目次
相続手続き代行業者の代表的なものに、士業と銀行があります。
それぞれに依頼する場合の利点・欠点について詳しく解説します。
依頼できる相続手続き代行業務の内容に違いはあるか
依頼できる相続手続きの内容について、士業・銀行それぞれで違いはあるのでしょうか。
まず、相続手続きの概要について説明します。
各手続きの項目 | 手続きを行うことができる士業 |
---|---|
① 相続人の調査、相続関係の確定 (戸籍謄本などの収集、相続関係説明図作成) |
行政書士・司法書士等 |
② 相続財産の調査および評価 (残高証明書、不動産評価証明書等の取得、財産目録作成) |
行政書士・司法書士等 |
③ 相続税の試算・遺産分割案の検討 (遺産分割協議書の作成) |
行政書士・司法書士・税理士等 |
④ 遺産分割協議書への署名・捺印 | |
⑤ 各種遺産の名義変更、分配 (法務局での不動産登記手続き、銀行預金、株式等) |
行政書士・司法書士等 |
⑥ 相続税の申告、納付 | 税理士 |
通常、相続手続きは上記の順番に沿って進んでいきます。
各手続きは、法律により各項目右欄に記載している専門家でないと行うことが認められない業務(いわゆる独占業務)であるため、銀行は単独で行うことができず各士業に外注することになります。
それに対して右欄に記載の各士業は、各資格に応じて認められた範囲内において単独で業務を遂行・完結することができます。
なお、各士業は自らが行えない業務(例えば、税理士は登記業務を行えない)については他士業との業務提携等を通じて処理しており、銀行と同様窓口を一本化したサービスを提供していることが一般的です。
つまり、士業・銀行どちらも提供している業務内容に大きな違いはないが、下記の点において異なるということになります。
各手続きの外注
銀行 | 常に必要 |
---|---|
士業 | 基本的に不要 (専門外分野についてのみ行う) |
手続き料金に違いはあるのか
士業・銀行それぞれに依頼することができる業務の内容に、大きな違いはありませんでした。
では、次に料金に違いがあるのか実際の例を使って比較し、説明します。
銀行の手続き料金の考え方
銀行に手続きを依頼した場合、下記のように遺産の相続税評価額に応じて料金が算定されることが一般的です。
また、その額にかかわらず必要となる最低報酬額が比較的高額に設定されていること、各士業への外注費用が別途必要になることも特徴です。
事例・銀行の料金の計算方法
(M信託銀行の場合)
1億円以下の部分 | 0.01512 |
---|---|
1億円を超え3億円以下の部分 | 0.00864 |
3億円を超え5億円以下の部分 | 0.0054 |
5億円を超え10億円以下の部分 | 0.00432 |
10億円を超える部分 | 0.00324 |
注2 不動産登記にかかる司法書士費用、相続税申告にかかる税理士等費用は別途必要
(相続税評価額1億5千万円の場合)
1億円の1.512%=151万2000円 ― ①
5千万円の0.864%=43万2000円 ― ②
司法書士費用(一般的な報酬額)10万円 ― ③
税理士費用(一般的な報酬額)54万円 ― ④
上記①~④の計 258万4000円(消費税込)
士業の手続き料金の考え方
士業に依頼した場合、銀行のように遺産額に応じた料金計算がされることはあまりなく、手続き内容ごとに発生し加算されることが多いようです。
また遺産額を基準としないため、銀行のように高額な最低報酬額が設定されているということも通常はありません。
事例・士業の手続き料金の計算方法
(ある行政書士事務所の場合)
相続人の調査、相続関係の確定 (相続関係説明図作成) |
5万4000円 |
---|---|
相続財産の調査および評価 (財産目録作成) |
5万4000円 |
遺産分割案の検討 (遺産分割協議書の作成) |
10万8000円 |
遺産名義変更(提携する司法書士に依頼) (不動産登記手続き、自宅のみ) |
10万8000円 |
遺産名義変更 (銀行預金、2か所) |
6万4800円 |
相続税の申告、納付 (提携する税理士に依頼) |
54万円 |
上記①~⑥の計92万8千8百円(消費税込)
士業・銀行それぞれに依頼した場合の料金を比較すると、258万4000円-92万8800円=165万2200円と、2倍以上の差がついていることがお分かりいただけると思います。
銀行の料金が高くなる理由
記述の通り、銀行に依頼した場合士業に依頼するよりも多額の料金が必要となることが多いと考えられます。
しかしそれには当然理由があります。
銀行は相続手続き業務以外にも多くの業務を行っています。
そのため、必要とする人件費も莫大になります。
また、都心部や駅前などの立地の良い場所での営業が必要となるため、家賃などに要する経費の金額も士業事務所とは比較にならないほど高額です。
