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最終更新日:2021/5/17

【家族信託を自分でやる】手続きの流れ・かかる費用・メリットについて徹底解説

本間 剛 (行政書士)
この記事の執筆者 行政書士 本間剛

ベンチャーサポート行政書士法人 代表行政書士。山形県出身。

はじめて相続を経験する方にとって、相続手続きはとても難しく煩雑です。多くの書類を作成し、色々な役所や金融機関などを回らなければなりません。専門家としてご家族皆様の負担と不安をなくし、幸せで安心した相続になるお手伝いを致します。

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この記事でわかること

  • 家族信託について理解できる
  • 家族信託を自分でやる方法がわかる
  • 家族信託と遺言、成年後見の違いを比較できる

家族信託という言葉を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。

最近は新聞などメディアでも取り上げられている財産管理方法の1つです。

家族信託は、相続対策や認知症対策として高齢の方が利用するケースがあります。

また、「親亡きあと問題」で不安を抱えている親御さんが利用する場合も考えられます。

障害のあるお子さんや、経済的に自立していないお子さんが、両親が他界したあとどのように生活していくか、将来の生活を憂慮する親御さんたちの悩みのことです。

このように家族信託は、争族問題の回避や、親亡きあと問題の解決法として注目されています。

しかし、財産管理といっても、「信託」という制度の基本的な内容は意外と知られていません。

この記事では家族信託の基本的な内容や利用するときの注意点をわかりやすく解説します。

そのうえで、成年後見制度とどんな点が異なるのか説明しますので、家族信託を検討されている方は、参考にしてください。

そもそも家族信託とは?

日常生活で「信託」という言葉を聞くことはほとんどありません。

まず、信託制度の根本を理解しましょう。

信託銀行なら聞いたことがある?

銀行、信用金庫、信用組合など金融機関の種類はさまざまですが、信託銀行という金融機関があるのはご存知でしょうか。

信託銀行とは、法律にしたがって「信託」業務を行う金融機関のことです。

以前は、信託は、許可を受けた信託銀行等が業務として行う場合しか認められていませんでした。

しかし、遺言・成年後見制度とは違う形での財産管理方法のニーズがあることから、家族信託が認められました。

そもそも家族信託とは?

「信じて託す」と書く信託ですが、ポイントは「託す」制度であることです。

「託す」は単に誰かに「預ける」という意味ではありあません。

信託すると所有権が移転する

信託の効力が発生すると、委託者から受託者に信託財産の所有権が移転します。

信託は所有権移転の効果があること、これが、成年後見制度や、遺贈と大きく違います。

家族信託の登場人物

では、家族信託では誰から誰へ財産が移転し、誰のために財産を管理するのでしょうか。

信託に出てくる用語で、以下の3つについてまず押さえましょう。

信託の主な登場人物

委託者 信託をする人(財産を託す人
(将来の相続で被相続人になる人がなるケースが多い)
受託者 委託者から財産の信託を受け、受益者のため、その財産の管理・処分を行う人
信託財産の名義人になり、処分権限を有するようになる)
受益者 財産の管理・処分による利益を受ける人

先述のとおり、信託は、信託の目的となる財産を、所有者(委託者)から管理者(受託者)に移転します。

もう少し簡単に言えば、財産の名義を変更するということです。

たとえば、信託財産が不動産なら、不動産登記により名義を移転します。

また、家族信託の特徴は、「自分または自分以外の家族の利益」のための制度であることです。

自分自身のための財産管理に利用できるだけでなく、夫や妻や子を、利益を受ける人(受益者)とできます。

このように、信託は、一定の目的のために財産を管理者に移転する点で、生前贈与や売買とも違います。

詳しくは後述しますが、他の財産処分や財産管理法と大きく違うという特徴に注意しながら、家族信託を理解してください。

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家族信託を自分で行うために必要な情報とは

では、信託の目的、信託する人や信託される人、信託財産や期間など、信託を利用するために必要な情報を見ていきましょう。

家族信託の目的を決める

家族信託ではまず、信託の目的を定めなければなりません。

ここでポイントは、委託者が、何のために信託したいかを考えることです。

家族信託の目的の例は、委託者が高齢の場合の財産管理、相続対策などです。

たとえば、次の例で考えてみましょう。

  • ・Aが収益用マンションと自宅、金融資産を有している
  • ・Aはいま高齢で、ケガをしたり入院したりするようになってきた
  • ・マンションも自宅も老朽化していて、大修繕または処分を考えなければならない時期である
  • ・Aには子BとC、孫Dがいる

