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最終更新日:2024/8/5

会社の決算月変更で節税!メリット・デメリットや手続きとは

森 健太郎
この記事の執筆者 税理士 森健太郎

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。

PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック

会社の決算月変更で節税!メリット・デメリットや手続きとは

この記事でわかること

  • 会社の決算月を変更すると節税になる場合がある
  • 会社の決算月を変更することのメリットとデメリット
  • 会社の決算月を変更する手続きの流れ

個人事業主は、毎年1月~12月の利益を計算して、確定申告を行うこととされています。
これに対して、会社の決算は会社が決算月を決め、その月で決算を行います。
決算は1年に1回、必ず行わなければならないので、いつ行っても同じように思うかもしれません。
しかし、決算月を変更することで、節税になることがあります。

今回は、決算月を変更することのメリットとデメリット、決算月を変更する手続きについて解説していきます。

会社の決算月変更は節税になる?

会社の決算月を変更すると、節税になるのはどうしてなのでしょうか。

ここでは、実際の計算例を用いて、決算月の変更が節税になるパターンをご紹介します。

計算例

ここでは、以下のような数字で推移した会社について考えてみます。
事例

20X1年4月~20X2年2月の利益1,000万円
20X2年3月の利益800万円
20X2年4月~20X3年2月の利益△900万円
20X3年3月の利益△100万円

「☓1年4月~☓2年2月」までの11カ月は堅調な利益を出しており、「☓2年3月」には大きな利益が上がっているのですが、「☓2年4月~」は一転、赤字となっているケースです。
システム開発や建設業、不動産売買の仲介業など、一取引の金額が大きいビジネスの場合にはこのような利益の計上がよくあります。物販でも、人気商品を取り扱うビジネスの場合などは、見られるケースです。その他、固定資産や有価証券を売却することで、売却益が発生する場合なども想定されます。
この会社がもともと3月決算であったとすると、各年度の利益は以下のようになります。

決算月を変えた場合の法人税①

期間利益の金額法人税額(概算)
20X1年4月~202X年3月1,800万円(1,000万円+800万円)564万円
20X2年4月~20X3年3月△1,000万円(△900万円+△100万円)0円

この会社が2022年2月に決算月を変更し、4月から2月までの11カ月で事業年度を切ったとします。その後は、3月から翌年2月までの2月決算の会社として、今まで通り1年ごとに決算を行います。この場合、発生する利益は以下のようになります。
決算月を変えた場合の法人税②

期間利益の金額法人税額(概算)
20X1年4月~20X2年2月1,000万円270万円
20X2年3月~20X3年2月△100万円(800万円+△900万円)0円

元々の3月決算法人として「☓1年4月~☓2年3月」の12カ月間で法人税の額を計算した場合、その税額は合計で564万円となります。
しかし、2月決算に変更すると法人税額の合計は270万円となり、税負担はほぼ半分に抑えられます。
そして次の事業年度には赤字が出ていますので、送った利益と赤字が相殺されて法人税が0円になっています。
このように決算月を変更することで、節税できることがおわかりいただけるでしょう。

決算期を変更して利益を翌年に繰り越すことができる

なぜ上記のように決算月を変更しただけで、税額が変わったのでしょうか。
それは決算月を変更することと、発生した利益が帰属する年度が変わったからです。
この計算例では、20X2年3月に発生した利益800万円の帰属する年度に違いが生じることとなります。

決算期を変更する前は、2022年3月に発生した利益は、2021年4月~2022年3月の年度に含まれます。
この場合、それまでに発生していた利益1,000万円に800万円が上乗せされます。
すると、年度内に発生した利益は1,800万円となり、2022年3月に発生した利益はすべて高い税率で法人税が計算されます。

一方、決算期を変更すると、2022年3月に発生した利益は、2022年3月~2023年2月の年度に含まれます。
この場合、2022年4月以降に900万円の損失が発生しているため、実質的に800万円の利益には課税されません。
そのため、利益800万円に対する課税を免れることができ、その分の税負担が軽減できます。

利益を繰り越した後の節税が重要

決算月の変更を行うことで、節税になるケースがあることは、お分かりいただけたでしょう。
発生した利益に対して、高い税率で法人税が課されるのか、あるいは課税されない結果となるのかの違いは大きな差になります。
そのため、決算月の変更は節税を考える上で、大きな意味があると言えるでしょう。

今回のケースのように、大きな利益が出た後、一時的に業績が悪化するときなどには有効です。ですが、実際には業績悪化が見込まれるケースというのは望ましいものではなく、また予測も困難です。
そこで、「事業年度を変更によって節税を実施する時間ができた」と考え、積極的な節税を行うこととセットで考えることが重要です。一例として、下記のような節税を実施することが有効です。

