最終更新日:2025/5/13
決算期の変更手続きのやり方とは?必要な届出やメリットについて解説

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
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書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
決算期とは、法人が決算を行う際に対象とする事業年度の最後の1カ月のことで、決算月とも呼ばれます。
この決算期を基準に、決算や株主への業績報告、税務署への法人税納付などを行うので、企業にとって決算期は非常に重要な事項の1つです。
決算期は法人設立時に自由に決めることができますが、企業を運営していくうちに当初の決算期では都合が悪くなることもあります。
そうした場合は、決算期を変更することも可能です。
この記事では、決算期の変更の具体的な流れや手続きのやり方、作成する届出などについて詳しく解説します。
さらに決算期を変更することで得られるメリットと、逆にデメリットになるケースについても紹介します。
決算期の変更を考えている、あるいは会社を設立するけれど決算期の設定に悩んでいるという人は、ぜひ参考にしてください。
目次
決算期(決算月)は自由に変更できる
決算期(決算月)は、事業年度の変更手続きを行うことで自由に変更できます。
決算期のあとに支払う税金を余裕のある時期に払いたい、あるいは繁忙期と決算期をもっと離したいといった、自社都合による変更でも問題ありません。
ただし、決算期を変更するためには必要な手続きを踏んだうえで、各種機関へ書類を提出しなくてはいけません。
また、決算期を変更したことで生じるデメリットについても把握しておくべきでしょう。
事業年度、決算月に関しては以下の記事で詳しく解説しています。
決算期(決算月)変更の手続きの流れ・必要な届出とは
決算期を変更する手続きは、主に以下の流れで行うことになります。
決算期変更は定款の変更が必要になるものの、比較的手続きも少なく、あまり費用もかけずに行うことができます。
株主総会などで定款変更の決議をとる
決算期は会社にとっても重大な事項であり、ほとんどの場合は定款に「当会社の事業年度は~から~までとする。」といったように記載されています。
ですので決算期を変更するには、定款の内容を書き換える必要があります。
定款を変更するためには、株式会社の場合は株主総会で特別決議を行い、以下の条件を満たさなくてはいけません。
- 発行済株式総数の過半数を有する株主が出席している
- 出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を得る
決算期の変更について決議を行い、可決に至ったら、総株主数や出席株主数、変更する定款の内容などをまとめた株主総会議事録を作成します。
この議事録は次の節で解説する異動届出書の提出のときに必要になるので、社内の控えも含めて4つほど作成しておくといいでしょう。
また、変更内容を反映した最新の定款も、忘れずに作成して原始定款とともに保管しておきましょう。
合同会社の場合は原則として総社員の同意が必要
合同会社には株主総会という制度が存在しないので、定款の変更には原則として総社員の同意が必要になります。
合同会社での定款変更は、社員総会などを開いて議事録を作成する以外に、総社員の同意書を作成するといった形式を取ることもできます。
決議の場を設けることなく、書面上のやり取りでも手続きができるので、その点において合同会社は、株式会社よりも決算期を変更するハードルが低いといえます。
異動届出書の提出
定款に記載している事業年度を変更したあとは、納税地を管轄する税務署や都道府県税事務所、市区町村役場に異動届出書を提出します。
これは会社設立時に提出した「法人設立届出書」の内容に変更があったことを知らせるためのものです。
異動届出書は、各都道府県税事務所や市区町村役場ごとにフォーマットが異なるので、それぞれのWebサイトなどを確認してください。
提出の際には、決算期変更について決議した株主総会議事録の写しも添付資料として必要になります。
合同会社であれば、社員総会を開いた場合は議事録の写しを、同意書を作成した場合はその同意書の写しを添付しましょう。
