相続が発生すると、さまざまな手続きをしなければなりません。
その手続きの中には、期限が定められているものもありますし、相続人全員で行わなければならないものもあります。
また、必要な書類の種類も多くなるため、相続人自ら行うには大きな負担となってしまいます。
それでは、相続に関する手続きを専門家に代行してもらうとどれくらいの費用がかかるのでしょうか。
ここでは、相続のさまざまな手続きの種類と、それを代行してもらう場合の費用について解説していきます。
相続手続きを代行してもらうメリットとは
相続が発生すると、税金の計算や申告書の提出、財産の名義変更などの手続きを行わなければなりません。
また、遺産分割のために話し合いを行う必要がありますし、相続が発生する前に遺言書を作成しておく場合もあります。
これらの手続きの大半は、役場や金融機関などに出かけて行わなければなりません。
平日の日中に役場などへ行かなければならないため、すべて自分でしようと思うと、仕事を休まなければならなかったり、遠方まで足を運ばなければならなかったりします。
しかも、必要な書類を一度にそろえることができずに、二度三度と同じ場所へ出かけなければならないことも珍しくありません。
当然、相続の手続きを行うために何度も休みをとるのは本人にとってもマイナスです。
遠方の役場や金融機関へ出かけるたびにかかる交通費も決して小さな金額ではありません。
また、相続に関する手続きの中には、期限が厳格に定められているものがあります。
例えば、相続放棄は相続が発生してから3ヵ月以内とされています。
相続放棄の場合、期限を過ぎてしまうとその後に放棄を行うことは原則認められません。
しかし、相続放棄を行うかどうかの判断は相続財産の全貌が分からなければできないため、すべての手続きをスムーズに行う必要があります。
相続手続きを代行してもらうことで、時間を無駄にすることがなく、必要な手続きを期限内に確実に終わらせることができます。
代行してもらえば費用はかかりますが、その分安心して相続の手続きを終わらせることができるのです。
相続の手続きを代行できる専門家とは
相続に関して必要な手続きは、誰でも代わりに行えるものではありません。
ほとんどの手続きについては、士業の人に頼まなければなりません。
これらの手続きの中には、報酬をもらっていなくても誰かの代わりに行うことが禁止されている独占業務があるため、代行を依頼する側も資格を保有している人であることを確認したうえで、依頼するようにしましょう。
税理士が代行できる業務
税理士は、税務申告や税務相談を行うことのできる専門家です。
税務署に対して行う手続きを、納税者本人に代わって行うことが認められる唯一の資格者です。
相続が発生した時に必要な手続きは、⑴被相続人が亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの間に発生した所得金額及びこれに対する所得税の納税に関する準確定申告と、⑵亡くなった人が保有していた財産に対して課される相続税の申告があります。
⑴の準確定申告は亡くなった日から4ヵ月以内に行わなければなりません。
亡くなった人の所得金額を計算するためには、前年までの確定申告の内容や亡くなるまでの預金通帳の動き、さまざまな書類から計算する必要がありますが、残された相続人が行うのは決して簡単なものではありません。
そのため、専門家である税理士に依頼する方が確実に申告・納税の手続きを行うことができます。
また、準確定申告の結果発生した所得税の額は、相続人全員で負担することとなるため、特定の相続人だけで手続きを行うことができない煩わしさもあります。
税理士に依頼する場合でも、期限が亡くなってから4ヵ月と短いため、早めに対応する必要があります。
⑵の相続税の申告は亡くなった日から10ヵ月以内に行わなければなりません。
相続税の計算をするためには、亡くなった人が保有していた財産を全て把握し、財産の相続税評価額を計算し、それを相続人どうしでどのように分割するかを決めなければなりません。
申告まで10ヵ月の期間があると安心していると、あっという間にその期限を迎えてしまいます。
また、土地の相続税評価額などを計算するのは難しいため、最初から専門家にお願いするのが無難といえるでしょう。
相続税の申告はすべての人が行わなければならないわけではないため、その要否の判断も含めて専門家である税理士に依頼するべきといえます。
