東京弁護士会所属。
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中小企業の経営者は、会社が融資を受ける際の連帯保証人となることが多く、会社の債務について会社と同様の責任を負わされています。
また、事業用の不動産が債務の担保にとられることも多いのが実態です。
中小企業が事業の再生を目指して負債を整理する場合に、この連帯保証と抵当権が大きな障害となります。
事業再生に向けた債務整理の障害、個人の連帯保証や抵当権への対策について、解説します。
事業の再建を目指して債務をきれいに整理したくても、金融機関は連帯保証の免除や抵当権の抹消を容易に認めてくれるわけではありません。
連帯保証や抵当権への対処は、中小企業にとって大きな課題となります。
清算手続きをすると会社が消滅してしまうのとは異なり、事業再生は、続ける価値があり再建の見込みがある場合に、再建計画を立てたうえで事業を再建していくものです。
事業再生を選ぶためには、再生に値する事業があること、また、負債の圧縮や繰り延べができれば資金繰りが可能となることが必須条件です。
資金繰りができるようになるためには、リストラによる営業利益の黒字化、資金力や信用のある会社や個人にスポンサーになってもらう方法があり、事業再生では少なくとも片方は必要な条件となります。
このため、再建の見込みや将来的な収益性が見込まれる事業の場合には、負債の削減や返済のリスケジュールなど債務整理を行いながら、収益力や競争力のある事業へ再生する努力を行います。
会社が融資を受ける際に、多くの場合は社長や代表者が保証人、あるいは連帯保証人となっています。
この場合は、代表者や社長は、保証人や連帯保証人として、共同で責任を負うことになります。
会社が清算手続きを行って破産した場合でも、保証人や連帯保証人としての責任はなくなりません。
したがって、代表者や社長が個人の資産を処分して、会社の債務の支払いに充てることが必須になります。
金融機関が融資を行う際に、しばしば事業用の不動産に抵当権が設定されます。
抵当権は、債務者が返済できない債務不履行に陥った場合に、土地や建物などの不動産を負債の担保とする権利を指します。
債務不履行に陥った際に、返済のために抵当権が設定されている不動産が競売にかけられた場合、競売で得られた代金については、抵当権の設定者が他の債権者に優先して弁済を受けることができます。
このため、債務が返済できなくなると、金融機関は担保となっている不動産を競売にかけるなどの圧力をかけてくることがあります。
抵当権の行使によって法人の不動産を処分されてしまえば、まだ発展の可能性や将来性のある事業を失ってしまうことになります。
このため、強制的な処分を避けることについて、金融機関に合意してもらうことが重要になります。
個人の連帯保証債務についても、会社と同様、二段構えの対策になります。
連帯保証人としての債務を個人の資産で支払いきれない場合、まず金融機関と交渉を行います。
交渉が成立しなければ、会社とともに、自己破産や個人再生などの方法を検討します。
基本的には、個人の連帯保証も会社の借入と同様、金融機関に対して、連帯保証についての返済リスケジュールや負債の削減を交渉します。
連帯保証のリスケジュールやカットは、金融機関が不良債権処理をしなければなりません。
この場合は、株主代表訴訟や有税償却の問題があるため、簡単に応じることはありません。
ただし、金融機関も、連帯保証債務について強引に回収しようとまでは考えていないのが実態です。
法的な手段に訴えても、時間や費用がかかる割に回収の可能性が低ければ、金融機関にメリットがないからです。
金融機関は、代表者や社長の個人資産がある場合、売却額を連帯保証の返済に充当することを要求します。
売却しても困らない遊休資産があれば、売却に応じる代わりに交換条件を付けます。
その条件としては、残額についての連帯保証の免除や、返済リスケジュールや負債削減、サービサーへの連帯保証債権の譲渡が挙げられます。
金融機関としても、交換条件があれば債務整理に応じやすくなります。
なお、事業再生の条件ともいえる、スポンサーを頼る方法もあります。
スポンサーに融資を依頼し、融資を受けた資金を一時金として、金融機関に支払って和解するという方法です。
金融機関との交渉が成立しない場合は、破産開始手続きや民事再生の利用を検討します。
連帯保証人を免除してもらうための交渉に足りる個人資産がない場合は、自己破産によって、連帯保証を免除してもらう方法があります。
