東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、ビジネスの実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
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新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、特に中小規模の企業の経営が悪化しています。
信用調査などを行っている帝国データバンクの発表によると、新型コロナ関連の倒産は、2021年11月時点で累計2392件に達しています。(帝国データバンク2021年11月19日発表時点)
内訳は、法的整理2204件(破産2093件、会社更生法2件、民事再生法81件、特別清算28件)、事業停止188件となっています。
この数はあくまでも倒産の件数で、自ら事業をたたむ休廃業や解散は含まれていません。
調査会社の東京商工リサーチでは、「休廃業・解散企業」の動向を調査しています。
2019年の全国で休廃業・解散した企業は、4万3,348件で、2年ぶりに減少した年でした。
しかし、2020年は新型コロナによる直接的な影響を受けた倒産だけはなく、中小企業の経営悪化や、2次感染拡大の懸念などから、自ら事業をたたむ休廃業の件数は増加。
その結果、2020年に全国で休廃業・解散した企業は、4万9,698件(前年比14.6%増)に上り、2000年の調査開始以来、最多を記録しました。
また、東京商工リサーチが6千社余りの中小企業に実施した「廃業に関係するアンケート」において、新型コロナの終息が長引いた場合、「廃業を検討する可能性がある」と回答した企業は7.7%にのぼりました。
全国の中小企業数(個人企業含む)は、約350万社といわれていますが、単純計算で27万社近くの中小企業が廃業を検討していることになります。
東京商工リサーチの2020年「休廃業・解散企業」動向調査を産業別で見てみましょう。
産業別で最多となったのは、飲食業や宿泊業、非営利的団体などを含めた「サービス業他」の1万5,624件となっており、全体の構成比は31.4%、前年比17.9%増でした。
次いで、建設業8,211件、小売業6,168件となっています。
参考:2020年「休廃業・解散企業」動向調査(東京商工リサーチ)
新型コロナウイルス関連倒産の業種別でも、トップは「飲食店」408件、「ホテル・旅館」116件と続いています。(帝国データバンク2021年11月19日発表時点)
2020年は新型コロナウイルス感染症の影響により廃業する企業が過去最多の4万9,698件にも上りました。
しかし、休廃業・解散の件数は2016年を境に、毎年40,000件以上の高水準で推移しています。
廃業を選択する理由は、経営状況の悪化、赤字といった問題だけではありません。
黒字の場合でも、経営者の高齢化や後継者不足等の事業承継問題によって廃業を選択した企業も少なくないのです。
東京商工リサーチの2020年「休廃業・解散企業」動向調査の休廃業・解散した企業の代表者の年齢別を見てみると、70代が最も多く、41.2%を占めています。
さらに代表者が60代以上の休廃業・解散企業の割合は84.2%を占めています。
このように近年では、代表の高齢化による事業継承がうまくいかず、休廃業・解散を選択する企業が増えています。
そして、「後継者不在」が元々の廃業理由にある場合でも、新型コロナの影響によって、廃業の予定を早めるケースもあるようです。
ここでは、いくつかのケースを紹介したいと思います。
経営者が高齢で、後継者がいない場合でも、経営者自身の体力が続くうちは営業を続けようと考えている場合は多いです。
しかし、新型コロナにより売上が減少し、業績が悪化すると、融資を新たに受ける必要が出たりします。
そのような状態で事業を引っ張って、最後には倒産という事態になってしまうと、取引先や従業員に多大な迷惑を掛けることになります。
そうならないように、余力のある段階で早期自主廃業を選択する経営者もいます。
新型コロナ感染対策として、企業や店舗に求められることが多くなりました。
飲食店であれば、テイクアウト対応やビニールシート、席数の減少などですが、大幅な改築や設備投資が必要になることもあります。
そういった新たな設備投資も、後継者がいれば事業の継続によって回収することが可能です。
しかし、後継者不在企業の場合、設備投資を行っても、自分の代で回収しなければなりません。
新たな投資の回収見込みが立たないということで、廃業を選ぶ経営者もいます。
日本政策金融公庫の低金利融資を受ける等、新型コロナ対策としてさまざまな支援制度があります。
しかし、どれも事業を継続していくための手助けであるため、後継者不在により事業の継続の意欲をなくしてしまった経営者は、倒産リスクを回避し、閉業を選択するのもやむを得ないかもしれません。
廃業を決断した時は、誰に何を相談し、いつまでにどんな準備をすべきなのでしょうか。
廃業後の生活設計をどうすればよいのか等、検討しておくべきことはたくさんあります。
廃業は秘匿性の高いものですので、どこにでも相談するわけにはいきません。
経営者が日常的に接点を持っている税理士や弁護士などの専門家がいれば、問題ないでしょう。
しかし、そのような専門家がいない場合は、商工会・商工会議所、よろず支援拠点、都道府県等中小企業支援センターなどに相談することも検討しましょう。
新型コロナの影響により、国、都道府県、市区町村単位で様々な経済支援策が実施されています。