準確定申告も相続税の申告も、期限に遅れるとペナルティを課されて余分な税金を払わなければならなくなるので、期限を厳守するうえでも正しい申告を行ううえでも税理士に代行してもらうメリットがあるでしょう。
司法書士が代行できる業務
司法書士は、登記手続を本人に代わって行うことができる専門家です。
登記手続きは法務局で行われるものですが、普段はほとんどなじみのないものばかりなので、相続にあたってどのようにしたらいいか分からないという人が多いと思います。
相続にあたって法務局で行う登記には、土地や建物の相続登記があります。
亡くなった人が所有していた不動産の登記を相続した人に変える必要がありますが、この手続きを自分で行うことも可能です。
しかし、不動産の登記は、亡くなった人が住んでいた場所や相続した人が住んでいる場所の法務局ではなく、その不動産が所在する法務局で行わなければなりません。
先祖代々の土地など遠方に相続した不動産がある場合、自分で相続手続きを行うためには遠方の法務局で手続きを行わなければならないのです。
郵送で登記手続きをしようと考える方もいるかと思ますが、ほとんどの人は登記手続きを自分でしたことがないでしょうから、郵送だけですべてを完結させるのは難しいでしょう。
郵送した書類を修正するために、結局、現地の法務局に出かけなければならないというケースもあることから、最初から専門家である司法書士に代行してもらう方がスムーズに手続きを終えることができるのです。
また、相続放棄を行う際の申述書や遺言書の検認を行ってもらうための検認申立書、遺産分割の調停を行うための調停申立書など、裁判所に提出する書類の作成を司法書士に代行してもらうことができます。
これらの書類の作成は自分でもできないわけではありませんが、ノウハウを持った司法書士に依頼する方が確実といえます。
弁護士が代行できる業務
相続に関する手続きの中で、弁護士に依頼する必要があるのは、そのほとんどが争いになった場合の解決や交渉をしてもらう場合です。
そのため、すべての相続において弁護士が関係するわけではありません。
しかし、遺産分割協議がまとまらないため話し合いをしなければならない場合や、遺留分が侵害されたため遺留分侵害額請求を行う場合には、相続人だけで話し合いを行ってもまとまらないケースが多くあります。
このようなケースには、裁判になる前に話し合いが成立するように弁護士に当事者間に入ってもらい、交渉を行います。
また、弁護士に入ってもらっても話し合いで解決しない場合には、家庭裁判所での調停や審判に移ることとなりますが、このような場面において弁護士は当事者の代理人となることができます。
弁護士が必要となるケースは必ずしも多くないのですが、相続人どうしでは話し合いが成立しないなど難しい局面を迎えている場合には、必ず弁護士の力が必要となります。
行政書士が代行できる業務
行政書士でなければできない相続手続きは、それほどありません。
しかし、書類の作成や名義変更手続きなどの相続手続きをサポートしてもらう際には、最も身近な相談相手となり、また代行してもらえる専門家であるといえるでしょう。
行政書士の中には、相続に関する業務をほとんど行ったことのない人もいるため、相続の分野に強い専門家に依頼するようにしましょう。
銀行の相続代行サービスを利用すると
銀行では、相続代行のサービスを行っているところが増えています。
もともと、銀行とは預金口座や借入などで取引がある人がほとんどであるため、顔見知りの担当者がいる場合も多く、また信用もあるため依頼しやすいという背景があります。
しかし、銀行に勤める人が依頼者の代理人として相続税を計算し、あるいは相続登記を行うわけではありません。
あくまでこれらの実務を行うのは資格を保有した専門家であり、銀行はその窓口に過ぎないのです。
一度お願いすれば、すべての手続きを行ってくれるメリットはありますが、専門家に支払う費用に加えて銀行に支払う手数料も発生するため、一般的に費用が高くなります。
相続に関する手続きとかかる費用
それでは、実際に相続手続きにはどのようなものがあり、その手続きを代行してもらうといくらくらいの費用がかかるのか見ていきましょう。
費用の額は、その相続財産の内容や相続人どうしの関係、相続人の数などさまざまな要因によって変わることが予想されるため、参考程度に見てください。
遺言書の作成にかかる費用
遺言書の作成は、自分の死後に相続人どうしの争いになるのを避けるために行うことが多く、今回説明する相続手続きの中では唯一、亡くなる前に行っておくべきものです。
