この記事でわかること
- 相続人ではなくなる相続欠格の条件がわかる
- 3つの事例から殺人を犯した配偶者の相続権について理解できる
- DV被害者がとるべき相続対策わかる
DVとはドメスティック・バイオレンスの略であり、夫婦間または親密な関係にある者の暴力を指しています。
警察庁の統計資料によると、2020年(令和2年)のDV検挙数は8,702件であり、前年より388件減少したものの、過去5年の推移をみると増加傾向にあるようです。
加害者・被害者の年齢は20代~40代に集中しており、男性が加害者となるケースが7割以上ですが、DVがエスカレートして殺人に至る事例も後を絶ちません。
中には、遺産を目的とした意図的な殺人もあり、実話をもとにした小説やドラマも登場していますが、相続の視点でみると加害者の相続権が気になるところです。
故意ではなかった場合も含め、DV殺人の加害者に相続権はあるのでしょうか?
また殺人には至らないものの、常識的にみて相続人に相応しくない人がいる場合、相続権のはく奪はできるのでしょうか?
今回はDVやDV殺人に焦点を当て、加害者の相続権や、DV被害に苦しむ配偶者の相続対策などを解説します。
目次
殺人を犯した配偶者に相続権はあるか?「相続人の欠格事由」とは
民法では、被相続人の配偶者は常に相続人になると定めていますが、殺人を犯した場合はどうなるでしょうか?
「殺人者に相続権はない」と考えるのが自然であり、「相続欠格」の事由にあたると思われますが、実は状況によって結果が異なります。
まず、相続人ではなくなる相続欠格について解説し、欠格に該当する例、しない例をそれぞれ紹介します。
相続人ではなくなる相続の欠格事由
民法では、以下のような事由があれば「相続欠格」に該当すると定めています。
- ・故意に被相続人または他の相続人を死亡させる、または死亡させようとしたため刑に処せられた者
- ・被相続人が殺害されたことを知りながら、告発、告訴しなかった者
- ・詐欺や強迫により、被相続人が遺言をすることや、遺言の撤回、取消し、変更を妨げた者
- ・詐欺や強迫により、被相続人に遺言をさせ、または遺言の撤回、取消し、変更をさせた者
- ・遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した者
遺産を目当てとした殺人は相続欠格になり、当然のこととして相続権を失います。
遺産が目当てではない殺人の場合、相続権はどうなる?
配偶者に暴力を振るった際、打ちどころが悪かった、または転倒した際に頭部を強打するなど、殺意はなくても結果として死に至らしめるケースがあります。
このような場合は傷害致死となりますが、意図的な殺人ではないため相続欠格にはなりません。
過失致死罪も同じであり、不注意を原因とする死亡の場合も相続欠格にはならず、相続権を失うことはありません。
遺産目当ての殺人だが、未遂に終わった場合はどうなる?
意図的に殺そうとしたが死に至らなかった場合、殺人未遂罪に処せられると相続欠格事由に該当します。
従って法定相続人ではなくなり、相続権も失います。
相続完了後に遺産目当ての殺人が判明した場合はどうなる?
遺産の分割が完了した後、被相続人が遺産目当てに殺されていたと判明した場合、加害者以外の相続人は相続回復請求権を行使できます。
加害者に対し、侵害された権利の回復や返還を請求できますが、請求方法には直接請求と裁判所への申立があり、一般的には後者を利用します。
ただし、請求権には以下のような消滅時効があるので注意してください。
- ・相続権の侵害を知った日から5年以内
- ・相続開始から20年以内
財産のほとんどが使われていた場合は、物権的返還請求権の類推適用により、加害者(表見相続人)は全額の賠償義務を負うものとされています。
なお、表見相続人とは、戸籍上は相続人であっても、欠格事由のために相続権を失った者を指しています。
「あの人には相続させたくない…」相続資格をはく奪する「相続廃除」とは
被相続人の意思によって相続権を失わせたい場合は、相続排除を利用できます。
DVや虐待、重大な侮辱を行った推定相続人(将来相続人になる人)に対し、被相続人は家庭裁判所へ「相続排除」を申立できます。
遺言による相続排除も可能ですが、確実に実行させるためには遺言執行者の選任が必要であり、相続発生後に遺言執行者が家庭裁判所で手続きをします。
相続排除が認められると遺留分もはく奪できますが、対象者となる相続人が異議申立する可能性が高いため、対抗策も必要になります。
単なる感情論から相続排除に至った場合、家庭裁判所が認めない可能性は極めて高いため、申立書には客観的かつ論理的に事実を記載しなければなりません。
DVなどの非行があれば、都度内容を記録しておくとよいでしょう。
DV被害者にとって良い相続対策とは
深刻化するDV被害に対し、2001年10月にはDV防止法(通称)も施行されています。
DV被害者が裁判所に申立を行えば、保護命令制度が発動され、被害者へ接近しないよう加害者に対して命令されます。
また「住民基本台帳事務におけるDV等支援措置」も整備されており、DV被害者が各自治体へ申し出て DV等支援対象者になると、DV加害者への対抗支援を受けられます。
暴力から逃れるため、DV被害者が住所を変える場合もありますが、各自治体では加害者から請求された住民票や戸籍の写し等の交付を拒否できます。
また不動産の登記簿から住所が判明することのないよう、登記簿上の住所が住民票と異なっていても、移転登記ができるようになっています。
DVが常態化すると生命の危険もありますが、離婚や相続放棄は、身体の安全が確保されてから考えるとよいでしょう。
相続人にDV被害者がいると相続手続きは困難になる?
被相続人からのDVに耐えかね、配偶者が家を出てしまうケースは珍しくありません。
DV防止法によって被害者の住所が秘匿されると、現住所の調査は困難になるため、いつまで経っても遺産分割が決着しない場合もあるでしょう。
加害者本人は亡くなっていても、その親族からの接触には抵抗感があるため、遺産分割の話し合いに応じない例もあります。
しかし離婚や相続放棄をしていなければ遺産は問題なく取得できるため、弁護士を代理にするなど、建設的な話し合いも検討しておくべきでしょう。
まとめ
DVの加害者になる人には、支配欲の強さや、自分が優位でなければ気が済まないなどいくつかの特徴があるようです。
しかし多くの事例では加害者意識が薄く、中にはDVを愛情表現と思い込んでいる人もいるため、話し合いによる解決は難しいでしょう。
相続人が加害者であった場合は、相続欠格や相続排除などの措置がありますが、逆のパターンも深刻であり、次世代の相続に影響する可能性も十分にあります。
遺産が未分割の状態で世代交代が起きると、相続人はねずみ算式に増えるため、相続は永久に完了しなくなるでしょう。
相続問題はなるべく今の世代で決着するよう、困ったときには弁護士などの専門家へ相談してください。
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