提出期限に関しては、国税庁のサイトでは「移動等後速やかに」とされていますが、いつまでか具体的には定められていません。
しかし変更後の事業年度の納税期限である、決算期から2カ月後までには必ず提出しておきましょう。
参考:異動事項に関する届出|国税庁
参考:異動届出書|国税庁(PDF)
法務局への変更登記申請は必要ない
定款の変更内容が絶対的記載事項あるいは相対的記載事項にあたるものでなければ、法務局への変更登記申請は必要ありません。
決算期に関しては、ほぼすべての法人が事業年度として定款に記載していますが、あくまで任意的記載事項ですので、変更した場合でも法務局への届出は不要です。
取引先などへの連絡
株主総会と異動届出書の提出が完了したら、決算期の変更手続きは完了となります。
ですが主な取引先や金融機関には、決算期を変更したことを連絡しておきましょう。
口頭で説明するのが最も確実ですが、書面やWebサイトで告知することも可能です。
変更の理由や内容を記し、お互いの認識が食い違わないようにしておきましょう。
決算期(決算月)変更のメリットとは
決算期の変更は、うまく設定すれば業務上で大きなメリットとなります。
具体的には以下のような効果が期待できます。
- 節税できる場合がある
- 資金繰りを調整できる
- 繁忙期を避けて決算ができる
- 役員報酬変更を前倒しできる
設立時に決めた決算期と自分の業務の相性が悪かった、あるいは事業年度に関係することで悩みがあるという場合は、ぜひ確認してみてください。
節税できる場合がある
決算期の変更は、設定次第では法人税を節税できる場合があります。
具体的にどのようなパターンで節税ができるのか、モデルケースを用意してみました。
ここでは、3月決算の企業についてシミュレーションしてみましょう。
青色の部分の「X1年4月~X2年2月」までの11カ月は堅調な利益を出しており、「X2年3月」には大きな利益が上がっているのですが、赤色の部分の「X2年4月~」は一転、赤字となっています。
こうした利益の計上は、システム開発や建設業、不動産売買の仲介業など、1回の取引の金額が大きいビジネスの場合によく見られます。
この場合の法人税は、繰戻し還付を行わない場合は通算で564万円になります。
そこで、この会社の決算期を変更して2月決算にしてみましょう。
「X2年3月」の800万円の利益が次の事業年度に持ち越されたことで、最初の事業年度の法人税額は270万円となり、税負担がほぼ半分に抑えられました。
さらに持ち越した800万円の利益も、「X2年4月~X3年2月」の赤字と相殺されるので、この事業年度の法人税は0円になります。
このように、決算月を変更することで、繰戻し還付などを使わなくても大きな節税効果を得られる場合があるのです。
資金繰りを調整できる
社内に現金が多くある時期と法人税などの納付時期を調整することで、キャッシュフローを安定させることができます。
決算期の末日(決算日)から2カ月以内が法人税などの納付期限となるので、この時期に社内の現金資産が不足していると、資金繰りが厳しくなってしまいます。
また、逆に大きな入金が決算期に集中してしまうと、税金対策を施す時間を確保できないといった事態に陥りがちです。
そうならないよう、現金の流れを考慮したうえで決算期を設定すれば、無理のない資金繰りで会社を運営できます。
繁忙期を避けて決算ができる
決算は事業年度内のすべての資産や取引の動きをまとめる、時間と労力のかかる業務です。
これと繁忙期が重なってしまうと、担当する従業員に非常に大きな負担がかかってしまいます。
余計な残業時間やミスを減らすためにも、決算の時期と繁忙期はそれぞれ離しておくべきです。
決算期を変更することで、そうした調整も可能になり、業務を効率化させられます。
役員報酬変更を前倒しできる
役員報酬は変更時期によっては重い制約がありますが、決算期を変更することで、制約のない時期を前倒しにできます。
多くの場合、役員報酬は「定期同額給与」という年間を通して一定の金額を支払う方式です。
この場合、役員報酬額の変更は事業年度の開始日(期首)から3カ月以内でないと、一部が損金として計上できなくなってしまいます。
どうしても期首から3カ月後以降に役員報酬を変更したいという場合は、決算期を変更して今の事業年度を早めに終わらせてしまうことで、役員報酬を前倒しで変更できるのです。
