東京弁護士会所属。
「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。
初心を忘れず、研鑽を積みながら、クライアントの皆様の問題に真摯に取り組む所存です。
会社の事業の継続が難しくなった場合は、裁判所に介入してもらって法人の債務整理の手続きをとる方法があります。
裁判所の介入と聞くと敷居の高い印象がありますが、それぞれの方法には特徴とメリットがあり、概要を把握しておくと役立ちます。
そこで今回は、裁判所による法的整理の方法をご紹介します。
裁判所に申し立てて債務整理の手続きを行った場合、一度は倒産した企業であると評価されてしまうことで整理後の事業の継続は難しくなるというイメージがあるかもしれません。
その点、債務整理をおこなった小売業者や建設業者など、整理後に堅実な再生を達成しているケースは少なくありません。
バブルの崩壊以降、会社や企業の倒産が日常茶飯事となった昨今においては、法的に整理状態にあるからといって、今後の取引に関して致命的な状態であるという評価は値しないといえます。
裁判所の介入による債務整理をいたずらに躊躇するのではなく、建設的な選択肢の一つとしてしっかり検討することが重要になります。
裁判所を利用して法的な債務整理を行うと、法律の規定に基づいて会社の負債を大幅に減額できる可能性があります。債務としての負担を軽減することで、再生に必要な企業としての体力を回復することにつながります。
債務整理を申し立てることによる間接的な効果としては、事業に投資してくれる新たな出資者や、事業の譲り受けを希望する企業など、事業を再生させる鍵となるような新しい支援者が現れる可能性も期待できます。
債務整理は企業に対してお金を貸している側である債権者にとってはメリットがないようなイメージがありますが、実際には債務整理で切られた貸付の分については、その全額が無税償却の対象になるという利点もあります。そのため、債権者が貸付を切ることに応じてくれる可能性も高くなります。
上記のように裁判所を介した債務整理には複数のメリットがあるため,会社の状況に応じて柔軟に活用することが有効です。以下、裁判所を介した債務整理の概要について、手続きごとにみていきます。
民事再生は、2000年に施行された民事再生法に基づく事業再生の方法で、裁判所を介する法人債務整理の方法としては比較的新しい部類に入ります。
民事再生の最も大きな特徴は、手続きに入ったあとでも従来の経営者が事業を続けることができるという点にあります。
従来の方法では、いったん法的な整理に入ると経営者がそのまま事業を継続することができないのが一般的であったため、会社がどうにもならなくなった状態で初めて債務整理の手続きに入るというケースが少なくありませんでした。
民事再生を利用すると事業を継続しつつ経営再建を図ることができるため、手遅れになる前に有効に手続きに入れるという点で大きなメリットがあります。
また、申し立てから再生に入るまでの手続きが迅速に行えるように工夫されていることから、半年など比較的短い期間で事業再建を図れる点も魅力です。
ただし民事再生には、下記のような多額の費用もかかります。
債務金額 | 予納金額 |
---|---|
5,000万円未満 | 200万円 |
5,000万円~1億円未満 | 300万円 |
1億円~10億円未満 | 500万円 |
10億円~50億円未満 | 600万円 |
50億円~100億円未満 | 700万円~800万円 |
100億円~250億円未満 | 900万円~1,000万円 |
250億円~500億円未満 | 1,000万円~1,100万円 |
500億円~1,000億円未満 | 1,200万円~1,300万円 |
1,000億円以上 | 1,300万円以上 |
最低でも200万は費用なので、多額の費用が必要なことを覚えておきましょう。
特定調停とは、債務の返済が困難となった債務者が簡易裁判所に申し立て、裁判所が債権者との仲裁役となって債務を円滑に整理できるようにする手続きです。
特定調停の債務整理としての特徴は、担保権の実行や強制執行の手続きを停止させることができる点にあります。手持ちの不動産に抵当権が設定されているが返済するあてがない場合などに有効です。
特定調停のメリットは、借り入れをした当初にさかのぼり、利息制限に関する法律を適用して金利を引き下げて再計算することで、実質的に債務の額を減らす効果が得られることです。
また、特定調停は特定の債権者との債務関係に限定して裁判所に手続きを申し立てることが可能なので、重要な取引先を債務整理に巻き込んで関係を悪化させたくないという場合に有効な選択肢になります。
会社更生は会社更生法に基づく裁判所の手続きで、対象になるのは株式会社です。裁判所が更生管財人を選び、管財人の主導に基づいて厚生計画を立て、債権者などの利害関係人の利益を調整しつつ事業の再建を目指すものです。
会社更生は利用できるのが株式会社に限定されますが、租税や担保権など本来優先される債権を有する債権者も原則として手続きに従うことになるため、手続きとしては比較的強力なものになっています。
また、会社更生が認められると会社法の特則の対象となり、合併や増資、取締役や会社の定款変更など、会社の組織を改編するための重要な各手続きを容易に実施できるようになります。
一方、会社更生は必要な手続きや作業が膨大であり、事業再編までに長期間を要する場合が多い、それまで発行していた株式がいったん無価値となるため、ワンマンオーナーや同族経営では手続きを利用しにくいなどの特徴もあります。
会社・法人の破産も法的整理の方法になります。
破産とは、会社の債務・財産をすべて清算したのち、法人格を消滅させて、すべての債務・税金などを消す行為です。
「破産=会社を終わらせる最終手段」というイメージがあるかもしれませんが、メリットのある法的整理の1つです。
破産のメリットは、債務・税金などの支払いがすべて消滅することでしょう。
毎月の支払いや資金繰りに頭を悩ませることなく、すべてを一旦ゼロにできます。
ただし会社の資産、連帯保証人になっている場合は自分の資産をすべて売却して、返済に使わなければいけません。
破産の流れは下記のようになっています。
会社によって異なりますが、破産の手続きは一般的に半年程度かかります。
破産手続きを行うときに、裁判所へ予納金(20万円程度)を納めなければいけません。
上記では法的整理について説明しましたが、裁判所が介入しない「私的整理」という方法もあります。
私的整理と法的整理(民事再生)の違いは、下記の通りです。
項目 | 私的整理 | 民事再生 |
---|---|---|
費用 | 原則かからない | 200~1300万円 |
対象債権者 | 金融機関のみを対象 | すべての債権者が対象 |
秘密性 | 金融機関以外には知られにくい | 債権者だけでなく、取引先に知られる可能性がある |
事業への影響 | 公に知られる可能性が低いため、事業への影響も少ない | 公に知られる可能性が高く、事業への影響も大きい |
手続きの透明性について | 債権者との合意が取れればいいため、不透明になってしまう場合もある | 裁判所の監視下で進むため、手続きの透明性は保たれる |
計画成立要件 | 全員の合意が必要になる | 多数決で成立できる |
権利変更の内容 | 返済の期間設定から、債権カットまで柔軟に設計できる | 厳格なルールがある(債権の返済は最長10年) |
債権者の回収額 | 民事再生を超える回収ができる可能性が高い | 多額の回収は困難なケースが多い |
成立までの必要期間 | 3ヶ月〜数年 | 6ヶ月程度 |
私的整理は裁判所が介入せず、会社と債権者の話し合いで行います。
法的整理とは違い、手続き費用がかからなかったり、債務返済のスケジュールを柔軟に設定できたりとのメリットもあります。
裁判所を介した債務整理の方法として、民事再生、特定調停、会社更生の手続きをご紹介しました。
従来の経営者がそのまま事業を継続できる、強制執行の手続きを停止できる、合併や増資など再編に必要な手続きを行いやすいなど、それぞれの手続きごとに独自のメリットがあります。