遺言書は、相続人などに遺産分配の方法を定める法的な効力を持ちます。
遺言によって定められた内容は、基本的に覆すことはできません。
それだけに、遺言書を作成する際には、慎重さが求められます。また、遺言書を作成する際には、いくつもの要件が定められているため、無効にならないようにしなければなりません。
ここでは、遺言書を作成する前に準備しておくべきことを解説します。
目次
遺言の作成前に準備をしておこう
遺言書の作成前に準備をしなければならないのは、遺言書の持つ役割が非常に大きいためです。
遺言書に書かれた内容は、簡単に覆すことができないほど大きな効力を持つ一方で、遺言書の作成にあたって1か所でも不備があると、その遺言書自体が無効になってしまいます。
そのため、遺言書の作成前に準備と段取りをしっかりしておき、遺言書を作成する段階では、形式的な不備がないよう記載することに細心の注意を払いましょう。
遺言作成前にすべきこと
法定相続人は誰になるのか確認する
遺言書を作成するにあたってまず確認すべきなのは、法定相続人が誰なのかです。基本的には「配偶者」と「子」ですが、子供がいない場合には「親」が、子供も親もいない場合には「兄弟」が法定相続人となります。
子供が先に亡くなってしまった場合でも、その子供の子、つまり孫が代襲相続する形で法定相続人になります。兄弟が法定相続人になる場合でも、兄弟が亡くなっていればその子、つまり甥や姪が法定相続人になります。
また、前の配偶者との間に子供がいる場合には、その子供も法定相続人となります。隠し子などがいる場合には、その子供も法定相続人です。もし、隠し子や前の配偶者との子供の存在について隠してしまうと、亡くなった後にほかの相続人とのトラブルになる可能性が非常に高くなります。
そのような相続人がいる場合には、その存在を隠すのではなく、きちんと伝えておくことが必要です。そのことは遺言書にも明記しておくべきといえるでしょう。
特定の相続人だけ遺言書に記載されず財産の分与がなかった場合でも、財産を受けなかった相続人は、一定の財産の分与を受けるための請求ができます。これを遺留分減殺請求といいます。
遺留分減殺請求の裁判に発展すれば、結局は相続人どうしの争いになってしまいます。そのような事態を招かないためにも、相続人の確認は非常に重要です。
持っている財産を明確にする
遺言書に財産分与の方法を記載する際、すべての財産を記載するのが基本です。
もし遺言書に記載されていない財産があった場合、その財産の相続方法について争いとなることも考えられます。
また、争いにまで発展しなくても、遺言に従って分割する財産と、相続人の間で遺産分割協議を行って分割する財産があるのは、残された相続人にとっては手間が増えるだけでいいことはありません。
どのような財産があるのかを遺言書に書いておくことは、相続税の申告漏れを防ぐうえでも大きな意味があります。遺言書の有無に関わらず、亡くなってから10か月以内に相続税の申告書を作成して相続税を納税しなければなりません。
この時、遺言書があるにもかかわらず遺言書に書かれていない財産を把握し、相続税の計算に含めるのはかなり大変な作業になります。残された相続人がすべての財産を把握できるよう、遺言書にはすべての財産を明確に記載しておきましょう。
財産の種類としては、現金・預金、土地・建物などの不動産、有価証券、ゴルフ会員権、骨董品、車などがあります。預金口座のある金融機関名や不動産の所在地、有価証券の口座のある証券会社や銘柄などをあわせて記載しておきましょう。
遺産の分割方法など遺言書の内容を決める
遺言書を作成するにあたっては、遺言の内容を決めなければなりません。遺言の内容として決められることは遺言事項といいます。
財産に関する遺言事項としては、相続人の間で行う遺産分割の方法、相続人以外の人に財産を渡す遺贈、遺贈や法定相続分と異なる相続をした場合の遺留分を補う方法などがあります。
遺産分割の方法は、遺言を作成する人が自由に決めることができます。また、誰が何を相続するかを遺言書に書くことができるうえ、生命保険の受取人も遺言で定めることができます。
ただし、法定相続人の遺留分を侵害するような分割案にしてしまうと、遺留分減殺請求の原因となってしまう可能性があるため、注意しなければなりません。
また身分に関する遺言事項としては、子の認知に関すること、未成年後見人の指定、相続人の廃除やその取消しなどがあります。
遺言執行者を決める
遺言執行者を決めることも遺言事項の1つです。遺言執行者とは、実際に遺言に書かれた内容にもとづいて、遺産分割を行いあるいは身分に関する遺言事項を取り仕切る人をいいます。
具体的には、相続財産目録の作成、金融機関での解約手続き、法務局での不動産名義変更手続きなど、遺言に書かれた内容を実現するために必要な手続きをすべて行う権限があります。
特に遺言執行者の必要性が高いケースは、遺言書の記載にもとづき相続人以外の人に不動産を遺贈する場合です。この場合、遺贈登記と呼ばれる登記が必要となりますが、遺贈登記には相続人全員が登記義務者となって名義変更をする必要があります。
しかし、遺言執行者が選任されていれば、その遺言執行者だけが登記義務者になればよく、他のすべての相続人が登記に関わる必要はありません。事務手続上、非常に簡潔に登記を終えることができるため、利用すればそのメリットは大きなものになります。
相続執行人を選任しなくても、遺言書の効力には影響がありません。また、遺言執行者を選任しないことも多くあります。しかし、相続人以外への遺贈のようなケースに該当しない場合でも、遺言を確実に実行してもらうためには遺言執行者の存在は大きな意味があります。