自己破産は、裁判所に申立てをして、負債をゼロにしてもらう債務の整理方法です。
破産申立てを行うと同時に、免責許可の申立てをしたことになります。
会社の破産申立てと同時に、代表者や社長が債務整理をする場合は、自己破産の方法が多く選ばれています。
他の債務整理手続きの場合では、負債を減額してもらうことはできても、支払い自体は残ってしまいます。
自己破産手続で、裁判所から免責が許可されると、保証債務も含めて債務は免除になります。
ただし、その代わり、生活に必要な最低限の自由財産を除き、財産は換金して処分されることになります。
免責となっても、税金や罰金、隠ぺいした債務、不法行為による損害賠償など免責されない債務については、支払い義務が残ることに注意が必要です。
なお、個人負債の保証人がいる場合、この免責の効果は保証人には及びません。
個人の財産は、不動産や自動車、現金、預貯金、他人への貸付金、生命保険の解約金、将来の退職金など、すべての財産が対象となって処分されることになります。
破産手続きには費用がかかりますが、会社の破産申立てと個人の自己破産を同時に申立てる場合は、同じ破産管財人が選任され、手続きも同時に進んで行くため、費用が少なくて済むメリットがあります。
自己破産では、個人資産を売却処分しなければなりません。
この売却処分を回避する方法として、民事再生があります。
ある程度の返済資金を用意する必要があり、継続的な収入が見込める場合に適した方法です。
民事再生には、法人が対象の民事再生と、個人が対象の小規模個人再生・給与所得者等再生があります。
個人を対象とする民事再生は、個人再生とも呼ばれます。
裁判所に申立てをして、負債を大幅に減額してもらう債務整理が、個人再生です。
個人再生の場合は、元本を含めた額の20%~10%まで減額の可能性があります。
大幅に減額された債務を3年から5年の分割で支払い、残りの債務は免除してもらう手続きです。
自己破産と異なり、個人の財産処分は必須ではありません。
なお、返済計画である「再生計画」が認可されるためには、債権者の2分の1以上の反対がないことに加え、反対する債権者がいる場合は、反対する債権者の債権額が債権額合計の2分の1を超えていないことが要件となります。
任意売却や担保権消滅請求、競売などの抵当権対策があります。
金融機関が不動産に抵当権を設定しているとはいっても、競売手続きは時間と費用がかかり、手続きも簡単ではありません。
したがって、金融機関としても積極的に進めたいと考えている訳ではありませんが、基本的には、少しでも有利な条件で抵当権をなくしてもらうお願いから始めます。
なんの返済もなしに、金融機関が抵当権の消滅に合意することはあり得ません。
債務の返済が困難な場合に、金融機関の合意を得たうえで、抵当権が設定されたままの不動産を売却することを、任意売却と呼びます。
任意売却によって得られた売却収入は、債務の返済に充てられます。
任意売却では、強制的に不動産を売却する競売とは異なり、債務者が主体となることで、売却額や引渡しなど売却時の条件を、通常の不動産取引に近い状態で進めることが可能になります。
任意売却の代金を金融機関に返済することによって、抵当権を抹消してもらいます。
また、残額についても、負債のカットか債権譲渡をしてもらい、残りの負債を免除してもらいます。
2001年の債権管理回収業に関する特別措置法の成立によって、サービサーと呼ばれる債権回収会社の設立が認められています。
この法律に基づいて、金融機関は、債権をサービサーへ売却する債権譲渡によって貸し付けを放棄する不良債権処理を選択することが可能となっています。
金融機関からサービサーへの債権譲渡は、負債のある会社からすれば、負債額が大幅に減ることと同じ効果を持っていることになります。
任意売却した不動産が事業の継続になくてはならない場合、事業の再生を図るために、不動産の買い主から賃貸してもらう方法があります。
また、売却契約において、不動産を数年後に買戻す特約を付けることで、後日、買戻すことも可能です。
任意売却の代金は、抵当権付きの売買となるため、通常の実勢価格よりも低めになることが多いと言えます。
このため、買い戻す際の価格も、通常の取引価格より低い額での買戻しが期待できます。
金融機関から、任意売却について合意が得られない場合は、担保権消滅請求を検討します。
これは、2004年に開始された制度で、抵当権が設定された不動産の買い主が、金融機関に対して抵当権の抹消を請求する方法です。
