最終更新日:2023/7/28
合同会社は怪しくない!巨大有名企業も多数ある合同会社が人気の理由とは
ベンチャーサポート税理士法人 税理士。
大学を卒業後、他業種で働きながら税理士を志し科目を取得。
その後大手税理士法人を経験し、現在に至る。
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この記事でわかること
- 「合同会社」におけるメリットがわかる
- 有名企業や大手の「合同会社」の例がわかる
- 「合同会社」を選んで起業する人が、なぜ増えているのかがわかる
現在設立される法人の中で、大半を占めるのが株式会社と合同会社です。
株式会社は多くの方がご存知ですが、合同会社の方は、今でこそ知名度が上昇し、大手外資系企業なども合同会社を選択している状況となりましたが、一部ではまだわからない・怪しいというイメージを持つ向きもあるかもしれません。
そこで、合同会社について詳しく説明いたします。
目次
合同会社とはどんな会社?
合同会社は2006年の会社法改正でスタートした制度です。
これまであった「有限会社」が廃止(ただし、当時より存在した有限会社は、「みなし株式会社」として、名前は有限会社、中身は株式会社として扱われる)され、代わりに、合同会社という制度が制定されました。
他にも合同会社と同じ持分会社に分類され、昔から存在する「合資会社」「合名会社」もありますが、現状では合資会社・合名会社が新規で設立されることは極めて少ないといえます。
同時に、株式会社設立時における資本金の条件が緩和されました。
これまで、株式会社の設立には1,000万円以上の資本金、有限会社の設立には300万円以上の資本金が必要でしたが、会社法改正後は、合同会社・株式会社とも1円の資本金から設立できるようになりました。
こんな有名企業も合同会社
合同会社は、アメリカのLLC(リミテッド・ライアビリティ・カンパニー・Limited Liability Company)の仕組みに習ってつくられた制度です。
そのため、合同会社の形態を導入している企業は、外資企業や外資と内資の合弁企業が中心です。
実際に、Apple Japan合同会社、アマゾンジャパン合同会社、コーチジャパン合同会社(現在は、タペストリー・ジャパン合同会社に変更)、シスコシステムズ合同会社などの外資系や、日本ケロッグ合同会社、合同会社西友など外資と内資の合弁会社が目立ちます。
ただし、合同会社DMM.com、乃木坂46合同会社など、国内メインの著名な企業でも、合同会社という形態を選択するケースも出始めています。
合同会社というと、「怪しい」という先入観を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、これらの名だたる会社が合同会社の形態を取っていることを考えると、合同会社に対する怪しいイメージもなくなっていくのではないでしょうか。
合同会社におけるメリットとデメリット
合同会社のメリット・デメリットを、端的に確認してみましょう。
メリット | デメリット |
---|---|
設立が安く、早くできる | 最近は知名度が増えたとはいえ、株式会社に比べるとまだマイナーである |
役員の任期に定めがないため、任期更新の手続きが不要 | 肩書きは「代表社員」。「社長」と比べて世間になじみがない |
決算公告が不要なため、資産管理会社など、数字をあまり表に出したくない会社に向いている | 会社を拡大する上で、外部から出資を募る場合は株式会社に組織変更をする必要がある |
出資額にかかわらず、社員全員の同意があれば利益を自由に配分できる | |
出資者=社員(株式会社でいう株主)のため、外部から乗っ取られにくい |
この後で、各事項について詳しく説明しますが、合同会社のメリットは、設立の早さ・安さ以外にも複数あることがおわかりいただけるかと思います。
また、こちらの表で説明した知名度に関するデメリットは、Amazon・Appleなどメジャーな合同会社も増えてきたことで、今後改善される見込みがあることもポイントでしょう。
株式会社と合同会社の違いとは
株式会社と合同会社の違いを知るうえでは、両者の特徴を比べてみるとわかりやすいかと思います。
それでは、株式会社と比較して、合同会社の特徴的な部分を見てみましょう。
株式会社と合同会社の違いとは
株式会社と合同会社の違いをリストにしました。
出資者の名称 | 株式会社では「株主」といいますが、合同会社では「社員」といいます。 |
---|---|
業務執行者と出資者 (お金を出す人)の関係 | 合同会社の場合、業務執行者と出資者は同一です。 株式会社の場合、業務執行者と出資者が異なるケースがあります。 |
