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最終更新日:2023/7/13

正しい相続手続きVOL15  遺産の使い込みを防ぐには?税務署にはバレる?時効や取り戻す方法

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

たとえば父が亡くなって相続が発生し、法定相続人は姉、そして本人だったとします。

父が遺言書などを遺していなかった場合、相続財産は姉と本人の2人で遺産分割協議によって決めることとなります。

相続手続きにおいて父の財産調査をしていくうちに、姉が父の生前に口座から勝手にお金を引き出し使い込んでいたことが発覚したとしたら、使い込み分は精算した上で遺産分割することは可能なのでしょうか。

本記事では遺産の使い込みが発覚した場合の対処法や防止法について解説していきます。

遺産の使い込み(使途不明金)とは

遺産の使い込みとは、被相続人が亡くなる前に、被相続人の保有する預貯金を家族が勝手に引き出すなどして、本人の意思に関係なく使われたお金をいいます。

後からお金がどのように使われたのか確認することが難しいため、使途不明金とも呼ばれます。

なお、相続税を逃れるためなどの理由で遺産を隠したり、使途を偽装する行為は、使途秘匿金と呼ばれ、犯罪になることもある極めて悪質な行為です。

使途不明金と使途秘匿金はまったく別物であるため、混同しないように注意しましょう。

遺産の使い込みの具体例

遺産の使い込みには、様々なパターンがあります。

・認知症になった親の預金口座から勝手に引き出し、自分の買い物をする

親が認知症になってしまうと、親は自分で預金を引き出すことは難しくなります。

ただ、子供などがATMを利用することはできるため、勝手に預金を引き出してしまうケースがあります。

・親の名義となっている不動産を勝手に売却する

親の代理人として、子供が親の名義となっている不動産を売却してしまうケースがあります。

親の同意がなければ、たとえ同居している家族であっても、親の名義の不動産を売却することはできず、遺産の使い込みに該当します。

・親の不動産収入を横領する

親の収入を、子供が勝手に使い込んでしまうことがあります。

親が自身の収入や確定申告に関する書類の管理が難しくなった場合に、起こりやすいパターンです。

相続税申告時に遺産の使い込みがあったら税務署にバレる?

使途不明金となった金額は、何に使ったのか誰にも分かりません。

預金から引き出された使途不明金は、そのまま現金として残されているかもしれないとも考えられます。

そのため、使途不明金は相続税の計算上、相続財産に含めて申告しなければなりません。

使途不明の出金があるにもかかわらず、その存在を無視して申告した場合には、税務調査を受けやすくなります

税務調査では、被相続人の預金の動きを3年分はさかのぼって調べられるので、使途不明金があると、過少申告の指摘を受けることとなります。

遺産の使い込み状況を調べる方法

遺産が使い込まれているか確認する方法を紹介します。

個人で調べる

相続人自らが、使い込みがないかを調査することができます。

被相続人と同居している相続人や、日常的に面倒をみている相続人がいる場合、その他の相続人が被相続人の預貯金の調査を行うことがあります。

被相続人名義の預貯金の口座について、取引明細書を数年分発行してもらい、その動きをチェックします。

その中に使途不明の出金や振込がある場合は、その内容を当事者である相続人に問い合わせることとなります。

弁護士に相談する

被相続人の保有している預貯金が多数ある場合などは、相続人自身で調査を行うには限界があります。

そこで、弁護士に遺産の調査を依頼して、使い込みがなかったかを調査してもらいます。

弁護士は、弁護士会照会制度という調査制度を利用することができます。

弁護士会照会制度を利用することで、金融機関から取引明細書を取り寄せる際に、非常に効率的に手続きを進めることができます。

また、弁護士に預貯金の動きの分析を依頼することもでき、数多くの経験を生かしてより精緻な分析をしてもらうことができます

裁判所を利用する

裁判所で、不当利得返還請求訴訟や損害賠償請求訴訟を提起し、その訴えが認められると、被相続人の預貯金だけでなく、使い込んだとみられる人の預貯金の動きを開示させることができます

使い込んだとみられる人の、預貯金や証券会社の口座の動きを調べると、実際に被相続人からの入金や、その後のお金の使い道についても知ることができ、より正確に使い込みの事実やその金額を調べることが可能になります。

遺産の使い込みに気づいたときの対処法

遺産が使い込まれていた場合の対処法を紹介します。

相手と話し合って返還を求める

使い込みの調査を行い、誰がどれだけの使い込みをしたのかがはっきりしたら、その人に使い込んだ金額を返還するように求めることができます

話し合いによる解決を行うには、客観的な事実がなければなりません。

何の証拠もなく、思い込みだけで話し合いを進めても、返還を求めることはできません。

また、実際に使い込みがあったとしても、現在の状況で支払い能力がなければ、返還してもらうことはできません。

話し合いにより、支払金額やその期間を決める必要があります。

遺産分割調停を申し立てる

遺産分割を行う前に遺産が処分されたとしても、共同相続人全員の同意がある場合には、遺産分割を行う時にその財産が遺産に含まれているものとみなすことができるとされました。

