この記事でわかること
- 相続時精算課税制度を利用するデメリットとメリット
- どのような人が相続時精算課税制度を利用すると良いか
- 相続時精算課税制度を利用した場合の税額計算
1年間に110万円を超える財産を贈与された場合、基本的には贈与税を負担しなければなりませんが、相続時精算課税制度を使えばその税負担を贈与者の相続開始まで先送りすることができます。税負担を抑えて贈与ができる点は魅力的ですが、さまざまなデメリットもあるため、しっかりと理解してから制度を利用しましょう。
この記事では、相続時精算課税制度のデメリットとメリット、利用がおすすめできる人のほか、利用した際の税額の計算例などを解説します。
目次
相続時精算課税制度VS暦年贈与 どちらに節税効果があるかを解説! #税制改正 #相続
動画の要約2023年度の税制改正で変更があった、相続時精算課税制度と暦年贈与のどちらが節税効果が高いかを解説しています。改正により贈与による相続税の節税対策が大きく変わり、相続時精算課税制度の使い勝手が向上します。
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度とは、累計2,500万円までの財産について、贈与税を支払わずに子や孫へ贈与できる制度です。しかし、この制度を利用して贈与した財産は、贈与した人が亡くなった際に、相続財産に持ち戻して相続税を計算しなければなりません。つまり、贈与時には課税されずに、後で相続税として税金を納める制度ということです。
この制度は、税務署に届け出ることで利用可能です。累計2,500万円の特別控除枠を超えた部分には20%の税率で贈与税がかかります。
相続時精算課税制度は、令和5年度税制改正で一部の内容が見直され、年110万円までの贈与に関する基礎控除制度などが導入されました。この改正により、年110万円までの贈与については相続時精算課税制度の特別控除枠に含める必要がなくなり、贈与税もかからず、将来の相続財産への持ち戻しも不要になっています。
原則的な贈与税の課税方式である暦年課税は、1月1日から12月31日までの1年間(暦年)に贈与を受けた財産の合計額から、基礎控除額の110万円を差し引いた金額に課税する制度です。つまり、年110万円までの贈与には贈与税の負担は不要です。ただし、相続開始前7年以内の贈与は、基礎控除額以下の部分も相続財産に加算して相続税を計算しなければなりません。
それに対して、相続時精算課税制度は基礎控除制度が導入されたことで、相続開始前7年以内の年110万円以下の贈与は相続財産に持ち戻す必要がなくなったため、この点は暦年課税よりも使いやすい制度になったといえます。
相続時精算課税制度の利用条件
相続時精算課税制度は、利用できる人の条件があります。高齢者世代の財産を次の世代に引き継ぐことを目的としているため、贈与者と受贈者(贈与を受ける人)が、それぞれ以下の条件を満たしていなければなりません。
- 贈与者が、贈与した年の1月1日に60歳以上となっている父母や祖父母であること
- 受贈者が、贈与した年の1月1日に18歳以上となっている子や孫であること
相続時精算課税制度のデメリット
基礎控除制度の導入により一部のデメリットが解消されたとはいえ、相続時精算課税制度にはさまざまなデメリットが残っています。相続時精算課税制度の利用を検討する際は、以下の5点を念頭に置いて慎重に判断しましょう。
- 一度利用すると暦年課税に変更できない
- 贈与した宅地は小規模宅地等の特例を使えなくなる
- 不動産取得税・登録免許税の負担が大きくなる
- 贈与した財産が値下がりすると相続で取得するより不利になる
- 先に贈与を受けることで相続税の納付に困る場合がある
一度利用すると暦年課税に変更できない
相続時精算課税制度のデメリットは、一度選択すると、その選択に係る贈与者からの贈与については暦年課税に変更できない点です。財産状況などによってどちらの贈与が有効かは異なるため、贈与税・相続税を合計した最終的な税負担に差が出る場合もあります。利用開始前に将来的な財産承継計画を立てて、どちらがより節税につながるかを綿密に検討しなければなりません。
贈与した宅地は小規模宅地等の特例を使えなくなる
相続時精算課税制度で贈与した宅地には、小規模宅地等の特例が使えなくなる点もデメリットです。