Aの認知症が進んだ場合、マンション管理のために成年後見制度を利用することも考えられます。

しかし、成年後見人には財産を積極的に運用する権限が認められていません。

成年後見制度を利用すると、家族が後見人に選ばれず他人である専門家が財産を管理する可能性もあります。

そこで、受託者をBとする家族信託を利用すれば、Bがマンションの修繕工事や処分などを行えるようになるのです。

受託者、受益者を決める

先述したとおり、誰に信託財産を託すか、つまり受託者を決めなければなりません。

また、誰のために財産を託すか、言い換えれば受益者を決める必要があります。

たとえば、先ほどの例でいえば、次のように定めることができます。

  • ・受託者 子B
  • ・受益者 A

このケースでは、Aがマンションの賃料や運用して得る利益を受けられるようにするためには、受益者をAとします。

なお、家族信託では、受託者も受益者も、第2受託者や第2受益者を定めるのも検討するとよいでしょう。

たとえば、受託者死亡後の第2受託者を定めることができます。

受託者Bが万一委託者Aよりも先に死亡してしまった場合を想定し、第2受託者をCとする信託契約も可能です。

受益者についても同様に、受益者Aが死亡したらAの孫Dを受益者とする旨の信託契約を締結できます。

信託財産

細心の注意を払って決めなければならないのが信託財産です。

成年後見では、被後見人の財産すべてが管理の対象となります。

しかし、家族信託では、信託財産に含めない財産については、受託者は管理・処分の権限を有しません

たとえば先ほどの例では、信託財産を次のように定めることができます。

  • ・マンションと敷地
  • ・自宅と敷地

つまり、Aの金融資産は信託財産に含めないと決めるケースです。

受託者は、信託財産に含まれなかったAの金融資産の管理・処分はできません。

信託期間の制限

家族信託では、期間を定めることができます。

信託期間を定める場合

信託期間は次のように定めることができます。

  • ・受益者が亡くなるまで
  • ・信託契約発効から20年間
  • ・当初受益者および第2受益者が死亡するまで
  • ・受託者が死亡するまで
  • ・受益者が満○歳に到達する日まで

契約で定めた信託期間が満了すれば信託は終了します。

信託期間の制限

信託期間は原則として制限はありません。

ただし、受益者連続型信託では、期間の制限があるので注意しましょう。

受益者連続型信託とは、受益者を子、孫と代々承継させる信託です。

残余財産の帰属先

信託財産や信託財産以外の財産につき、家族信託が終了したあと、誰に帰属するのか決めるのが望ましいでしょう。

しかし、先ほどのAのケースを考えるとわかりますが、残余財産の帰属については、新たな相続問題でもあります。

家族信託開始時には決められない場合、将来、家族で協議しなければなりません。

家族間で残余財産について留意したうえで、家族信託を始めましょう。

家族信託の手続きを完了するまでの流れ

次に、家族信託を始めるための手続きを見ていきましょう。

信託手続きは大きく分けると3つあります。

  • ・信託契約の締結
  • ・信託登記(不動産の名義の移転)
  • ・信託口座の開設

信託契約の締結

信託契約は必ずしも書面による必要はありませんので、委託者と受託者が口頭で内容を取り決めてもかまいません。

ただ、何らかの書面に残さなければ後日のトラブルになることから、公正証書により信託契約を締結するのが一般的です。

公正証書とは公証人が作成する証拠力の高い書面です。

銀行で信託口座を開設する際に、公正証書による信託契約書を求められるケースもあります。

公正証書によるべきか否かについて、信託口座を開設する予定の銀行に、事前に相談することをおすすめします。

信託登記(不動産の名義の移転)

信託財産に不動産が含まれている場合、その不動産の登記名義を委託者から受託者に移転しなければなりません。

よく「登記名義を変更する」といいますが、単なる住所変更や氏名変更の登記とは、性質が違うので注意しましょう。

信託の効果が発生すると、委託者から受託者に所有権移転登記と同時に、信託登記を行います。

これは、所有権移転登記が信託目的であることを示すためです。

先述したとおり、信託財産である不動産は、所有権が委託者から受託者に移転する点を理解しておきましょう。

信託口口座の開設

家族信託の受託者は、自分の財産と信託財産は別の口座で管理しなければならず、信託口口座の開設が必要です。

信託口口座を開設してもらえるかどうか、委託者や受託者の取引銀行に、信託契約締結や信託登記の前に、相談しておくとスムーズです。

これら手続きが終わると、受託者は信託財産の管理を始めます。

家族信託を自分で行う際の費用について

家族信託を行う場合、費用はどのくらいかかるのでしょうか?
専門家に信託プラン策定を頼まず、不動産の信託登記も自分で行う場合、主な費用は以下のとおりです。

家族信託を自分で行う際の費用

信託口口座の開設費用 金融機関による
不動産を信託する場合 信託登記の登録免許税
信託分は固定資産税課税評価額の1,000分の4
(所有権移転分は非課税)

