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最終更新日:2024/6/10

農地相続時の相続税の納税猶予の特例とは?適用要件や免除要件・手続き方法

高山弥生(税理士)
この記事の執筆者税理士 高山弥生

ベンチャーサポート相続税理士法人 税理士。

相続は、近しい大切な方が亡くなるという大きな喪失感の中、悲しむ間もなく葬儀の手配から公共料金の引き落とし口座の変更といった、いくつもの作業が降りかかってきます。おひとりで悩まず、ぜひ、私たちに話してください。負担を最小限に、いち早く日常の生活に戻れるようサポート致します。

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この記事でわかること

  • 農地の納税猶予の特例とは何か
  • 特例を適用するための要件
  • 特例の手続き方法について

相続財産の換金性が低いために、ご家族が亡くなった日から10ヶ月以内に相続税を一括で納税することが難しいケースがあります。
そのようなケースに配慮して、相続税には納税猶予という制度が設けられています。
換金性の低い相続財産につき一定の条件下でこの納税猶予が認められており、具体的には農地・山林医療法人の持分(出資のこと)、非上場株式の3種類が対象となります。

この記事では、そのなかでも適用されることの多い農地相続時の納税猶予について、制度の詳細や注意点を詳しく解説します。
親やその他のご家族が農地を所有している方は、是非とも参考にしてください。

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相続税の農地の納税猶予の特例とは

日本は、昔から農業を推進してきました。

しかし、農地は耕作面積を確保する必要から、どうしても一般的な戸建の宅地と異なりかなりの広さとなります。相続が発生した際に農地に対して一般的な戸建の宅地と同様の課税がされてしまうと、相続税が高額になり、納税のために農地を売却せざるを得ず、相続人が農業を続けたくても続けられない状況が発生することが多々ありました。

そこで、農業を続けたい相続人を保護するため、農業を継続する相続人が農地を相続する場合は、一定の要件を満たせば相続税の納税を猶予する特例制度が創設されました。

相続税の納税猶予の特例の適用要件

被相続人(亡くなった人)について

被相続人は以下の要件のうち、いずれか一つを満たしている必要があります。

  • 死亡の日まで農業を行なっていた
  • 生前に農地を一括贈与した
  • 死亡の日まで営農困難時貸付や特定貸付を利用していた

多くの場合当てはまるのは、死亡の日まで農業を行なっていたということか、農地を生前に一括贈与したという条件でしょう。
営農困難時貸付とは、重度の障害などで農業を継続できなくなったときに、他人に農地を貸し付けることをさします。
特定貸付は、市街化区域外の農地について、農業経営基盤強化促進法等の規定に基づく事業について貸し出すことです。

相続人(引き継ぐ側の人)について

相続人にも要件があります。
相続人は以下の要件をいずれか一つ満たす必要があります。

  • 相続税の申告期限までに農業経営を開始し、継続すること
  • 農地等の生前一括贈与を受けた人の場合、特例付加年金又は経営移譲年金の支給を受けるため、推定相続人の1人に対し農地等について使用貸借による権利を設定したのち、農業経営を移譲して税務署長に届出をした人
    (贈与者の死亡後も推定相続人が農業をしなければなりません)
  • 農地等の生前一括贈与を受けた人の場合で、病気や障害などの理由で、自分で農業のために土地を利用できない人で、かつ貸付けをし、税務署長に届出をした人

農地について

以下のいずれかに該当し、相続税の期限内申告書に特例を利用する旨が記載されたものである必要があります。

  • 被相続人が農業のためや、特定貸付、営農困難時貸付をしていた農地等で、相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
  • 被相続人が生前一括贈与によって取得し、被相続人の死亡の時まで贈与税の特例を受けていたもの

などです。

相続税の納税猶予の特例の手続き方法

相続税の納税猶予の特例を受けるためには、ここまでに示した条件を満たせば当然に適用されるわけではなく、適用を受けるための手続きをとる必要があります。

また、相続税の申告手続き終了後も、納税猶予の適用を受けている間は、3年に一度税務署に継続の届出書を提出しなければなりません。

これから、手続きの内容と必要書類について説明します。

相続税の申告手続き方法・必要書類

農地について相続税の納税猶予の特例を受けるためには、被相続人が亡くなった時から10ヶ月以内に相続税の申告書とともに特例の申請を行う必要があります。期限内に申告をしないと、要件を満たしていても特例を受けることはできません。

