私たちに相続が生じた場合には、民法によって規定された相続割合を基準にして相続手続きを進めることになります。
しかしながら、一部の相続人が他の相続人に比して、多大なる貢献をし、それが被相続人に利益となっていたような場合には、その特別の貢献をした者に対して、法律上「寄与分」という少し多めの相続分で相続することができる権利が認められています。
今回は、この寄与分の仕組みについてみていきましょう。
寄与分の制度はどうしてできたか
寄与分の制度ができる以前より、特別受益という相続分調整制度が存在しました。
ところが、本来恩恵を受けてしかるべき特別の寄与をした者は、全く見返りを受けることができないというのでは少し公平性に欠けるのではないかということになりました。
寄与分の請求は独善的であってはいけません。
つまり、「私は故人の生前にこれだけ貢献したのよ」と強く主張をしても、他の人から「イヤイヤ、そんなウソはよくないよ」と疑われるような場合に、無理矢理自分の相続分を上げてはいけません。
この場合には、家庭裁判所にて調停等を申し立て、判断を仰ぐことになります。
寄与分が認められるためには?
寄与分があったと法律的に認められるためには、寄与分の定義を理解し、これを現実的に満たしている必要があります。
寄与分の意味について
改めて、法律的に寄与分がどのように定められているのか整理をしていきたいと思います。
寄与分というのは、次に該当するものが要件となります。
- (1)「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法」があったこと
- (2)「特別の寄与」があったこと
- (3)「被相続人の財産の維持又は増加」があったこと
(引用:民法904条の2第1項)
具体例を見てみましょう
先ほどご紹介した寄与分の要件を満たすように、被相続人となる者に貢献しましたよという人がいたとしましょう。
このような方がすべて寄与分を得ることができるかというと、そうではありません。
寄与分が認められるためには、寄与の程度が「特別」なものでなければいけません。
そう考えると、この寄与分の要件を満たすことは、案外容易ではないことがわかります。
一般的に考えてみましょう。
家族として一緒に暮らしている方が何か困っていたら何とかして手を差し伸べてあげたくなりますよね?ところが、これは家族であれば当然求められるようなものであり、この程度では寄与分の要件を満たすほどの「特別の寄与」をしたということにはならない訳です。
残念ながら、実際の紛争事案においても寄与分が認められたケースというのは、わずか1割ほどであるとも言われています。
もしも自分の場合には寄与分が認められるのではないかという、自覚がある方は寄与分を行ったといえるだけの証拠を少しでも多くきちんと残しておきましょう。
遺言を残しておくと効果的
さて、寄与分は認められにくいというイメージはつかんでいただけたかもしれません。
そこで、代わりにお伝えしたいのが遺言書の作成です。
遺言書の中で「この人は自分に良くしてくれたから、少し多めに財産をあげます」とこのような趣旨の遺言書を書いておけば、寄与分と同様の効果を与えることができます。
遺言書は遺言者しかできないことです。
自分に良くしてくれた方には、是非その人のためにも遺言書を残してあげてください。
まとめ
今回は、寄与分とはどのような制度であるか、そして寄与分の実態について解説をさせていただきました。
ルール自体は規定があるのですが、実際には認められにくいのです。
これを解決する方法として、遺言書を作成することも検討してみましょう。
▼正しい相続手続き シリーズ
- 正しい相続手続きVOL1 「法定相続分」の概要と「相続人」の順位」
- 正しい相続手続きVOL2 「 厳しい要件を持つ「遺言」の種類と手続きについて 」
- 正しい相続手続きVOL3 「 認知症だと遺言書は無効?遺言能力を証明する方法とは 」
- 正しい相続手続きVOL4 「 相続法改正で活用しやすくなった「自筆証書遺言」作成方法と保管について 」
- 正しい相続手続きVOL5 「 相続人が行方不明あるいは意思能力がない場合の遺産分割協議の進め方 」
- 正しい相続手続きVOL6 「 相続法改正が預貯金の取扱いに与える影響と遺産分割の仕組み 」
- 正しい相続手続きVOL7 「 もし遺産分割で揉めて話し合いが進まないときは 」
