東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、ビジネスの実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
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連日、新型コロナウイルスの感染拡大に関する報道がされています。
感染者数の増加や自粛生活に焦点が当たっていますが、経済面にも確実に影響を及ぼしています。
新型コロナウイルスの感染拡大が企業活動や世界経済に及ぼす影響と、今後の展望について解説していきます。
帝国データバンクの発表によれば、5月1日17時現在、日本全国で発生した新型コロナウイルス関連倒産件数は115件となっています。
47都道府県のうち実に34の都道府県で倒産が起こっているのです。
115件のうち、破産など法的整理を開始したのは76件、事業停止となったのが39件という内訳になっています。
都道府県別にみると、最も多いのは東京都の26件、次いで北海道の13件、兵庫県の8件、大阪府の7件です。
東京都は、もともと会社・事業者の数が他の道府県に比べて多いこと、そして新型コロナウイルスの感染がかなり広がって、感染者数が多いことが影響していると思われます。
北海道は、他の地域に比べて早い段階から新型コロナウイルスの感染が広がって、経済への影響が長期間に及ぶこと、そしてもともと経営基盤がぜい弱な企業があったことも影響しているものと思われます。
また、海外からの観光客をターゲットにしていた企業が多かったことも、他の地域に比べて倒産件数が増加している一因となっている可能性があります。
兵庫県や大阪府など関西地方も、東京都の感染拡大とほぼ同時期から感染者数が増加しており、その影響が倒産件数の増加につながっていると考えられます。
新型コロナウイルス関連の倒産で目に付くのが、ホテルや旅行業、そして飲食業といったサービス業の倒産です。
これは、インバウンドによる海外からの旅行客が激減したこと、そして各種イベントが中止になったこと、さらに自粛ムードの高まりにより外出そのものが減少したからと言っていいでしょう。
このほか、学校の休校措置が継続する中で、学校に教材を納入していた会社や給食用の食材を調達していた会社の倒産、そして学習塾の倒産なども見られます。
また、海外で生産した商品や部品の輸入が停止していることにより、製造業の会社の倒産も少しずつ増えてきています。
新型コロナウイルスの影響を受けているのは日本だけではなく、全世界的な経済にも確実に悪影響を及ぼしています。
新型コロナウイルスの感染拡大は、実体経済に大きな影を落としています。
その中でももっとも衝撃を与えたのは、原油の価格が大幅に下落し、アメリカの先物市場で価格がマイナスとなったことです。
原油の価格がマイナスになったということは、原油を保有している売り手がお金を払って買い手に引き取ってもらうことを意味します。
ここまで原油の価格が下落したのは、アメリカ国内の移動制限や経済停滞によりエネルギー需要が減退したうえに、採掘した原油を保管しておくタンクがいっぱいになって、これ以上在庫を増やすことができないためです。
世界中で人の移動を制限するために航空機は減便され、自動車による移動にも各国政府が規制をかけている状況にあるため、原油の需要は大幅に落ち込んでいます。
今後、コロナウイルスによる感染拡大に歯止めがかかれば、原油の需要が再び回復するとも考えられますが、逆にいつ収束するか見通せない状況にあります。
そのため、原油の需要はまだ回復することなく、長期的に落ち込んだままとなる可能性もあるのです。
また、様々な経済活動が制限される中で、株価もコロナウイルスの影響が出る前に比べて大きく落ち込んでいます。
このような状況の中で、賃金や雇用といった面でも大きな影響が生じているのです。
国際通貨基金(IMF)は、4月15日に新型コロナウイルスの感染が世界的に流行している状況を踏まえた「世界経済見通し」を公表しています。
これによれば、2020年の経済成長率予想は全世界で-3.0%と、前年2019年の2.9%に対して大幅な下落になると予想しています。
IMFは2020年1月の時点で、2020年の全世界の経済成長率について3.3%となる見通しを公表していましたが、3か月の間に新型コロナウイルスの影響が世界的に拡大し、一気に6.3%の下方修正を行いました。
地域別にみても、感染の拡大が深刻なイタリアが-9.1%、スペインが-8.0%など突出した数値が予想されています。
ユーロ圏全体では-7.5%、アメリカは-5.9%、イギリスは-6.5%など、どこを見ても前年が1~2%程度のプラスだったのに比べて大きなマイナスとなっています。
日本も2020年の予想は-5.2%となっており、2019年の0.7%と比較して大幅に悪化するとの数値が予想されています。
