この記事でわかること
- 相続税の寄付金控除とは
- 相続税の寄付金控除の注意点
- 相続税以外に控除を受けられる税金
- 寄付をした場合の税額の計算例
相続が発生すると、相続人たちで故人の財産を分け合うことになります。しかし最近では、「社会貢献のために使ってほしい」「お世話になった団体に感謝を伝えたい」といった思いから、相続財産の一部または全部を寄付するケースが増えています。
このような寄付は、単に善意を形にするだけではなく、相続税の負担を軽くする手段としても注目されています。相続財産を特定の条件に従って寄付することで、その分が課税対象から除外される仕組みがあるためです。故人や相続人の意志を大切にしながら節税効果も得られる、まさに一石二鳥の方法といえるでしょう。
ただし、寄付によって相続税を減らすには、寄付先の種類や手続きのタイミングなど、いくつかの条件を満たす必要があります。要件を誤ると控除の対象にならない可能性もあるため、正しい知識が欠かせません。
この記事では、相続財産を寄付することで相続税を軽減できる仕組みや計算例、減額を受けるために必要な条件や注意点について、わかりやすく解説します。相続を機に寄付を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
相続税の寄付金控除とは
相続税の寄附金控除とは、相続または遺贈によって遺産を取得した相続人が、国や地方公共団体などへ申告期限までに寄付した財産を非課税とする規定です。
寄付した相続財産が非課税となるには、次の要件をすべて満たしている必要があります。
- 寄付した財産が相続や遺贈によって取得した財産であること
※相続や遺贈で取得したとみなされる死亡保険金や死亡退職金も対象 - 取得した財産を相続税の申告期限までに寄付すること
- 寄付した先が国や地方公共団体または教育や科学の振興などに貢献することが著しいと認められる特定の公益法人であること
特定の公益法人には、独立行政法人、国立大学法人、自動車安全運転センター、日本赤十字社、公益社団法人及び公益財団法人といった団体が該当します(これらの法人に該当している場合でも、その法人を設立するための財産の提供は、寄附金控除の対象とはなりません)。
なお、申告には寄付先から寄付金を受領した年月日が記載された一定の書類を発行してもらい、それを添付する必要があるため、申告期限に余裕を持って寄付をするようにしましょう。
相続税の寄付金控除の注意点
相続税の寄附金控除を適用する際の注意点についてみていきましょう。
適用の除外になってしまう寄付
寄付先が以下の2点に該当する場合、寄附金控除の適用除外となってしまうため、寄付先の選定には注意が必要です。
- 寄付先が、寄付のあった日から2年を経過した日までに特定の公益法人などに該当しなくなった場合
- 寄付先が、寄付した人の親族などの相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合
2つ目は、寄付した人または寄付した人の親族が寄付先から特別な利益を受けている場合が該当します。
財産の種類によっては寄付が難しい
相続や遺贈によって取得した財産の寄付が相続税の寄附金控除の対象となるためには、財産を相続したときの形態のまま寄付しなければいけません。
そのため、寄付をしたい財産が不動産や株式、骨とう品などの管理や換金に手間がかかる場合、寄付を断られる可能性があります。
寄付したい財産が受け入れ可能かどうかは、事前にそれぞれの団体に確認を行いましょう。
また、財産によっては換金してから寄付してしまうと、寄附金控除が適用できないだけでなく、売却益に譲渡所得税が課されてしまう点にも注意が必要です。
相続財産を寄付すると相続税以外の税からも控除を受けられる
相続した財産を寄附した場合、要件を満たしていれば、相続税だけでなく、「所得税」「住民税」の寄附金控除の適用を受けられます。
所得税の寄付金控除
納税者が国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対し、「特定寄附金」を支出した場合には、所得税から寄附金控除を受けることができます。
控除額
- ※
- 総所得金額等の40%が上限
住民税の寄付金控除
住民税においても、納税者が国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対し、「特定寄附金」を支出した場合には、所得控除を受けることができます。
ふるさと納税以外の場合
控除額
- ※
- 総所得金額等の30%が上限
ふるさと納税の場合
基礎控除額
特別控除額
- ※1
- 個人住民税所得割額の20%が上限
