死亡した人の名義の預金口座は、銀行が死亡の事実を知った時点で凍結されてしまい、それ以降は預金の払い戻しや公共料金等の引き落としが一切できなくなります。
亡くなった方の家族は、取引のあったすべての金融機関に、名義人が死亡した旨を連絡しなくてはなりません。
しかし、現実問題として葬儀費用など、口座凍結前にお金を引き出しておきたいケースも多いでしょう。
この記事では、死亡してから口座が凍結されるタイミングや、その間に預金を引き出すことの可否、正当な凍結解除の手順などについて相続の専門家が解説します。
目次
銀行口座の凍結とは?
銀行は口座名義人が亡くなったことを把握すると、その口座を直ちに凍結します。
口座凍結とは、口座の入出金等の取引を一切利用できないようにロックしてしまうことを言います。
ではなぜ銀行が利用者の死亡を知ると、その預金口座を凍結してしまうのでしょうか?
それは相続人同士のトラブルを防ぐためです。
亡くなった方のお金は、その瞬間から誰のものでもなくなります。
相続人の誰か一人、あるいは複数人に相続される可能性は高いですが、もしかすると遺言書に記載されている他人のものになるかもしれません。
銀行としては、誰に受け取る権利があるか分からない遺産を、独自の判断で窓口に来た人など名義人以外に渡すことができないのです。
亡くなった方のお金をこの人に渡してしまって100%問題ない、と証明できる証拠書類がなければ、銀行は何もできません。家族の揉めごとに一切巻き込まれたくないという銀行の立ち位置をまずは知っておいてください。
死亡した人の銀行口座はいつ凍結される?
人が亡くなると、死亡届を役所に提出する必要があります。
死亡届は、届出義務者が死亡の事実を知った日から7日以内に役所に提出しなければなりません。
ただし個人情報保護の観点から、役所に提出された死亡届の情報が銀行に連携されることはなく、死亡届を提出したことで銀行口座が凍結されることはありません。
銀行が預金口座の名義人が死亡したことを把握するのは、ほとんどの場合、家族から死亡の連絡を受けたときです。
つまり、死亡した人の銀行口座が凍結されるのは、遺族から銀行に亡くなったことを連絡したときとなります。
レアケースとして、死亡した人が著名人だった場合、新聞のお悔やみ欄やテレビのニュースなどで銀行が死亡の事実を知り、口座凍結することもあるようです。
死亡した人の預金を勝手に引き出してはいけません
死亡した人の銀行口座が凍結されるのは遺族から銀行に亡くなったことを連絡したとき、ということは、遺族が連絡しなければ銀行口座は凍結されないのでは?と考える人もいるでしょう。
この場合、遺族の誰かが死亡した人のキャッシュカードを持ち、暗証番号を知っていればATMからいつもどおりお金が引き出せることなります。
実際、亡くなる前は本人が自由に動けず、入院費用などの支払いを家族に任せるために暗証番号を伝えているようなケースは珍しくありません。
遺族が、亡くなった方の口座からお金を引き出す行為は犯罪などになるのでしょうか?
結論からいうと、犯罪にはなりません。ただし、銀行の利用規約に違反することになるでしょう。※ゆうちょ銀行の口座引き出しについては「ゆうちょ銀行の名義人が死亡した場合の引き出し・相続手続きについて【少額の簡易手続きや口座凍結解除方法を解説】」に詳しく解説しています。
そうは言っても、亡くなった本人の葬儀費用などのためにお金が必要でどうしようもないという方は以下を確認してください。
死亡した人の預金を勝手に引き出す場合の注意点
銀行が亡くなった方の預金口座を凍結するのは、相続人同士のトラブルを防ぐためです。
亡くなった方が遺言書を残していた場合はその記載内容に沿って遺産を分割します。遺言書を残していなかった場合は相続人全員でどのように遺産分割するかを話し合って決めることになります。
この遺産分割が決まらないうちに、死亡した人の預金口座を引き出してしまうとトラブルになってしまうというわけです。
逆に言えば、次のことが分かっている場合はトラブルになる可能性が低いので、もし口座凍結前に預金を引き出す際はよく確認してみてください。
- 遺産分割によって、該当する預金口座を自分が相続することが確実である
- 引き出した金額を、全額亡くなった方の必要経費に使ったことが証明できる
口座凍結前に預金を引き出すことの最大の注意点は、相続放棄の権利を捨ててしまいかねないという点です。
亡くなった方の遺産は、借金などの理由によりトータルがマイナスになっていることもあります。マイナスの遺産を相続人が肩代わりしなくて済むように、相続の開始を知ってから3ヶ月以内に「相続放棄」できるという制度があります。
相続財産を一部でも使ってしまうと「相続を認めた」という扱いになり、相続放棄ができなくなる可能性がありますので、その点は十分に注意しましょう。
口座凍結をわざと遅らせてもよいか?
