被相続人が亡くなった後は、相続人の協議(話し合い)によって遺産を分割することになります。
しかし、どうしても相続人で協議が整わない場合には、家庭裁判所で調停や審判によって、結論を出すことになります。
ここでは、遺産分割審判について、詳しくご説明いたします。
協議が調わない時は?
被相続人が亡くなり、相続財産を相続人で分割して相続することになりますが、その際の基準として、3つあります。
まず一つが、遺言書です。
被相続人が、遺言書を書いていた場合には、相続人は基本的にその内容に従って、相続財産を分割、相続することになります。
もちろん、遺言書の内容について、納得できない相続人がいるかもしれません。
しかし、遺言書は被相続人の「遺志」が書かれたものです。
その遺志に従うことは、残された相続人の義務と言えるかもしれません。
したがって、遺言書があれば、相続人は基本的に、その内容のとおりに、相続財産を分割、相続することになります。
二つ目が、民法の規定です。
民法では、被相続人と相続人の関係によって、相続の順位、相続分がきちんと決められています。
例えば、被相続人に配偶者と子どもがいるような場合には、配偶者に相続財産の2分の1、子どもにも相続財産の2分の1が相続されます。
もし、子どもが2人以上いる場合は、相続財産の2分の1をさらに等しく分割することになります。
つまり、子どもが3人いる場合には、2分の1の相続財産をそれぞれ3分の1ずつ分けることになりますから、子どもはそれぞれ相続財産の6分の1ずつを相続することになります。
このように、民法では誰が相続人になるか、その相続人は相続財産の何分のいくつを相続することになるかを細かく決めているのです。
こうすることで、被相続人遺言書を書いていない場合に、トラブルが起きないようにしているのです。
三つ目は、相続人の協議です。
相続財産は、きちんと分割できるものばかりではありません。
たとえば、被相続人が、3,000万円の現金と価格3,000万円の不動産を残して亡くなったとします。
合計で、6,000万円になります。
相続人が、配偶者と子ども2人とした場合、配偶者は相続財産の2分の1、子どもはそれぞれ相続財産の4分の1ずつを相続します。
したがって、配偶者が3,000万円、子どもが1,500万円ずつ相続することになりますが、しかしこの価格の中には、不動産が入っており、基本的に分けることができません。
このような時は、相続人全員の協議(話し合い)によって、誰がどの相続財産を相続するか、相続の割合をどうするかを決めることになります。
協議が整えば、「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が署名し、実印を押すことになります。
ただし、この協議が整わなければ、分割方法に不満を持っている相続人が、家庭裁判所に調停の申し立てを行うことになります。
調停とは?
相続財産の分割方法に納得できない相続人としては、家庭裁判所に結論を出してほしいところですが、規定によって、まず調停を行うことになっています。
調停とは、家庭裁判所に場所を変えての「話し合い」です。
多くの人が、相続人の協議を同じなのでは、と考えがちですが、大きく違うのは、話し合いの中に「調停員」がいることです。
調停員とは、法律に詳しく、経験豊富な人で、それぞれの相続人の言い分を聞いて、話し合いがスムーズにいくように調整する役目を果たす人です。
しかし、あくまでも「調整役」であって、相続人の誰かをサポートするなどの行為はできないことになっています。
つまり、相続人の話し合いがうまく進むような役目でしかありません。
このような話し合い(調停)を数回続けることになりますが、それでもお互いの意見が合致せず、話し合いが不調に終わった場合には、次に「審判」という手続きに移ることになります。
審判とは?
