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最終更新日:2022/6/17

タワマン裁判決着!最高裁の路線価否認の余波|今後の相続税対策への影響は?

古尾谷 裕昭
この記事の執筆者 税理士 古尾谷裕昭

ベンチャーサポート相続税理士法人 代表税理士
東京税理士会 登録番号104851

東京、横浜、千葉、大宮、名古屋、大阪、神戸など全国の主要都市22拠点にオフィス展開し、年間2,200件を超える日本最大級の相続税申告実績を誇る。 業界最安水準となる明朗料金ときめ細かいフォローで相続人の負担を最小にすることを心がけたサービスが評判を得る。1975年生まれ、東京都浅草出身。

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書籍:今さら聞けない 相続・贈与の超基本
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タワマン裁判決着!最高裁の路線価否認の余波|今後の相続税対策への影響は?

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この記事でわかること

  • 相続税の節税と関係したタワマン裁判について知ることができる
  • 国税庁が持つ「伝家の宝刀」とはどのようなものかわかる
  • 不動産を利用した相続税対策の影響について知ることができる

多くの財産を保有する人が亡くなると、相続人が支払う相続税の額は大変大きなものになります。

そこで、相続税の額が少なくなるように相続税対策を行う人も少なくありません。

不動産を保有することで相続財産の評価額を減額し、相続税を抑える相続税対策は、以前から行われています。

しかし、その相続税対策にメスを入れるような裁判所の判決が下されました。

ここでは、その裁判の中身と今後の相続税対策に対する影響について解説します。

注目を集めた「タワマン裁判」とは

ここで取り上げる「タワマン裁判」とは、最高裁判所で令和4年4月19日に判決が下された裁判事例を指します。

どのような裁判だったのか、その内容をご紹介します。

被相続人と相続人

被相続人は平成24年に94歳で亡くなりました。

相続人は2人で、被相続人の残した遺言書に従って遺産を相続しています。

相続税対策に利用した不動産

今回の裁判では、北海道に住む被相続人が相続税対策として、平成21年に東京都と神奈川県川崎市のタワーマンションを2軒購入したことに端を発しました。

東京都内のタワーマンションの購入価格は約8億3,700万円、川崎市のタワーマンションの購入価格は約5億5,000万円です。

これらの物件を亡くなる3年ほど前に購入し、その後の相続税の申告においては、路線価方式で評価額を計算しています。

それぞれの相続税評価額は、東京都内のタワーマンションは約2億円、川崎市内のタワーマンションは約1億3,400万円となっています。

銀行とのやりとり

これだけ高額なタワーマンションを購入するために、被相続人は銀行から借り入れを行っています

東京都内のタワーマンションを購入する際には6億3,000万円の融資を、川崎市内のタワーマンションを購入する際には3億7,800万円の融資を同じ銀行から受けました。