また、共同相続人の1人または数人により遺産が処分された時は、処分した相続人からの同意を得ることは要しないとされています。

そこで、被相続人が亡くなった後に遺産の使い込みが発覚した場合には、共同相続人の同意を得たうえで、遺産が存在するものとして遺産分割ができるので、そのための調停を行うことができます。

訴訟をおこなう

使い込みを行った人と話し合いを行っても、話し合いが成立しないことがあります。

また、遺産分割調停を行っても、調停案にお互いが同意しなければ、調停は成立しません。

そこで、訴訟により解決を目指すことがあります。

使い込んだ遺産の返還を目指す「不当利得返還請求」か、遺産の使い込みという不法行為に対する「損害賠償請求」を行います。

このいずれかではなく、両方の訴訟を同時に起こすこともできます。

遺産の使い込みを防止する方法

遺産の使い込みを防止する方法を紹介します。

任意後見制度を利用する

使い込みを防ぐために、任意後見制度を利用する方法があります。

任意後見制度は、親が判断能力を有しているうちに、後見人となる人を決めておく制度です。

誰を後見人にするか、どのような内容を依頼するかをあらかじめ決めておくことができます。

そして、判断能力が低下した時には、同居する家族ではなく、後見人になることとされた人が、財産の管理を行うこととなります。

そのため、同居する家族などが勝手に親の預金を引き出したりすることはできなくなります。

成年後見制度を利用する

成年後見制度は、親の判断能力が低下する前に特別な対策をしていなかった場合に、取ることができる最後の手段といえます。

判断能力が低下した親の財産を管理するために、裁判所に後見人の選任を申し立てます。

成年後見人となるのは、親族とは限らず、弁護士などの専門家が選任される場合があります。

また、成年後見制度を利用すると、財産の使い込みは防げますが、相続対策などを行うことは難しくなるので、最善の方法といえるのか事前に検討してから利用しましょう。

家族信託を利用する

家族信託は、親が自身の判断で財産を信頼できる人に預け、その管理を依頼するものです。

契約によって、誰に財産の管理を任せるのか、どの財産の管理を依頼するのかを決めておくことができます。

成年後見制度とは違い、相続対策や財産の運用といったことも可能となっています。

また、判断能力が低下する前に契約しておけば、判断能力が低下した後も継続して利用できます

そのため、判断能力が低下した後に、相続人が使い込みを行うのを防ぐことができます。

遺産の使い込みの返還には時効がある

使い込みを行った相続人に対して不当利得返還請求を行うことにより、使い込んだ財産を返還してもらうことが可能です。

被相続人のすべての財産は相続人に包括して承継されることなり、分割できる債権である可分債権については相続が開始された時点でそれぞれの相続人に分割されます

可分債権に該当する代表例には、預金や貸付金、受取手形など金銭給付を目的とした金銭債権が挙げられますが、被相続人が有する不当利得返還請求権も含まれますので、それぞれの相続人に分割され引き継がれることになります。

そのため、使い込みを行った相続人に対し、法定相続分として定められた割合で不当利得返還請求権を行使できるということです。

使い込んだ遺産の取り戻しには証拠集めが重要

遺産分割協議や調停の遺産分割の手続において、もし一部の相続人により使い込まれた財産がある場合には、その相続人に対し請求権を行使することを検討しましょう。

遺産分割協議で解決できれば問題ないでしょうが、話がまとまらなかったときには、強制的に支払ってもらうよう不当利得返還請求訴訟などにより判決を待つことになります。

裁判になると、使い込みを行った証拠を提出するといった、勝手な財産処分が行われた事実を証明しなければなりません。

被相続人の所有する財産の動きや、筆跡など、客観的にみて使い込みがあったと判断できる証拠を準備できるか検討した上で、裁判を起こしたほうがよいか決めるようにしましょう。

まとめ

もし親の預金などの財産を、兄弟姉妹が勝手に引き出して使い込んでいたら…。

本来なら相続するはずだった財産を引き継ぐことができなくなり、相続人の間で不公平が生じることになります。

もし被相続人の財産を相続人の誰かが勝手に使い込み、相続人同士が紛争トラブルを抱えることになると大変です。

たとえ親子であっても、金銭の管理や運用、貸し借りなどは相手任せにするのではなく、双方で定期的に確認しておくことが相続発生後のトラブルを回避するためには必要といえます。

反対に親などから預貯金や不動産などの管理を任されている場合には、相続が発生した後で他の相続人から使い込んだのではないかといった疑いを掛けられることのないよう、自分の財産と親の財産は分けて管理を行うようにしてください

また、親の財産のうち、支出があったときには何に使ったのかしっかり記録し、領収書なども保管しておくと安心です。

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