経営者自ら利用できる支援策を調べ、申請することもできますし、相談先となる各中小企業支援機関に会社の状況・情報を伝え、専門的なアドバイスを受けることも可能です。
ここでは、廃業に際し経営者が受けられる支援策などを紹介したいと思います。
これらの支援策は、都道府県、市区町村単位で実施されているものも多く、すべての地域の方が利用できるものではありません。
また、期限が決められているものもあります。
紹介例を参考に、自分の地域で受けられる支援策について、支援機関等に問い合わせしましょう。
杉並区が実施している廃業経費補助金とは、杉並区で事業を営んでいた個人事業者が対象となります。
新型コロナウイルス感染症の影響によって、やむなく事業を廃業した場合に、廃業後に発生した店舗の家賃相当分の費用を補助するというものです。
補助額は、杉並区内に所在し廃業した店舗の解約違約金と、廃業日以降の賃借料、共益費の合計額で、上限額は90万円です。
申請できるのは、以下の要件を満たす方です。
熊本市が実施している再チャレンジ支援補助金とは、新型コロナウイルスの影響によって、廃業した経営者の早期の再起を支援するために、再起業に必要な経費の一部補助を行うというものです。
令和2年1月以降に廃業し、令和3年3月末日までに熊本市内で起業する中小企業者が対象となります。
補助されるのは、再起業に必要な店舗などの借入費や設備費、広報費、官公署への申請書類作成等に係る経費です。
補助金額は、補助対象経費と認められる経費の3分の2以内で、上限は100万円です。
申請できるのは、以下の(1)から(5)の要件をすべて満たす中小企業者です。
新型コロナウイルスの影響を受けている後継者不在事業者の、経営資源引継ぎを後押しするための補助金です。
中小企業が持つ技術や雇用といった経営資源を次世代へ引継ぎ、地域のサプライチェーンを維持することを目的としています。
経営資源引継ぎ補助金は、第三者へ事業承継する時に負担となる、士業専門家の活用に係る費用と経営資源の一部を引き継ぐ際の譲渡側の廃業費用を補助するものです。
専門家への報酬は、仲介手数料や事業譲渡のための企業概要書作成費用などです。
売り手の保証対象は、専門家への報酬と既存事業の廃業費用で、補助率2/3、上限は650万円です。
こちらは、補助金ですので、補助の有無やその額については審査があり、申請期間も決められています。
また、補助金は後払い(精算払い)ですので、事業等を承継した後、必要書類を作成し検査を受けた後でなければ受け取ることができません。
リストラとは、本来人員の入れ替えなどを行って会社を活性化することを目的としていますが、業績悪化による経費削減や人員整理、整理解雇を意味する言葉としても使われます。
新型コロナの影響によって会社の経営状態が悪化し、廃業を選択する場合はもちろん、事業再生を目指す場合でも正社員をリストラせざるを得ないケースがあるのではないでしょうか。
経営者にとっては、「社員をリストラしなければ、会社が倒産するのだからしょうがないだろう」とか、「会社を廃業してしまうのだから、正社員であってもリストラするのは止むを得ない」と考えることもあるかと思います。
しかし、リストラされる従業員にとっては、そのような事情は関係なく、進め方や手続き、説明の仕方など対処方法を間違うと、大きなトラブルになるケースが多いです。
そのようなトラブルが発生した場合、専門家の社会保険労務士や弁護士に相談されることをおすすめします。
もちろん、トラブルが発生する前に事前相談することもできますが、いずれの場合でも専門家に相談する際には報酬が発生しますので、費用が必要となります。
経営状態の悪化により、そのような費用を捻出することが難しい場合、無料の各都道府県の個別労働紛争解決制度を利用することも可能です。
都道府県労働局には、以下3つの紛争解決援助制度がありますが、いずれも利用は無料です。
紛争解決援助制度
これらの制度の利用は、経営者などの事業主だけでなく、労働者側でも可能ですので、経営者に一方的に有利となるようなものではありません。
労働問題に関する情報提供と、個別相談のワンストップサービスを受けることができます。
必要に応じて、以下の連携機関に相談することができますので、誰にどんな相談をすれば良いか分からないような場合でも大丈夫です。
相談の結果、紛争解決援助の対象となる事案であった場合、「助言・指導の申出」もしくは「あっせんの申請」へと進むこととなります。
都道府県労働局長による助言・指導は、紛争当事者に対して問題点を指摘し、解決の方向を示すことで、当事者による自主的な解決を促進するものです。
こちらも、利用は無料です。
助言・指導では解決しない場合、あっせん制度に移行することができます。
紛争当事者の間に、弁護士、社会保険労務士など労働問題の専門家である紛争調整委員が入ることで、双方の主張を確かめ調整を行い、紛争の解決を図ります。
裁判に比べ、手続きが迅速かつ簡便で、専門家が紛争調整委員を担当しますが、利用は無料です。
労働問題によって紛争状態となる前に、正社員をリストラせざるを得ないような場合は、トラブルに備え事前に総合労働相談コーナーを利用したり、専門家に相談することをおすすめします。
新型コロナウイルスの影響による廃業は、まだまだ続きそうです。
事業を継続していく場合でも、廃業を選択する場合でも、経営者を支援する制度はあります。
特に新型コロナウイルスの対策支援策や制度は、都道府県、市区町村によって独自のものが数多く実施されていますし、内容も日々更新されています。
廃業を選択するような場合、経営者一人では解決できない問題がたくさん出てきます。
まだ余力がある早い段階で、専門家に相談するようにしましょう。