業務執行者の任期 | 合同会社の場合、任期に定めはありません。株式会社の場合、2年から10年の任期を定める必要があります。 登記手続きを怠る(登記懈怠・とうきけたい)と、科料(罰金)が株式会社の代表取締役に課されたり、休眠会社と見なされた場合は、法務局の職権で「みなし解散」などの処分をされる可能性もあります。 |
決算公告 | 合同会社の場合は、毎年の官報(国の日刊新聞)などへの決算公告が不要です。 株式会社は官報、Web広告などの形で、毎年決算を公に知らせる必要があり、費用がかかります。 |
出資者への利益配分 | 合同会社の場合、社員の合意があれば、出資割合に関係なく自由に利益を配分できます。 一方、株式会社は株式の割合に応じて配分します。 |
持分(株式)の譲渡 | 合同会社の場合、持分(出資分)の譲渡については、社員全員の同意が必要となります。 株式会社の場合は、譲渡制限をかけることも、自由にすることも、両方可能です。 |
設立費用が安い! | 一部の手続き(公証人役場での定款認証など)が不要かつ、法務局に納める登録免許税が安いため、株式会社より大幅に安く設立できます。詳しくは後ほど説明します。 |
設立にかかる時間が早い | 公証人役場での定款認証の手続きがないため、株式会社よりも数日から1週間、早く設立できます。 |
こうして見てみると、合同会社というに前向きになる方が多いのではないでしょうか。
すぐにでも多大な出資金が必要である方は株式会社の方がよいかもしれませんが、まずは、会社の設立、確実な運営を目指す方にとっては、合同会社という選択に大きなメリットがあるといえましょう。
株式会社と合同会社の初期費用の差
株式会社と合同会社では、初期費用に大きな違いがあります。
自分で行うケースと、専門家に依頼するケースの2種類で、想定してみましょう。
<自分で行うケース>
名目 | 合同会社 | 株式会社 |
---|---|---|
法務局に納付する登録免許税 | 60,000円~ | 150,000円~ |
定款に貼付する収入印紙代 | 40,000円 | 40,000円 |
公証人役場での定款認証費用 | 0円 | 約52,000円 |
合計 | 100,000円~ | 約242,000円~ |
自分で行うケースでは、合同会社の方がざっと14万円安くなる計算になります。
<法人設立の専門家に依頼する場合>
名目 | 合同会社 | 株式会社 |
---|---|---|
法務局に納付する登録免許税 | 60,000円~ | 150,000円~ |
定款に貼付する収入印紙代 | 0円 | 0円 |
公証人役場での定款認証費用 | 0円 | 約52,000円 |
専門家報酬 | 0円~数万円 | 0円~数万円 |
合計 | 60,000円~ | 約192,000円~ |
専門家に依頼する場合も、合同会社の方がおよそ13万円安くなる計算になります。
なお、専門家に依頼するほうが自分で設立するより合計金額が安いことに疑問を感じた方もいるでしょう。
それは、専門家に依頼すると収入印紙代が不要になるうえ、法人設立手続きの報酬が無料の場合があるためです。
実際に報酬がいくらになるかは専門家によるので、事前確認をしてください。
いずれにせよ、ここでのポイントは、合同会社のほうが株式会社を設立するより、初期費用が安いということです。
次章では、初期費用が安いというメリットも含めて「合同会社が人気になってきている背景」を詳しく解説したいと思います。
合同会社が人気になってきている背景
合同会社が人気になってきている大きな要因の一つは、合同会社が、安く・早く設立できるという点です。
同じ会社設立でも、合同会社であれば、株式会社に比べ実費の部分で、13万円~14万円安くなります。
また、必要な手続きも少ないので、時間も短縮できます。
また、税理士等専門家との、一定期間の顧問契約が前提というケースが多いですが、専門家に支払う手続費用が無料というケースもあります。
合同会社は柔軟性が高い
合同会社は、原則「働く人」=「出資者(社員)」という関係ですので、社員の同意が得られればすぐに行動に移すことができます。
一方、株式会社の場合重要な意思決定においては、株主総会・取締役会などの手続きが必要です。
つまり、合同会社は株式会社に比べて、重要な意志決定をより迅速に行うことができるのです。
株式会社は、外部からの資本集めはしやすいが、株式の保有割合に気をつける必要がある
株式会社の場合、重要な意思決定にあたっては、株主総会や取締役会で承認手続きが必要です。
さらに持株の所有率によって決定できることが異なり、合同会社のような迅速な意志決定は難しくなります。
株式の保有割合で、大きな分かれ道になるのは、持株3分の2、過半数、3分の1です。
それぞれで決定できることを表にしてみましょう。
株式の保有割合 | できること |
---|---|
3分の2超 | 株主総会での特別決議を単独でできるため、組織に関するあらゆる意志決定ができます。 定款を変更したり、事業譲渡・合併・会社分割など、会社に関わる重大な決断をすることが可能です。 |
