記事の要約
- 申立人以外の相続人は、検認期日に欠席しても問題はない
- 欠席の手続きは、家庭裁判所から届く「回答書」を返送するだけで完了する
- 「相続放棄」や「相続税申告」の期限に間に合うよう、検認前の準備が重要
被相続人(亡くなった人)が自筆の遺言書を遺していたときは、原則として遺言書を見つけた人や保管している人が申立人となり、家庭裁判所に検認を申し立てます。
「わざわざ検認しなくてもよいのでは?」と思われるかもしれませんが、自筆証書遺言は偽造や変造のリスクがあるため、家庭裁判所の確認は必要です。
また、家庭裁判所から遺言書の検認期日を指定されますが、家庭裁判所は平日しか開庁していないため、土日や祝日しか休みが取れない方は検認期日に出席できないケースもあるでしょう。
今回は、遺言書の検認期日に欠席できるかどうかや、欠席するリスクやデメリットをわかりやすく解説します。
なお、VSG相続税理士法人では、相続に関するご相談を無料で受け付けております。
相続手続きや相続税に関することでご不安なことがございましたら、お気軽にご連絡ください。
目次
検認は「遺言書の存在と状態」を確認する手続き
遺言書の検認とは、家庭裁判所が、遺言書の存在およびその内容を相続人に通知して、遺言書の偽造や変造などを防止するための手続きです。
検認当日、裁判官は、申立人(遺言書の検認を申し立てた人)や他の相続人の前で遺言書を開封し、「日付、署名はあるか」「訂正印はあるか」といった外見的な状態を確認・記録します。
つまり、検認の目的は、検認時点での遺言書の「現状」を証拠として保存することです。
検認をしないと相続手続きが進められない
検認を受けると、家庭裁判所から「検認済証明書」が発行されます。
遺言書の内容に沿って相続手続きを進める場合は、金融機関や法務局に遺言書とともに「検認済証明書」を提出する必要があります。
検認を受けていない遺言書では、銀行口座の解約や不動産の名義変更などの相続手続きを進めることができません。
ただし、検認は遺言書の有効性を判定する手続きではありません。
遺言者の意思かどうか疑わしいときは、別途訴訟などで判断することになります。
また、遺言書の検認完了までの基本的な流れは、以下のとおりです。
- 遺言書検認の申立て:遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に対して行う
- 検認期日の通知:検認期日通知書が相続人全員に送付される
- 検認期日:遺言書の提出および裁判官による遺言書の検認
- 検認済証明書の発行:収入印紙150円分の手数料を支払う
公正証書遺言や、法務局で保管されている自筆証書遺言は、検認の必要はありません。
一方、法務局に保管されていない自筆証書遺言や、秘密証書遺言は相続手続きの際に検認済証明書の添付が必要ですので、必ず検認を申し立てましょう。
なお、遺言書の検認に関する詳細は、以下の記事もご参照ください。
申立人以外の相続人は、遺言書の検認期日を欠席できる
検認期日の通知は相続人全員に送付されますが、申立人以外の相続人は欠席しても特に問題はありません。

申立人は出席義務があるが、その他の相続人は自由
検認の申立人は、当日に遺言書を持参しなければならないため、検認期日の出席が義務付けられています。
しかし、「申立人ではないその他の相続人」については、出席義務はありません。
欠席したからといって、相続する権利がなくなったり、遺産の取り分が減らされたりするような不利益はないのでご安心ください。
遺言書の検認を欠席する場合の手続き
検認期日については、申立ての後、家庭裁判所の担当者から申立人に対し、日程調整の連絡が入ります。
申立人は出席できる候補日を伝え、家庭裁判所との調整のうえで期日が決定します。
その他の相続人が出席する場合は、通知書に同封されている「出欠回答書」の「出席」に丸をつけて返送します。
電話で予約を入れる必要はありませんが、書面での返信は必要です。
一方、都合がつかずに欠席する場合の手続きは下記のとおりです。

申立人以外の相続人:「回答書」を返送するだけでよい
検認期日の通知の封筒の中には、出欠回答書が同封されています。
その他の相続人の場合、欠席の連絡は、回答書を返送するだけで済みます。
裁判所の担当者に電話をかけて、欠席の理由を説明する必要はありません。
出欠回答書のフォーマットは裁判所によって多少異なりますが、欠席する場合は「当日の出欠欄」の「欠席」に丸をつけ、署名・捺印のうえ、同封の返信用封筒(またはFAX等)で裁判所に返送します。
申立人以外の相続人が、代理人を立てる必要性は低い
弁護士に依頼して、自分の代わりに検認期日に出席してもらうこと(代理人選任)は可能です。
しかし、申立人以外の相続人にとって、代理人を立てる実質的なメリットはあまり大きくありません。
まず、検認は「遺言書の有効・無効」を争う裁判ではないため、弁護士が代理で出席しても法的な議論をする場面が存在しません。
また、「出席して、当日の様子を報告してもらうだけ」のために依頼費用を払うのは、コストパフォーマンスが良いとはいえない可能性があります。
