最終更新日:2022/12/9
インボイス制度が農業従事者に与える影響【対応方法も解説】
ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。
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この記事でわかること
- インボイス制度が農業従事者にどのように影響するかわかる
- インボイスの発行が免除される場合があると知ることができる
- 農業従事者がインボイス制度にどのように対応するのかわかる
インボイス制度が2023年10月1日から導入されます。
インボイス制度が導入されると、すべての事業者が何らかの影響を受けることが予想されています。
それは、農業従事者であっても決して例外ではありません。
インボイス制度が農業従事者にどのように影響するのか、そしてどのように対応していけばいいのか、解説していきます。
目次
インボイス制度とは
インボイス制度とは、消費税の税率や税額を明記した適格請求書(インボイス)を発行し、また保管しなければならない制度です。
事業者が税務署に納付する消費税額の計算は、売上時に預かった消費税から、仕入時に支払った消費税を差し引いて計算します。
これまでは、消費税を支払った相手が課税事業者かどうかに関係なく、取引の内容から仕入時の消費税額を計算していました。
しかし、売上高の少ない事業者は消費税の納税が免除されており、支払った消費税はその事業者の利益となっていました。
この利益のことを益税といい、本来発生するはずのない利益として問題視されていました。
インボイス制度の導入により、仕入れを行った時に適格請求書を受け取った取引だけ、消費税を認識できるようになります。
そのため、免税事業者から仕入れを行っても消費税を控除することができなくなり、益税も解消されることになります。
インボイス制度が農業従事者に与える影響
インボイス制度が始まることで、事業者は様々な影響を受けることが予想されています。
特にこれまで免税事業者だった農業従事者については、以下のような影響が発生すると考えられます。
取引先から取引を断られる
農業従事者の中には、飲食店やスーパー、青果店などと取引している方もいるでしょう。
取引の相手方が課税事業者である場合、免税事業者からの仕入では仕入税額控除が適用できなくなり、消費税の納税額がその分だけ増えます。
そのため、農業従事者が免税事業者である場合に、課税事業者からの取引を断られる可能性があります。
課税事業者は同じ商品を課税事業者から仕入れることができるのであれば、そちらから仕入れるようになることが予測されます。
他にはない特別な作物や、ブランド力が大変強い作物でなければ、仕入先が変更されてしまう可能性が高いといえるでしょう。
売上高が減少する
免税事業者が販売する商品については、仕入にかかる消費税を認識することができなくなります。
つまり、免税事業者が販売する時の価格は、消費税を含まない価格であるという取扱いになります。
免税事業者であることを理由に取引を断られてしまった場合、その取引を継続してもらうには価格を下げるしかありません。
免税事業者の販売価格は税抜金額に相当するものであることから、1割程度値下げをしなければならない場合もあります。
その結果、インボイス制度が始まることで売上高が減少してしまうケースがあるでしょう。
課税事業者にならざるを得ない
これまで免税事業者であった事業者が、インボイス制度導入後も免税事業者のままである必要はありません。
取引先の要望を受けて、あるいはこれからの売上増加と取引先の拡大を考慮して、課税事業者になることができます。
課税事業者になると、売上発生時にはインボイスを発行しなければなりません。
また、消費税の計算を行い、申告・納税をしなければなりません。
金銭的な負担が増える上、事務負担も増えてしまうため、課税事業者になるかどうかは慎重に考えなければならないでしょう。
インボイス発行が免除されるケース
適格請求書発行事業者に登録した事業者は、インボイスを作成し、取引相手に渡さなければなりません。
ただし、農業従事者についてはインボイスの発行が免除される場合があります。
農協特例を利用する場合
委託販売を行っている場合、農業従事者が購入してくれた人を特定してインボイスを交付することはできません。
