農村部の高齢化や人口減少により、就農者の数は年々減っていますが、農地売却は難しいという固定概念もあるため、人に貸す例や耕作放棄する例も多いようです。
農家では「土地は代々守るもの」という考え方も根強いため、農業を引き継ぐ気はないが心情的に売りにくい、というケースもあるでしょう。
しかし耕作放棄地は周辺農地へ害を及ぼす可能性もあるため、就農しないのであれば早めの売却が得策かもしれません。
今回は農地の売却にかかる税金や、節税対策となる特別控除について解説します。
確定申告までの手順や必要書類もわかりやすく解説しますので、農地売却を検討しておられる方はぜひ参考にしてください。
目次
農地を売って得た利益は税金の課税対象になりますが、売買契約時にかかる税金も含め、以下のような種類があります。
譲渡所得は給与や事業所得との分離課税であり、確定申告が必要になるので注意してください。
また、農地の所有期間によって適用税率も変わるので、各税金の特徴も理解しておきましょう。
農地売却によって利益が出た場合は、その利益に対して譲渡所得税が課税されます。
また、譲渡所得税の税率は土地の所有期間によって異なり、2037年12月31日までは所得税率に2.1%を乗じた復興特別所得税も加算されます。
譲渡所得税と同じく、住民税の適用税率も農地の所有期間によって変わります。
農地の売買契約書は課税文書(第1号文書)になるため、印紙税が発生します。
税額は取引金額によって変わりますが、2014年4月1日から2022年3月31日までの不動産譲渡には軽減措置があるため、最高50%の割引きとなっています。
参考:
印紙税額の一覧表(国税庁)
印紙税の軽減措置(国税庁)
土地を売却すると所有権も移転するため、売り主から買い主への変更登記も必要です。
登録免許税は所有権の移転手続きの際に支払う税金ですが、不動産売買の場合は以下のように税額を計算します。
一般的には買い主負担となる税金ですが、状況によっては売り主側も一部を負担するケースがあります。
農地を売却した際、利益(譲渡所得)が出ているかどうかは以下の計算式で求めます。
たとえば、800万円で購入した農地を2,500万円で売却し、譲渡費用が500万円かかったとすると、譲渡所得は以下のようになります。
この場合は譲渡所得1,200万円が課税対象になりますが、結果がマイナスであれば所得が発生していないため、譲渡所得税や住民税などはかかりません。
農地には先祖代々引き継がれてきたものが多く、いくらで取得(購入)したのかわからない場合もあります。
取得費が不明な場合は「売却額の5%」を取得費として計算するため、譲渡所得は以下のようになります。
先ほどの計算より譲渡所得が675万円増えるため、税金もそれだけ高くなるということです。
なお、取得費には以下のような費用や税金が含まれます。
農地は一般的な宅地に比べて特殊性が強く、個人で買い手を見つけるのはとても困難な作業です。
しかし自治体レベルで農業基盤の強化を目指しているケースもあり、農地拡大を検討している人へ売地として斡旋してくれる場合もあります。
買い手が見つかりやすく、次のような特例も受けられるので、売りたい農地がある場合はぜひ検討してください。
農地売却には農業委員会の許可が必要となりますが、農地拡大希望者などに土地を斡旋してくれる場合があり、譲渡所得から800万円を控除できる特例も使えます。
また、各都道府県では農地保有合理化法人を市町村に設置しており、農業基盤を強化するため農地売買や貸付信託なども行っています。
国内農業の強化や維持にも繋がるため、農地保有の合理化となる売却であれば、800万円の特別控除を受けられる可能性があるでしょう。
ただし、抵当権が設定されている農地は対象外なので注意してください。
控除の対象は農用地区内の農地であり、以下の要件を満たしている必要があります。
農地の有効活用を目的とした取り組みが農用地利用集積計画であり、計画推進への協力となる農地売却であれば、800万円の特別控除が適用されます。
農地保有合理化のために農地を売却し、800万円の特別控除を受けるためには確定申告が必要です。
また、申告の際には以下の書類も添付します。
農業経営基盤強化促進法の買入協議によって農地が買い取られると、譲渡所得から1,500万円を控除できます。
農業委員会に売却の斡旋を申し出た後、各自治体によって買入協議が行われ、買い入れとなった場合は農地中間管理機構(農地バンク)に譲渡される仕組みです。
また、農業経営基盤強化促進法の特例農用地利用規程にもとづく買い取りであれば、2,000万円の控除も受けられます。