これらの借入金は、相続税の計算をする際には相続財産に含まれるため、課税対象額を大きく減額する効果を持ちます。

実際、この事例では相続人は相続税ゼロとする申告を行っています。

双方の主張

相続人側は、タワーマンションの評価額について原則通り計算したものであり、これ以上の計算は必要ないと主張しました。

これに対し国税側は、タワーマンションを原則通り評価すれば、他の人と比較して税負担が著しく不均衡と考えました。

そこで、原則的な評価方法ではなく、「特別の事情」があるために鑑定額による評価方法を主張しました。

鑑定額による評価方法が認められれば多額の相続税が発生しますので、1審、2審とも国税側が勝訴したことを受けて相続人が上告したのです。

最高裁判所の判断

最高裁判所も2審までの判断を支持し、国税側が全面的に勝訴しました。

相続人が主張していた原則的な評価方法は認められず、タワーマンションの鑑定額による評価が採用されたのです。

土地には4つの評価額がある

相続税の計算を行う際には、すべての相続財産の相続税評価額を求め、その額にもとづいた相続税を計算します。

土地については全部で4つの評価額があり、それぞれ場面に応じて使い分けます。

4つの評価額とは、以下のとおりです。

土地の評価額

  • 路線価
  • 固定資産税評価額
  • 実勢価格
  • 公示地価

それぞれについて簡単に説明していきましょう。

路線価

毎年7月に国税庁が公表している土地の評価額です。

土地の相続税評価額を計算するために用いるものですが、市街地を中心とした地域に路線価が設定され、その評価額は公示地価の80%が目安となっています。

固定資産税評価額

3年に1度、市町村が公表する土地の評価額です。

ただし、国が定めるガイドラインに沿って評価額を求めることから、全国すべて同じ基準で評価額は求められます。

固定資産税の税額を計算するために使いますが、路線価が設定されない地域では相続税の計算にも用いられます。

固定資産税評価額は、公示地価の70%が目安となっています。

実勢価格

実際に土地の売買を行う際の取引価格です。

土地の売買価格は、基本的には公示地価を参考にして決められるものですが、購入希望者が多くいる場合には、その価格は上昇します。

逆に購入希望者があまりいない場合には、その価格を下げないと売却できないこともあります。

このように、実勢価格はその土地の需給を反映したものとなっています。

不動産鑑定を行う際も、この実勢価格を反映しして行うことが多いです。

公示地価

毎年1月1日現在における土地の価格として、3月に公表されるものです。

過去の土地の取引価格を参考に決められ、毎年その価格は変動します。

実際の取引で価格の変動があった場合には、まず実勢価格が変動し、その後公示地価も変更される流れとなります。

最高裁は国税庁の「伝家の宝刀」を認めた

この裁判結果により、最高裁判所は国税庁が持つ「伝家の宝刀」を認めたといわれています。

伝家の宝刀とは、どのようなことをいうのでしょうか。

また、この最高裁判所の判断のポイントはどのような点にあるのでしょうか。

「伝家の宝刀」とは

この伝家の宝刀とは、財産評価基本通達第1章総則6項のことを指します。

財産評価基本通達第1章総則6項は、次のような規定となっています。

「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」

通常は財産評価基本通達に従って評価額を計算しますが、それ以外の方法で評価するように国税庁が指示することを認めています。

今回の裁判事例ではこの規定を踏まえ、タワーマンションを原則的な方法で評価することは認められないとしたのです。

最高裁判所の判断のポイント

最高裁判所は、判決の中で相続税の課税価格に算入される財産の価額について、以下のように述べています。

「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には(中略)・・・当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではない」

引用:裁判所

相続税の課税価格となる相続財産の評価額は、相続税法には「取得の時における時価」としています。

ただ時価の根拠は曖昧で、財産の種類により評価方法が通達で定められており、土地については路線価方式か倍率方式とされています。

しかし、その通達によることが問題となる場合は、それ以外の評価方法で求めた金額を時価とすることを最高裁判所も認めたのです。

最高裁判所の判断の問題点

この最高裁判所の判断において最も問題と考えられているのは、次のような点です。

  • どのような場合に総則6項が適用されるのかを明らかにしなかった
  • ②総則6項が適用された場合に、どのような方法で時価を求めるのかの根拠が不明

特に①の点については、国税庁が原則的な評価方法を否定したことで、相続人が別の方法で評価するように指示されるリスクを抱えることとなりました。

また、他のタワーマンションについては原則的な評価方法が認められているのに、今回は認められなかったのかが明確に提示されていません。

そのため、相続人が相続税の申告をした後にその申告内容が否認されるリスクを避けられなくなったのです。

不動産を使った今後の相続税対策への影響

この判決は、最高裁判所による判断でもあるため、非常に注目を集める結果となりました。

この判決が今後の相続税対策にどのような意味を持つのか、その影響を解説します。

タワーマンションに対する課税が強化される

今回の最高裁判所の判断の背景には、タワーマンションを使った相続税対策の行き過ぎがあります。

この事例でも、タワーマンションを購入していなければ2億円を超える相続税が発生していましたが、実際には当初ゼロとなっています。

このような相続税対策が可能なのは、評価額の計算方法がタワーマンション出現前のまま、一切見直されていないためです。

固定資産税に関してはタワーマンションの評価額の計算方法が見直され、実態に合わせた課税になりつつあります。

相続税についても伝家の宝刀に頼るのではなく、法令や通達に明文の規定が設けられる可能性があるといえるでしょう。

税務署の目がより厳しくなる

今回、相続税対策に利用されたタワーマンションが、実勢価格と評価額の乖離が大きな財産であることは広く知られています。

そのため、これまでも相続税対策に利用されている他、これからも利用される可能性が高いと考えられます。

しかし今回の判決で、評価額の計算方法に問題がある場合は、不動産鑑定士などを利用するように国税庁が指示することが認められました。

実際にどのような場合に評価方法を指示するのか、その詳細な条件はわかりません。

ただ、今回のように金額的な影響が大きい場合や高額な資産に対して納税額がゼロになる場合などは、指示を受ける可能性があります

税務署からそのような指摘を受けた場合には、対応方法について検討する必要があるということです。

あからさまな相続税対策は難しくなる

今回の事例で、被相続人は90歳を超えてから多額の融資を受け、東京近郊のタワーマンションを2軒購入しています。

最高裁判所の判断について議論はありますが、被相続人が行った行為は相続税対策としか受け取られないことが多いでしょう。

このようなあからさまな相続税対策と受け取られやすい方法については、今後何らかの形で規制される可能性があります

また、今回のスキームを成功させるために重要な役割を果たしたのは、融資を実行した銀行です。

しかし相続税対策としての実効性が保証されない状況になれば、そのような融資を行う銀行が減ることも考えられます。

まとめ

相続税対策の大きな目的は、発生する相続税の金額を減らすことです。

そこで、相続財産の評価額を減らすために借金をして不動産を購入するということは、昔から行われてきました。

中でもタワーマンションは、相続税評価額と実勢価格との差が大きいため、非常に効果的な方法とされてきたのですが、今回ご紹介した裁判例によって、今後は路線価方式による評価方法が否認される可能性が出てきました

相続税対策を行う場合は、単に相続税を減少すればいいと考えず、投資を行う理由が説明できるようなものを行いましょう。

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