この記事でわかること
- 遺言書が無効になるケースが分かる
- 公正証書遺言も完璧でないことが分かる
- 認知症など遺言能力の低下の適切な対処が分かる
遺言書は、故人の遺志を伝える、遺言者にとっても、家族にとっても、とても大切なものです。
亡くなった後に家族に伝えるメッセージというだけでなく、財産の配分、つまり相続について、法的に効力が発生します。
せっかく遺言書を書いたのに、遺言書が無効になってしまっては、意味がありません。
それがもとで相続トラブルとなってしまうことも考えられます。
遺言書が無効にならないよう、遺言書作成時に注意したいポイントを解説し、その対策について説明します。
目次
遺言書の有効・無効の判断基準
遺言書は故人の遺志を伝えるものですので、何をどう書いても遺言書です。
遺言書の有効・無効の判断基準は、故人の遺志にもとづくかどうかで判定されます。
これを「遺言能力」といいます。
民法では、「満15歳以上の者は遺言をすることができる」と定められていますが、遺言能力は遺言の内容を考え、表現することができることを意味します。
そのことを踏まえると、例えば重度の認知症や、精神疾患がある人は難しいでしょう。
遺言書の効力
また遺言書について民法ではその効力についても定められています。
以下の項目については、法的効力を持ちます。
- 相続人の廃除、廃除の取り消し
- 相続分の指定、指定の委託、特別受益者の相続分の指定
- 遺産の分割方法の指定、指定の委託、分割の禁止、共同相続人の担保責任の指定
- 遺留分の減殺方法の指定
- 遺贈
- 財団法人設立のための寄付
- 信託の設定
- 認知
- 後見人、後見監督人の指定
- 遺言執行者の指定および指定の委任
遺言書でも侵害できない遺留分
遺言書が有効であっても、相続人の権利として遺留分を侵害することはできません。
遺留分とは、相続人に法律上保障された一定の割合の相続財産のこといいます。
被相続人との関係によって、相続財産の2分の1か、3分の1が遺留分となります。
遺言書によって、受け取れるはずだった相続財産が受け取れない場合、相続人は遺留分侵害額請求することができます。
遺言書により、相続財産の配分が減らされたことに納得できれば、問題はありません。
生前贈与、特別受益、あるいは寄与など、心当たりのある場合は、相続人からも納得が得らえるでしょう。
しかし、そういった正当な理由がなければ、遺留分については十分注意してください。
自筆証書遺言が無効になるケース5つ
自筆証書遺言とは、自筆で作成する遺言書です。
自筆によって、故人の遺志であることを証明します。
日付がない遺言書
日付がない遺言書は無効になります。
民法でも日付を記載する定めがあります。
文書では「令和○○年○○月吉日」という表記を見かけることがあります。
吉日とは、厳密にいうと大安を意味する言葉ですが、これも日付を特定できないため、無効になります。
音声データや動画の遺言書
音声データや動画の遺言書も無効です。
相続人へのメッセージとしては有効だと思いますが、自書以外の遺言書は認められていません。
加筆、修正、削除が正しくない遺言書
加筆、修正、削除にはルールがあり、そのルールを守られていない遺言書は無効です。
民法では、次のように定められています。
これが守られていないと、他人によって書き換えられたと判断されるためです。
たとえば五行目の「次男○○○○」を「三男○○○○」に修正する場合は、まず「次男○○○○」の字に二重線を引いて、上に「三男○○○○」と書き二重線に押印をします。
さらに、遺言書の末尾や余白等に「五行目六文字削除し六文字追加した」と追記し、自筆で署名します。
また、書き直し等で、加筆、修正、削除が増えるようであれば、全て書き直すことをお勧めします。
自筆でない遺言書
自筆証書遺言は、必ず自筆でなければなりません。
秘密証書遺言は、署名があれば、内容はパソコン等で作成したテキストを印刷したものでも有効です。
それと混同して誤認されがちですが、自筆証書遺言は全文自筆でなければなりません。
自分で書いたということが証明できないと、遺言書として無効になります。
ただし、財産目録の全部、一部については、自書以外でも認められています。
遺言書と一体であることがわかるように、署名押印は必要です。
不明瞭な遺言書
表現が的確でない、資産の特定ができない、といった不明瞭な遺言書は無効になります。
例えば、不動産の相続については、不動産登記の表示に基づいて、記載しなければなりません。
「所在地:○○県○○市○○町○丁目○番○号」
このとき、住所表記で記載してしまい、不動産の特定ができない、ということがあります。
正しくは、「所在地:○○県○○市○○町○丁目○○番地○○」となります。
また、財産の配分について、案分の計算が合わないということもあります。