つまり、士業よりも多額の経費負担を常に負っていることが高額な料金になる主な原因です。
さらに、上記でご説明した通り士業が行う業務については外注が必要となるため、そのコストも料金を上昇させる一因となっています。
では、料金面から考え、利用者としては士業に依頼するという選択が常に正しいと言えるのでしょうか。
銀行に依頼する場合の利点・欠点
銀行に依頼する場合の大きな利点のひとつに、事業体の規模が大きいというものがあります。
士業は小さな事務所だと数人という小規模で運営されているのに対し、銀行は数千人以上という人数が勤務・運営している巨大な組織体で、ある日突然事業が停止したり解散したりするリスクは士業に比べはるかに少ないと言えます。
また、銀行の相続手続き業務の歴史は古く、手続き全体が完了するまでのスケジューリングなどのノウハウには一日の長があると言えます。
遺産の規模がどれほど大きくなろうと、相続税の納税期限である相続開始から10か月という手続き可能期間が延長されることは原則ありません。
この10か月という期間は一見十分なようですが、相続関係が複雑であったり遺産の種類が多数であったりするような場合、調査期間としてはむしろ不十分であると言わざるを得ません。
そしてこれは遺産分割協議のテーブルに全相続人がつくことができるまでに想像以上の時間を必要することを意味します。
さらに、通常遺産分割協議がまとまり、全相続人が署名捺印を完了するまでにはある程度の時間を見ておく必要があることを考えると、相続手続きは最初のスケジューリングが極めて重要であると言えます。
従って数億~数十億円に達するような遺産の相続手続きを依頼する場合、銀行を選択することを検討したほうがよい場合があると思われます。
また、このような高額遺産の手続きを任せる相手が大企業である銀行という点で、利用者が得ることができる安心感は大きなメリットと言えます。
欠点としては、事業体としての規模が大きい反面、担当者を選ぶことはできず、必ずしも能力の高い担当がついてくれるとは限らないことが挙げられます。
相続手続き業務の完了には最低でも数か月が必要となるため、担当者との相性が合わない、業務が思ったように進まないという状況が発生すると大きなストレスにつながります。
さらに言うと突然の異動などにより、慣れ親しんだ担当者が変更される可能性もあります。
また、記述の通り遺産の総額や種類、数にかかわらず料金が高額になりがちである点も大きな欠点の一つと言えます。
士業に依頼する場合の利点・欠点
士業に依頼する利点の第1は、事業体が個人事務所を中心に法人化した事務所であっても数十人という、銀行と比較すると極めて小規模であるため、事務所代表者や所属している士業や各種専門家といった能力のある人物が直接担当する可能性が高いことが挙げられます。
士業は一般的に地域の経済・人脈に密着した経営を行っていることが多いです。
事務所が突然遠方に移転してしまったり、銀行のように突然人事異動などで担当者変更が発生したりする可能性も低いと考えられ、優れた士業に出会うことができた場合、相続手続きが完了するまで常にサポートしてくれる心強い存在となることでしょう。
利点の第2に、銀行と比較して料金が安くすむ可能性が高いということが挙げられます。
既述の通り士業の場合、通常遺産評価額の多寡に関わらず手続きごとの料金設定となっており、また、多くの銀行が料金表に定めている高額な最低報酬額も存在しないことが一般的であるため、遺産の額が比較的少額であるような場合は士業に依頼するほうがはるかに低額な費用で済むと言えます。
さらに士業は、自らの保有資格により直接業務を行うことが可能であるため、銀行のように外注費が別途発生することもありません。
また、膨大な人件費や高額な家賃などの経費を負っていることもないため、その分低い料金設定が可能となっています。
利用者が依頼したい手続きのみ(戸籍調査や不動産登記、相続税の申告等)を各個別に発注するといった利用の仕方をすることで、手続き費用を抑えることも可能です。
欠点としてはまず、多くが個人事務所である士業は運営規模が小さいため、経営の破綻や解散、さらに死亡、破産等のリスクが存在することが挙げられます。
相続手続き依頼中にこのよう状況が発生した場合、相続人は他の士業に依頼し直さなければならなくなる他、手続きの再開に想定外の時間を要したり、必要な書類の返却を容易に受けられなくなる等し、相続税の納税が間に合わなくなったり、名義変更ができなくなる等のリスクを負うことになります。
これは銀行に依頼した場合には起きることが考えにくいリスクです。
次に、一般消費者において能力的に優れ経験豊富な士業を見極めることは非常に困難であることが挙げられます。
信頼性の高い士業を選択する方法として、事務所ホームページなどにより過去の利用者の声を確認し、士業と取引のある知人に紹介を受ける等の方法がありますが、どちらも確実な方法とは言えず、良い士業と巡り会うために多少なりとも運といった不安定要素を必要とすることは欠点と言えるでしょう。
