最終更新日:2020/5/19
子会社設立費用はどこまで親会社の負担?ケース別に解説
この記事でわかること
- 親会社が負担すべき費用と子会社において負担すべき費用の区別がわかる
- 海外子会社設立時における費用負担の注意点がわかる
企業経営をしていく中で、子会社を設立する必要が生じる場合が有り得ます。
具体的には以下のような場合が考えられるでしょう。
- ・新たな事業を行う場合
- ・現在、会社の一事業部門として行っている事業を別会社として独立させる場合
- ・現在の会社をホールディングス化して、
現在行っている事業を全て子会社に移管する場合 - ・M&Aにより企業を買収する場合
この様な場合、あまり意識せずに親会社において子会社設立に関する費用を支出していると、後で大きな問題となる場合があります。
本稿では、子会社設立に際して親会社が費用を負担していいか否かの判断基準について確認しておきます。
子会社設立費用が親会社負担となるか判断する基本的な考え方
原則…費用負担のタイミングによる判断
子会社設立費用について、親会社が負担すべきか、子会社が負担すべきかについては、原則としては、子会社設立の意思決定がなされるまでの費用については親会社が負担し、その意思決定がなされて以降の実際の子会社設立にかかる費用および子会社設立から事業開始のために要する費用については、子会社自身が負担すべきものと考えられます。
このように、第一次的には、その費用支出のタイミングによって判断されることになります。
例外…支出の目的による調整
異常の原則に対して、例外があります。
その費用負担が生じたタイミングが、親会社の意思決定意向であっても、その費用支出の目的が親会社のためのもの、親会社の事業のためのものと認められる場合には、親会社が費用負担する合理的な理由があるとして、親会社による負担が認められます。
具体的に見ていきましょう。
子会社設立費用を親会社負担としてもいいケース
新規事業を行うために子会社設立を検討するための調査費用
これについては、子会社を設立するか否かを判断するための費用ですので、親会社がその意思決定を行うための資料を集める費用として、親会社が負担すべき費用と言うことになります。
M&Aなどにより企業を買収するためのデューデリジェンスのための費用
M&Aをするか否かを判断するためのデューデリジェンスを行う場合は、意思決定のための行為ですので、親会社が費用を負担すべきこととなります。
親会社による管理のために子会社に導入させるシステムの費用
親会社において連結会計処理を行うためのシステムなどを子会社に導入させる場合の費用については、その目的は親会社の地形のためのものであると考えられるため、子会社設立後に生じるものであっても、例外的に親会社において負担することが認められると考えられます。
子会社設立費用が子会社負担となるケース
子会社設立のための定款作成費用・登記費用
日本法では、会社は定款を作成し、出資の払い込みがなされ、登記がなされることによって成立します。
したがって、定款作成や登記をするための費用は、厳密には、子会社が設立する前に発生する費用です。
しかし、基本的な考え方のところでも述べたとおり、費用負担の区分は親会社の意思決定時を基準とすることから、これらの費用は、基本的に子会社自身が負担すべき費用となります。
現実に会社法の規定でも、これらの費用は会社法第28条により会社自身が負担すべきものとされています。
子会社で使用する什器備品などを購入する場合
会社設立後にこれらの什器備品などを購入する場合には、その費用は当然に子会社において負担すべきことになります。
一方、会社設立前の時点で、会社成立後速やかに事業を開始できるようにこれらの什器備品などを購入しておくという場合も有り得ます。
しかし、この場合も、親会社による意思決定後である以上、子会社の事業を行うための費用であるため、その費用は子会社において負担すべきものとなります。
海外子会社設立費用は何処まで親会社負担になるか
子会社設立の決定に至るまでの費用
会社が海外子会社を設立するか否かを検討し、その判断を行うために、市場調査を行ったり、現地調査を行ったり、調査会社やコンサルティング会社などに対して助言を求めたり、弁護士などに現地の法令の調査や、そのメリットデメリット、必要な手続きについて助言をもらうなどの行為を行う場合の費用などがこれにあたります。
これらの費用は、子会社設立に直接かかわる費用ではなく、子会社を設立するか否かという会社の経営方針・事業計画を立案などするための費用ですので、当該会社自体の意思決定のための費用といえます。
したがって、本質的にその会社自身において負担すべき費用といえます。
設立のために要する費用
実際に親会社における海外子会社を設立するという意思決定に基づいて、実際に海外子会社を設立するための費用です。
具体的には、定款などの作成費用、登記などを行うための費用、などがこれに該当するでしょう。
これらの設立自体についての費用は、日本の会社法でも最終的に当該会社自体が負担すべき費用とされています。
したがって、これについては原則として当該海外子会社自体が負担すべき費用と考えるべきです。
なお、注意を要するのは、親会社における海外子会社設立の意思決定後に親会社の社員を現地に派遣する費用については、すでに会社設立の意思決定がなされた後の費用ですので、海外子会社が負担すべき費用とされる場合があるという点です。
会社設立から事業開始までに要する費用
すでに子会社が設立された後に、当該子会社が事業活動を行うための費用ですので、原則として子会社自身が負担すべき費用といえます。
ただし、この場合も例外はあり、すでに述べたとおり、その費用を親会社が負担すべき合理的な理由がある場合には、親会社が負担することも可能と考えられます。
具体的にどのような場合には「合理的な理由」があるといえるかは、それが最終的に誰のための費用かという視点から判断することになるでしょう。
まとめ
以上、子会社設立の際の費用を、親会社・子会社の何れが負担するべきかについて見てきました。
子会社設立の際の費用負担については、法律上、こうしなければならないという決まりはありません。
したがって、会計上は、本来子会社が負担すべき費用を親会社が負担するとすることも可能です。
ただ、税務上は、本来、子会社が負担すべき費用を親会社において負担した場合には、寄付と認定され、それについての課税が生じる可能性があります。
特に、海外子会社の場合や、グループ税制が適用される100%子会社については、寄付と認定されるとその全額が損金算入できないことになりますので、特に注意が必要です。
一方、子会社においては、その設立費用として会社が負担できる費用については、会社法第28条で定款に定めなければならないとしていますので、これらの手続きを経ることなく、子会社において費用を負担することはできません。
したがって、子会社で負担する費用については、定款などで定めるなどの手続きを忘れずに行う必要があります。