一般的には、司法書士や弁護士に依頼することが多いでしょう。
費用は10万円~20万円程度となることが多いようですが、財産の額によってはさらに高額になるケースもあります。
なお、遺言書の中でも公正証書遺言を作成する場合は、この費用のほかに公証役場で支払う手数料が必要となります。
遺産分割協議書の作成にかかる費用
遺産分割協議書は、遺言書がない場合に相続人どうしで遺産分割協議を行い、遺産分割の方法を決めた際には必ず作成するものです。
誰でも作成は可能ですが、その後の相続税の申告や相続登記にも必要となるため、より慎重に作成することが望ましいといえます。
遺産分割協議書の作成は、司法書士や弁護士に依頼することが多いでしょう。
費用は5万円~10万円と遺言書よりは若干低めになるケースが多いようです。
ただ、弁護士に依頼する場合は単に遺産分割協議書の作成だけでなく、遺産分割に関する交渉を依頼しているケースも多いため、実際にはそれ以上に費用がかかっているといえます。
戸籍や住民票の収集、相続関係図の作成にかかる費用
亡くなった人の戸籍謄本や相続人全員の住民票などは、あらゆる相続手続きを行ううえで必要になります。
相続人を確定するうえでも重要な書類となります。
亡くなった人の戸籍謄本を出生から亡くなるまでそろえるのは、それまで住んでいたすべての市区町村役場から書類を取り寄せなければならないことから、かなり手間がかかります。
また、時間をかけすぎるとその後の相続放棄や相続税の申告に影響が出ることも考えられるため、専門家に依頼して迅速に行う必要があるのです。
戸籍・住民票の収集や相続関係図の作成は、行政書士や司法書士、弁護士に依頼するケースが多いと思います。
特殊なケースでなければ、両方合わせて5万円以内になると思われます。
不動産の名義変更にかかる費用
不動産の名義変更は、司法書士に依頼します。
不動産の件数などにもよりますが、司法書士に支払う費用は5万円~10万円程度になることが多いと思われます。
ただ、これとは別に登録免許税が必要となります。
こちらは自分で登記手続きを行う場合にも必要となるものであり、司法書士への報酬よりも金額が大きくなることに注意しましょう。
相続登記にかかる費用や司法書士の料金について詳しく知りたい方は次の記事もご参考ください。
預貯金や有価証券の名義変更にかかる費用
預貯金や有価証券の名義変更を、専門家に依頼することもできます。
行政書士、司法書士、弁護士のいずれかに依頼するのが一般的です。
およそ5万円~10万円程度になることが多いようですが、金融機関の数にもより増減することが一般的です。
準確定申告書の作成にかかる費用
準確定申告書の作成は税理士に依頼します。
亡くなった年に所得が発生している被相続人について必要となるほか、準確定申告をすることで所得税が戻ってくることもあるため、申告すべきかどうかも含めて税理士に確認することが望ましいでしょう。
準確定申告の申告については、申告の内容にもよりますが5万円程度になることが多いと思います。
また、相続税の申告にかかる費用とあわせて計算することも多いと思われます。
相続税申告書の作成にかかる費用
相続税の申告書の作成は税理士に依頼します。
相続税の申告にかかる費用は、相続財産の1%未満が一般的な金額とされるため、例えば1億円の財産がある人の場合、高めに見積もって100万円かかることとなります。
財産の額が多ければ必ず相続税が発生する、あるいは相続税が高くなるというわけではありません。
さまざまな特例や税額控除があるため、それらを確実に適用しながら少しでも相続税の額を減らすことができるよう、専門家に依頼するのが一番ということができます。
ちなみに、相続税申告にかかった税理士費用は相続税計算から控除できるか?これらの専門家報酬については誰が負担すべきか?について気になる場合はこちらの記事を参考にしてください。
まとめ
相続にはさまざまな手続きがありますが、これを順序よく行っていかないと、期限間際に慌てて手続きを行うこととなります。
相続税の計算を慌てて行うと間違えて相続税を払いすぎてしまうことや、逆に申告漏れを指摘されて後からペナルティを支払わなければならないことがあり、相続人にとっては大きなデメリットとなります。
最初から相続に関する手続きを専門家に代行してもらうことで、あわてて手続きを行ったりミスをしたりすることを防ぐことができます。
代行してもらうことで費用はかかりますが、メリットの方が大きいともいえます。
専門家の力を借りて、相続をスムーズに終わらせましょう。