小規模宅地等の特例とは、相続税を計算する際に、一定の要件を満たした宅地の評価額を最大80%減額できる制度で、利用できれば相続税の負担を大幅に軽減できます。ただし、この制度はあくまで宅地を相続や遺贈によって取得した場合に適用を受けられる制度であるため、相続時精算課税制度で生前に贈与を受けた土地には適用できません。
不動産取得税・登録免許税の負担が大きくなる
相続時精算課税制度のデメリットとして、不動産取得税・登録免許税の負担が大きくなる点も挙げられます。
不動産の贈与があった場合、不動産取得税と登録免許税もかかります。例えば、土地や住宅の贈与があった場合、不動産の固定資産税評価額に対して3%の税率を掛けた不動産取得税と、2%の税率を掛けた登録免許税を納めなければなりません。なお、不動産取得税の税率は、税負担を軽減する特例措置が適用される場合もあります。
一方、不動産を相続した場合は登録免許税しかかからず、その税率も0.4%です。不動産の評価額によっては、不動産取得税と登録免許税の税額も大きく変わるため、注意しましょう。
相続時 | 贈与時 | |
---|---|---|
不動産取得税の税率 | なし | 3% |
登録免許税の税率 | 0.4% | 2% |
贈与した財産が値下がりすると相続で取得するより不利になる
贈与した財産が値下がりすると、生前に贈与せずに相続で取得したケースと比べ、税負担で不利になる点も相続時精算課税制度のデメリットです。
相続時精算課税制度を利用した場合、最終的には贈与した財産を持ち戻して相続税の計算を行いますが、その際の財産評価は、贈与した時点での評価額となります。そのため、贈与から相続発生までのあいだに財産の評価額が下がっていた場合でも、現在の評価額より高い贈与時点の評価額をもとに相続税を計算することになります。
財産の価値の変動は簡単に予測できませんが、値下がりしそうな財産は相続時精算課税制度で贈与しないほうがいいでしょう。
先に贈与を受けることで相続税の納付に困る場合がある
相続時精算課税制度を利用すると、財産をもらってから税金を納めるまでにタイムラグがあるため、相続税の納付に困る場合がある点もデメリットです。
相続時精算課税制度では、贈与があった時点ではなく、将来贈与者が亡くなった際に相続税を納めます。贈与されてから贈与者の相続が開始するまでに、何らかの原因で受贈者の財産が減少すると、相続税を納められないという事態になることもあります。
実際に、相続時精算課税制度を利用した結果、相続税を納めるために借金をしなければならなくなったケースもあります。税負担が生じる時期と財産を受け取る時期にタイムラグがあると、税金を納められなくなるリスクがある点に注意しましょう。
相続時精算課税制度のメリット
相続時精算課税制度はデメリットに十分注意しなければなりませんが、上手く活用すれば大きなメリットもある制度です。相続時精算課税制度の代表的なメリットとしては、以下の6点が挙げられます。
- 相続を待たずに財産を承継できる
- 累計2,500万円まで贈与税がかからない
- 相続争いを予防できる
- 年110万円以下の贈与には贈与税がかからず、持ち戻しも不要となる
- 贈与税・相続税の実質的な負担がなくなることもある
- 値上がりが予想される資産の節税になる
相続を待たずに財産を承継できる
相続時精算課税制度のメリットは、相続を待たずに財産を承継できる点です。
特別控除枠は累計2,500万円までとされているため、まとまった財産を贈与できます。受贈者にとってまとまった財産が必要になるタイミングで贈与すれば、効果的な財産承継が可能になります。
累計2,500万円まで贈与税がかからない
相続時精算課税制度では、基礎控除額を超えた贈与でも、累計2,500万円までは贈与税がかからない点もメリットです。相続時精算課税制度には年110万円の基礎控除と2,500万円の特別控除枠があり、1月1日から12月31日までの贈与額から110万円を控除した残額が累計で2,500万円に達するまでは、無税で財産を贈与できます。
特別控除枠を超えるまでは、年をまたいで何度贈与しても贈与税はかかりません。そのため、受贈者が贈与税を払えるかどうかを気にせずに、贈与することが可能です。
また、2,500万円の特別控除枠を超えた場合でも贈与税の税率は20%と決まっているため、贈与財産の金額によっては55%もの税率になる可能性がある暦年課税と比べて、税率が有利になるケースもあります。
