この記事でわかること
- 借金をすると相続税対策になる場合とそうでない場合があることがわかる
- どのような場合に相続税対策として借金が有効となるのかがわかる
- 相続税対策として借金をする場合の注意点を知ることができる
財産が多くある人は、亡くなった時に相続人が納めなければならない相続税の額が大変大きくなります。
そこで生前に、相続財産から差し引くことのできる借金をあえてすることで、相続税対策をすることがあります。
ただ、借金をすることにはリスクもある上、すべての場合で借金をすることが有効となるわけでもありません。
どのような場合に借金が有効となるのか、そしてどのような点に注意すべきなのか、解説していきます。
目次
全てのケースで借金が相続税対策になるわけではない
相続税対策に借金をするといいということを聞いた人が、実際に借金だけをした場合どうなるのでしょうか。
たとえば、5億円の財産を持っている人が、相続税対策として1億円の借金をした場合を考えてみましょう。
この場合、5億円の財産から1億円の借金を差し引いて、相続財産が4億円になると考えるのは間違いです。
なぜなら、借金をした際には、1億円の現金が増えることとなるからです。
その結果、財産は6億円となり、そこから1億円の借金を差し引いても、課税対象となる相続財産は5億円となるのです。
この場合は、借金をしてもしなくても課税対象となる相続財産に変化はなく、借金が相続税対策にはなっていないのです。
相続税対策で借金が有効になるケース
借金をすることで相続税対策になるためには、借金したお金を何か別の用途に使わなければなりません。
具体的にどのような形で資金を活用すれば相続税対策となるのか、その事例を考えてみましょう。
アパートを建設する
相続税対策として借金をしたお金を使い、土地を購入してその上にアパートを建設します。
また、土地を保有している場合には、借金をした資金を利用して土地の上にアパートを建設します。
土地を購入したりアパートを建設したりすると、借金して増加した現金は土地や建物にその形を変えます。
現金の場合は、その金額がそのまま相続税評価額となるため、借金をしても財産の額は減らない状態となっていました。
一方、その現金を使って土地やアパートを建設すると、財産の相続税評価額を減らすことができます。
たとえば、1億円の借金をしてアパートを建設した場合を考えてみましょう。
1億円の借金をしただけでは相続税対策にならないということは、すでに説明しました。
そこで、この1億円を使ってアパートを建設します。
すると、そのアパートの相続税評価額は建設価格の6割程度になると考えられ、6,000万円程度になります。
ただ、この相続税評価額は自分でその建物を使用している場合の評価額となります。
アパートのように他人に賃貸する目的の建物については、さらに借家権割合30%を考慮して減額することができます。
そのため、6,000万円の建物をアパートとして利用する場合、30%を減額した4,200万円が相続税評価額となります。
もともと1億円の評価額だったものが、形を変えたことでその半分以下の評価額となったのです。
また、アパートを建設した土地についても、借地権割合と借家権割合を考慮した減額の計算を行うこととされています。
たとえば借地権割合が60%の土地の場合、借地権割合×借家権割合で計算された18%を減額し、元の土地の82%の評価額となります。
このように、アパートを建設することで、建物や土地の評価額が減額されるのです。
マンションを購入する
借金により増えた現金を使って、マンションを購入することもできます。
購入したマンションの相続税評価は、建物部分と土地部分に分けてその評価額を計算します。
ただ、マンションの評価の大部分は建物としての評価額であり、土地部分の金額はそれほど大きくなりません。
建物の相続税評価額は、購入価格の8割程度になることが多いです。
そのため、マンションを購入しただけでも、相続財産の評価額を減額することができます。
また、このマンションを賃貸物件として第三者に貸し付けている場合には、さらにその評価額が3割減少します。
この場合、賃貸マンションの相続税評価額は、購入価格の56%相当額程度にまで減少するのです。
土地を購入するだけの資金がない場合や土地を保有していない場合には、マンションを購入するだけでも相続税対策ができます。
また、購入したマンションに相続人が住んだり賃貸したりすることで、有効活用することができるのです。
生命保険に加入する
現金を持ったまま亡くなってしまうと、相続財産の評価額を計算する際に有利になることはありません。
そこで利用したいのが、生命保険契約です。
死亡保険金を受け取った相続人は、相続税評価額を計算する際に非課税額を計算することができます。
「500万円×法定相続人の数」で計算される非課税額を利用すれば、相続税の負担を軽減することができるのです。
たとえば1億円の現金で生命保険に加入し、亡くなった後に1億円の死亡保険金を受け取ったとします。
この時、法定相続人が3人いれば1,500万円が非課税となるため、その分相続税の負担が軽減されるのです。
相続税対策で借金が有効にならないケース
相続税対策として借金をし、そのお金を使ってアパートやマンションを購入したのであれば、やるべきことはやったといえます。
ただ、実際にはそれでも相続税対策としては有効といえないケースもあります。
どのようなケースが考えられるのか、その実例をいくつか紹介します。
アパートの収益性が低い場合
借金をし、その資金を使ってアパートを建設すれば、相続財産の金額を減らすことができます。
