この記事でわかること
- 数次相続である被相続人の遺産分割協議が終わる前に相続人が亡くなり次の相続が始まるケース
- 通常の相続とは異なる数次相続の手続きの流れや注意点
- 数次相続の税務上の注意点
- 遺言書は数次相続の可能性を考慮した内容を記載する
「数次相続」とは、被相続人の遺産分割協議が終わる前に相続人が亡くなり、次の相続が発生することです。数次相続における必要な手続きの流れや注意すべきポイントなど、詳細が分からないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、数次相続の基本的な理解から必要な手続きの流れ、注意点をお伝えします。たとえ数次相続が発生しても、安心して相続手続きを進められるようにガイドとしてお役立てください。
数次相続とは
たとえば、被相続人Aさんの所有する財産を、相続人Bさんが引き継ぐとします。このとき、Aさんの遺産分割協議が終わる前に、相続人Bさんが亡くなると、次の相続が発生する状況となります。
このような状況を数次相続といい、相続人Bさんが亡くなったことで、Bさんの法定相続人であるCさん(Bさんの子ども)が、Aさんの遺産を間接的に引き継ぐ形となります。
代襲相続や再転相続との違い
数次相続と混同しやすい相続関連の用語に、代襲相続、再転相続があります。
代襲相続とは、被相続人よりも法定相続人が先に亡くなっている場合に、亡くなった相続人の子どもが代わりに、被相続人の財産を引き継ぐことをいいます。
一方、再転相続とは、相続人が単純承認や相続放棄の熟慮期間中に、相続するかどうか選択する前に亡くなった場合に発生する相続です。1回目の相続人が承認も相続放棄もせずに熟慮期間中に死亡した場合の相続のことです。
再転相続と数次相続との違いは、相続人の意思表示の有無です。最初の相続の熟慮期間中と相続承認がされた後という違いがあります。
再転相続の場合は、再転相続人は一次相続と二次相続について単純承認、限定承認、相続放棄のいずれかを選択できます。ただし、一次相続のみ承認し、二次相続を放棄することはできません。一方、数次相続の場合は、一次相続の相続人が相続を承認しているため、二次相続の法定相続人は一次相続を放棄することはできません。
数次相続が生じた場合の相続の手続き
数次相続の手続きは、一般的な相続手続きとは異なる点がいくつか存在します。特に、相続財産の移転が複数回行われるため、その都度の手続きが必要な点に注意してください。
相続の基本的な流れ
数次相続が生じた複雑な状況下で、相続手続きを効率的に進めるため、まずは相続の基本的な流れを解説します。
-
相続人の調査
一次相続と二次相続それぞれにおいて、相続人は誰なのかを明確にします。相続人の調査が間違っていると、後の遺産分割協議書が無効になるため注意しましょう。 -
遺産分割協議書に数次相続の詳細と合意した経緯を記載
遺産分割協議書を用意し、数次相続の詳細と合意した経緯を記載しましょう。先に亡くなった被相続人の下に、後に亡くなった相続人を「相続人兼被相続人」と記載します。
加えて、後に亡くなった相続人の死亡時期、地位を承継した相続人、遺産分割協議に参加した相続人を明記します。なお、遺産分割協議書に記載する肩書きは、1次相続の相続人が「相続人」、2次相続の相続人が「相続人兼被相続人の相続人」となります。 -
金融機関や法務局で各種手続きを行う
遺産分割協議で決めた分配内容に従って、金融機関で預貯金の口座解約や法務局で不動産の登記手続きなどを行います。
必要な書類と準備
数次相続の手続きでは、事前に必要な書類を整えておくとスムーズに進められます。数次相続の登記手続きに必要な書類は、以下のとおりです。
-
遺産分割協議書
相続人全員の合意に基づく財産の分配方法を明記した書類です。
数次相続である旨の内容を記載します。 -
死亡診断書
被相続人の死亡を証明する書類です。医師が発行します。 -
戸籍謄本
被相続人の戸籍情報を示す書類です。死亡した日から10日を経過した日以降に市区町村の役場から取得することが一般的です。 -
土地・建物の登記簿謄本
相続する不動産の詳細情報を示す書類です。
地方法務局や法務局で取得できます。 -
印鑑証明書
相続人全員の印鑑証明書は、お住まいの市役所等で発行できます。
土地・建物の登記手続き
土地や建物の相続による所有権移転では、法務局での相続登記が必要です。相続登記に不安があれば、登記の専門家である司法書士に相談するとよいでしょう。
数次相続をするときの注意点
数次相続では、相続人同士の関係性や財産の取り扱いなどの面で、通常の相続よりも複雑な問題が生じる可能性があります。そのような数次相続が生じたときの注意点を具体的に解説します。
相続人間での注意点
数次相続では相続に関わる人が増えるため、相続人同士の関係性がより複雑になりがちです。たとえば、被相続人のAさんが亡くなり、Aさんの子どもであるBさんとCさんが相続人とします。