過半数 | 株主総会普通決議の単独可決ができ、「取締役の選任・解任を初めとする、会社の意志決定に大きく関わることができ、株式の過半数を維持することが、オーナーとして経営に携わりたい場合は重要になります。 |
3分の1超 | 株主総会決議の単独否決ができ、組織に関する不本意な意志決定に、異議を申し立てることができます。 |
一般的に、会社の過半数の株式を取得していると、その会社を実質的に支配しているということができます。
このように、株式会社は外部からの資本が調達しやすい反面、株式の割合で決定権が決まるという原則に気をつけないと、会社を実質的に外部から支配されてしまう可能性もあります。
資本政策に関して注意が必要です。
合同会社は、一人会社・プライベートカンパニーに特に活用されている
近年はITの発達やクラウドソーシングの広まりもあり、経理全般を税理士に依頼するだけでなく、一般的な事務作業も委託することで、一人で会社を運営するというケースも増えてきています。
このような、いわゆる一人会社の場合、合同会社はうってつけといえます。
しかも、法人設立というとお金がかかるイメージが強いですが、合同会社を選択すれば、スタート時は最小6万円のコストで「合同会社」というハコを持つことができます。
(もちろん、その後の税務や税金などのランニングコスト及び一定額の資本金は必要ですので、その点は注意が必要です)
一人会社であると、「出資者=自分だけ」というケースも多いかと思います。
ベンチャーキャピタル・個人投資家など、第三者からの資金調達をせず、金融機関からの借り入れや自己資本の活用で事業を行うのであれば、「出資者=経営者・役員」という形態の合同会社は適していると言えましょう。
決算公告・役員の変更登記が不要なのも合同会社のメリット
前項でも簡単に説明しましたが、毎年の官報への決算公告が必要ないということも合同会社のメリットです。
株式会社の場合決算期ごとに、官報やWeb、新聞を通して決算公告を行う必要があります。
枠の大きさにもよりますが、1期分の決算公告で、約75,000円~約112,000円はかかると考えておいた方がよいでしょう。
(この他にも決算費用・税理士報酬など様々な費用がかかります)
また、Web公告の場合、単純に自社Webサイトに決算公告を掲載するだけではなく、電子公告調査会社に調査を依頼する必要があります。
会社によりますが、大手の帝国データバンクですと、1年間に3万円の費用が必要で、掲載した貸借対照表は、5年間継続して掲載する必要があります。
合同会社の場合、この決算公告が不要です。
毎年の決算公告コストを削減でき、また税理士に依頼する際の決算費用自体も株式会社に比べ抑えられるケースが多いのもメリットといえましょう。
株式会社の場合、2~10年ごと役員の登記をする必要があります。
たとえ重任(再度就任すること)するとしたとしても登記自体は必要となるため、都度2~4万万円の出費が必要となります。
もし役員の重任登記を忘れてしまった場合、科料、つまり罰を支払いこととなります。
一方、合同会社は役員の変更登記が必要ないため、そういったコストやリスクもないのです。
芸能人・著名人にとって合同会社は便利
決算が掲載される官報を、その会社に投資していたり、または投資を検討していない一般の人が読むことはあまりないでしょう。
しかし、株式会社の場合、決算を官報などで公に知らせる必要があります。
有名人・著名人なかには、自分の名前や自社名・決算状況をあまり表に出したくないという方も多いでしょう。
合同会社であれば決算公告は不要のため、不特定多数に決算内容を見られるということはなくなります。
この点も、合同会社の隠れたメリットの一つといえましょう。
まとめ
これまで、会社設立というと、第一に「株式会社」というイメージが強い状況にありました。
現在でも株式会社がメジャーなのは確かですが、「合同会社」もさまざまな面で良さがあり、積極的に合同会社を選択する起業家も増えています。
合同会社は、組織に応じて柔軟な意思決定ができ、ランニングコストも安く、出資の持分を問わず業績に貢献した人に利益を還元できるなど、多大なメリットが享受できるといえます。
一方、会社を積極的に成長させたり、外部資本を入れる場合は、株式会社の方が適しているというケースも出てくるでしょう。
合同会社を後から株式会社に変更することは可能です。
そのため、まずは合同会社を設立し、軌道に乗ってから株式会社に改組し、より成長を図っていくというやり方も、一つの方法といえます。
起業は、まずスタートを切らなければはじまりません。
スタートの選択肢として、合同会社という方法も、よいのではないでしょうか。
いずれにせよ、費用面や手間を考慮し、場合により専門家の助けを借りてスムーズな法人設立を目指しましょう。