また、申告書提出だけでなく、納税猶予の額とそれに伴う利子税の合算額に見合った担保を提供する必要があります。

相続税申告には、下記のとおり一般的な必要書類の他に納税猶予の特例を受けるための必要書類があります。

一般的な必要書類

  • 被相続人の出生から死亡の記載された戸籍謄本
  • 相続人の戸籍
  • 遺言書、遺産分割協議書等

特例のための必要書類

  • 農業委員会による『相続税の納税猶予に関する適格者証明』
  • 担保提供する財産に関する書類(登記事項証明書、固定資産評価証明書等)
  • 特定貸付等に該当する場合、それを証明する書類

納税猶予中の継続届出方法・必要書類

相続税の納税猶予の特例を受けている間、相続人は3年に一度税務署に下記の書類を提出して、継続届出をしなければなりません。

  • 相続税の納税猶予の継続届出書
  • 農業を引き続き行っている旨の農業委員会の証明書
  • 特例農地等の異動明細書
  • 特例農地等に係る農業経営に関する明細書

上記の他にも、営農困難時貸付けや特例貸付けをしている方は、別途提出しないといけない書類があります。

納税猶予が打ち切られるケース

納税猶予の特例を受けることになっても、相続人が下記項目のいずれかに該当する行為をすると、納税猶予が打ち切られ、猶予されていた税額の全部もしくは一部とそれに伴う利子税を支払う義務が発生する場合があります。

全部が打ち切られる場合と、一部が打ち切られる場合に分けて解説します。

全部が取り消しになる場合

全部が打ち切られる場合としては、下記のとおりです。

農業をやめた場合

農業経営をやめてしまった場合は、全部打ち切りになります。
ただし、自分で耕作をしなくなったとしても、他の農家の方に貸し出して耕作してもらう場合は、該当しません。

特例農地等の20%を超える面積を譲渡等した場合

特例農地等の20%を超える面積を譲渡等した場合も、納税猶予の趣旨が農業の保護にあることから、全部打ち切りの対象になります。

継続届出手続きをしなかった場合

継続届出手続きをしなかった場合も全部打ち切りの対象になるので、忘れずに3年に一度手続きをとるように注意が必要です。

一部が取り消しになる場合

次に、一部が打ち切られる場合としては、下記のとおりです。

  • 特例農地等の20%以下の面積を譲渡等した場合
    20%を超えると全部打ち切りの対象になりますが、20%以下だと一部打ち切りの対象になります。
  • 生産緑地法に基づく買取申し出があった場合
  • 特例農地等の収用等があった場合
  • 特例農地が特定市街化区域農地に該当するようになった場合
    生産緑地の買取申し出がされた場合、特例農地等の収容等があった場合、特例農地が市街化区域農地に該当するようになった場合も一部打ち切りの対象になります。
  • 相続税の納税猶予の特例適用時の注意点

    家庭菜園、山林や畜舎の敷地などは対象外

    農地の納税猶予の特例が適用できるのは、農地・採草放牧地・準農地です。
    採草放牧地とは、耕作や家畜の放牧のために使われる土地です。
    地目は、原野または牧場に該当します。
    一方、準農地は農用地区域内にある土地であって、農業振興地域整備計画により用途区分が農地または採草放牧地とされていて、10年以内に開発して採草放牧地や農地にするための土地を言います。
    準農地は10年以内に採草放牧地や農地になるための土地ですから、結局採草放牧地や農地にしなかったという場合には、納税猶予がなくなります。
    注意点として、家庭菜園は農地の納税猶予特例の対象外です。
    さらに、山林や畜舎といった土地も、対象外になります。
    地目が畑や田であったとしても、現況が農地ではない場合も対象外になります。
    原則として、登記簿の地目ではなく現況(現在の状況)によって判断するので、例えば地目が宅地になっていても、実際は農業を営んでいるのであれば、農地の納税猶予を適用できます。
    作物の範囲に制限はありません。

    休耕地の場合

    休耕地は、現在では耕作をしていない土地のことを言います。
    ただし、以下の場合は猶予が適用されます。

    • 耕作をしようとすればいつでもできる休耕地
    • 直前まで農地として工作が行われており、現在は一次的な休耕地になっている土地
    • 土地改良事業や土地区画整理事業、国や地方公共団体の事業のために一時的に使用されている土地