家族信託を自分で行えば、相当安く抑えることが可能です。

なお、信託契約書を公正証書で作成する場合、公証人の手数料や印紙代がかかります。

家族信託を自分で行うためのメリット・デメリットとは

家族信託を自分で行うメリット・デメリットを確認しておきましょう。

家族信託のデメリット 相続問題や手続きの不備

家族信託は認知症問題や相続対策によく用いられます。

しかし、信託財産に含まれなかった財産や、信託期間終了後の財産の帰属など、新たな相続争いの火種でもあります。

また、家族信託が有効に効力を生じるには細かな手続きをふまなければなりません。

信託口口座を銀行がいきなり作ってくれるかという問題もあります。

信託登記は専門性の高い登記なので、自分で申請して不備があれば、手続きがとどこおります。

これらデメリットを理解したうえで、家族信託を自分で行うかどうか検討することをおすすめします。

家族信託のメリット 費用や外部への情報漏れ

家族信託を自分で行えば、費用を安く抑えられるのが最大のメリットでしょう。

専門家に頼んだ場合、家族信託のプラン策定に、財産の〇%となどの報酬を払う場合もあります。

できるかぎり安い費用で家族信託を始めたい場合、自分で行うのが良いかもしれません。

また、外部に信託を行っていることが漏れないのも、家族信託を自分で行うメリットで、秘密裏に行いたい場合に適しています。

家族信託を利用して税金は発生するの?

家族信託を利用した場合、どのような税金がかかるでしょうか。

家族信託でかかる税金は、「誰に」課せられるかを理解しましょう。

家族信託の税金

贈与税・相続税 受益者にかかる ・受託者が委託者以外の場合…贈与とみなされるため贈与税がかかる
・受益者死亡後の第2受託者が定められているケース…相続税がかかる
所得税 受益者にかかる 受益者が得た利益が対象
法人税 受託者にかかる 一定の信託の場合のみ
登録免許税・固定資産税 受託者にかかる 信託時の登録免許税
不動産にかかる固定資産税
(名義人は受託者になるため)

家族信託手続きをする際の注意点について

先述したとおり、信託の効力が発生すると、委託者から受託者に信託財産の所有権が移転してしまうので注意が必要です。

また、他の財産管理制度との違いにも気をつけなければなりません。

最後に、家族信託手続きをする際の注意点を見ていきましょう。

家族信託の意味を良く理解する

委託者も受託者も信託の意味をよく理解して契約しましょう。

家族信託の効力が発生すると、委託者は信託財産の処分権限を失います。

信託財産の管理・処分権限や、賃料収入や運用益などは、受託者から受益者に支払われることになります。

家族信託が始まったあと、委託者が以前のとおり信託財産の処分をしたいと思ってもできません。

受益者と疎遠になり、受益者を自分や他の人に変えたいと思っても、勝手に変更することも許されません。

生前に家族信託をしてしまうのが不安な方は、遺言信託という制度もあるので、公証役場や専門家に相談してみると良いでしょう。

他の財産管理制度と比較する

委託者が望む財産管理の方法が本当に家族信託なのか、よく検討してから始めましょう。

受益者のために何が最善の策なのか確認が必要です。

多くの家族信託は、信託財産を管理・運用・処分することで、高齢や障害のある受益者の生活の維持・安定をはかることを目的としています。

しかし、家族信託では成年後見や任意後見の制度のように、本人の心身の状況の把握・管理や療養看護、介護に立ち入ることができません。

家族信託は、あくまでも財産管理の方法の1つだからです。

成年後見制度のように、当然に後見監督人が選任されるわけではないので、受託者の財産管理をチェックする機能がないケースもあります。

受託者が自分のために信託財産を浪費する可能性もあるでしょう。

受益者の財産管理や生活面のサポート体制として、家族信託だけでは足りなければ、成年後見制度との併用も検討すべきです。

遺言との併用も考えられます。

家族信託の受益者が高齢や年少のケースでは、受益者自身の要望を受託者にうまく言えなかったり、受託者が不正を働いたりするおそれもあります。

そのようなケースでは、信託監督人を信託契約で定めることもできます。

信託契約では、受託者の不正を監督したり、受益者の利益を尊重したりする方法をできるかぎり、定めておきましょう。

まとめ

家族信託について、意味やメリット・デメリット、費用、注意点などを見てきました。

家族信託は、新しい財産管理の方法として注目されつつあり、様々な設計がなされています。

たとえば、共有不動産の整理のための信託、相続による共有を回避するための信託などの事例です。

各ケースでは、家族信託をつかった場合、成年後見制度をつかった場合、遺言を利用した場合を比較検討したうえで、家族信託を選択しています。

このように、家族信託は柔軟に設計することができるので、今後の活用が期待できます。

一方で、家族信託にまつわる法的問題点は非常に難しく、適切に信託契約に盛り込めるかどうかがカギとなるでしょう。

そのため、家族信託を自分や家族ではじめようと検討している方は、家族信託の知識をしっかりと備えたうえで、信託契約を行う必要があります。

家族信託を利用したくても不安であれば、専門家におもいきって相談することをおすすめします。

自分だけで考えていたよりも、もっと家族にとって良いプランを提案してもらえるかもしれません。

とくに、高齢の親族や障害のあるお子さんの将来が心配な方は、家族信託を行う前に、一度、専門家をたずねてみてください。

安心して家族信託を始めるサポートをしてもらえるでしょう。

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