東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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目次
弁護士特約(あるいは弁護士費用特約)は、交通事故の相手方に対して損害賠償請求を行える場合に、弁護士への相談や弁護士の交渉、訴訟などによって発生した弁護士費用を一定の限度額(通常300万円)の範囲内で保険会社が負担する自動車保険の特約です。
つまり、弁護士特約を利用できれば、弁護士費用を負担しなくていい可能性が大幅に上がります。
しかし、弁護士特約というと「交通事故被害者が利用するもの」と誤解されがちですが、実はそうとは限りません。
交通事故加害者であっても弁護士特約を利用できることがあります。
以下ではその詳細について解説してまいります。
弁護士費用は刑事事件、民事事件で発生します。
そこで、この項では、交通事故加害者となった場合にいかなる責任が発生するのか確認していきましょう。
刑事責任は、交通事故加害者が懲役、禁錮、罰金などの刑罰を受ける責任です。
刑事事件における交通事故では主に「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下、法律といいます)」が適用されます。
法律5条には交通事故で最も適用されることが多い「過失運転致死傷罪」が規定されています。
法律5条
自動車の運転上必要な注意義務を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処する。
ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
過失運転致死傷罪の罰則は「7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」です。
刑事裁判で有罪の判決を受けるとこの罰則の範囲内で刑を受けることになります。
民事責任は、交通事故加害者が交通事故によって相手方に与えた損害につき賠償する責任(損害賠償責任)です。
損害は財産的損害と精神的損害に分けることができます。
このうち財産的損害に対する責任は民法709条を、精神的損害に対する責任は民法709条、710条を根拠とします。
民法709条
故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法710条
他人の身体、自由もしくは名誉を侵害した場合または他人の財産権を侵害した場合のいずれかであるかを問わず、前条の規定により損害賠償責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
損害賠償責任が認められた場合は、相手方に発生した損害をお金で弁償する必要があります。
行政責任は、交通事故加害者が免許取消し、免許停止を受ける責任です。
免許取消し、免許停止は一定の違反点数に達した場合に受ける処分です。
ちなみに、違反点数は基礎点数と付加点数があり、交通事故は付加点数に分類されます。
交通事故の付加点数はまず死亡か傷害かで異なり、傷害の場合はさらに傷害の程度(治療期間)によって違反点数が異なります。
弁護士費用は刑事事件、民事事件で発生します。
では、どの程度の弁護士費用が発生するのでしょうか?
弁護士費用の費目は大きく「法律相談料」、「着手金」、「報酬金」、「日当費・実費」に分けることができます。
刑事事件における弁護士費用の目安は以下のとおりです。(法律事務所により異なります)(金額は税抜き)
法律相談料 | 0円~1万円(30分から1時間) |
---|---|
着手金 | 0円~40万円(事件の難易度による) |
報酬金 | 0円~100万円(結果による) |
日当費実費 | 弁護活動の内容による |
法律相談料は、正式契約前に行った弁護士への法律相談で発生した費用です。
着手金は、正式契約後、弁護活動の結果にかかわらず発生する費用です。
報酬金は成果によって異なります。
【例:在宅事件で被害者と示談が成立し、不起訴処分を獲得できた場合】
着手金:40万円
報酬金:40万円(不起訴処分獲得)、20万円(示談成立)
=100万円~(税抜き)
次に、民事事件における弁護士費用の目安は以下のとおりです(法律事務所により異なります)。
【弁護士特約を利用できる場合】(金額は税抜き)
法律相談料 | 0円~1万円(30分から1時間) |
---|---|
着手金 | 以下の通り |
報酬金 | 以下の通り |
日当費実費 | 弁護活動の内容による |
【着手金・報酬金】
経済的利益の額 | 着手金 | 報酬金 |
---|---|---|
125万円以下 | 10万円 | 0円~20万円 |
300万円以下 | 経済的利益の8% | 経済的利益の16% |
300~3,000万円以下 | 経済的利益の5%+9万円 | 経済的利益の10%+18万円 |
3,000万円~3億円 | 経済的利益の3%+69万円 | 経済的利益の6%+138万円 |
3億円以上 | 経済的利益の2%+369万円 | 経済的利益の4%+738万円 |
ただし、着手金や報酬金は「経済的利益の額」のとらえ方や事案によって異なります。
