最終更新日:2022/11/18
インボイス制度のメリット・デメリット【新制度に対応するコツとは?】
ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。
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この記事でわかること
- インボイス制度とはどのようなものでどのような影響があるかわかる
- インボイス制によるメリットとデメリットを知ることができる
- 新たに始まるインボイス制度にどのように対応すべきかわかる
2023年10月1日から、消費税の新しい制度であるインボイス制度が始まります。
インボイス制度には、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
また、インボイス制度が始まるとこれまでの消費税に関する制度から大きく変更されるため、事業者にはその対応が求められます。
具体的にどのような対応が必要となるのか、解説していきます。
目次
インボイス制度とは
インボイス制度とは、2023年10月1日から新たに始まる消費税の計算や書類の保管に関する制度のことです。
正確には「適格請求書保存方式」といい、新しい制度が導入される目的には、消費税の正確な計算と納付を行うことがあります。
インボイス制度が始まると、どのような変更が行われるのかご紹介します。
インボイスを保管しなければならない
事業者が消費税の計算・納付を行う際には、売上時に預かった消費税から仕入時に支払った消費税を控除し、その差額を納付します。
このうち仕入時に発生する消費税を計算する際には、仕入を行ったことを明らかにする領収書などの書類が必要です。
事業者は、購入した商品や提供されたサービスの支払いに関する領収書や請求書などを、すべて保管しておかなければなりません。
インボイス制度が始まると、すべての記載事項を満たした適格請求書(インボイス)を保管しなければならなくなります。
適格請求書を保管していない場合は、消費税の仕入税額を控除することができなくなり、その分消費税の負担が増えてしまうことになります。
インボイスを発行しなければならない
事業者が売上を計上する時、その相手方は商品を購入し、あるいはサービスの提供を受けていることとなります。
事業者相手に売り上げを計上する際には、その相手方は消費税の仕入税額を控除する計算を行いますが、インボイス制度が始まると、仕入税額を控除するためには適格請求書を保管しておく必要があります。
事業者に対して売上を計上する場合、取引の相手方に対して適格請求書を発行する必要が発生します。
登録事業者になる必要がある
適格請求書を発行できるのは、国税庁に「適格請求書発行事業者」として登録された事業者のみです。
インボイス制度が始まった後、取引の相手先に適格請求書を発行するには、事前に登録しておく必要があります。
なお、適格請求書発行事業者に登録すると、その後は課税事業者となり、消費税の納税義務が生じます。
そのため、課税売上高が1,000万円未満の事業者については、適格請求書発行事業者になるかどうかの判断が求められます。
インボイス制度のメリット
インボイス制度が始まると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
ここでは、インボイス制度を導入した事業者にとってのメリットをご紹介します。
電子インボイスが導入しやすくなる
インボイス制度が始まると、電子帳簿保存法の要件を満たした電子データでの適格請求書の発行や保管が認められます。
電子インボイスが認められると、事業者にとって様々なメリットが期待されます。
- 書面での請求書がなくなるため、印刷や郵送にかかる経費が削減される
- 書類の保管にかかる手間や保管場所の確保が必要なくなる
- 郵送や書類の保管に関する業務がなくなり、事務の効率化が図れる
消費税の計算が明確になる
適格請求書には適用される消費税率や、税込金額に含まれる消費税額が明記されます。
この記載にもとづいて会計処理を行えば、消費税の計算を誤ることはありません。
これまでは、消費税が発生する取引か、8%と10%のいずれの税率が適用されるかを判断しなければならない場合がありました。
しかし、インボイス制度が始まった後は、消費税額や税率に関する判断を納税者自身で行う必要はなくなります。
取引を継続してもらえる
課税売上高が1,000万円未満の事業者は消費税の納税義務がなく、これまで消費税を納めていない事業者が大半でした。
しかしインボイス制度が始まると、適格請求書を発行するために課税事業者になる選択をする事業者も出てくるでしょう。
登録事業者にならないと適格請求書を発行できないため、これまでの取引が継続できなくなる可能性もあります。
その点、登録事業者になれば適格請求書を発行できるため、取引が打ち切られる心配はありません。
インボイス制度のデメリット
インボイス制度が始まると、これまでとは違いデメリットとなる点はないのでしょうか。
ここでは、事業者にとってデメリットになると考えられる点を解説していきます。
適格請求書の作成に時間がかかる