- 正しい相続手続きVOL8 「 相続法改正でどうなる?遺留分制度への影響と「遺留分侵害額請求権」について解説 」
- 正しい相続手続きVOL9 「 被相続人に仕送りしていた相続人は多くもらえる?寄与分として認めてもらうには 」
- 正しい相続手続きVOL10 「 「特別寄与料」相続人以外の親族にも認められるようになった!その概要と注意点 」
- 正しい相続手続きVOL11 「 一番多く被相続人の介護をしていた場合の遺産分割について 」
- 正しい相続手続きVOL12 「 後妻がいる場合の相続|トラブル対策と「連続型信託」について 」
- 正しい相続手続きVOL13 「 認められるのは難しい?「寄与分」の定義と要件 」
- 正しい相続手続きVOL14 「 他の相続人から「生前贈与」を「使込み」と疑われるケースへの対処法 」
- 正しい相続手続きVOL15 「 遺産の使い込みを防ぐには?税務署にはバレる?時効や取り戻す方法 」
- 正しい相続手続きVOL16 「 不公平な相続を防ぐ「特別受益」とその「持戻免除」について 」
- 正しい相続手続きVOL17 「 相続の際に婚外子がいるか確かめる方法 」
- 正しい相続手続きVOL18 「 養子縁組をした場合の相続関係の考え方と注意点 」
- 正しい相続手続きVOL19 「 相続の順番は?複数回の相続における代襲相続と数次相続の違いと注意点 」
- 正しい相続手続きVOL20 「 被相続人が相続人の一人に金銭支援していた場合の平等な遺産分割とは 」
- 正しい相続手続きVOL21 「 相続人が誰もいない場合の財産のゆくえと対策法 」
- 正しい相続手続きVOL22 「 遺産分割審判の対象となった預貯金の遺産分割方法について解説 」
- 正しい相続手続きVOL23 「 自宅に住み続けられる!平成30年相続法改正による”配偶者の優遇措置”とは? 」
- 正しい相続手続きVOL24 「 相続人に未成年者がいる場合の遺産分割の方法 」
- 正しい相続手続きVOL25 「 子や孫の名義で貯めた名義借預金における相続税の申告方法 」
- 正しい相続手続きVOL26 「 相続税の計算のために把握すべき「課税相続財産」とは? 」
- 正しい相続手続きVOL27 「贈与税」と「相続時精算課税」どちらを申告すれば損しない? 」
- 正しい相続手続きVOL28 「 課税されない財産もある?「相続税」の概要と控除について 」
- 正しい相続手続きVOL29 「 相続税の仕組みを知って実際にいくらかかるか計算してみよう! 」
- 正しい相続手続きVOL30 「 相続税額が決まる「相続財産の評価方法」とは?不動産や保険などケース別に紹介 」
- 正しい相続手続きVOL31 「 本当に不動産のほうが預貯金より節税になるのか?損しないためのポイント 」
- 正しい相続手続きVOL32 「 分割方法によって変わる土地の評価額と損しないための対策 」
- 正しい相続手続きVOL33 「 宅地の特例は相続人や活用法によって変わる!平成30年度税制改正による影響とは 」
- 正しい相続手続きVOL34 「 事業用地の相続税対策でかなりの節税!その方法を解説 」
- 正しい相続手続きVOL35 「 相続税申告期限までに遺産分割が確定しない場合に受けられなくなる特例とは 」
- 正しい相続手続きVOL36 「 賢い相続税対策!意外と高い贈与税をうまく活用するには? 」
- 正しい相続手続きVOL37 「 節税しながら子や孫を支援するには?贈与で非課税になる特例を解説 」
- 正しい相続手続きVOL38 「 消費税アップで孫のマイホームに資金援助がしやすくなる?新しい特例とは 」
- 正しい相続手続きVOL39 「 一般社団法人が相続税対策となる仕組みと注意点 」
- 正しい相続手続きVOL40 「 一般社団法人における租税回避防止規定と課税関係について解説 」
- 正しい相続手続きVOL41 「 生命保険と死亡退職金で賢く相続税の納税資金にする方法 」
- 正しい相続手続きVOL42 「 相続した遺産が不動産で金銭の納税ができない場合の納税方法とは? 」
- 正しい相続手続きVOL43 「 どうしても相続税が払えない!他の方法について解説 」
- 正しい相続手続きVOL44 「 遺産が自社株式で納税できない!特例納税猶予制度の仕組みと注意点 」
- 正しい相続手続きVOL45 「 返済してもらえない貸付金にかかる相続税を免除してもらう方法 」