調停での話し合いが不調に終わったら、また申し立てられた相続人が調停に場に来なかったら、次は「審判」の手続きに移ります。
なお、家庭裁判所からの調停の呼び出しには強制力はありませんので、調停日に欠席したからと言って、特にペナルティがあるわけでもなく、欠席した相続人にとって不利な結果になることもありません。
つまり、調停は相続人だけで行う遺産分割協議と同じで、話し合いに過ぎないのです。
審判は、調停が成立する見込みがない時に、家庭裁判所が「審判を下す」ということで、一定の結論を出すことです。
法律上は、相続人の間で、協議が調わなければ、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に対して、調停の申し立てではなく、審判の申し立てを行うことは可能です。
しかし、審判の申し立てを受けた家庭裁判所は、まず相続人での話し合いによって解決するべきとの考えから、実際には審判の申し立てに対して、家庭裁判所の職権で調停に戻す場合が多いというのが現実です。
これは、家庭裁判所が下す審判には柔軟性が欠けているため、まず調停で話し合いを行い、当事者同士で解決するように努めるべきとの考えからです。
調停と審判の違い
調停は、家庭裁判所が仲介する形で相続人の話し合いを行うのに対して、審判は裁判官が各相続人、相続財産等の一切の事情を考慮した上で、相続財産の分割方法を決定する手続きです。
それぞれの項目について、両者に違いを見ていきます。
まず「分割方法を決める人」ですが、調停の場合は全相続人、審判の場合は裁判所です。
調停は相続人全員での話し合いですから、一人でも分割方法に反対の相続人がいた場合、不成立になります。
次に「結論に対する不服申し立て」ですが、調停の場合は原則としてできません。
一方、審判の場合は、審判から2週間以内であれば、高等裁判所に対して不服申し立てができます。
次に「寄与分の主張がある場合」ですが、調停の場合は合意した寄与分を反映した調停ができます。
しかし、審判の場合は寄与分を定める手続きは個別の手続きで行うべきであるという理由から、別途寄与分の定める審判の申し立てを行い、その申し立てを先に確定させる必要があります。
つまり、調停では分割と寄与分を一度に話し合うことができますが、審判では、分割方法と寄与分とは別の案件とみなし、別々に申し立てる必要があるのです。
次に「相続財産の範囲に争いがある場合」ですが、調停の場合は相続財産の範囲そのものを相続人の合意で話し合いを進めることができますが、審判の場合は先に遺産確定の訴訟を起こして、相続財産の範囲を確定させる必要があります。
次に「法定相続分どおりでない分割方法」についてですが、調停の場合は相続人全員が合意すれば可能ですが、審判の場合、家庭裁判所は法定相続分に則った審判を下さなければなりません。
最後に「被相続人の配偶者の今後の生活等について」ですが、調停の場合は、例えば相続人が合意すれば大半の相続財産を相続する長男が、高齢の母親と同居して面倒を見るという調停条項を「遺産分割協議書」に盛り込むことができます。
一方、審判の場合は、父親の相続手続きにおいて、高齢の母親の今後の生活については、相続財産に該当しないので、上記の調停のような結論については、家庭裁判所は決定することはできません。
遺産分割審判での分割方法
遺産分割審判の対象は、分割方法を決めなければならない「相続財産」です。
従って、平成28年の判例変更までは、預貯金等の金銭債権について、家庭裁判所が審判を下すことはありませんでした。
しかし、上記の判例変更後は、預貯金も遺産分割の対象となりました。
このことにより、審判で従来よりも遺産分割の方法が柔軟になりました。
ただ、家庭裁判所の審判は、全相続人の法定相続分を守ることを前提に、審判を下すことになりますから、調停の結論に比べて、柔軟性に欠けることは仕方ないことです。
遺産分割審判における相続財産の分割方法としては、現物分割、代償分割、換価分割があります。
次に、その内容をご説明します。
まず現物分割ですが、これは現存する相続財産を相続人で分割するものです。
次に代償分割ですが、これは相続人の一人が財産を取得し、他の相続人に代償金を支払う方法です。
例えば、相続財産が土地(価格:3,000万円)だけしかなく、相続人が被相続人の子ども3人だった場合に、一人が土地を相続し、その人が他の二人に1,000万円ずつ代償金を支払うことになります。
こうすることで、相続人全員が1,000万円ずつ相続したことになります。
最後の換価分割は、相続財産を売却した上で、その代金を相続人で分配する方法です。
先程の例で言うと、土地を誰も相続せず、土地を3,000万円で売却して、その代金を相続人で1,000万円ずつ分配することになります。
この三つの方法を必要に応じて組み合わせ、相続財産を分配することになります。
例えば、相続財産に不動産が多く、分割して相続することが難しい場合には、各不動産の価格を調べて、相続人に現物分割できるように、うまく調整することになります、
ただ、現実問題として、この現物分割には限界がありますから、実際の審判では、代償分割を指定することになります。
それでも、相続人に代償金を支払えるだけの資力がない場合には、相続人が望まなくても、不動産等を競売にかけて現金化して、換価分割を行うこともあり得ます。
ただ、この競売では、実際の相続財産の価格よりも安い値段で落札される、譲渡される際の税金の負担者は誰になるか等、新たな問題が生じる可能性が出てきます。
そこで、家庭裁判所が下す審判では、競売と言う手段よりも、一つの不動産を共同で所有する「共有」を提示することが少なくありません。
いずれにしても、審判で、相続人全員が納得できる分割方法が提示される可能性は低く、そうなると、最後には、裁判で結論を出すことになります。
しかし、裁判となると時間や費用も掛かりますし、何より相続人の間での確執が生じることになり、決してプラスには働きません。
できれば、相続人の話し合いで折り合いをつけることが大切です。
まとめ
平成28年の判例変更で、預貯金等の金銭債権についても、家庭裁判所が審判を下すことになり、話し合いや調停で決着がつかない場合に、家庭裁判所の審判が利用しやすくなりました。
ただ、相続人の一人でも、出された審判に異議がある場合には、成立しないという事情は変わりません。
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