インボイス制度が始まると、発行する請求書は適格請求書でなければなりません。
適格請求書となるのは、以下の事項がすべて記載されたものをいいます。
- 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨の記載)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額及び適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
これまで発行してきた請求書にはない記載内容もあることから、慣れないうちはその対応に時間を割かれることとなるでしょう。
また、適格請求書は毎日、あるいは毎月発行することになるため、しばらくは作成に時間がかかることも予想されます。
経理処理に手間がかかる
インボイス制度が始まった後には、仕入先や購入先から適格請求書を受け取ります。
適格請求書を受け取ったら、その記載内容に従って経理処理を行う必要があります。
特に消費税率や消費税額は、適格請求書に書かれたとおりの金額とする必要があることから、慣れるまで時間がかかるかもしれません。
また、インボイス制度が始まった後にも、適格請求書以外の請求書を受け取ることが考えられます。
しかし、適格請求書以外の請求書からは消費税の仕入税額を計算することができません。
そのため、消費税の発生しない取引が発生することとなるでしょう。
課税取引なのか消費税が発生しない取引か、その区別を明確に行い、経理を行う必要があります。
このように、経理に関する業務がこれまでより手間取り、時間がかかることが予想されます。
消費税額が増えることがある
前述したように、これまで消費税の課税取引となっていた取引の中に、インボイス制度導入後は消費税が発生しない取引が発生する可能性があります。
それは、仕入先・購入先の事業者の中に、登録事業者にならない事業者がいるためです。
その結果、これまで仕入税額の計算を行っていた取引から消費税が発生しなくなることがあります。
これまでと同じ取引内容を行っていても、消費税の仕入税額が減少してしまうため、消費税の納税額が増えてしまうことがあり得ます。
インボイス制度に対応するコツ
インボイス制度が始まると、事業者にとっては負担が増えてしまうことが多いため、あらかじめ対応を考えておく必要があります。
どのような点に注意してその対応を進めるといいのか、ご紹介していきます。
登録事業者になるかどうかの判断を行う
課税売上高が1,000万円未満の事業者の場合、これまでは消費税の納税を行っていなかったケースが多かったでしょう。
しかしインボイス制度が始まると、新たに登録事業者となり、消費税の課税事業者になる必要性が出てくる場合もあります。
登録事業者になるかどうかの判断は、以下のような視点から考える必要があります。
① 売り上げ先には事業者が多いか消費者が多いか
もし売り上げ先の大半が最終消費者である場合、その消費者は消費税の課税事業者ではない場合が多いでしょう。
そのため、登録事業者となり適格請求書を発行する必要性はほとんどありません。
一方、事業者との取引が大半である場合、その事業者は消費税の課税事業者である可能性が高いでしょう。
この場合、登録事業者となって適格請求書を発行する必要性が高くなります。
② 売り上げ先から見てその取引を他の事業者に依頼できるか
取引を他の事業者でも代替できる場合、消費税の納税額が少なくなるように、登録事業者との取引が優先される可能性があります。
そのため、登録事業者にならない選択をすると、他の事業者に取引先を奪われてしまう可能性があります。
適格請求書の記載内容を確認する
これまで述べてきたように、適格請求書には所定の記載事項が定められており、その内容を1つでも漏らすことのないようにしなければなりません。
このうち、対価の額や消費税額等も記載しなければなりませんが、この計算を行う場合は、消費税率ごとに1つの請求書で1回だけ端数処理を行うこととされています。
以前の請求書では商品ごとに端数処理していた場合も、インボイス制度導入後は合計額で計算し、端数処理を行わなければなりません。
請求書の形式だけなく、計算方法についても見直しが必要となることから、その内容をよく確認しておく必要があります。
経理業務の見直しを行う
インボイス制度が導入されると、請求書の発行や受け取る書類の内容がこれまでと変わってきます。
省力化につながるケースもありますが、逆に負担増となってしまうことも考えられます。
特にインボイス制度導入直後は、経理業務の負担が大きくなる可能性があります。
これまでの業務を見直して効率化できる部分がないかを検討しておきましょう。
まとめ
インボイス制度が導入されることは決定していますが、その対応が遅れている事業者が多くいます。
消費税に関する請求書の記載内容や経理業務の方法など、見直すべき点は数多くあります。
また、小規模な事業者にとっては、登録事業者となって課税事業者になるかどうかの判断も必要となります。
何をすべきかを考えて、インボイス制度が始まった時にすぐに対応できるような体制を作っておきましょう。