亡くなった方の銀行口座が利用可能のままだと、公共料金やクレジットカードの自動引き落としなどが継続されますので、生活面での不便がなくなります。
相続人の方に十分な預貯金がなければ、葬儀費用やその他の物入りに、亡くなった方の銀行口座が頼みの綱となる場合もあります。
しかし、口座凍結をわざと遅らせることは銀行の規約違反であるという点と、先ほど述べた注意点があることはしっかりと抑えておいてください。
必要なお金が引き出せないという相続人の不便については、2019年から預貯金の払戻し制度が創設されたことで、ルールに基づいて解消できる方法が用意されました。
預金をなるべく早く引き出す方法(預貯金の払戻し制度)
遺産分割が確定しなければ口座凍結を解除できないのは相続人にとって不便が大きいということで、2018年の相続法改正によって、遺産分割前に死亡した人の預金口座を一部払い戻すことが可能となりました。
凍結された預金口座をなるべく早く引き出す方法について解説します。
預貯金の払戻し制度―金融機関の窓口おける支払い
2019年7月1日に改正民法が施行されたことで、他の相続人の許可を取ることなく、亡くなった方の銀行口座から預金を一定額まで引き出すことができるようになりました。
この制度は、口座が凍結された後でも、亡くなった方が入院していたときの支払いや葬儀費用、遺族の一時的な生活費といった目的であれば、他の相続人の同意なしに単独で引き出しができるようにするものです。
単独で仮払いを申請する際の上限額は、次の計算式で決まります。
※一つの金融機関につき150万円が上限(一つの金融機関に複数の口座がある場合や、複数の支店に口座があった場合も同様です)
預貯金の払戻し制度―家庭裁判所の判断による仮払い
家庭裁判所に申請し許可されれば、上記で計算した上限額を超えて預貯金を引き出すことができます。
もちろん、自分のためだけに使う目的など、理由が不当と判断されると認められません。
家庭裁判所からこの預貯金払戻しの保全処分をもらうには、遺産分割の調停や審判を一緒に申し立てなくてはなりませんので、手続きには十分注意してください。
銀行が求める凍結解除に必要な書類をすべて用意する
銀行は亡くなった方の預金口座を意地悪で凍結しているわけではありません。相続トラブルに巻き込まれないための措置ですので、遺産分割がすべて完了しなくても凍結を解除する方法があります。
それは、各金融機関が定める凍結解除の必要書類と手続きを完了させることです。金融機関としては、亡くなった方の全ての遺産を誰が相続するかを知る必要はなく、該当する預金口座を誰が相続するかさえ確定すれば、凍結解除は進められます。
金融機関によって必要な書類は異なりますが、一例をご紹介します。
戸籍謄本 | 口座名義人(被相続人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本と法定相続人を確認できるすべての戸籍謄本 ※法務局発行の法定相続情報一覧図の写しがある場合、戸籍謄本は不要 |
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印鑑証明書 | 法定相続人全員の印鑑証明書 |
預金通帳 | 証書、キャッシュカード、貸金庫の鍵なども含む |
口座凍結を正しく解除する手順
銀行口座の凍結は、一定期間が過ぎると自動的に解除されるといったものではなく、必要な手続きを行うことで初めて解除されます。
預貯金の相続手続きは、基本的に亡くなった方の口座を解約し、預貯金を指定の別口座に移すといった流れになります。
この相続手続きは次のようなケースに大別され、それぞれで必要な書類が異なります。
金融機関によっても必要書類は異なりますので、必ず事前に確認しましょう。
遺言書が残されていた場合
遺言書の種類によって、検認が必要な場合は、検認済証明書か遺言検認調書謄本も必要となります。
必要書類
- 遺言書
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までの連続した戸籍謄本。「改製原戸籍謄本」「除籍謄本」「全部(個人)事項証明書」が必要となる場合もあります)
- 相続人の戸籍謄本(相続人全員分)
- 受遺者、遺言執行者の印鑑証明書(受遺者、遺言執行者全員分)
- 亡くなった方名義の通帳とカード
- 受遺者、遺言執行者(預金等の払戻をうける方)の実印・取引印
