記事の要約
- 遺産が一時的に共有されている状態を「共同相続」といい、その共有者である相続人たちを「共同相続人」と呼ぶ
- 共同相続の状態を放置してしまうと、相続人間のトラブルに発展するリスクがある
- 共同相続の状態を解消するには、遺産分割を完了させる必要がある
ご家族が亡くなられ、相続の手続きを進める中で「共同相続人」という言葉を初めて目にした方も多いのではないでしょうか。
特に、ご兄弟姉妹などご自身以外にも相続人がいる場合、この「共同相続人」という言葉は避けて通れません。
「ただの相続人と何が違うの?」「遺産はどうやって分けるの?」「手続きが複雑そうで不安」
この記事では、そのような疑問や不安を解消するために、共同相続人の基本的な意味から、遺産分割を円満に進めるための具体的な流れまで、分かりやすく解説します。
目次
共同相続人とは
亡くなった方(被相続人)の財産を相続する人が複数いて遺言書がない場合、遺産分割協議が終わるまでの間、その遺産は相続人全員の共有財産となります。
このような遺産が一時的に共有されている状態を「共同相続」といい、その共有者である相続人たちを「共同相続人」と呼びます。
共同相続の状態を放置してしまうと、預貯金の解約や不動産の売却といった財産の処分・活用が困難になるほか、相続人間のトラブルに発展するリスクも高まります。
法定相続人との違い
「共同相続人」と並んで、相続の場面で用いられる重要な用語に「法定相続人」があります。
これらは混同されやすいですが、意味合いが明確に異なります。
- 法定相続人
- 法定相続人とは、民法で定められた遺産を相続する権利を持つ人のことです。
「法定相続人」という立場は、相続が始まる前から法律で決まっており、遺産分割が終わった後も変わることはありません。法定相続人は、一人だけのこともあれば、複数人いることもあります。 - 共同相続人
- 共同相続人とは、法定相続人が複数いる場合にのみ使われる言葉です。相続が始まってから遺産分割が終わるまでの間、遺産を一時的に共有している状態にある法定相続人たちのことを指します。
そのため、「法定相続人が一人しかいない場合」や、「遺言書によって財産の分け方がすべて指定されていて遺産分割協議が不要な場合」などは、「共同相続人」という言葉も通常は使われません。
また、法定相続人の一人が相続放棄をした場合、その人は初めから相続人ではなかったことになるため、遺産分割協議には参加せず、共同相続人にも含まれません。
共同相続される共有財産の範囲と例外
共同相続人たちが共有する財産の範囲は、原則として遺産分割の対象となるすべての財産です。
たとえば、不動産や現預金、株式など、被相続人が生前保有していたほとんどの財産が当てはまります。
ただし、相続財産の中には、遺産分割を経ずに各相続人に帰属が決まるため、この「共有」の対象とならない例外が存在します。
- 金銭債務(可分債務)
- 被相続人の借金などの金銭債務は、法律上、相続開始と同時に法定相続分に応じて各相続人に自動的に分割されます。
そのため、遺産分割協議の対象とはならず、共有財産には含まれません。 - みなし相続財産
- 死亡保険金や死亡退職金などの「みなし相続財産」は、受取人として指定された人の固有の財産とみなされます。
そのため、原則として遺産分割の対象とはならず、共有財産には含まれません。 - 祭祀財産・一身専属権
- お墓や仏壇といった祭祀財産は、それらを受け継ぐ祭祀主宰者が単独で承継します。
また、亡くなった方個人にのみ認められた権利(一身専属権)も、相続の対象とはなりません。
共同相続における持分割合
遺言書がない場合、遺産分割が終わるまでの間、共同相続人が共有状態の遺産に対して持つ持分は、法定相続分と同じ割合になります。
たとえば、相続人が配偶者と子2人である場合、それぞれの法定相続分は、配偶者が2分の1、子はそれぞれ4分の1ずつとなります。
遺産分割が完了するまでの間、この法定相続分に応じた持分割合に基づいて、各共同相続人は共有財産を管理する権利と義務を負うことになります。
共同相続人ができることとできないこと
共同相続の状態にある遺産は、相続人全員の共有財産です。
そのため、たとえ各相続人に法律上の持分があったとしても、その管理や処分については、民法の共有に関する規定に基づき、一定の制約を受けます。
ここからは、「共同相続人が単独で行える行為」と「共同相続人全員の同意が必要な行為(処分行為など)」をそれぞれ解説します。
共同相続人が単独で行える行為
共同相続人が、他の相続人の同意を得ることなく単独で行えるのは、財産の価値を維持するための「保存行為」などがあります。
- 保存行為
- 共有財産の現状を維持したり、劣化を防いだりする行為を保存行為といいます。他の共同相続人にとっても利益となることから、こうした行為は各相続人が単独で行うことができます。