「偽造を強く疑っている」などの特殊な事情がない限り、自身で回答書を返送して欠席する対応で十分です。
申立人:原則欠席不可、やむを得ない場合は「期日の変更」や弁護士に依頼をする
一方、遺言書を持参・提出する必要のある申立人が欠席してしまうと、検認手続き自体を行うことができません。
申立人の出席は義務づけられており、他の相続人のように「回答書を出して終わり」とすることはできません。
無断で欠席すると、裁判所や他の相続人に多大な迷惑をかけることになってしまいます。
どうしても都合がつかず行けない場合は、以下の対応が必要です。
- (1)期日の変更をする
- 病気や急用でどうしても出席できなくなった場合は、すぐに家庭裁判所の担当書記官へ電話をして、「期日の変更」(検認の延期)を相談します。
- (2)弁護士に代理人として出席してもらう
- 申立人が弁護士に正式に代理権を委任している場合は、家庭裁判所の許可を得たうえで、弁護士が代理人として出席・遺言書の提出ができる場合があります。
なお、司法書士や税理士は代理人になれません。
やむを得ず欠席しなければならないときは、早めに家庭裁判所へ相談し、期日の変更や弁護士出席の可否を確認しておきましょう。
遺言書の「未提出」や「勝手な開封」はペナルティーの対象になる
申立人が検認を怠って遺言書を提出しなかったり、検認を経ずに勝手に開封したりすると、民法1005条に基づき「5万円以下の過料」に処せられる可能性があります。
この過料は「行政罰」であり、刑事事件の罰金とは異なるため前科がつくことはありませんが、無用なトラブルを避けるためにも、申立人は責任を持って期日に出席(または期日変更)をするようにしましょう。
遺言書の検認期日に欠席するデメリット
遺言書の検認期日に欠席してもペナルティーはありませんが、以下のデメリットを考慮しておく必要があります。
遺言書の内容確認が遅くなると、重要な相続手続きに間に合わなくなるおそれがあります。
欠席者には遺言書のコピーが送付されない
遺言書の検認期日に欠席した相続人には、後日、家庭裁判所から「検認済通知」が送付されます。
検認済通知は、検認が完了した旨を通知する文書ですが、このとき、検認を受けた遺言書のコピーは送付されません。
検認期日に欠席すると、申立人に遺言書を見せてもらう、またはコピーを送付してもらうまで遺言書の内容がわからないことになります。
「相続したくない不動産を受け取ることになっていた」など、不都合な内容が書かれていたときは、相続放棄や限定承認が必要になる場合も考えられます。
ただし、相続放棄や限定承認は、「自己のために相続開始があったことを知った日から3カ月以内」に家庭裁判所に申立てる必要があります。
遺言書の内容確認が遅くなった結果、申立て期限を過ぎると、被相続人の借金も引き継がなくてはならないリスクがあるので、遺言書の内容を早めに知りたい人は、できるだけ遺言書の検認に出席することをおすすめします。
また、前述のように遺言書の有効性に疑義がある場合や、当日の雰囲気や詳細を知っておきたい場合も出席するとよいでしょう。
欠席者が遺言内容を確認する方法
遺言書の検認に欠席した場合でも、検認終了後に「検認済証明書の申請」(または遺言書の閲覧・謄写申請)を行えば、遺言書の中身を確認できます。
また、親族関係が良好であれば、検認後に写真を撮って送ってもらえるように申立人に頼んでおくのがスムーズです。
検認済通知書は、一般的には申立てから1カ月程度で届きます。
検認済通知書が送られてこない場合は、家庭裁判所の混雑や郵送事情による遅延のほか、検認自体が終わっていない可能性もあるため、申立人や家庭裁判所に確認しましょう。
検認を欠席しても「期限のある手続き」の準備は急ぐこと
遺言書の検認への出席は任意ですが、相続放棄や相続税申告といった期限は「絶対」です。
検認の手続き完了までは通常1カ月程度かかりますが、この期間をただ待っていると、以下の重要な期限に間に合わなくなるリスクがあります。
検認待ちの間も、相続手続きの準備を進めましょう。
相続財産の調査と財産目録の作成を進める
検認が終わると、すぐに銀行の解約手続きや不動産の名義変更手続きが始まります。
その前に、被相続人の過去の通帳や郵便物を確認のうえ「どこの銀行にいくらあるのか」「借金はないか」などを調査して、「財産目録」の下書きを作っておきましょう。
相続財産の調査を検認前に済ませておくことで、遺産をそのまま引き継ぐか、それとも相続放棄や限定承認をするか、また相続税はかかるかどうかの判断材料になります。
遺言内容が不明でも「相続放棄」や「限定承認」の判断は3カ月以内に行う
前述のとおり、相続放棄や限定承認を望む場合は、3カ月以内という短い期間内に、家庭裁判所に対し申述をしなければなりません。
「検認が終わってから判断しよう」とのんびり構えていて申述期限が過ぎてしまうと、プラスの資産もマイナスの資産もすべて引き継ぐ「単純承認」を選択したとみなされ、借金があっても放棄することができなくなります。
なお、財産調査が長引き、相続放棄や限定承認をするか決められない場合は、3カ月の熟慮期間中に、家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることで、期限を延ばせる可能性があります。