「妻○○に2分の1、長男○○に5分の1、次男○○に5分の1を相続させる。」
これでは、残りの10分の1の財産の処分が記載されていません。
他人の関与が疑われる遺言書
遺言書は故人の遺志ですので、本人が書いたものであれば有効です。
しかし、ある特定の相続人に有利になるように、そそのかされて遺言を作成したと疑われることもあります。
病気などで判断能力が低下している状態で作成されたものであれば、考えられることです。
他の相続人がそういった疑いを持てば、遺言無効確認の訴えを裁判所に申立てることができます。
裁判所で遺言の有効、無効を判断されます。
公正証書遺言が無効になるケース2つ
公正証書遺言は、公証人が作成しますので、無効になることはほとんどありません。
しかし、それでも無効になることがあります。
不適格な証人の立会いによる遺言書
公正証書遺言は、2名の証人の立会いのうえ、公証人が作成するものです。
なお、次に該当する人は証人になれません。
- 未成年者
- 推定相続人、受遺者、その配偶者、直系血族
- 遺言を作成する公証人の配偶者、四親等内の親族、公証役場の職員
不適格な証人が立会った遺言書は、公正証書遺言であっても無効になります。
遺言能力のない遺言書
公正証書遺言は、公証人に遺言書の内容を口述し、公証人が遺言書を作成します。
このとき、公証人が代読し、遺言者が同意し、作成した遺言書を有効とする判例もあります。
しかし、同じような形式でも、病気等で判断能力が低下している状態でなされた遺言書は、無効となる判例がありました。
認知症や精神疾患だけでなく、重症で判断力が低下している場合も含みます。
遺言能力のない状態で作成された遺言書は、公正証書遺言であっても無効になります。
遺言能力が低下している場合の作成で注意すべきポイント
遺言能力が低下した場合は、基本的には遺言書は無効になります。
しかし、低下の程度によっては、有効となる場合もあります。
例えば、認知症は、認知症状があるときとないときがあります。
認知症状のないときに作成された遺言は有効になります。
躁鬱病も同様で、症状のあるときとないときがありますので、症状のないときに作成された遺言は有効です。
もし、遺言能力の低下がみられたとしても、それをもって無効となることはありません。
問題は、遺言者がどういう状態で作成したか、になります。
医師の診断書を取得しておくと、客観的な資料として有効です。
遺言書作成時の様子を、音声や動画に記録しておくと、裁判での資料としてとても有効です。
また、このような病気は調子の良いときと悪いときの波があるものです。
日常生活の様子を記録しておくことで、遺言能力がある状態で遺言書を作成したことを証明できます。
遺言書が偽造されている場合も無効に
最後に、遺言書の偽造についても触れておきます。
遺言書は相続人にとても大きな影響力を持つものです。
故人の遺志は、当然ながら、亡くなってからは確認しようがありません。
しかし、この影響力を利用しようと、特定の相続人が有利になるよう、遺言が偽造されることがあります。
公正証書遺言は、公証人が作成し、2名の証人が立会うものですので、偽造の心配はありません。
しかし、自筆証書遺言については、本人のものかという疑いが残ります。
そのため自筆証書遺言を開封する際には、裁判所で検認することが必要になります。(2020年7月以降、法務局における自筆証書遺言の保管制度を利用する場合は、検認を省略できます)
検認とは、遺言書の偽造や改変を防ぐため、その自筆証書遺言が本人の作成した遺言であることを裁判所が確認するものです。
秘密証書遺言は2名の証人の立ち会いのもと、本人が書いた遺言であることを公証人が証明しますが、遺言書の内容については確認しません。
ですので、秘密証書遺言の開封の際にも検認が必要になります。
ただし、検認には開封しないまま、裁判所に提出しなければなりません。
提出前に開封してしまうと、秘密証書遺言として無効になってしまいます。
遺言書を偽造したときのペナルティー
遺言書を偽造したときのペナルティーについて、民法で定められており、遺言書を偽造した人は相続欠格となります。
つまり、相続人としての権利を失い、相続財産を一切受け取ることができなくなります。
偽造だけでなく、被相続人をだましたり脅したりして遺言書を書かせた場合、または書かせようとした場も相続欠格となります。
まとめ
遺言書の無効になるケースと、その対策について、解説しました。
遺言書は故人の遺志として、形式的に無効であっても、ほとんどの場合は、相続人が尊重してくれるものです。
遺言書の無効となるのは、遺言書の内容に、不満があるからです。
これを読んで遺言書が無効になる心配がなくなったら、相続人が納得できる内容について考えましょう。
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