- 自身の持分に応じた使用
- 各共同相続人は、共有財産を自身の持分の割合に応じて使用することができます。
- 共同相続登記の申請
- 共有財産が不動産の場合、法定相続分に基づいた持分割合で相続登記を申請する行為は、法律上の権利状態を保全する「保存行為」と見なされます。
そのため、共同相続人の一人から単独で行うことが可能です。
共同相続人全員の同意が必要な行為
遺産の売却など、財産の権利そのものに変動を生じさせる「処分行為」や、性質を大きく変える「変更行為」については、共同相続人全員の同意が必要です。
- 処分行為・変更行為(全員の同意が必要)
- 管理行為(持分の過半数の同意が必要)
- 限定承認
なお、遺産分割が終わるまでは、原則として被相続人の預貯金を勝手に払い戻すことはできません。
しかし、令和元年7月1日から施行された「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」により、遺産分割協議が終わる前でも、各相続人は単独で預金の一部を払い戻すことが可能になりました。
この制度で単独で払い戻せる金額は、金融機関ごとに、「(相続開始時の預貯金額)× 3分の1× その相続人の法定相続分」という計算式で算出されます。
ただし、一つの金融機関からこの方法で払い戻せる上限額は150万円と定められています。
処分行為・変更行為(全員の同意が必要)
遺産を売却したり、不動産に抵当権を設定したりするなど、財産の権利そのものを変動させる処分行為は、共同相続人全員の同意が必要です。
たとえば、共有財産が不動産の場合、不動産そのものを共同相続人の一人が単独で売却することはできません。
なお、共有財産の不動産を「自身の持ち分のみ」売却する場合、他の共同相続人の同意は必要ありません。ただし、「買い手が見つかりにくい」「売却価格が大きく下がる傾向にある」などのデメリットが生じます。
管理行為(持分の過半数の同意が必要)
財産の性質を変えない範囲での利用や改良に関する行為(短期の賃貸借契約を結ぶ等)を管理行為といいます。
管理行為は処分行為とは異なり、各共同相続人の持分の価格に従い、その過半数の同意で決めることができます。
限定承認
共同相続人のうち一人が「限定承認」を相続方法として選択する場合も、共同相続人全員が共同して申し立てる必要があります。
一人でも単純承認を希望する相続人がいると、限定承認は選択できません。
不動産の場合は共同相続状態を放置するとリスクが大きい
共同相続の状態が継続すると、特に不動産に関しては使用方法や費用の負担を巡って、共同相続人間でトラブルに発展する可能性があります。
- 使用方法を巡る対立
- 共同相続人の一人がその不動産に無償で住み続けている場合、他の相続人との間で不公平感が生まれ、「家賃相当分を支払ってほしい」「出て行ってほしい」といったトラブルに発展することがあります。
- 管理を巡る対立
- 共有状態の空き家などは、固定資産税や管理費用の負担、あるいは「清掃や修繕の手間を誰が負うのか」といった点で対立が起こりがちです。
また、当事者意識の希薄化から管理が放置され、近隣トラブルの原因となる危険性もあります。
また、不動産の共有状態を放置し続けた場合、以下のような悪影響が出るかもしれません。
- 不動産の売却や活用が困難になる
- 次の相続で権利関係がさらに複雑化する
- 相続登記の義務化に対応できない
不動産の売却や活用が困難になる
遺産の共有状態を放置すると、その財産をスムーズに活用したり、売却したりすることが困難になります。
特に不動産の場合、全体を売却するなどの処分行為には、共同相続人全員の同意が不可欠です。
そのため、一人でも反対者がいたり、連絡がつかない共有者がいたりすると、たとえ売却の好機であっても不動産を現金化できません。
結果として、活用予定のない不動産が共有状態のまま放置され、管理コストや固定資産税だけがかかり続けるという事態に陥りがちです。
なお、共有状態にある不動産の固定資産税は、原則として共有者全員が、それぞれの持分割合に応じて負担します。
共有者全員には連帯納税義務が課せられているため、もし誰かが支払いを滞納した場合、他の共有者がその分を立て替えて支払わなければなりません。
次の相続で権利関係がさらに複雑化する
共同相続の状態が解消されないまま共有者の一人が亡くなった場合、その人が持っていた共有持分は、さらに次の世代の相続人たちへと引き継がれます。
これにより当初は数人だった相続人が、数十年後には数十人に膨れ上がっているというケースも珍しくありません。
共有者が増えるほど、「おじ・おばと甥・姪、いとこ同士」といったように、当事者間の関係性も希薄になりがちです。
遺産分割協議で全員の意思を統一したり、不動産売却時に合意を取ったりする場合に手間と時間がかかる恐れがあります。