また、この傾向は先進国だけでなく新興市場国や発展途上国にも及んでいます。
特に深刻な予想となっているのがメキシコ(-6.6%)、ロシア(-5.5%)、ブラジル(-5.3%)など、人口が多く世界経済に対する影響の大きな国です。
中国(1.2%)やインド(1.9%)などもプラス成長の予想にはなっていますが、その成長は大きく減少すると見込まれています。
この結果、リーマンショックを超える世界経済・金融の危機を迎えると予想されており、1930年代の世界恐慌以来最悪の景気後退となる可能性も指摘されているのです。
先に、日本国内でもこれまで多くの企業が倒産している状況を解説しましたが、この数は今後さらに増加する可能性があります。
その理由は、コロナ対策による特別措置や給付金の支給により延命した企業も、今後生き残ることができない可能性があること、そして世界的な景気低迷が中小企業にも影響を与えることです。
4月17日、全国銀行協会は新型コロナウイルス感染拡大の影響で資金不足に陥った企業に対して、手形や小切手の決済ができなかった場合に不渡りとする処分を猶予する特別措置を開始しました。
これにより、通常であれば資金不足イコール決済不能となって手形や小切手が不渡りとなり、2回目の不渡りを発生させると取引停止となって、事実上の倒産という流れが一時的に猶予されるのです。
新型コロナウイルスの影響で資金不足となっている会社は多くありますから、この措置により救われる企業は多くあると思います。
また5月1日には、前年同月比で5割以上売上が減少した中小企業に対しては200万円、個人事業主に対しては100万円が給付される持続化給付金の制度が始まりました。
売上減少による苦境に立たされている企業や事業者にとっては、わずかながら助けになるものと思われます。
しかし、資金不足となっている会社の多くはすでに経営状態が悪化しているうえ、支払いが猶予された場合には、その会社からの支払いを受けられない会社も連鎖的に資金不足に陥る可能性があります。
また、給付金も焼け石に水といった程度にしかならない可能性が高いのです。
結果的に、このような救済措置は倒産の先送りをしているだけであり、早期に経済状況そのものが改善されなければ、倒産する企業が多発する可能性があるのです。
これまで倒産する企業の多くはサービス業が中心であり、新型コロナウイルスの感染拡大による日本国内の経済活動の停滞が倒産の主な原因となっていました。
しかし、世界的な経済環境の悪化や給与収入の減少により、一般消費の低迷や製造業における生産調整などが今後発生すると予想されます。
その結果、サービス業に限らず、製造業などあらゆる業種の中小企業が、今後倒産する可能性があります。
そうなれば、ますます日本国内の経済状況は悪化する悪循環が起こる可能性が高くなるのです。
景気の悪化や倒産の増加は、そこで働く給与所得者(つまりサラリーマン)にも大きな影響を及ぼします。
すでに休業要請や営業自粛により、パート従業員や派遣社員の出勤調整や契約解除は始まっています。
また正社員でも、出勤日数の調整や労働時間の短縮、さらには在宅勤務などの影響で、給与支給額はこれまでより大幅に減少する可能性があります。
さらに今後は、経済の先行きが見通せない状況から賞与の減少や人員整理などが行われる可能性もあります。
また、宿泊業や飲食業では、新規出店の中止や延期も相次ぎ、ここ数年の拡大傾向から大幅に軌道修正が求められる局面になっています。
さらに厳しい状況になると予想されるのが、大学生の就職活動です。
もともと、人材不足から売り手市場といわれていた状況は一転し、新規採用の計画を変更する企業が続々現れる可能性があります。
その結果、1990年代後半に起こった「就職氷河期」の再来を危惧する声もあります。
就職氷河期においては、新卒の採用以上に中途採用が厳しかったという事実もあり、今回の新型コロナウイルスも新卒者、転職者にどの程度影響があるのか、今後の動向を注視していかなければなりません。
新型コロナウイルスによる経済への影響については、多くの人が深刻であると認識していると思います。
しかし、感染拡大の防止を優先すべきとされ、休業要請などの形で経済活動の制限を行うことも肯定的に受け入れられています。
また、緊急事態宣言が今後どのタイミングで解除されたとしても、その後すぐに経済が元どおりになるわけではありません。
したがって、多くの事業者にとっては先が見えない状態となって、非常に大きな不安を感じていることと思います。
そのような状況下で、少しでも事業者を救済しようという制度が作られています。
特に中小企業や個人事業主に対する救済措置については、今後も新たな制度が出てくる可能性があります。
国、都道府県、市町村といった各機関の情報をチェックするとともに、報道や専門家の情報も参考にするなどして、この苦境を乗り切る方策を講じていきましょう。