詳しくは、法律事務所に直接お問い合わせください。
【例:相手方に1,800万円の損害賠償金を求め、交渉の結果、1,000万円に減額した場合】
→着手金の経済的利益の額:1,000万円or1,800万円、報酬金の経済的利益の額:1,000万円
→着手金の経済的利益の額を1,800万円とした場合
=着手金:99万円(1,800万円×0.05+9万円)
報酬金:118万円(1,000万円×0.1+18万円)
【例:相手から800万円の支払いを提示されていたところ、1,200万円を提示し、最終的に1,000万円を獲得した場合】
→着手金の経済的利益の額:200万円(1,000万円-800万円)OR1,000万円or1,200万円
→報酬金の経済的利益の額:200万円or1,000万円
→着手金の経済的利益を1,200万円、報酬金の経済的利益を1,000万円とした場合
=着手金:69万円(1,200万円×0.05+9万円)
報酬金:118万円
上記のとおり、刑事事件の弁護士費用は決して安いものではありません。
しかし、基本的に刑事事件で弁護士特約を使うことはできないと考えてください。
弁護士特約は、相手方に損害賠償金を請求できる民事事件で使える特約だからです。
民事事件で弁護士特約を使えたとしても、その弁護人は刑事事件に関する刑事弁護活動をしてくれるわけではありません。
ただ、近年は、刑事事件でも弁護士特約を使える保険を販売している保険会社もあります。
そうした保険に加入されている場合は、刑事事件でも弁護士特約を使える可能性があります。
まずは、加入している保険会社に問い合わせて確認するのが一番かと思います。
刑事事件と異なり、民事事件では弁護士特約を使うことができる可能性があります。
民事事件で、交通事故加害者が弁護士特約を使うことができる可能性があるのは、被害者にも損害賠償金を請求できる場合です。
「被害者から損害賠償を求められている場合、加害者は弁護士特約を使うことができない」などと誤解されている方も多いと思われます。
しかし、被害者に損害賠償金を請求できるのであれば、加害者でも弁護士特約を使うことができる可能性があります。
民事事件においては、加害者=損害賠償金を請求できない=弁護士特約の利用不可、というわけではないのです。
以下、その理由について解説します。
まず、交通事故においては加害者であるか被害者であるかは過失割合に従って決められるのが通例です。
過失割合の最大を10として加害者と被害者とに割り振られます。
そして過失割合の大きい方が加害者、小さい方が被害者となります(割合が等しい場合はどちらでもない)。
たとえば、Aさんの過失割合が6、Bさんの過失割合が4の場合、加害者はAさん、被害者はBさんです。
過失割合は交通事故の過失の重さを数値化したものです。
民事事件における過失とは不注意、つまり落ち度といってもいいでしょう。
この落ち度の程度を数値化したものが過失割合ということになります。
発生した結果(死亡、傷害の程度)ではなく、あくまで交通事故の過失の重さに対する責任の割合が過失割合だ、ということがポイントです。
したがって、たとえば被害者より怪我の程度が重たくても加害者となる場合も当然あります。
ただ、交通事故においては、加害者に一方的な過失が認められる事故(つまり10対0の交通事故)は稀で、被害者にも何らかの過失が認められることの方が多いと思われます。
そして、被害者にも過失が認められる場合にまで、被害者に発生した治療費や慰謝料などのすべての損害につき加害者に負担させることはあまりにも不公平です。
そこで、そうした場合は発生した損害額から過失割合分を減額する措置が取られます。
この措置のことを過失相殺といいます。
つまり、過失割合は過失相殺をするためのツールということになります。
過失相殺は民法722条2項に規定されています。
民法722条2項
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
過失割合は算出された損害賠償額に影響を与えるものですから、基本的に損害賠償額を確定させた後に決まります。
まずは、当事者同士の話し合いによって過失割合を決めることになります。
ただ、当事者同士といっても加害者と被害者が直接決めるわけではありません。
加害者や被害者の代理人(弁護士、保険会社の担当者)が話し合いによって決めていきます。
話し合いで解決しない場合は裁判となり、最終的には裁判官が決めます。
交通事故はどれ一つ同じものはありません。
どの交通事故でも事案ごとに異なる事情を抱えています。
つまり、交通事故は事案ごとに「色」があるわけです。
しかし、いくら事案ごとに色があるといってもベースとなる基本部分は共通していることが多いものです。
弁護士や担当者は、まずはこの基本部分の過失割合(基本過失)を決めます。
その上で、事案ごとの個別事情(修正要素:たとえば、夜間であること、被害者である自転車が夜間ライトを点灯していなかったことなど)を勘案して修正し、最終的な過失割合を確定させます。
その際に必ずといっていいほど参照されるのが「別冊判例タイムズ38号民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準全訂5版」です。
判例タイムズには基本過失や修正要素などが記載されています。