したがって、相続税対策としては一見成功したように見えます。
ただ、そのアパートの収益性がきわめて低い場合、相続税の節税とは異なる問題が発生することとなります。
それは、家賃収入が少ないために、借金の返済ができないということです。
相続税対策のための借金とはいえ、長い時間をかけて返済しなければなりません。
そして、その返済の原資となるのは、アパートの家賃収入なのです。
収益性の低い場所に無理やりアパートを建てても、資金繰りが苦しくなるだけで借金の返済に行き詰ってしまうでしょう。
借金を残したまま亡くなれば、相続税対策としては有効なように思えます。
しかし、その借金を相続人が返済できなくなってしまうと、結局借金だけが残る結果になりかねません。
相続税対策だけを目的に借金をし、アパートを建設してもうまくいかないことがあります。
不動産経営を行うという視点から、アパート建設を検討する必要があることは忘れてはいけません。
借金をしてから時間がたった場合
アパート建設のために借金をするのにいい時期がいつなのか、その答えはありません。
亡くなる時期については、誰もわからないからです。
一般的に、相続税対策は早めに始める方が色々な手が打てるのですが、あまり早すぎると節税効果がなくなる場合があります。
それは、借金をしてから相続発生までに時間がたっており、その間に借金を返済してしまった場合です。
借金を返済すると、相続税対策として行った借金が何の意味もないということになります。
そればかりか、借金で建設した借金と、その間に手にした家賃収入を考えると、かえって財産が増えてしまうことも考えられます。
相続人が借金を引き継いで返済しなければならないことを考えれば、借金が少なくなることは必ずしも悪いことではありません。
ただ、相続税対策としては有効ではないこともあるため、注意が必要です。
相続税対策の借金で注意したいこと
借金をするということは将来的に借金を返済しなければならないことにつながるため、注意が必要です。
また、相続税対策として借金をすれば、必ず相続税が下がるわけではありません。
相続税対策を行う際には、最低限の相続税のルールについては事前に確認しておくようにしましょう。
アパートの収益性は低下する
アパートの建設を行う際には、不動産経営を行うという視点から検討する必要があることは、すでに説明しました。
ただ、どれだけその立地や間取り、設備などに気を配っても、アパートの収益性は年々低下していきます。
これは、どのような物件でも必ずあてはまることです。
建築してから年数が経過すれば建物や設備は経年劣化が起こり、新築物件と比較すると見劣りしてしまいます。
また、当初はライバルが少なかった地域でも、周辺にアパートが建設されるようになると、価格競争となってしまいます。
これに対して、維持費や管理費は年々増加し、空室率もしだいに上昇することとなるのは避けられません。
大事なのは、アパート経営を考える際にできるだけ多くのリスクを把握しておくことです。
10年後、20年後に収益性が大きく低下しても、借金をきちんと返済できるのか、きちんとシミュレーションしておきましょう。
保険金の受取人は相続人にする
死亡保険金を受け取る際に、1人あたり500万円の非課税枠が使えるのは相続人が受け取った場合に限られます。
相続人でない人が死亡保険金を受け取っても、非課税となる金額は計算されないため、相続税対策にはならないのです。
たとえば、孫が死亡保険金の受取人となっているケースが考えられます。
この場合、孫が法定相続人とならない時は非課税額の計算を行うことができないのです。
【補足】相続財産より借金が多いときの対処法
最後に、相続税対策として利用した借金の額の方が財産の額より大きくなってしまった場合の対処法を簡単に説明します。
実際には相続税対策のための借金ではなく、やむを得ない事情による借金が残ってしまった場合が多いと思われます。
相続人としてどのような対処をすべきなのか、その内容を簡単にご紹介します。
相続放棄
相続放棄は、借金などマイナスの財産はもちろん、不動産や預貯金などのプラスの財産もすべて相続しない方法です。
借金の額が非常に大きく、何も相続しないことが最善の選択肢となる場合は迷わず相続放棄するべきです。
他の相続人と足並みをそろえる必要はなく、単独で相続放棄することも可能です。
限定承認
限定承認は、プラスの財産がマイナスの財産を超えた場合に、その超えた部分の金額だけ相続する方法です。
相続する財産を選ぶこともできる他、自宅だけ残すといった方法をとることも可能となります。
ただ、相続人全員で手続きをしなければならないなど、手続きが難しい面があり、ほとんど利用されていません。
単純承認
借金の額がプラスの財産を上回っていても、そのまますべての財産と借金を相続することを単純承認といいます。
単純承認をする際は特別な手続きは必要なく、相続放棄や限定承認しない場合はすべて単純承認となります。
借金の方が多い場合には、相続税は発生しません。
その上、将来的にも家賃収入などで借金の返済が可能であれば、そのまま相続するのが一番いい方法なのです。
まとめ
相続税対策として、以前から借金をすることが有効といわれてきました。
確かに、借金を相続すると相続財産からマイナスされる金額があるため、相続税を減らせる可能性があります。
ただ、借金をしただけでは相続財産の金額は減らせないこと、そして、借金がかえって相続人の負担になることがわかりました。
相続税対策を考える際には、借金も1つの選択肢としつつ、様々な可能性から検討してみましょう。
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