相続で度々問題になるのは、短い期間で相続人が亡くなり、遺産の相続が複雑になるケースです。
ここでは、多くの人が混同している「代襲相続」と「数次相続」について、ご説明いたします。
相続の順位
人が亡くなった際に、その人の持っている財産を相続する順番は、民法で決まっています。
以下に、代表的な三つのパターンを列記いたします。
なお、財産を残して亡くなった人を「被相続人」、その遺産を受け継ぐ人を「相続人」と言います。
パターン①
被相続人に配偶者と子どもがいる場合、配偶者に財産の2分の1、子どもにも2分の1が相続されます。
もし、子どもが2人以上いる場合は、2分の1を等分することになります。
つまり、3人いる場合は、2分の1の財産をそれぞれ3分の1ずつ分けますから、子どもはそれぞれ財産の6分の1ずつを相続することになります。
パターン②
被相続人に配偶者と実親がいる場合(子どもや子どもの子孫がいない場合)には、配偶者に財産の3分の2、実親に3分の1が相続されます。
もし、実親が2人ともいる場合は、3分の1を等分することになります。
つまり、3分の1の財産をそれぞれ2分の1ずつ分けますから、父と母はそれぞれ財産の6分の1ずつを相続することになります。
パターン③
被相続人に配偶者と兄弟姉妹がいる場合(子どもや子どもの子孫、あるいは親、祖父母、曾祖父母がいない場合)には、配偶者に財産の4分の3、兄弟姉妹に4分の1が相続されます。
もし、兄弟姉妹が2人以上いる場合は、4分の1を等分することになります。
つまり、3人いる場合は、4分の1の財産をそれぞれ3分の1ずつ分けますから、兄弟姉妹はそれぞれ財産の12分の1ずつを相続することになります。
代襲相続とは
先程の「パターン①」の場合で、もし被相続人が亡くなる前に子どもが亡くなっていた時には、配偶者だけが相続権を持つことになります。
しかし、既に亡くなっている子どもに子どもがいた場合、つまり被相続人から見て孫がいた場合には、その人は亡くなっている相続権を受け継ぐ形で、そのままの相続分を引き継ぎます。
これを「代襲相続」と言います。
もしその人もすでに亡くなっていても、その人に子ども(被相続人から見ればひ孫)がいれば、さらに「代襲相続」をすることになります。
これは、「パターン③」の兄弟姉妹でも同じです。
被相続人が亡くなる前に、兄弟姉妹が亡くなっていたとしても、その子ども、つまり被相続人から見て甥や姪に相続する権利があります。
代襲相続の注意点
「代襲相続」で注意すべき点が3つあります。
まず一つは、相続放棄の場合です。
「パターン①」で、子どもが被相続人からの遺産の相続を放棄した場合、その子どもは「代襲相続」することはできません。
あくまでも子どもが生きている以上、相続する権利はその子ども固有の権利ですから、「相続しない」として権利を放棄した場合は、そこで終わってしまうという考え方です。
ただし、兄弟姉妹の場合、「代襲相続」が認められるのは、兄弟姉妹の子ども(被相続人から見れば甥・姪)までです。
もし兄弟姉妹の子どもが亡くなっていた場合には、その子ども、つまり被相続人から見て甥や姪の子どもには「代襲相続」する権利はないということです。
二つ目は、相続人に欠格があった場合でも、その子どもに「代襲相続」する権利が移るということです。
欠格とは、わざと被相続人を殺したりしたために刑罰を受けたり、あるいは被相続人が書いた「遺言書」を変造、偽造、破棄、隠匿したりして、相続の妨害をする行為です。
このような欠格に該当する行為を行った人は、相続人としての権利がはく奪されます。
その場合、その人にこどもがいれば、「代襲相続」することになるのです。
三つ目は、相続人に廃除行為があった場合でも、その子どもに「代襲相続」する権利が移るということです。
廃除とは、被相続人に対して、虐待、侮辱、その他許しがたい行為を行うことです。
例えば、生前被相続人が子どもから虐待を受け、「この子には、相続させたくない」と考えた場合、その旨を「遺言書」に書くことができます。
あるいは、「遺言書」の内容を実際に執行する「遺言執行者」が、被相続人が亡くなった後に、家庭裁判所に対して排除の請求を行うことができます。
廃除が決定するとその人には相続権が亡くなり、その子どもが「代襲相続」することになります。
数次相続とは
例えば、ある人の祖父、祖母が次々に亡くなったにもかかわらず、全く相続の手続きをせず、放置していたとします。
そして、父親が亡くなった際に、相続手続きを行う場合、今まで相続手続きを行わなかったため、相続人の範囲がかなり広がるはずです。
このことを「数次相続」と言います。
先程の例で行けば、祖父が亡くなった際に行うべき相続手続きを「一次相続」、祖母が亡くなった際に行うべき相続手続きを「二次相続」、父親が亡くなった際に行うべき相続手続きを「三次相続」と呼んでいます。
もっとも、民法で「数次相続」という規定があるわけではありません。
あくまでも「代襲相続」と区別するための言葉です。
数次相続の注意点
数次相続で最も注意すべき点は、「遺産分割協議書」の書き方です。
通常であれば、相続人が集まって遺産を分割する協議を行い、分割方法について合意すると、一枚の紙に、被相続人の遺産を誰がいくら相続する書き、相続人全員の署名・捺印で完成となります。
しかし、「数次相続」の場合は、複数の相続を一度に行う必要がありますから、特殊です。
まず、遺産分割協議書を1通にまとめる方法と、2通以上に分ける方法とがあります。
2通以上に分ける方法では、一次相続において被相続人の財産を分けた協議書と、二次相続において被相続人の財産を分けた協議書、三次相続において被相続人の財産を分けた協議書、…というように、相続の数だけの「遺産分割協議書」を作ることになります。
このように、数次ごとに「遺産分割協議書」を作りますが、もし「一次相続」と「二次相続」だけがあり、それほど複雑でなく、しかも同じ相続人が両方に関係する場合には、1通にまとめた方が良いでしょう。
「一次相続」と「二次相続」がある場合、「被相続人の記載欄」と「相続人の署名欄」について、十分注意してください。
「遺産分割協議書」では、通常、「誰の遺産についての協議なのか」を明確しますので、被相続人の氏名、生年月日、死亡年月日、最後の住所、最後の本籍地を記載しなればなりません。
「数次相続」では、それぞれの相続手続きにおいて、それぞれ被相続人がいるわけですから、すべての被相続人についての情報を記載します。
そして、「二次相続」の「被相続人の記載欄」には、「相続人兼被相続人」と記載することになります。
つまり、「一次相続」では、相続人であっても、「二次相続」の際には既に亡くなっている場合には、被相続人となるわけですから、このような書き方になります。
また、「遺産分割協議書」には、先程ご説明したように、相続人の署名と捺印が必要ですが、「一次相続」の「遺産分割協議書」を作成する場合、既に相続人が亡くなっていることがあるはずです。
そのような場合には、「相続人の署名欄」に、「相続人○○の相続人」という肩書を記載します。
まとめ
「代襲相続」も「数次相続」もかなり煩雑な手続きになります。
ただ、「相続関係説明図」を作成し、誰に相続権があるか、いつ相続人が亡くなったなどを記載して整理すれば、わかりやすく、手続きもしやすいと思います。
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