相続登記の義務化に対応できない
令和6年4月1日から、相続または遺贈によって不動産を取得した相続人は、「その取得を知った日から3年以内」に相続登記を申請することが法律で義務付けられました。
正当な理由なくこの義務を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
もし遺産分割協議が長引く場合は、この義務を果たすための一時的な措置として、「遺産分割協議が成立するまでの間だけ、暫定的に法定相続分に従って相続人全員の共有名義で相続登記を行う」共同相続登記という手段もあります。
ただし、この共同相続登記は、共同相続人の一人から単独で申請可能ですが、以下のようなデメリットがあるのです。
- 費用・手続きの二重負担
- 暫定的に共同相続登記を行い、その後に遺産分割が成立して特定の相続人の単独名義にする場合、登記手続きを2回行うことになり、その都度、登録免許税などの費用もかかります。
- 税金などの負担
- 共同相続登記をすると、各共有者は自身の持分割合に応じて、固定資産税などの費用を負担する義務が生じます。
そのため、相続登記の期限が迫っている場合は「相続人申告登記」の活用をおすすめします。
相続人申告登記とは、申請期限内に「不動産を所有していた被相続人が亡くなって相続が発生したこと」「自身がその不動産の相続人であること」を法務局に申し出ることで、簡易的に登記義務を履行できる制度です。
ただし、相続人のうち一人から単独で申請することができますが、相続人申告登記をしても不動産の帰属が確定するわけではありません。
したがって、遺産分割協議が成立するなどして不動産の取得者が最終的に決まった場合は、その日から3年以内に、合意内容に基づいた相続登記を改めて申請する必要があります。
共同相続状態を解消するための遺産分割の主な流れ
共同相続の状態を解消し、各相続人が財産を単独で所有するためには、遺産分割を完了させる必要があります。
亡くなった方が遺言書を遺している場合は、原則としてその内容が優先されます。
遺言書がない場合は、「誰が、どの財産を、どのように引き継ぐのか」を遺産分割協議で決めます。
- 相続人を確定させる
- 相続財産を把握する
- 分割方法のたたき台を準備する
- 相続人全員で分割方法を話し合う
- 遺産分割協議書を作成する
遺産分割の話し合いでは、個々の財産を以下の4つの方法のうち、どれで分けるかを決めていきます。
- 現物分割
- 「不動産は長男、預金は次男」のように、財産をそのままの形で分ける方法。
- 代償分割
- 不動産など分けにくい財産を相続人の一人が取得し、その代わりに他の相続人へ自身の財産から現金を支払う(代償金を支払う)方法。
- 換価分割
- 不動産などを売却して現金に換え、その現金を相続人間で分ける方法。
- 共有分割
- 遺産を複数の相続人で共有名義にする方法。
ただし、共有分割は実質的に共同相続の状態を継続させるものであり、これまで述べてきた様々なリスクを将来に持ち越すことになるため、特別な事情がない限り避けるべきです。
遺産分割協議が成立したら、その合意内容を証明する遺産分割協議書を作成します。この書類があることで、預貯金の解約や不動産の名義変更といった具体的な相続手続きを進めることができます。
なお、遺産分割協議自体に法律上の期限はありません。しかし、相続税の申告が必要な場合は、申告期限(相続開始を知った日の翌日から10カ月以内)までに協議を終わらせないと不利益が生じるため、この期限が一つの目安となります。
複数の相続人がいる場合に準確定申告が必要なケース
被相続人に「年収が2,000万円を超えている」といった確定申告の必要があった場合、相続人は「相続の発生を知った翌日から4カ月以内」に準確定申告の手続きをしなければなりません。
準確定申告とは、年の途中で亡くなった納税者の代わりに、相続人(包括受遺者を含む)がその年の1月1日から死亡日までの所得金額を計算し、申告と納税を行うものです。
準確定申告は相続人全員の連名で行いますが、納める税額は法定相続分又は指定相続分に応じて負担します。
申告書を別々に提出することも認められていますが、その場合は、自分が申告した内容を他の相続人や包括受遺者へ必ず通知する必要があります。
共同相続など相続の疑問は専門家にご相談を
共同相続人が関わる相続手続きは、単独相続と比べて手間が増え、複雑な法律上・税務上の問題が絡み合います。
また、共同相続の状態は放置する時間が長くなるほど、次の相続が発生して共有者が増えるなどの影響が生じ、解決はますます困難になります。
そのため、少しでも不安やお悩みがあれば、できる限り早期に専門家へ相談することが重要です。
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