人が亡くなると、その相続財産を配偶者や子どもなどの「相続人」が引き継ぐことになります。
相続財産の分け方については、「民法」と言う法律で細かく決められています。
しかし、相続人が全くいない場合には、相続財産はどうなるのでしょうか?詳しく説明します。
法定相続人とは?
亡くなった人(「被相続人」と言います)の相続財産を誰(「相続人」と言います)がどのような割合で引き継ぐかについては、「民法」と言う法律で詳しく規定されています。
なお、民法で定められている「相続人」を「法定相続人」と言います。
主な法定相続人とその相続の割合は、次のとおりです。
パターンA
被相続人に配偶者(夫または妻)と子どもがいる場合、配偶者に相続財産の2分の1、子どもにも2分の1が相続されることになります。
もし、子どもが2人以上いる場合は、2分の1をみんなで等しく分けることになります。
例えば、子ども3人いる場合には、子どもが受け取る2分の1の相続財産を3分の1ずつ分けることになりますから、子どもはそれぞれ財産の6分の1ずつを相続することになります。
パターンB
被相続人に配偶者と被相続人の実の親がいる場合(子どもや子どもの子孫がいない場合)には、配偶者に相続財産の3分の2、被相続人の実の親に相続財産の3分の1が相続されます。
もし、被相続人の実の親が2人ともいる場合には、実の親が受け取る3分の1の相続財産を等しく分けることになります。
したがって、3分の1の相続財産をそれぞれ2分の1ずつ分けますから、被相続人の実の父と母はそれぞれ財産の6分の1ずつを相続することになります。
パターンC
被相続人に配偶者と被相続人の兄弟姉妹がいる場合(子どもや子どもの子孫、あるいは実の親、祖父母、曾祖父母がいない場合)には、配偶者に相続財産の4分の3、被相続人の兄弟姉妹に相続財産の4分の1が相続されます。
もし、被相続人の兄弟姉妹が2人以上いる場合は、4分の1を等しく分けることになります。
例えば、兄弟姉妹が3人いる場合は、4分の1の相続財産をそれぞれ3分の1ずつ分けますから、兄弟姉妹はそれぞれ相続財産の12分の1ずつを相続することになります。
相続人の範囲
先ほど説明した以外に、相続人となる可能性のある人がいます。
それは「代襲相続人」です。
例えば、既に亡くなっている子どもに子どもがいた場合、つまり被相続人から見て孫がいた場合には、その人には亡くなっている相続権を受け継ぐ形で、そのままの相続分を引き継ぎます。
この人を「代襲相続人」と言います。
もしその人もすでに亡くなっていても、その人に子どもがいれば、さらに「代襲相続」をすることになります。
これは、「パターン③」の兄弟姉妹でも同じです。
被相続人が亡くなる前に、兄弟姉妹が亡くなっていたとしても、その子ども、つまり被相続人から見て甥や姪に相続する権利があります。
ただし、「代襲相続人」で注意することがあります。
「パターン①」で、子どもが既に亡くなって孫がいる場合は孫が相続し、子どもと孫が既に亡くなっている場合はひ孫が相続し、…というふうにずっと続きます。
しかし、「パターン③」の兄弟姉妹の場合、「代襲相続」が認められるのは、兄弟姉妹の子どもまでです。
もし兄弟姉妹の子どもが亡くなっていた場合には、その子ども、つまり被相続人から見て甥や姪の子どもには「代襲相続」する権利はないということです。
相続人がいない場合は?
もし被相続人に法定相続人が全くいなかったら、相続財産はどうなるのでしょうか?