そこで、農協に委託して販売を行い、一定の条件を満たす場合には、購入者に対するインボイスの交付義務が免除されます。
インボイスの発行が免除される「一定の条件」とは、無条件委託方式かつ共同計算方式で販売していることです。
このうち無条件委託方式とは、売値や出荷の時期、出荷先といった条件を設けずに販売を委託することをいいます。
また共同計算方式とは、取引額の計算において農産物の種類、品質、等級などの区分ごとの平均額を根拠とすることをいいます。
これらの条件に該当しない場合は、農協などに委託していても、インボイスを発行しなければならないこととなります。
媒介者交付特例を利用する場合
売り手と買い手が直接取引を行うのではなく、第三者を介して取引されることがあります。
この場合、本来の売り手と買い手は、お互いに誰と取引しているのかもわからない状態であり、インボイスを交付することができません。
そこで、媒介者が購入者に対してインボイスを交付することが認められます。
媒介者が交付するインボイスには、その媒介者の名称や登録番号が記載されます。
本来は売り手の情報が記載されるはずですが、この場合は売り手の情報がなくてもいいこととされています。
媒介者交付特例の適用を受ければ、農業従事者は売り手となるため、インボイスを発行しなくてよくなります。
ただし、この特例を利用するためには、売り手と媒介者のいずれもが適格請求書発行事業者になっていなければなりません。
売り手となる事業者も、適格請求書発行事業者への登録は必要で、免税事業者のままでは特例を利用できないことに注意しましょう。
農業従事者がインボイス制度に対応する方法
農業従事者がインボイス制度の開始を迎えるにあたって、免税事業者のままでいるか、課税事業者になるかは難しい選択です。
何を決め手としてその判断をするのか、そしていずれにするかを決めた後何をしなければならないのか、確認しておきましょう。
免税事業者になる場合
農業従事者の中で免税事業者のままでいても問題ないのは、売上先のすべてを最終消費者や免税事業者が占める場合です。
この場合は、仕入税額控除の適用を受ける人がいないため、インボイスを発行する必要がありません。
また、取引先が売上高にかかる消費税から納税額を計算する簡易課税制度を利用している場合も、インボイスは必要ありません。
ただ、取引先が簡易課税制度を利用しているかどうかを、他人が調べることはできません。
そのため、まずは事業者以外の購入者がどれくらいいるのかを調べた上で、免税事業者のままでいく判断をすることとなります。
また、農業特例や媒介者交付特例を利用できる場合は、免税事業者のままでも売上に影響はないと言えます。
販売者が直接取引するわけではないことから、インボイスの有無が売上に大きくは影響しないと考えられるためです。
免税事業者のままでいく場合、一般消費者や免税事業者の購入が大きく減ることはありません。
ただし、課税事業者の購入金額は減ることが予想されます。
これまでの取引先に対しては、消費税の分、いくらか値下げを行うことも考えなければなりません。
課税事業者になる場合
課税事業者になり、適格請求書発行事業者になるのは、売上先の事業者が仕入税額控除できるようにするためです。
事業者である取引先との関係を継続したい、あるいはこれから大口顧客の新規開拓をしたい場合は、課税事業者になるべきでしょう。
課税事業者になる場合、まずは税務署に適格請求書発行事業者の登録申請を行います。
この申請を行うと、税務署から登録番号が付与されるため、この登録番号を大切に保管しておきましょう。
その後、適格請求書を発行できるように、システムの準備や改良を行います。
また、消費税の計算に対応した会計ソフトの準備や、入力方法の確認をしておきましょう。
課税事業者になることで、事務手続きが大幅に増えることとなります。
そのため、不安な場合は税理士などの専門家に相談することも必要になるでしょう。
まとめ
売上規模の小さな事業者の場合、これまで消費税の免税事業者だった方も多いでしょう。
しかし、インボイス制度が始まると、単に売上規模だけで免税事業者を選択することは危険です。
取引先の状況や、販売方法を確認して、免税事業者のままでも問題がないか確認しておくようにしましょう。
また、課税事業者を選択した場合は、準備しなければならないことが多くあるため、早めにその準備に取り掛かりましょう。