未成年者や破産者でなければ、誰でも遺言執行者に選ぶことができます。身近な人に頼むのが難しければ、専門家に依頼する方法もあります。
財産分配の理由(付言事項)を考える
遺言書に遺産分割の方法を記載し、どの相続人がどの財産を受け取るのかを決めるため、その内容に不満を持つ相続人が現れても不思議はありません。
できるだけ相続人の間で差がないように分割をしようと考えていても、遺産分割を進めるとその金額に差が出てしまいます。
特に不動産は金額が大きく簡単に分割できないために、特定の相続人だけ金額が大きくなってしまうことがあります。
また、それまで相続人としての存在を認識していなかった前妻との子供などが現れた場合、新たに発覚した相続人に財産を渡したくないと元からの相続人は考えることが多いため、わずかな財産の相続にも反対する可能性が高くなります。
一方で、前妻の子供などの側からも、仮に遺留分に満たない遺産分割案であれば、遺留分減殺請求の訴えを起こすことができることとなります。
遺言に書かれた遺産分割の持つ効力は大きいのですが、その分、後から争いの火種になってしまうことも考えられます。
そこで、遺言の内容についてすべての相続人に納得してもらえるよう、遺言を作成した人の相続人に対する思いや、遺産分割案を決めた理由などを考えておきましょう。遺留分減殺請求をするかしないかは、最終的に相続人の判断となるため、相続人の不満を少しでも解消できるような思いを、遺言書に残せるようにしておくといいでしょう。
遺言の形式を決める
遺言書を実際に作成する際には、3種類ある遺言書の中から1つを選択して作成することとなります。3種類の遺言書とは、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言です。
これらの遺言書は、いずれも遺言書として有効に成立するための要件が決められています。1つでも要件を満たさなければ遺言書自体が無効となってしまうので、その要件や作成方法については事前に確認しておく必要があります。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、その名のとおり自分で書いた遺言書です。書きたいと思った内容を思ったときにすぐ書けるうえ、費用もかからないため手軽に作成できる遺言書です。しかし、自筆証書遺言として成立するためには、多くの要件をクリアしなければなりません。
財産目録はパソコンで作成することや、通帳や登記簿謄本のコピーを利用することが認められますが、遺言書自体はパソコンで作成したり代筆してもらったりすることは認められません。
②署名・押印すること。
この場合の印鑑は実印でなくても構いませんが、実印の方がより問題になりにくいとはいえます。
③作成した日付を明記すること。
「平成31年4月吉日」のように、日付が明確になっていない場合は無効となってしまいます。
また財産を書く際には、不動産の所在地や金融機関名・支店名などを間違えないようにすることが、相続を円滑に進めるためのポイントです。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証役場で公証人と2人以上の証人の立会いのもと作成する遺言書です。遺言書の作成は公証人が行うため、無効になる心配はまずありません。
その代わり、作成には財産の額に応じて手数料がかかります。また、証人を頼まなければなりませんが、親族は基本的に証人になれないため、自分で探すのは難しいかもしれません。公証役場に依頼すれば承認を紹介してもらえますが、その場合、手数料とは別に費用がかかります。
遺言書は公証人に作成してもらうため、作成にあたっての要件は特に考える必要はありません。ただ、作成する際には公証役場に出かけるか、公証人に来てもらう必要があるため、作成を急ぐ場合には早めに準備を進めておく必要があります。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、自分で作成した遺言書を公証役場に持っていき、その存在を証明してもらう遺言書です。自分で作成する際にはパソコンを利用してもいいため、自筆証書遺言より楽に作成できます。また、公証役場では遺言書の中身を知られる心配がないため、遺言の中身を誰にも知られたくない場合に有効です。ただし、遺言書の作成にあたっては、以下の要件を満たす必要があります。
この点は自筆証書遺言と同じです。
②遺言書を作成したら、封筒に入れて封印をすること。
この封印は、遺言書に押した印鑑と同じものでなければなりません。間違って別の印鑑を押してしまった場合、その遺言書は無効となってしまいます。
秘密証書遺言は、その存在だけを公証役場で証明してもらうものであり、遺言書の中身については一切チェックされる機会がないため、自分で無効にならないように確認しなければなりません。
遺言を成立させるために最も確実な方法は、公正証書遺言を作成することです。しかし、公正証書遺言にもデメリットはあるため、何を重視して遺言を行うのかによって選択肢は変わります。自分に合った遺言書は何か、いま一度考えてみましょう。
まとめ
遺言は、遺言作成者が亡くなった後に残された相続人やその周囲の人の平穏な生活を守るため、非常に大きな働きをしてくれます。しかし、その遺言書の重要性を考えないまま、いきなり遺産分割の方法を書いても、かえって相続人の混乱を招き、争いのきっかけとなってしまいます。
遺言書の作成を考えている方は、まず遺言書を作成する前にすべき6つのポイントを確認し、どのような遺言書を作成すれば全員が納得できる内容になるか、考えてみてください。
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