    特例を適用したあとに休耕地を農地以外の土地に転用してしまった場合は、納税の猶予が取り消されます。

    ヤミ小作農地には適用がない

    農業委員会を通さないで農地を貸し借りしていることを、ヤミ小作農地やヤミ耕作と言います。
    悪気があってしているのではなく、親戚や知人相手なので農業委員会を通すのが面倒になってしまい、口約束で貸しているというケースなどがあります。
    農地の納税猶予の特例では、他の農家に土地を貸している人(特定貸付など)の場合にも適用がありましたが、特定貸付は農業委員会を通じて貸付をするものです。
    単に他の農家に口約束で貸しているだけでは、貸付の効果を生じません。
    面倒かもしれませんが、農業委員会の許可を得てから貸付をしてください。
    農地は、自由に売ったり買ったり貸したりできない土地なので、農業委員会の許可が必要です。
    きちんと書類を揃えて申請すれば、難しいことはありません。
    忙しくてなかなか対応できない場合は、行政書士などの専門家にご相談ください。
    ちなみに、ヤミ小作農地をそのまま続けてしまうと、借り手に農地を取られてしまうことや、相続が発生したときに誰に貸しているのかわからないことがあります。
    もちろん、特例も適用できなくなります。
    今まで口約束で土地を貸してきてしまったという方は、まずは農業委員会の許可をとってください。
    「特定農地貸付け承認申請書」などの名称の申請書を農業委員会に提出し、現地調査を受けます。
    自治体によっては特定農地貸付審査基準が公開されていますので、参考にしてください。

    相続税の納税猶予の特例の最近の傾向

    近年の法改正により、相続税の納税猶予の特例にも様々な変更がありました。

    生産緑地指定の要件が緩和

    面積要件が500㎡から300㎡になるなど生産緑地に指定されやすくなったことにより、相続税の納税猶予の特例を受けられる農地の対象になる可能性も高くなりました。

    市民農園として貸し出した場合

    平成30年の改正により、自作農地を相続した相続人が市民農園として貸し出した場合も相続税の納税猶予の特例を受けられるようになりました。

    水耕栽培のための農業用ハウスにした場合

    農地法の改正により、農地をコンクリートで覆ってその上に設備を置く農業用ハウスにした場合でも農地としてみなされることになったため、相続税の納税猶予の特例を受けられるようになりました。

    納税猶予期限の変更

    法改正により、三大都市圏の特定市以外の区域内での生産緑地地区内の農地は、営農の継続要件が20年から終身になりました。

    【その他】相続税の納税猶予が受けられる項目

    ここまで、農地に関する相続税の納税猶予の特例について説明してきましたが、この特例は農地についてのみ認められるわけではなく、他にもいくつか認められているものがあります。

    最後に、特例が認められているもの毎に、簡単に概略を説明します。

    山林

    農業の継続を保護するために農地の相続税の納税猶予の特例があったように、林業の継続を保護するために、山林を相続した場合にも、相続人が林業の経営を継続するなど一定の要件を満たせば相続税の納税猶予の特例を受けられます。
    尚、山林の場合も、林業を継続した相続人が死亡してから6ヶ月以内に税務署に届出をした場合は、納税猶予税額の納付は免除されます。

    医療継続

    今まで医療法人は出資者が出資に応じて持分を有していたため、出資者の死亡に伴い払い戻しがされることにより医療法人の継続が厳しくなることがありました。
    こうした状況を打開するため、平成26年に持分の定めのない新医療法人への移行を促進するために、認定医療法人(平成26年から令和5年までに新医療法人への移行計画につき認定を受けた法人)の持分を相続する際にも、移行計画に定めた期限まで納税が猶予されます。

    非上場株式

    中小企業の大半が該当する非上場株式についても、相続時に円滑な事業承継を進められるよう、相続税の納税猶予の特例が認められています。
    近年では現代表者の生前に円滑な事業承継対策を講じるニーズも多いことから、生前贈与についても贈与税の納税猶予の特例が認められています。
    また、上記特例は相続する株式のうち一定額についてのみ認められていましたが、平成30年から令和9年までの事業承継については、全株式について贈与税・相続税の納税が猶予されます。

    まとめ

    以上、農地相続時の相続税の納税猶予の特例について説明してきました。

    この制度の要点としては、下記のとおりです。

    • 適用を受けるためには、相続税申告時に申告する必要がある
    • 相続税申告時に申告した後も、3年に一度継続届出をしないと特例を受けられなくなる
    • 特例適用中も譲渡等をすると打ち切られる可能性がある
    • 家庭菜園などは特例適用外
    • 市民農園として貸し出した場合も特例の適用を受けられるようになるなど要件が緩和されて、前までより特例の適用を受けられる可能性が高まった

    ご自身に適用できる特例があるかなど、詳しい特例の適用や内容は、税理士に相談すると良いでしょう。相続サポートセンターでは無料相談を行っていますので、お気軽にお問い合わせください。

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