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高齢化社会がますます進行し、どのような老後を迎えるのかは大きな関心事となっています。
そういった状況の中で、身近な人の介護をした場合には、その分相続財産から見返りをもらうことができれば、と考えるのは自然なことと言えます。
では、被相続人の介護を一番行っていた人は、その分遺産分割の際に財産を多く相続することができるのでしょうか。
介護をした人に認められる寄与分とは
被相続人の介護を行い、その結果、被相続人の相続財産が減少するのを防いだ人は、被相続人に対して寄与行為を行ったものとして寄与分が認められます。
被相続人の相続財産に対する寄与が認められる場合、その寄与分に相当する金額を相続財産から除いて、寄与者が優先的に相続することができるのです。
療養看護型の寄与分
被相続人の介護を行った場合は、療養看護型の寄与を行ったものと考えられます。
療養看護型の寄与とは、1人で日常生活を送ることができなくなった被相続人の介護を行ったり、入院した被相続人の付き添いを行ったりして、身の回りの世話を行うことをいいます。
療養看護型の寄与として行う行為は、相続人となる配偶者や子供といった人にとっては特別な行為ではなく、扶養義務がある人には当然のことと考えられるものです。
そのため、単に介護を行ったからといって寄与分が認められるとは限りません。
寄与行為には、他に被相続人に金銭や財産を出資するもの(金銭等出資型)や被相続人が営んでいた事業を手伝う(家事従事型)などがありますが、療養看護型の寄与は他の類型と比較しても、寄与分として認められにくいものとなっています。
寄与者となることのできる人
寄与分が認められる人は、原則として、被相続人の相続人に限られます。
例えば配偶者とその子供がいる場合に、被相続人の兄弟姉妹が介護を行っていたとしても、寄与分は認められないとされていました。
しかし、相続人でない人が寄与行為を行うことは決して珍しいことではないのに、遺産分割の際に相続人以外の寄与行為は一切考慮されないため、相続をするうえでもめる原因となっていました。
特に、相続人の妻が被相続人の介護を行うケースは実際によくあるので、まったく寄与行為を認めないのは、不公平だとする考え方が一般的となっていました。
そこで、2019(令和元)年7月1日に施行された改正相続法では、相続人以外の人が行った寄与行為についても「特別寄与料」として、他の相続人に対して請求することができるように改正されました。
これまでは、相続人でなければ寄与分が認められないと、あきらめていた場合があるかもしれませんが、相続人以外の親族でも寄与分が認められると法律上に明記されるのは、大きな意味があります。
寄与分が認められる要件とは
被相続人の相続財産について、維持または増額に貢献した相続人は、要件を満たせば寄与分が認められます。
寄与分が認められるための要件として考えなければならないのは、①寄与行為が存在すること、②寄与行為が夫婦間や親子間の扶養義務の範囲を超える「特別の寄与」であること、③被相続人の財産の維持または増加があり、寄与行為と因果関係があることです。
これらをすべて満たさないと、寄与分の主張は認められません。
特別寄与料が認められる場合
改正により新たに認められることとなった特別寄与料についても、寄与分と同様の要件を満たさなければなりません。
特別寄与料において寄与行為を行っているのは相続人ではないため、寄与分に比べて「特別の寄与」に該当するとの主張はしやすいかもしれません。
しかし一方で、相続人でない人が行った寄与行為について、どの程度行われたのかを証明するのは難しいことから、自分で記録を残しておくなどの工夫をする必要があります。
介護が寄与行為と認められるためには
配偶者や親の介護を行うのは、扶養義務を考えれば当然のことと考えることができます。
しかし、付きっきりで介護を行ってきた人からすれば、その苦労が何らかの形で少しでも報われれば良いという思いはあります。
介護を行っても寄与行為と認められる場合と認められない場合があるとすれば、どのような違いがあるのでしょうか。
介護が寄与行為と認められにくい理由
そもそも、介護が寄与行為に該当し、寄与分や特別寄与料が認められることとなりにくいのには理由があります。
民法では、夫婦間の協力扶助義務や直系血族及び兄弟姉妹の扶養義務、直系血族及び同居の親族の相互扶助義務を定めています。
普段生活をするうえで意識することはないかと思いますが、夫婦や親子などの関係にある人は、互いに支えあいながら生活することが法律で定められているのです。
寄与分をめぐる争いが相続人間の協議で解決しなければ、最終的に家庭裁判所での判断となります。
家庭裁判所は法律に照らした判断を行うため、介護が民法に定める協力扶助義務や扶養義務などの範囲内であるとされれば、それは寄与行為ではないこととなり寄与分は認められないのです。
介護が寄与行為と認められるためには