遺言執行者が遺言書で選任されていない場合には、「遺言執行者選任審判書」も必要になるケースがあるので覚えておきましょう。
遺言書はなく遺産分割協議書がある場合
遺言書がない場合は、相続人全員で分割内容を話し合い、その結果を遺産分割協議書に記載し、全員が実印を押す必要があります。
この場合の口座凍結を解除するために必要な書類は次の通りです。
必要書類
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までの連続した戸籍謄本。「改製原戸籍謄本」「除籍謄本」「全部(個人)事項証明書」が必要となる場合もあります)
- 相続人の戸籍謄本(相続人全員分)
- 相続人の印鑑証明(相続人全員分)
- 亡くなった方名義の通帳とカード
- 預金等の払戻をうける方 の印鑑(実印)
- 遺産分割協議書
遺言書はなく遺産分割協議書もない場合
銀行によって対応は異なりますが、銀行の多くは相続の手続きに遺産分割協議書がなくても受け付けてもらえます。
遺言書も遺産分割協議書もない場合の非常手段というわけではなく、逆に該当する預金口座だけは誰が相続するか確定したようなケースで、もっともスムーズに凍結解除できる手段としてこの手続きがなされることも多いです。
必要書類
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までの連続した戸籍謄本。「改製原戸籍謄本」「除籍謄本」「全部(個人)事項証明書」が必要となる場合もあります)
- 相続人の戸籍謄本(相続人全員分)
- 相続人の印鑑証明(相続人全員分)
- 亡くなった方名義の通帳とカード
- 預金等の払戻をうける方 の印鑑(実印)
- 遺産分割協議書
銀行口座の凍結解除は、このとおりケースによっても金融機関によっても必要な書類や手順が異なります。この手続きについてより詳しく調べたい場合はこちらの記事を参考にしてください。
死亡した人の銀行口座を放置しておくとどうなる?
死亡した人の預金口座を凍結されたまま長期間放置すると、10年経って休眠預金という扱いになります。
休眠預金とは、10年以上お金の出し入れがなく取引が一切ない状態の預金等をいい、相続が発生したときではなく、最後に入出金が行われた日を基準としています。
2018年に通称「休眠預金等活用法」が施行されました。
これは毎年数百億ともいわれる眠ったままになっている預金を民間の公益活動のために活用しようというものです。
ただし、10年以上取引がなくなると直ちに没収されるわけではなく、そのさらに10年後の消滅時効を迎えるまでは一定の手続きにより、預金を受け取ったり解約することが可能です。
最終的に上記のような処理がなされるので、数千円未満の少額しか入っていないことが確実な場合で、解約などの手間と労力のほうがもったいないときは、そのまま放置することを検討してもよいでしょう。
口座凍結の解除を専門家に任せられる?
銀行口座の凍結解除は、相続の専門家に任せることができます。とくに決まった資格者がいるわけではありませんが、書類の収集と作成代行がメインになりますので行政書士の業務範囲と言えるでしょう。
まず、どの金融機関、どの凍結解除方法にも必要な身分関係書類の収集代行ができます。
この手続きは役所で所定の手続きをすれば相続人が自分で行うことも難しくはありませんが、仕事が忙しくて平日の日中に動けないという方や、手続きを丸ごと任せてしまいたいという方は有料にて代行を承ります。弊社の料金表はこちらのとおりです。
身分関係書類の収集 | 18,000円(税込19,800円) ※2人目以降は10,000円(税込11,000円)/人 |
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必要書類を準備した後は、預金口座の解約や名義変更などの手続きが必要となります。こちらも行政書士のメイン業務範囲と言えるでしょう。弊社の料金表はこちらのとおりです。
銀行口座の名義変更 | 30,000円(税込33,000円)/一行あたり |
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ご家族の相続は突然起こり、何から手をつけていいか分からない方がほとんどです。相続税についてはとくに複雑で、どう進めればいいのか? 税務署に目をつけられてしまうのか? 疑問や不安が山ほど出てくると思います。
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