相続税の申告・納付に向けて各種制度を確認する
相続税の申告・納付は、「相続開始を知ったときの翌日から10カ月以内」に行います。
なお、遺産総額が基礎控除を超える場合でも、相続税関連の制度・規定を適用することで、納税額を大幅に少なくできる可能性があるため、期間内に確認しましょう。
- 小規模宅地等の特例
- 被相続人の自宅の土地評価額を最大80%減額できる特例です。
これが使えるかどうかで、税額が数百万円変わることも珍しくありません。
判定に必要な「土地の現地調査は、遺言書の検認が終わる前でもスタートできます。 - 配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)
- 配偶者が遺産を取得する場合「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか多い金額までは相続税がかかりません。
これらの制度を適用して税額が0円となっても、相続税の申告書を提出する必要があります。
また、これらの制度が使えるかどうか、また申告が必要かどうかの確認は、検認前でもできますので、早めに相続に強い税理士へ相談し、準備を始めておきましょう。
遺言書の内容に納得いかないときの対処法
家庭裁判所の検認では、遺言書の有効・無効を判定しないため、遺言者の意思で書かれたかどうかはわかりません。
遺言書の中には、認知症の状態で書かれたものや、他の相続人が自分の都合のよい内容になるように誘導して書かせたものであるものもあります。
もし、遺言内容に納得できないときは以下の対処方法があります。

遺留分侵害額を請求する
遺言書が本人の意思で作成されており、形式的な要件も満たしている場合、原則として遺言内容に従わなければなりません。
ただし、一定の相続人に「遺留分(最低限保障された遺産取得分)」の侵害があったときは、侵害している相手に対し、侵害相当額の請求ができます。
ただし、遺留分侵害額請求権は、遺留分を請求できる人が「相続開始および遺留分の侵害を知った日から1年」経っても行使しないとき、または「相続開始から10年」が経過すると、請求権が消滅してしまいます(民法1048条)。
なお、請求方法は特に決まっていませんが、遺留分の侵害額請求は記録に残しておけるように、配達証明付きで内容証明郵便を送付しておくとよいでしょう。
相手が遺留分侵害額の支払いに応じないときや、内容証明郵便の文面をどう書いてよいかわからないときは、弁護士に相談することをおすすめします。
遺産分割協議で財産の分け方を決める
相続人全員(および受遺者)の同意があれば、遺言書と異なる内容で遺産分割協議をすることも可能です。
しかし、遺産分割協議がスムーズにまとまるとは限りません。
遺産分割協議が成立しない限り、預貯金解約や不動産の名義変更、相続税申告などの手続きを開始できないので注意してください。
また、相続人以外の受遺者(遺言によって遺産を受け取る人や法人)がいる場合、遺言と異なる遺産分割協議を有効にするには、受遺者の同意も必要です。
家庭裁判所に調停を申し立てる
遺言書の有効・無効を争う場合、家庭裁判所に調停を申し立てる方法もあります。
調停は話し合いによる解決方法ですが、意見が食い違う相手と直接話し合うわけではなく、調停委員が間に入ってくれます。
調停委員は適切な解決ができるように助言をしたり、解決案を提案したりしてくれるので、訴訟を起こさなくても遺言書の有効・無効を解決できる可能性があるでしょう。
なお、調停は裁判官が判決を下すわけではないため、相続人のうち、1人でも合意しないときは調停不成立になります。
調停で問題解決できなかったときは、訴訟を検討することになります。
訴訟を提起する
調停で遺言書の有効・無効を解決できなかった場合、地方裁判所または簡易裁判所で遺言無効確認訴訟を起こし、司法に判断してもらう方法もあります。
訴訟の場合は判決が下るので、遺言書の有効・無効が明確になるでしょう。
ただし、遺言書がどのような理由で有効または無効なのか、自分で証拠を集めて立証しなければなりません。
訴訟の場合は口頭弁論も行われるため、裁判所が指定した期日に出廷し、論理的な主張を展開する必要もあります。
訴状の作成や証拠収集などに対応できないときは、必ず弁護士に相談してください。
検認後の税務・法務・登記は、VSGが一括サポート
本記事で解説したとおり、申立人以外の相続人は回答書を返送するだけで、法的な不利益なく欠席できます。
ただし、検認はあくまで通過点に過ぎません。
その後に控える遺産分割協議や相続税申告など、相続手続きの範囲は広く手間がかかります。
特に、相続財産や相続人の数が多い場合、手続きは非常に複雑になりがちです。
私たちVSG相続税理士法人は、相続専門の税理士に加え、グループ内の司法書士や行政書士、さらに法的な紛争解決に強い「VSG弁護士法人」とも緊密な協力体制を築いています。
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