東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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借金の返済ができなくなった場合、裁判所で手続きを行い、自己破産をすることができます。
ただ、自己破産の申立てを行えば、必ず自己破産できるわけではなく、自己破産できない場合もあります。
ここでは、自己破産の免責不許可事由にはどのようなものがあるのか、具体例を挙げて解説していきます。
また、自己破産できない場合には、どのような対処法があるのかご紹介します。
Contents
免責不許可とは、自己破産しても免責、つまり債務免除が認められないことです。
裁判所で自己破産の手続きを行っても、裁判所が免責許可を認めなければ、債務の返済義務は消滅しません。
免責が認められない理由にはいくつかあり、それらをまとめて免責不許可事由といいます。
免責不許可事由に該当する場合、自己破産の免責が許可されず、債務の返済を継続しなければなりません。
免責不許可事由と混同しやすいものに、非免責債権があります。
非免責債権は、自己破産しても免責の効力が及ばない債権をいいます。
たとえば、税金や一定の損害賠償請求権などは、非免責債権となっています。
免責が認められても、非免責債権は消滅しないものであって、免責不許可とは異なるものです。
自己破産の手続きは、裁判所において行われます。
自己破産しようとする人は、まず裁判所に破産申立てを行い、その内容について裁判所で検討されます。
そして、自己破産を認め免責を許可するのか、あるいは不許可とするのかを決定します。
また中には、破産申立てを行った人が自らその申立てを取り下げるケースや、死亡してしまうケースもあります。
ここで、2020年に日本弁護士連合会の調査から、自己破産の申し立ての結果について確認しましょう。
詳しくは、以下の「破産事件記録調査」を参照してください。
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/books/data/2020/2020_hasan_kojinsaisei_2.pdf
この「破産事件記録調査」によれば、2020年に自己破産による免責を申し立てた人は、全国で1,240人いました。
この中で、免責が許可された人は1,201人でした。
実に96.9%の人が自己破産により免責を認められ、債務の返済義務が消滅しました。
一方、裁判所に免責を申し立てて、免責不許可となった人は0人でした。
申立てを行った結果、裁判所に認められなかった人は誰もいなかったこととなります。
ただ、自己破産の申立てそのものができなかった人がいます。
まずは、「申立却下・棄却」となった人が2人おり、何らかの理由で申立自体が認められなかった人がいました。
次いで、「取り下げ」の人が17人おり、これは全体の1.4%程度となっています。
自己破産の申立てを取り下げた人は、その後個人再生など別の債務整理を行っていると考えられます。
自己破産の手続きの中で、裁判所から手続きの変更を勧められるケースもあり、自己破産できない理由では最も多くなっています。
この他、「死亡終了」となった人が4人いました。
結果が不明な人を除くと、自己破産できなかった人は23人おり、全体の約1.85%となっています。
自己破産できない場合は、自己破産しようとした人の2%程度に過ぎないことがわかりました。
ただ、自己破産できない人の中には、はじめから自己破産以外の方法を利用するために、自己破産の申立てを取り下げるケースもあります。
どのような場合に免責不許可となり、自己破産ができないのか、その具体例を確認しておきましょう。
借金の原因がギャンブルや浪費などの場合、自己破産しても免責不許可となることがあります。
ギャンブルとは、具体的にはパチンコや競馬・競輪・競艇などを指します。
また浪費とは、ブランド品やアクセサリーなどを借金して購入することなどをいいます。
また、ギャンブルや浪費とはいわないものの、これらと同様に考えられているものがあります。
借金してFXやデリバティブ商品などの投資を行い、その借金が膨らんだ場合も、免責不許可となる可能性があると考えられます。
ただ、借金の原因がギャンブルや浪費であったとしても、必ず免責不許可になるわけではありません。
実際、ギャンブルや浪費が原因の借金は件数も多く、かなりの割合を占めていると考えられます。
このような借金については、裁判所の裁量により免責が認められる場合があり、このようなケースを「裁量免責」といいます。
ギャンブルや浪費に該当する場合でも、裁量免責が認められる可能性はあるので、裁判所に対しては正しい申告を行いましょう。
事実と異なる申告を行うと、かえって免責不許可となる可能性が高くなってしまいます。
自己破産すると、一部の財産を除きすべての財産は没収され、換価された上で債権者への返済にあてられます。
没収の対象にならない財産は「自由財産」と呼ばれ、具体的には以下のようなものがあります。
財産を失うことになれば、自己破産後の生活は大変になりますが、債務の返済が免除されたことを考えれば仕方ありません。
しかし、財産を失いたくないという思いから、財産を隠して没収を免れようとする人がいます。