以下では、よくある車同士の交通事故における基本過失の例をご紹介します。
【信号機のある交差点での直進車同士の事故】
過失割合 | |||
---|---|---|---|
車A | 車B | 車A | 車B |
青で走行 | 赤で走行 | 0 | 10 |
黄で走行 | 20 | 80 | |
赤で走行 | 50 | 50 |
【信号機のある交差点での直進者、右折車の事故】
過失割合 | |||
---|---|---|---|
車A(直進車) | 車B(右折車) | 車A | 車B |
青で進入 | 青で進入 | 20 | 80 |
黄で進入 | 青で進入し黄で右折 | 70 | 30 |
黄で進入 | 黄で進入 | 40 | 60 |
赤で進入 | 赤で進入 | 50 | 50 |
赤で進入 | 青で進入し赤で右折 | 90 | 10 |
赤で進入 | 黄で進入し赤で右折 | 70 | 30 |
赤で進入 | 右折の青矢印で右折 | 100 | 0 |
以上のように、過失割合大きい=加害者、過失割合小さい=被害者となるわけですが、そのことが直ちに加害者=損害賠償請求できない、ことに繋がるわけではありません。
以下にその具体例を紹介します。
【ケース1】加害者の損害額20万円、被害者の損害額100万円
加害者が請求可能な損害賠償金=20×0.2=4万円
被害者が請求可能な損害賠償金=100×0.8=80万円
このような場合、被害者が加害者に76万円(80万円-4万円)を請求することができます。
【ケース2】加害者の損害額200万円、被害者の損害額100万円
加害者が請求可能な損害賠償金=200×0.2=40万円
被害者が請求可能な損害賠償金=100×0.8=80万円
このような場合も、被害者が加害者に40万円(80万円-40万円)を請求することができます。
次に、加害者の過失を6、被害者の過失を4とした場合(被害者の過失割合が大きくなり、加害者の過失割合が小さくなった場合)の損害賠償金を確認しましょう。
【ケース3】加害者の損害額20万円、被害者の損害額100万円
加害者が請求可能な損害賠償金=20×0.4=8万円
被害者が請求可能な損害賠償金=100×0.6=60万円
このような場合も、被害者が加害者に52万円(=60万円-8万円)を請求することができます。
【ケース4】加害者の損害額200万円、被害者の損害額100万円
加害者が請求可能な損害賠償金=200×0.4=80万円
被害者が請求可能な損害賠償金=100×0.6=60万円
このような場合は、加害者が被害者に20万円(80万円-60万円)を請求することができます。
以上、いずれのケースでも交通事故加害者は、被害者に過失がある場合には損害賠償請求できることがお分かりいただけたかと思います。
【ケース4】では交通事故加害者が交通事故被害者に金銭の支払いまで求める事態となっています。
こうしたケースが現実に起こり得ます。
以上、交通事故加害者であっても損害賠償金を請求することができ、損害賠償金を請求できる場合は弁護士特約を使えることはお分かりいただけたと思います。
とすると、相手方に損害賠償金を請求できない場合は弁護士特約を使うことができません。
つまり、過失割合でいうと加害者が10、被害者が0の場合です。
過失割合が10対0の典型的なのは、
というケースです。
こうした場合は被害者に過失がない、つまり被害者に損害賠償金を請求することができませんから弁護士特約を使うことができません。
また、交通事故加害者、被害者を問わず、保険会社の約款に違反する事故態様の場合(たとえば、飲酒運転や危険運転で交通事故を起こした場合など)は弁護士特約を使うことができません。
いかなる場合に弁護士特約を使えるのか、使えないのかは保険会社に確認しましょう。
では、弁護士特約を使えない場合、弁護士費用は誰が負担するのでしょうか?
繰り返しになりますが、基本的に刑事事件に弁護士特約を使うことはできません。
したがって、刑事事件の弁護士を自ら選任する場合は自己負担となります。
国選弁護士の場合、原則として弁護士費用を負担する必要はありませんが、国選弁護士を選任できるのは身柄を拘束されている場合(勾留されている場合)に限られます。
交通事故加害者が加入している保険会社が選任した弁護士に関する弁護士費用は保険会社が負担します。
しかし、保険会社が選任した弁護士は刑事事件の対応はしてくれません。
したがって、刑事事件の対応が必要で自ら弁護人を選任した場合は、刑事事件、民事事件の弁護士費用とも自己負担となります。
では、被害者が選任した弁護人の弁護士費用はどうでしょうか?
この場合の弁護士費用は、治療費などと同様、相手方に生じた「損害」の一部となります。
したがって、損害賠償金の一部に含められ負担しなければならない場合もあります。
まずは、加入されている保険に弁護士特約が付いているかどうか確認しましょう。
仮に付いている場合は、刑事事件にかかる弁護士費用も対象とするのか確認しましょう。
以上、交通事故加害者であっても弁護士特約を利用できることを解説してまいりました。
交通事故加害者となると様々な不安や悩みが生じます。
弁護士特約は特に費用面で加害者の負担を軽減させるのに役立つものですから、利用できる場合は積極的に利用されることをお勧めいたします。