多くの人が、「誰も相続財産を受け取る人がいないのだから、持ち主がいないことになり、国のものになるのでは?」と思っているかもしれません。
この答えは、一部では当たっていますが、全くの正解ではありません。
もし被相続人の財産を受け取るべき法定相続人が全くいない場合には、まず「相続財産法人」の所属になります。
「相続財産法人」とは、相続財産を相続する人が全くいない場合、相続財産が法人化することを言います。
少し難しいので、わかりやすく説明します。
ある人が亡くなった場合で、もしその人に全く相続人がいないのであれば、被相続人の財産を相続する人がいないことになります。
また、仮に相続人がいたとしても、相続人の全員が、「相続財産を受け継ぎたくない」として相続放棄した場合でも、相続財産を相続する人がいないことになります。
このような場合に、相続財産をそのままにしておくことはできません。
そこで、相続財産をまとめて、法人化して管理することになるのです。
このように、法人化された相続財産のことを「相続財産法人」と呼んでいます。
この「相続財産法人」を作る際には、特別な手続きはいりません。
相続財産を相続する人がいなければ、自ずと相続財産が法人化し、「相続財産法人」となるのです。
とは言っても、その「相続財産法人」について、後で説明するような実務を行う人がいなければ、手続きが先に進みません。
そのためには、「相続財産法人」を管理、運営するための職務を行う人が必要です。
このような職務を行う人を「相続財産管理人」と呼びます。
「相続財産管理人」は、相続財産を相続する人がいない場合に、「相続財産法人」を管理して、精算業務を行い、相続されない財産があれば、最終的に国に帰属させる職務を行います。
なお、相続財産管理人は、被相続人の利害関係人、または検察官の申し立てによって家庭裁判所で選任されます。
相続人がいない場合の相続
相続人がいなくて、相続財産が「相続財産法人」となり、「相続財産管理人」が選任された後は、まず被相続人の債権者などに弁済を行うことになります。
例えば、被相続人がお金を借りていて、まだ全額返済していない、あるいは、公共料金などの未払いがあれば、その返済に充てることになります。
つまり、被相続人に返済されていない借金がないか、未払いの公共料金がないかを調査するところから、「相続財産管理人」の職務が始まります。
この作業は意外と煩雑です。
公共料金の支払いは、通常「請求書」が送られてきますから、比較的把握しやすいはずです。
ただ、最近はペーパーレス化で、ネットで「請求書」が送られてくる場合もありますから、その点を考慮に入れて調査しなければなりません。
最も厄介なのは、借金です。
銀行などからお金を借りた場合には、通常「契約書」を作っていて、支払いも「口座引き落とし」で行っていることが多いはずですから、調査は比較的容易かもしれません。
しかし、個人にお金を借りていたような場合には、「契約書」を作っていないことも考えられます。
そうなると、いつ誰にいくら借りたのかを証明する手掛かりはありません。
また、返済についても、亡くなった時点でいくら返済していたのかも見えにくい状態です。
すべての相続財産の精算が終わり、残った財産があれば国庫に入ることになりますが、その手続きが終わった後で、被相続人の債権者が表れて「○○さんにお金を貸していたが、まだ返してもらっていない」などという事態が発生しないとも限りません。
もしそうなった場合、大きなトラブルになりかねません。
ですから、被相続人の未返済の借金や未払いの公共料金の把握は、かなり重要な職務です。
話を元に戻します。
借金や公共料金の精算が終わり、相続財産が残っていれば、家庭裁判所が認めた「特別縁故者」に対して、残りの全部、または一部を渡すことになります。
「特別縁故者」とは、相続人ではないが被相続人と生計を同じくしていた人(生活費を共有していた人)、あるいは日常的に被相続人の看護、介護などを行っていた人などを言います。
例えば、婚姻関係にはないが、被相続人と内縁関係にあった人や被相続人と同居して身の回りの世話をしていた人などが、それにあたります。
もし、この「特別縁故者」がいない場合、あるいは「特別縁故者」に相続財産を渡しても、まだ相続財産が残っている場合には、最後に国庫に入ることになります。
トラブルにならないためには?
相続人が全くいない場合、以上のような流れで、相続財産の精算の手続きが行われます。
ただ、自分には相続人がいないと思っていても、会ったこともない親戚がいて、相続する権利をもっていることもあり得ます。
また、全く相続人がいない場合、特別縁故者に相続財産が渡されることになりますが、果たして特別縁故者に該当するか否かは、意外と難しい問題です。
そこで、自分には法定相続人がいない、そしてお世話になった人に財産を渡したいと思っている人は、後々トラブルにならないために、「遺言書」を書いておくと良いでしょう。
ただしその前に、自分には本当に法定相続人がいないかどうかをきちんと調べておく必要があります。
それには、自分が出生してから現在までの連続した「戸籍謄本」を取得しなければなりません。
「連続した」というのは、「本籍」を変更した場合に、その前の「戸籍謄本」を取り、生まれてから現在まで、切れ目がないようにすることです。
その上で、自分の法定相続人を把握することになります。
そして、自分には一切法定相続人がいないと分かったら、そこで「遺言書」の作成に取り掛かります。
自分がお世話になった人、介護や看護をしてくれた人に、どの財産をいくら渡すのかを明記します。
その際に、なぜその人に相続財産を渡そうと思ったのかなど、理由をきちんと記載しておけば、より一層トラブルを回避できるはずです。
自分で書く「自筆証書遺言」でも構いませんが、できれば専門家に依頼をして、「公正証書遺言」にした方が良いでしょう。
まとめ
生涯独身の人が増える時代になり、今後法定相続人が全くいない人の相続が増えてくることが予想されます。
亡くなった後でトラブルにならないように、できれば「遺言書」を作成しておきましょう。
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