財産を隠して没収を免れる行為は、自己破産の制度そのものを覆すものであり、決して認められるものではありません。
このため、自己破産の手続きの段階で財産を隠していた場合は、免責不許可となってしまいます。
なお、自己破産しようとする人が財産を隠す行為は、「詐欺破産罪」という犯罪であり、刑罰の対象になることも注意しなければなりません。
現金化とは、クレジットカードを使って商品を購入した後、その商品を売却して現金に換えることです。
購入した商品を売却しても、必ず購入価格より低い金額でしか売却できないため、損をしてしまいます。
それでも現金化を行うのは、現金がすぐに欲しいためです。
ただ、翌月以降にやってくるクレジットカードの支払日には、十分な現金を用意することはできず、自転車操業となってしまいます。
現金化は債務返済の根本的な解決方法にはならず、免責不許可事由に該当するものとされています。
どのような理由があっても、現金化を行った場合は自己破産が難しくなります。
自己破産の費用を用意できない場合には、弁護士や法テラスなどの専門家に相談してみましょう。
費用の分割払いや、一時的な建て替え制度を利用することもできます。
自己破産しなければならないような状況になったにもかかわらず、さらに借金を重ねてしまうことがあります。
借金をさらなる借金で返すような場合もあれば、自己破産する前に一度贅沢をしてみようという人もいるでしょう。
ただし、自己破産する予定なのに借金を重ねるのは、債権者に対する裏切り行為となります。
そのため、このようなケースは免責不許可事由に該当し、自己破産できない可能性があります。
自己破産しようとしていたかどうかの判断は、自己破産した人の意思であり、客観的な判断は難しいものです。
ただ、自己破産の申立てを行う前1年以内は、意図的なものであると判断される可能性が出てきます。
できるだけ、借金をしてすぐに自己破産しないように心がけましょう。
また、自己破産の相談を弁護士などに行った日以降は、絶対に借金をしないように注意しましょう。
自己破産しようとする人は、多くの債権者から借金をしていると考えられます。
その中で、特定の債権者にだけ借金を返済することは、偏波(へんぱ)弁済と呼ばれ、免責不許可事由に該当します。
債権者には、金融機関や貸金業者だけなく、知人や友人も含まれているかもしれません。
自己破産する前に、知人や友人にだけは返済しておこうと考える方もいるかもしれませんが、これも偏波弁済にあたります。
もし偏波弁済していたことがわかれば、自己破産することは確実にできなくなります。
自己破産する際には、特定の人にだけ返済することのないように注意しましょう。
過去7年以内に自己破産をしている人は、再度自己破産をすることは認められません。
立て続けに何度も自己破産することは、「借金を整理して立て直しを図る」という自己破産の趣旨に反することです。
そのため、自己破産を何度も行うことは認められず、別の債務整理を検討する必要があります。
裁判所に虚偽の申告を行ったことが発覚すると、免責不許可となります。
たとえば、ギャンブルによる借金は免責が認められないため、嘘の説明をしたとします。
嘘の説明をすれば、その後は問題なく自己破産できると考えるかもしれませんが、実際はそうはいきません。
破産管財人からの質疑応答や、多くの提出書類を通して、ギャンブルによる借金があることはわかってしまうケースがほとんどです。
嘘が発覚すれば、そのことは免責不許可事由に該当しますし、ギャンブルによる借金かどうかより大きな問題となります。
自己破産する際は、絶対に虚偽の説明をしないよう、注意しましょう。
自己破産の免責不許可事由に該当する場合は、別の方法を考える必要があります。
すでに借金の返済で苦しんでいる状況の中、数少ない対処法をご紹介します。
免責不許可の決定が裁判所から出された場合、7日以内に即時抗告することができます。
即時抗告は、裁判所の出した決定に不服がある場合、さらに上級の裁判所での再審理を求める手続きです。
ただ、即時抗告を行っても、その後免責が許可される可能性はかなり低いため、選択肢の1つ程度と考えておきましょう。
借金の返済ができない場合、債権者からの督促がないまま5年が経過すると時効が成立します。
時効が成立すれば、その後借金を返済する必要はありません。
ただ、債権者は時効が成立しないように、様々な対策を行っています。
そのため、時効の成立を待つのは、あまり現実的な方法とはいえません。
債務整理には自己破産の他、任意整理や個人再生もあります。
免責不許可事由に該当する場合でも、任意整理や自己破産を行い、その後の返済を楽にすることはできます。
ただ、債務がすべて消滅するわけではないため、手続き後の返済について確認しておく必要があります。
借金の返済ができなくなった時、債務整理を行い、これ以上借金で苦しむことのないようにすることができます。
債務整理の中でも自己破産は債務が消滅し、その後の返済義務が一切なくなるため、非常に効果的な方法です。
ただし、誰でも自己破産できるわけではなく、免責不許可事由に該当する人は自己破産することができません。
自己破産して免責が認められるのか、専門家に相談して確認してから、手続きを進めるようにしましょう。