相続争いを予防できる
相続時精算課税制度を活用すると、相続争いの防止が可能になる点もメリットとして挙げられます。
相続では、不動産などの分割しづらい財産が多いと、分割方法でもめるケースが少なくありません。相続時精算課税制度を使えばまとまった財産を贈与しやすいため、主要な財産を贈与して、誰がどの財産を引き継ぐかを生前に確定させることができます。
年110万円以下の贈与には贈与税がかからず、持ち戻しも不要となる
年110万円以下の贈与について、贈与税がかからず持ち戻しも不要になった点は、令和5年度税制改正後の相続時精算課税制度のメリットです。
これまで相続時精算課税制度には基礎控除はありませんでした。しかし、令和5年度税制改正で暦年課税と同様の年110万円の基礎控除が導入されました。さらに、この基礎控除は相続財産への持ち戻しが不要になっています。
一方、暦年課税の贈与は、相続開始前7年以内の贈与は基礎控除部分も含めて全て持ち戻すことになっています。そのため、近いうちに相続が発生しそうな場合、年110万円以内の贈与は相続時精算課税制度を利用したほうが有利となります。
贈与税・相続税の実質的な負担がなくなることもある
相続時精算課税制度は最終的に相続税を納める制度ですが、相続財産が「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」の基礎控除の範囲内に収まっていれば、相続税を納める必要はありません。将来的な財産額が、相続税の基礎控除以下に収まるとわかっている場合、相続を待たず生前に無税で財産移転できるメリットだけを活かすことができます。
値上がりが予想される資産の節税になる
相続時精算課税制度のメリットは、値上がりが予想される資産の節税になる点です。贈与した財産の評価額は贈与時の金額となるため、贈与時から相続時までに値上がりが予想される財産を先に相続時精算課税制度で贈与しておけば、将来の相続税の計算では贈与時の低い評価額が基準になります。
相続時精算課税制度の利用をおすすめできる人
相続時精算課税制度のデメリットとメリットを踏まえると、相続時精算課税制度の利用をおすすめできる人の特徴が浮かび上がります。以下のようなケースでは、相続時精算課税制度を利用するのがおすすめです。
- 値上がりが見込まれる財産がある
- 収益が発生する財産がある
- 遺産分割でもめる可能性がある
値上がりが見込まれる財産がある
値上がりが見込まれる財産を所有している場合、相続時精算課税制度の利用が有効です。相続時精算課税制度のメリットのひとつとして、値上がりする資産の節税に利用できる点が挙げられるため、例えば、成長が見込まれる株式などを保有している場合、値上がりする前に相続時精算課税制度で贈与しておくことをおすすめします。
同じように、一時的な原因で値下がりしている財産を所有しているケースで、価格が戻る前に相続時精算課税制度で贈与するのも有効な節税対策です。
収益が発生する財産がある
収益が発生する財産を持っている場合も、相続時精算課税制度の利用がおすすめです。
例えば、家賃収入が発生する不動産を保有していると、その不動産だけでなく家賃収入も将来の相続財産に含まれることとなります。何十年にもわたって家賃収入を受け取ると、その合計額は数千万円、あるいは億を超える金額になることもあります。
また、家賃収入が多くなるほど所得税の負担が大きくなる点も無視できません。
収益を生む財産を相続時精算課税制度で贈与すれば、所得税負担を軽減させられる上、家賃収入による現預金が相続財産に含まれるのを防ぐことが可能です。
遺産分割でもめる可能性がある
遺産分割でもめる可能性がある場合も、相続時精算課税制度の利用がおすすめです。
被相続人(亡くなった人)が保有していた財産は、相続人同士の話し合いにより相続する人を決定しますが、その話し合いがスムーズに決着するとは限りません。
相続時精算課税制度を利用して、主要な財産を生前に贈与すれば、遺産分割協議の影響を受けずに確実に特定の親族に財産を残すことができます。
しかし、生前に贈与したことで親族間の溝がより深まる可能性がある点には注意が必要です。
相続時精算課税制度で土地を贈与されたときの相続税の計算例