このとき、Bさんが相続手続き中に亡くなると、Bさんの子どもであるDさんやEさんも相続人となります。そのため、Cさんだけでなく、DさんとEさんも遺産分割協議に参加することになり、相続に関わる人数が増えます。このような状況では、相続人同士の意見の対立や摩擦が生じるリスクが高まります。
不動産登記の注意点
数次相続が起こる状況では、不動産の権利移転が前回の相続から未完了のケースが考えられます。このような場合、前回の相続の不動産登記手続きを先に完了させなくてはなりません。
ただし、相続の仕方によっては中間の相続人に登記をせずに済むこともあります。不動産登記の手続きには、専門的な知識や経験が必要となります。不明点などがあれば、不動産登記の専門家である司法書士に相談するとよいでしょう。
税務上の注意点
数次相続が発生すると、相続税の基礎控除額や税率が通常の相続と異なる可能性があります。
また、相次相続控除の適用を受けることで税負担を抑えることが可能です(相次相続控除の適用対象者は相続人に限定されるため、相続放棄した人や相続権を失った人が遺贈によって財産を取得しても適用されません)。
数次相続の際には、前回の相続での税務処理や申告内容を、正確に把握しておかなくてはなりません。
数次相続は、被相続人が亡くなって間もなく次の相続が発生している状況となるため、評価額が異なったり、相続財産の記載が漏れていたりすると税務調査の対象に繋がる可能性があります。正しく相続税申告を行うためにも、相続に強い税理士へ相続税申告を依頼することを検討するとよいでしょう。
数次相続の発生が予想される場合、遺言書をどのように書けばよいか
数次相続が発生する可能性があり、対策を考えている方もいるでしょう。ここからは、数次相続における遺言書の書き方や、相続税の計算方法などを詳しく解説します。数次相続をスムーズに進めるためのポイントや、適切な手続きを行うための注意点も併せてご紹介します。ぜひ参考にしてください。
数次相続に対応できる遺言書の作成方法
数次相続を視野に入れる場合、遺言書に記載するのは初回の相続時の内容だけではありません。数次相続が発生したときの財産の分配方法や相続人の指定など、意思表示の明確な記載が求められます。たとえば、被相続人のAさんが「子どもであるBさんとCさんに財産を均等に分ける」と遺言書を残した場合を考えてみましょう。
もし遺言書で定めた相続人のBさんやCさんが先に亡くなった場合、この遺言は無効となってしまいます。数次相続に備えるには、Aさんの孫(BさんやCさんの子ども)にあたる人物への財産の取り扱いを明記しておくことが重要です。
数次相続が発生した場合でも、Aさんの意思が正確に反映されることが保証されます。また、数次相続の可能性を考慮して遺言書を作成するときは、相続の専門家に相談するとよいでしょう。
数次相続での相続税の申告
数次相続が発生した場合、相続税申告は一般的な相続とは異なる点が多く、専門的な知識が求められます。以下では、数次相続があった場合の相続税申告について、注意すべきポイントを解説します。
一次相続から時間が経過すると、路線価や固定資産税評価額、株価などが変わっていることがあるため、一次相続の評価額をそのまま使えない可能性があります。何がどのように変わったのかを正確に把握することが大切です。
また、引き継いだ財産の漏れがないように、もともと被相続人が所有していた財産も確認する必要があります。数次相続での相続税の申告は、相続人が申告と納税義務を引き継ぎます。
先ほどの例であれば、Aさんの相続税申告は、Bさんに代わってAさんの孫(相続人であるBさんの子ども)が、一次相続のAさんの相続税申告をしなくてはなりません。
Aさんの孫(Bさんの子ども)が、Bさんに代わって提出するAさんの相続税の申告期限は、Bさんが亡くなったことを知った日の翌日から10カ月以内に延長されます。
具体的には、Bさんの死亡したことを知った日の翌日から10か月以内となります。相続税の基礎控除額の計算方法は、一次相続と二次相続で変わりませんが、数次相続では相次相続控除が受けられる可能性があります。
数次相続が発生した場合の相続税の計算は複雑なため、相続を専門とする税理士に相談することをおすすめです。申告書類の準備や計算方法の確認などは専門家と連携して行い、法定期限内に正しく相続税申告を行いましょう。
数次相続の手続きや流れを把握して備えよう
数次相続は、被相続人の遺産分割協議が終わる前に相続人が亡くなり、次の相続が発生する状況であるため、通常の相続とは異なる手続きや注意点があります。しっかりと手続きの内容や注意すべきポイントを把握しておきましょう。数次相続が発生する可能性がある場合、相続に強い専門家へ相談するとよいでしょう。
ベンチャーサポート相続税理士法人では、親身でわかりやすい説明を心がけ、無料相談を実施しています。また、税理士だけでなく弁護士や司法書士、行政書士も在籍しているためワンストップで相談することが可能です。初めて相続税の申告を行う方もお気軽にご相談ください。