有効な節税手法

  • 役員報酬の増額改定
  • 事前届出給与を活用
  • 倒産防止共済への加入による課税の繰延
  • 消耗品等の購入
  • 社員旅行 など

こういった節税を検討し実施する時間が増えることが、事業年度変更に伴う節税の要諦とお考え下さい。

会社の決算月変更によるメリット・デメリット

会社の決算月を変更して、節税になるケースがあることを確認しました。

この他にも、決算月変更によりどのようなメリットやデメリットがあるのか、解説していきます。

決算月変更のメリット

決算月を変更することで、節税になる以外にどのようなメリットがあるのかご紹介します。

資金繰りを調整できる

会社が法人税の計算を行い、法人税申告書などを税務署に提出すれば、申告に関する業務が終了します。
また、計算により求められた法人税は、決算期末から2カ月以内に納付することとされています。

ここで、法人税の納付を行う時期を決算月の変更により、納付しやすい時期に変更することができます
現金売上が大きく発生した場合は、現金が手元にあるため、納税資金に苦労することはありません。
しかし、掛売上が大きく発生した場合は、納税資金が確保できない場合もあるので、その時期を避けて決算月にするようにします。

役員報酬の変更を前倒しできる

役員報酬の金額は、一度決定したら事業年度の途中で変更することはできません。
その金額を変更するには、新事業年度の開始から3カ月以内に株主総会を開催し、金額を変更する決議を行う必要があります。

しかし決算月を変更すると、新年度の開始時期が早まるので、役員報酬を前倒しで変更することができます
どうしても役員報酬の金額を変更したい場合、現在の事業年度を早く終わらせることで変更が可能となります。

繁忙期を避けて決算ができる

最初に会社の決算月を決定するのは、会社を設立した時です。
その時には、適当に決算月を決定することもあるでしょう。

しかし、実際に会社の業務を行うようになると、忙しい時期とそうでない時期に波が発生することがあります。
この場合、繁忙期と会社の決算時期が重なると、どちらも思いどおりに進まなくなってしまいます。
そこで、会社の閑散期を見計らって決算月を変更して、スムーズな決算業務を行えるようにすることができます。

決算月変更のデメリット

決算月を変更すると、デメリットになることもいくつかあります。

その具体的な内容を解説していきます。

比較データを作成しにくくなる

決算月を変更して、10カ月など通常より短い期間の事業年度が生じると、売上高や利益などの金額も少なくなります。
そのため、前年度や翌年度と比較した場合に、数字を比較しにくくなるというデメリットがあります。

単純に10カ月の事業年度の数字を1.2倍すれば、売上高などの数字を比較することができるというわけではありません。
季節的な要因で毎月の売上高の傾向が異なる場合など、その影響を加味して比較することが難しくなります。
そのため、決算月を変更した年度の数字は、比較データを作成する上では参考程度にしか利用できません。

税金の計算が煩雑になる

決算月を変更して1年に満たない事業年度が生じた場合、通常とは異なる計算が必要になるものがあります。

たとえば減価償却費の計算は12カ月の事業年度を前提としていますが、事業年度の月数が12カ月ない場合は調整が必要になります
この他にも、中小法人の軽減税率の適用や、消費税の基準期間の計算など、月数が変更になると調整しなければなりません。

このような調整計算を行わずに申告することは、税額計算の誤りにつながるため、慎重に考慮する必要があります。

会社の決算月変更の手続き

会社の決算月を変更するには、いくつかの手続きが必要になります。
日常的に行う業務ではないため、事前に確認しておきましょう。

株主総会を開催する

決算月を変更するには、会社の定款を変更しなければなりません。
定款の変更には株主総会の特別決議が必要であり、議決権数の3分の2以上の賛成を得ると成立します。
株主総会は通常、決算月が終了したら3カ月以内に開催しなければなりません。
決算月を変更する場合は、通常の株主総会でも構いませんし、臨時に株主総会を開催することもできます。

定款を変更する

株主総会の特別決議を得たら、定款に記載されている事業年度を変更します。
なお、事業年度の定款への記載は任意であり、必ず記載されているわけではありません。
ただし、通常は定款に事業年度が記載されており、この場合は変更が必要になります。

定款の変更にあたって、公証役場での認証や法務局での登記は必要ありません。
司法書士などの専門家に依頼する必要もなく、会社に保管されている定款を作り替えるだけなので、コストはかかりません。

税務署等に届出を行う

決算月を変更したら、税務署や都道府県、市町村に異動届を提出しなければなりません
決算月の変更を届け出しておかないと、必要な時期に申告書や納付書などの書類が送られてきません。
それぞれの提出先に、必要事項を記載した届出書と株主総会議事録を提出します。
また、取引先や金融機関などに決算月の変更を伝えておく必要があります。

まとめ

決算月の変更は、多くの会社で実施されるわけではありません。
しかし、はじめに深い理由があって決めたわけではない決算月は、後で変更しても問題ないことが多いです。
節税のために決算月を変更することもできるので、どの程度節税になるのか、シミュレーションしておくといいでしょう。
決算月を変更するためには、必要な手続きがあるので、忘れずにその手続きを行いましょう。

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