- ※2
- 0~45%
寄付金控除を適用した場合の計算事例
100万円の寄付をした場合の相続税、所得税、住民税の税額がそれぞれどのくらい変わるのかを見てみましょう。
相続税
まず、相続税の計算事例をみていきましょう。
被相続人の財産額が1億300万円、相続人が子ども2人のケースで寄附金控除を適用しない場合の税額は下記のようになります。
寄附金控除なしの相続税額
6,100万円×1/2=3,050万円
3,050万円×20%-200万円=410万円
410万円×2人=820万円
同様のケースで、ふるさと納税で100万円の寄付をして寄附金控除を適用した場合、税額は下記のようになります。
寄附金控除ありの相続税額
1億200万円-(3,000万円+600万円×2人)=6,000万円
6,000万円×1/2=3,000万円
3,000万円×15%-50万円=400万円
400万円×2人=800万円
この事例では、寄附金控除の適用により、20万円の相続税が減少する結果となりました。
所得税・住民税
次に、所得税・住民税の計算事例をみていきましょう。
給与年収500万円(社会保険料控除75万円、基礎控除48万円 令和6年の税制をベースとしています)の人が、ふるさと納税で100万円を寄付した場合の所得税額、住民税額は下記のようになります。
所得税 | 住民税 | 合計 | |
---|---|---|---|
寄付なし | 107,700 | 240,500 | 348,200 |
寄付あり (寄付額100万円) |
37,300 | 93,500 | 130,800 |
年収500万円(社会保険料控除75万円、基礎控除48万円)の人は、寄付をすることで所得税と住民税の合計で、217,400円の税額が減少します。
会社員の方が寄附金控除を適用するためには、確定申告が必要になるため忘れないように注意しましょう。
相続税の寄付金控除に対するよくある質問
財産を寄付することで、自分が望む団体の支援ができ、税額も減少するのであれば、寄付をしてみようかなと考える方もいらっしゃると思います。
ここからは、寄附金控除についてよくある質問についてお答えします。
宗教法人への寄付は対象となる?
宗教法人は「特定の公益法人」に該当しないため、寄付をしても寄附金控除の適用は受けられません。
地元のお寺や特定の宗教などに寄付をしても対象とならないためご注意ください。
ふるさと納税との併用は可能?
相続人が相続により取得した財産でふるさと納税をした場合、その財産は相続税の非課税財産となり、相続人は所得税・住民税においても寄附金控除を受けることができます。
しかし、寄付の限度額(控除の対象となる金額)は、相続人の所得によって異なるため、注意が必要です。
たとえば、年収500万円(社会保険料控除75万円、基礎控除48万円)の人の場合、自己負担額が2,000円となるふるさと納税の限度額は61,000円です。
寄付をしなかった場合の所得税と住民税の合計は348,200円、ふるさと納税を61,000円分した場合の所得税と住民税の合計は289,100円で、差額は59,100円となります。
自己負担2,000円を加算するとほぼ、ふるさと納税した額と同じとなり、寄付による税額減と自己負担2,000円を寄付したことになります。
所得税 | 住民税 | 合計 | |
---|---|---|---|
寄附なし | 107,700 | 240,500 | 348,200 |
ふるさと納税 61,000円あり |
101,600 | 187,500 | 289,100 |
ふるさと納税 100万円あり |
37,300 | 93,500 | 130,800 |
相続した現金のうち、100万円をふるさと納税すると、税額は217,400円減少しますが、これに自己負担額2,000円を加算しても、219,400円であり、100万円には届きません。780,600円は純粋な寄付となります。
自己負担額を2,000円にとどめたい方は、ふるさと納税の限度額シミュレーションサイトなどで、目安の金額を計算して寄付を行いましょう。
まとめ
相続財産を寄付すると、寄付先によっては相続財産が非課税財産となり、相続税の負担軽減につながります。さらに、寄付した財産の金額は所得税、住民税の寄附金控除の適用を受けることもできます。
しかし、寄付の受け入れ先はほとんどの場合で現金による寄付を望んでいるため、納税資金が不足しないように注意が必要です。
相続税申告は税額シミュレーションや納税資金について相談可能な相続に詳しい税理士に依頼するのがおすすめです。
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