控除額の大きな特例ですが、どちらも農業委員会の許可が必要であり、特例農用地利用規程の実施区域内にある農地が対象です。
対象面積などの条件も自治体によって異なるため、詳細は役所の担当窓口や農業委員会へ確認してください。
農業経営基盤強化促進法による農地売却の場合、各自治体によって必要書類は若干異なりますが、以下のような書類の提出が求められます。
レアケースにはなりますが、土地収用法による農地買取であれば5,000万円の特別控除を受けられます。
公共事業を目的として国の指定業者が農地を買い取る場合、確定申告によって5,000万円まで所得控除が認められるのです。
確定申告には業者から交付される買取証明などを添付するので、関連書類は大事に保管しておいてください。
譲渡所得がある場合は管轄税務署に確定申告しますが、特別控除を使って税金がゼロ円になった場合でも申告は必要です。
農地を売却した翌年の2月16日~3月15日までが確定申告の期間ですので、以下の書類を揃えて申告します。
(1)~(3)は税務署窓口または国税庁ホームページから入手でき、(4)は法務局の窓口やオンライン請求で取得できます。
上記の書類とともに、各特別控除に必要な書類も提出します。
農地の条件によっては特別控除が利用できず、農業委員会に売却が許可されない場合もあります。
このようなケースでも売却できる可能性はありますが、宅地への転用など、その他の方法も検討してください。
不動産会社の中には、売れる見込みのない農地でも引き取ってくれる業者があります。
つまり、売却ではなくお金を払って引き取ってもらう方法ですが、今後支払い続ける固定資産税や農地の管理費と比較し、メリットがあれば検討してもよいでしょう。
ただし、引き取り業者の数が少なく、料金の相場もわかりにくいため、契約は慎重に進める必要があります。
市街地または市街地に近いエリアなど、条件がよければ土地活用による節税も検討してください。
賃貸アパートやマンション、駐車場など活用方法は様々ですが、農地の場合は土地改良も必要となり、建築用の資金も準備しなくてはならないため、それなりのリスクもあります。
ただし、事業として成功すれば固定資産税や都市計画税は減額され、相続の際にも有利になるため、各業者や金融機関、税理士を交えて検討するとよいでしょう。
税金の免除や所得控除ではありませんが、以下の要件を満たして農地を贈与した場合、贈与税の納税が猶予されます。
納税猶予の対象は受贈者(農地を引き継いだ人)ですが、相続人に認定農業者がいる場合は検討してもよいでしょう。
他にもいくつか要件はありますが、基本的に受贈者が農業を続けている限り贈与税はかからず、死亡した場合は免除となります。
また、この制度は相続にも使えますが、相続人が20年以上農業を継続することも条件になっています。
農地の売却はかなり特殊で、一般的な宅地に比べて情報もあまり多くはありません。
そこで「よくある質問」をまとめましたので、農地売却を検討する際の参考にしてください。
登記上の地目が田や畑になっている場合、その農地は農業委員会の管理下に置かれます。
したがって農地の売買には農業委員会の許可が必要であり、また農業委員会の斡旋なしで売却した場合は所得控除の特例も受けられなくなる可能性があります。
また、宅地に転用して売却する場合も農業委員会への届け出が必要であり、すぐに売れなければ固定資産税の負担も重くなります。
農地の固定資産税は優遇されていますが、宅地の場合は課税標準額の1.4%になるため、一気に税金が高くなる可能性もあるでしょう。
前述したように、贈与税や相続税の納税猶予については受贈者や相続人の農業継続が条件となります。
そのため、農業を辞めた場合や農地を売った場合は猶予の打ち切りとなり、相続税や贈与税を納めることになります。
なお、耕作放棄や譲渡、貸付している面積が全体の2割以下であれば、贈与税や相続税の一部を納めますが、2割以上の場合は全額納付となります。
また、農業の継続を証明するため、3年ごとに継続届出書や農業委員会の証明書を税務署に提出しなければなりません。
今回は農地売却に使える特別控除について解説しましたが、同時に農地の特殊性もご理解いただけたことでしょう。
譲渡や貸し付け、転用にはすべて農業委員会の許可が必要なので、不動産会社に出向いて買い手を探すというわけにはいきません。
しかし一方では、農地の維持や後継者不足への対策も推進されているため、条件が折り合えば有利な売却も可能になるでしょう。
農地売却を予定している場合、まずは農業委員会への相談をおすすめしますが、確定申告や登記も関係するため、税理士や司法書士の協力もあるとよいでしょう。