決算期(決算月)変更のデメリットとは
決算期の変更は、うまく設定すればメリットを得られますが、無視できないデメリットもあります。
主なデメリットとしては以下のようなものがあります。
- 比較データを作成しにくくなる
- 税金の計算が煩雑になる
- 税理士への支払いが多くなる
- 役員の任期が短縮される・切れることがある
決算期変更は、これらのデメリットを把握したうえで判断しましょう。
比較データを作成しにくくなる
決算期を変更すると、例年よりも短い期間で決算を行うことになるため、売上高や利益などの金額も少なくなります。
そのため、前年度や翌年度との財務データの比較がしにくいというデメリットがあります。
月ごとの忙しさも異なるので、年間の数字を12等分しても正確なデータにはなりません。
そのため、決算月を変更した年度の数字は、比較データを作成するうえでは参考程度にしか利用できないのです。
税金の計算が煩雑になる
決算月を変更して1年に満たない事業年度が生じた場合、税金の計算で通常とは違う調整を行わなくてはいけません。
たとえば減価償却費の計算は12カ月の事業年度を前提としていますが、変更後の事業年度の月数が12カ月に満たない場合は償却限度額の調整が必要になります。
このほか、中小法人の軽減税率の適用額や、消費税の基準期間の計算などに関しても、月数が変更になるとそれぞれを計算し直さなければならないため、会計業務が煩雑になります。
税理士への支払いが多くなる
決算期を変更すると、短期間で決算を行うことになります。
その場合、社内の経理部門に負担がかかるのはもちろんですが、顧問契約を結んでいる税理士などがいる場合は、新たな決算業務にまつわる費用が発生します。
思わぬ出費となることもあるので、税理士との付き合いがある場合はあらかじめ相談に乗ってもらうといいでしょう。
役員の任期が短縮される・切れることがある
役員の任期が定款に記載されている場合、決算期を変更すると役員の任期が短縮されることがあります。
多くの場合、役員の任期は「選任後~年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。」と記載されています。
定時株主総会とは、事業年度の終了後3カ月以内に招集される株主総会のことです。
定款で特別な取り決めがない限り、この「選任後~年以内に終了する事業年度」は、変更前ではなく変更後の事業年度が適用されます。
本来は3月決算だった会社が、12月決算に変更したモデルケースを考えてみましょう。
2025年の6月に役員に選任された場合、決算期が3月のままであれば、その役員の任期が満了する時期は2年後の定時株主総会が開かれる2027年4~6月ごろまでとなります。
しかし、仮に任期の途中の2026年に事業年度が変更され、12月決算になったとしましょう。
その場合の決算期は、本来は2027年の3月だったはずが、2026年の12月に早まってしまいます。
そのため役員の任期満了の時期は、2027年の1~3月ごろまでとなり、本来よりも短くなってしまうのです。
このように決算期を変更すると、役員の任期に影響を及ぼす場合もあるので、そうした点にも注意してください。
まとめ
決算期は事業開始後も変更できますが、そのためには株主総会での特別決議などや、異動届出書の提出といった手続きを踏まなくてはいけません。
また、決算期の変更は節税効果やキャッシュフローの安定化、業務環境の改善などの大きなメリットにつながる可能性があります。
しかし短期間の決算や煩雑な税金計算、比較データの取得が難しくなる点など、さまざまなデメリットもあることも認識しておきましょう。
決算期変更は手続きこそ比較的簡単ですが、業務に与える影響は大きく、あまり頻繁に行うべきものではありません。
実行する際には、しっかり計画を練ったうえで行いましょう。
決算期(決算月)の変更の際は税理士など相談しよう
「決算期を変更したいけれど、どの月にすればいいんだろう?」「会社設立を考えているけれど、決算期をいつにすべきかさっぱりわからない…」と悩んでいる方は、税理士などに相談してみるといいでしょう。
決算期の変更のやり方はもちろん、それぞれのケースに合った最適な決算期についてなど、さまざまなアドバイスを受けることができます。
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