介護が寄与行為と認められるための分かれ目となるのは、介護が「特別の寄与」といえるかどうかです。
特別の寄与に該当するのであれば、民法に定める扶養義務を超えて介護を行っていると考えられることから、寄与分が認められる可能性が高くなるのです。
それでは、どのような場合に「特別の寄与」にあたると考えられるのでしょうか。
そこにはいくつかのポイントがあります。
「特別の寄与」となるポイント①継続性
長期間にわたって行われてきた介護であるほど、通常の扶養義務を超えた「特別の寄与」と認められる可能性が高くなります。
人によっては10年を超えるような長い間、介護を必要とすることがあります。
特にいつから介護にかかわってきたのかが分かりにくいため、自分で作成したメモでもいいため、その介護の始まりが分かるような書類を準備しておきましょう。
「特別の寄与」となるポイント②専従性
単に介護に関わってきた期間が長ければ、それで「特別の寄与」と認められるわけではありません。
連日のように、あるいは1日中付きっきりで介護を行ってきたという専従性が認められるほど、「特別の寄与」となる可能性は高くなります。
専従性が高くなれば、寄与分が認められる要件である被相続人の財産の維持に対する貢献度も必然的に高くなり、結果的に寄与分の金額も高くなるものと考えられます。
「特別の寄与」となるポイント③無償性
介護を行っていた際に報酬を受け取っていないことです。
家事従事型の寄与分が認められるための要件にも含まれており、寄与分が認められるためには重要なポイントとなっています。
というのは、介護を行って報酬を受け取っているのであれば、被相続人の財産の維持または増加という要件を満たさないこととなってしまうからです。
ただし、介護を行っていない他の相続人と同程度の財産を生前に受け取っている場合には、介護による報酬を受け取ったとは認められないとして、無償性が認められる場合もあります。
介護による寄与分は認められにくい
これらのポイントを踏まえて介護を行ってきた場合でも、その寄与分が必ず認められるわけではありません。
特に公的介護保険の制度ができてからは、いっそう介護による寄与分が認められにくくなっています。
介護による寄与分を主張するのであれば、継続性・専従性・無償性を証明できるような書類を残しておくことは必須となります。
寄与分を算定する方法
寄与分が認められることとなった場合に、はたしてその寄与分の金額はどのように算定すればいいのでしょうか。
介護を行ってきた場合、被相続人の財産を減少させなかったことについて寄与分が認められるため、寄与行為によって被相続人の財産がどれくらい維持できたのかを算定する必要があります。
寄与分として認められる金額の評価方法
寄与分として認められる金額は、被相続人の財産を維持した場合はその減少しなかった分の金額、被相続人の財産を増加させた場合はその増加した分の金額となります。
被相続人の財産を維持した場合は、寄与行為との因果関係が分かりにくいケースもあります。
もし寄与者が寄与行為を行っていなかったら、どの程度の支出が見込まれるのかを推計し、実際の相続財産との差額を寄与分として主張する必要があります。
療養看護型の寄与分の算定
介護を行っていた場合には、おむつなどの消耗品、介護用品の購入費やレンタル料金、デイサービスなどの施設利用料などがかかります。
これらの支出の中に寄与者が負担していたものがあれば、その金額は寄与分として主張することができます。
また、本来であればヘルパーなどを頼まないと日常生活が送れないところ、介護してくれる人がいたために頼まなくて良かったというケースもあります。
このようなケースでは、実際にヘルパーを頼んだ場合にかかる金額を計算してみて、その分を寄与分として主張することとなります。
ただこの場合は、ヘルパーとしての資格や知識を持っている人と資格を持っていない親族を同列に扱うことはできず、人件費をそのまま寄与分として認めることはできないと思われ、寄与分の額はかなり減らされる可能性があります。
まとめ
介護を行ってきた人が寄与分を主張して、その分相続財産を多めにもらうのは、当然のことと言えます。
しかし、法律上認められた制度ではあっても、実際にその請求を裁判所に認めてもらうのは、かなり難しいのが実状です。
また、相続人以外の親族にも特別寄与料が認められるようになりますが、こちらも寄与分と同様、裁判所で認定してもらうのは難しい面があると思われます。
寄与者にとって一番大事なのは、ほかの相続人との協議において寄与分を認めてもらうことです。
また、寄与分がある人については多めに財産を相続するという内容の遺言書を被相続人が作成していれば、それ以上もめる可能性は低くなります。
寄与行為を行った人は、裁判所に申立てを行うのは最終手段であると考え、客観的な材料をそろえたうえで他の相続人に認めてもらうようにしましょう。
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