相続時精算課税制度を利用して贈与された財産は、贈与時の評価額で相続税の計算を行います。また、贈与を受けたときには年110万円の基礎控除と累計2,500万円の特別控除があるため、それも考慮して贈与税を計算します。
贈与税や相続税の計算は複雑なため、相続時精算課税制度を利用して土地の贈与を受けた場合の計算の流れを、以下のような事例で確認していきましょう。
- 贈与者・被相続人は80歳(贈与時は75歳)
- 法定相続人は配偶者と子ども2人(長男・次男)の合計3人
- 生前贈与により、長男(贈与時45歳)が土地(贈与時の評価額3,110万円)を贈与された
- 被相続人が亡くなった時点で保有していた相続財産の合計額は1億1,800万円
- 贈与された土地は、相続発生時には評価額が4,000万円に上昇していた
この事例では、贈与者が60歳以上、受贈者が18歳以上で、相続時精算課税制度を利用できる要件を満たしているため、「相続時精算課税選択届出書」を税務署に提出すれば制度を利用できます。
土地を贈与されたときの贈与税の計算
土地を贈与された時点で贈与税の対象になる金額は、贈与時における土地の評価額3,110万円から、基礎控除額110万円と相続時精算課税制度の特別控除2,500万円を控除した金額です。
相続時精算課税制度における贈与税の税率は一律20%となっているため、贈与税の税額は以下のように計算します。
贈与税の計算例
(3,110万円-110万円-2,500万円)×20%=100万円
贈与税は、申告期限までに贈与税の申告書を提出した上で納付しますが、贈与額が基礎控除額以内の場合、申告は不要となります。基礎控除額を超える場合は、たとえ特別控除の範囲内で納税額が0円であっても、申告が必要です。
贈与者に相続が発生したときの相続税の計算
贈与者が亡くなった時点で1億1,800万円の相続財産を保有しているこの事例では、1億1,800万円に相続時精算課税制度で贈与された財産の額を加えて、相続税を計算します。
相続時精算課税制度により贈与された財産の額は、相続時の評価額ではなく贈与時の評価額を基準として、さらに基礎控除額110万円を引いたあとの金額となるため、3,110万円-110万円=3,000万円です。
そのため、相続財産の額は以下のように計算します。
相続財産の額
保有財産1億1,800万円+贈与された財産3,000万円
(基礎控除後の贈与時の評価額)=1億4,800万円
この事例の相続税の基礎控除額は、3,000万円+(600万円×法定相続人3人)=4,800万円となるため、相続財産の額から4,800万円を控除すると、課税遺産総額は1億円です。そして、1億円の課税遺産総額に対する一家の相続税の総額は1,450万円となります。
長男は相続時には何も財産を相続しなかったとすると、相続税負担は贈与された土地の分だけとなるため、以下の金額になります。
長男の相続税額
1,450万円×3,000万円÷1億4,800万円=294万円
贈与時に納付した100万円の贈与税は、相続税の前払いとして扱われるためこの金額から控除し、最終的には194万円を相続税として納付します。
なお、この事例で相続時精算課税制度を利用せずに、土地も相続発生時に遺産分割する場合、土地の評価額は4,000万円となり、課税遺産総額が1,000万円増えます。その場合の一家の相続税の総額は1,675万円です。
上記と同様に、長男が相続時に土地以外の財産を相続しなかったとすると、長男の相続税額は以下の金額となります。
長男の相続税額
1,675万円×4,000万円÷1億5,800万円=424万円
結果的に、相続時精算課税制度の適用を受けた場合の贈与税と相続税の合計額と比較して、130万円税負担が増加しています。この税負担増加の主な要因は、土地の評価額が890万円増加したことです。もし土地の評価額が下落していた場合には、贈与しないほうが節税になることもありえます。
相続時精算課税制度の利用は、慎重に判断しよう
相続時精算課税制度は、うまく活用すれば節税につながる制度といえます。しかし、一度選択すると暦年課税には変更できず、贈与を受けた土地には小規模宅地等の特例も利用できないため、実際に節税に結びつくかは慎重に判断しなければなりません。
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