債務者から抵当権が設定された不動産を購入した第三者が、抵当権を消滅するための評価額を金融機関に提示し、その額を支払う代わりに抵当権を消滅するよう請求する方法です。
金融機関は、評価額を承諾できない場合、競売を申立てることになります。
金融機関が、手間や費用もかかる競売よりも評価額で返済を受ける方を選択すれば、抵当権が抹消できることになります。
ただし、任意売却とは異なり、抵当権は消滅しても、負債は減額されないことに注意が必要です。
事業の再建に利用したい場合は、任意売却後と同様、賃貸や買戻し特約を利用して、その不動産を確保することも期待できます。
金融機関は、抵当権の行使として競売を申立てる場合があります。
ただし、競売は、手間や費用もかかることから、実際はこの方法を選択したくないと考えています。
競売では、競売の申立て後、1~2カ月で裁判所が不動産の最低競売価格を決定して、オークションにかけることになります。
最低競売価格は、専門家の鑑定に基づく公的な価格として設定されます。
売却価格は、通常の売却に比べて低額になることが一般的です。
また、手続きが煩雑で、申立てから現金化まで1年程度かかることや、買い主が現れにくいこと、住人の立退きにも費用も時間がかかることなどが、競売の難点となっています。
抵当権が実行される場合は、下記のような流れで「競売」が行われます。
では詳しく説明します。
金融機関が抵当権を実行する場合は、対象となる不動産を管轄する地方裁判所に申し立てを行います。
裁判所が申し立てを見て、問題ないと判断した場合は、手続きが始まります。
手続きが開始して時点で、対象の不動産は「差押え」として登記されます。
競売の手続きが始まったら、裁判所が執行官や不動産鑑定士への調査を命じます。
対象となる不動産の調査を行い、物件の詳細・現状の様子・評価金額を下記の書類にまとめます。
項目 | 詳細 |
---|---|
物件明細書 | 不動産の権利関係について記載された書類 |
現況調査報告書 | 不動産の現状・使用者・占有者が記載された書類 |
評価書 | 不動産鑑定士が評価額の金額・評価の根拠を示した書類 |
裁判所はこれらの書類を確認して、売却基準価格を設定します。
競売の場合は、一般的な評価額よりも金額が低く設定されるケースが多いです。
裁判所に設定された金額は、競売不動産を売却する際の基準となります。
売却の基準金額が決定して、売却の準備が終わると、実際に売却手続きに移ります。
売却の方法は複数ありますが、一般的には入札形式が多いです。
入札形式とは、決められた期間に入札して、もっとも金額が高かった人を買受人に決める方法です。
買受人になった人は、決められた期間内に代金を納付します。
代金の納付が確認されると、裁判所が不動産の所有権移転登記手続きを行ってくれます。
手続きが完了すると、買受人に所有権が移ります。
競売の不動産が売却されたあとは、買取金額を債権者へ配当します。
例えば不動産を1000万円で売却して、債権者が5人いる場合は、債権の金額によって分配します。
5人全員が200万ずつ現金を貸している場合は、ひとり200万円の配当になります。
抵当権と持っている債権者は、抵当権を持っていない債権者よりも優先的に配当を受け取れます。
抵当権を持っていない債権者の間では、優先関係もなく、債権の金額によって平等に配当されます。
競売は物件を売却して、債権者への配当が完了すれば、手続きが終わります。
ただし不動産を任意に引き渡してもらえないケースもあります。
競売の不動産を購入したのに、人が住んでいたり家具が放置されていることもあります。
そのような場合は裁判所に対して、引渡命令を求めます。
裁判所からの引渡命令を出して、それでも応じない場合は引渡の強制執行ができます。
中小企業が事業の再建を目的として負債を整理する場合、個人の連帯保証と抵当権は障害になります。
金融機関との交渉が少しでも有利になるように、必要と判断したら少しでも早めに交渉を始めます。
金融機関にも経営状況に余裕はありません。
簡単に負債の削減や返済のリスケジュールに応じることは期待できません。
しかしながら、自己破産を申立てられてしまえば、金融機関はその手続の範囲でしか、回収することができなくなります。
金融機関としては、少しでも多く回収できることを期待しているわけですから、ここで紹介したいくつかの選択肢から、お互いが納得できる方法を見つけることになります。
金融機関との交渉には、少しでも資金が残っている状態や、スポンサーから融資を受けることができる有利な状態で臨むことができれば、事業再建への道筋をつけやすくなると言えます。