわれてきましたが、平成30年の税制改正によって、それが無制限に認められるものではないことが明確にされました。
本当に適切な一般社団法人の設立、活用はもちろん推進すべきですが、不当に相続税を回避するという目的に利用することは避けられなければなりません。
節税を行うことはもちろん素晴らしいことですが、あくまでも法律の本来の目的に沿った範囲で行う必要があります。
その意味でも、今回の改正をしっかり認識して対応する必要があります。
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