また、性格や人柄といった相性面も重要です。
必ず複数の士業に会い、自分に合った専門家に依頼するよう心掛けたほうがよいでしょう。
士業・銀行に依頼するのがおすすめな人
「士業・銀行、それぞれのメリット・デメリットは分かったけど、どっちに依頼すればいいの?」と思う人もいるでしょう。
ここからは、それぞれどういった人におすすめなのか紹介します。
士業への依頼がおすすめな人
「なるべく費用を抑えたい」という人は、士業への依頼がおすすめです。
士業へ依頼すると、銀行のように仲介が入らないため、費用を抑えられます。
また士業に依頼して、長い付き合いになると、子供・孫の代まで相続について任せられます。
一族の相続関係をまるごと依頼できるため「自分の子供・孫も相続で苦労させたくない」という人は、士業への依頼がおすすめです。
また士業は専門性が非常に高く、相談したいポイントが絞られている場合は、適切な専門家に依頼できます。
例えば「相続税の対策をしたい」と相談ポイントが決まっていれば、税理士に依頼すれば解決できます。
銀行への依頼がおすすめな人
「費用がかかってもいいから、確実に手続きを終わらせたい」という人は銀行への依頼がおすすめです。
銀行は組織として相続手続きを代行するため、ひとりで対応する士業とは違って、人件費もかかります。
そのため士業に比べると、依頼費用は高くなります。
ただし組織として確実に対応してくれ、期限内に手続きもしてくれるという安心感があります。
もちろん士業に依頼しても確実に対応してくれますが、銀行は複数人がチームで対応してくれるため、対応力は銀行の方が高いでしょう。
相続手続きの代行について知っておくべきこと
ここからは相続手続きの代行を検討している人が、知っておくべきことを紹介します。
相続に実績があるかどうかチェックしておく
士業・銀行に限らず、すべての人が相続に慣れているわけではありません。
そのため、依頼を検討している士業・銀行が相続の実績を持っているかチェックしておきましょう。
例えば税理士に依頼する場合でも、起業・会社関係の税務を得意としている税理士もいます。
事前に調べずに依頼してしまうと、相続に慣れていない人に依頼してしまうかもしれません。
士業であれば相続を専門にしている人も多いため、事前に実績を確認しておきましょう。
悩んだら1日でも早く相談してみる
相続は相続開始から10ヶ月以内という手続き期限があります。
そのため悩んだら1日でも早く相談した方がいいです。
依頼しようかどうしようか悩んで、期限ギリギリになってしまうと、代行だとしても手続きが間に合わないかもしれません。
初回の相談を無料で受け付けている場合もあるため、悩んだらすぐに初回相談をしましょう。
実際に依頼した場合の見積もり、担当者との相性を確認して、依頼するかどうか決められます。
まとめ
これまで依頼できる手続き内容や料金について比較し、士業・銀行に依頼する場合の利点・欠点を解説してきました。
いずれに依頼しても任せられる手続き内容に大きな違いはないものの、士業に支払う料金の方が銀行よりもかなり低額であるため、この2点のみを見て判断した場合銀行を選択するメリットが存在しないように思われます。
しかし個人事務所を中心とする士業には、銀行には存在しにくい倒産・破産・死亡といった破綻リスクがある他、その専門性や経験値、人柄の見極めの難しさといった特有の問題が存在します。
そして確かに銀行は料金面では士業に対して不利であるものの、事業体の規模や信頼性から利用者としては依頼先として安心感の持てる存在であると言え、遺産の規模が大きくなる程銀行に依頼するメリットは大きいと言えます。
しかし、大きな組織であるがゆえに、担当者が人事異動など銀行側の都合で変更になる、必ずしも能力のある担当がつくとは限らないなどのリスクは、士業と比較した場合のデメリットとなります。
つまり、士業・銀行どちらに依頼するかにあたり考慮しなければならない点は、事業体としての規模や担当してくれる人物との相性など、料金面以外にも注意しなければならないことが複数あると言えます。
以上から大きく分類すると、
- ・遺産の規模が大きくない、とにかく手続きにかかる費用を安く抑えたい、といった場合
→士業に依頼するメリットが大きい - ・遺産の規模が大きく、費用が多少かかっても確実に相続手続きを完了させたいような場合
→銀行に依頼するメリットが大きい - ・信頼できる士業と付き合いがある、遺産の規模が一般的である、といったような場合
→士業に依頼するメリットが大きい
ということが言えるものと思います。
利用する側が置かれた状況によりいずれに依頼するほうがメリットがあるか、大きく変化します。
利用者として、自分が上記のどれにあてはまるかをよく考え、賢い選択をしましょう。